マンション管理員の高齢化と人手不足が深刻化し、後任が見つからない、人件費高騰で管理費が値上がりするといった問題は、もはや他人事ではありません。実際に、都心部では過去5年で管理費が1平方メートル当たり512.1円と過去最高を更新し、3割の上昇が見られます(国土交通省データ、2024年時点)。このまま有効な対策を打たなければ、管理の質が低下し、大切な資産価値を損なうことにもなりかねません。
この記事では、宅地建物取引士として多くの不動産管理の現場を見てきた筆者が、管理員不足の構造的な原因をデータに基づき解説します。その上で、解決策の一つとして注目される「AI管理」や「遠隔監視」とは具体的に何なのか、そのメリット・デメリット、そしてあなたのマンションで導入を検討するための現実的な4つのステップを詳しくお伝えします。未来のマンション管理のために、今からできることを一緒に考えていきましょう。
なぜ管理員は見つからない?人手不足を引き起こす3つの構造的問題
「募集をかけても誰も来ない」という管理組合や管理会社のため息が聞こえてくるようです。マンション管理員の人手不足は、単なる一時的な現象ではなく、日本の社会構造の変化に根差した根深い問題です。主に3つの原因が複雑に絡み合っています。
原因1:シニア層の働き方の変化と他業種との人材獲得競争
これまでマンション管理員の主な担い手は、定年退職後のシニア層でした。しかし、企業の定年延長や再雇用制度が普及したことで、元気なシニア層が会社に残り続けるようになり、労働市場に出てくる人材そのものが減少しています(業界メディア、2024年)。
さらに、介護や物流といった他業種もシニア人材の採用に積極的です。東京都内では、管理員の有効求人倍率が3倍を超えるというデータもあり(業界メディア、2025年)、限られた人材を複数の業界で奪い合う熾烈な獲得競争が起きています。
原因2:「きつい・スキル要求が高い・待遇が見合わない」労働環境
管理員の仕事は、単なる受付や清掃だけではありません。
- 体力的負担: タワーマンションなど建物が大規模化し、巡回や清掃だけでも重労働。
- 多様なスキル: 簡単なPC操作、住民間のトラブル仲裁、各種点検の立ち会いなど、コミュニケーション能力から事務処理能力まで幅広く求められる。
- 責任と待遇の不均衡: 求められるスキルの高さや責任の重さに対し、給与水準が見合っていないと感じる人が多く、離職につながりやすい。
このような労働環境が、「きつい仕事」というイメージを定着させ、新たな担い手を遠ざけています。
原因3:管理会社の疲弊と「受託先の選別」の始まり
人手不足は、住民だけでなく管理会社自身の経営をも圧迫しています。国土交通省のデータによると、マンション管理会社の登録業者数は13年連続で減少し、2025年3月末時点で1,776社となっています(国土交通省、2025年公表資料)。
体力のない中小の管理会社は事業の継続が難しくなり、体力のある大手も、採算の合わない物件や、人手を確保できない物件の管理からは撤退せざるを得ません。結果として、特に30戸未満の小規模マンションや、管理組合の運営に課題を抱えるマンションは、管理の引き受け手が見つからない「管理不全」のリスクが高まっています(業界メディア、2025年)。
人手不足がもたらす未来:管理の質低下と資産価値下落のリスク
管理員の人手不足を「仕方がないこと」と放置すると、マンションの住環境と資産価値に深刻な影響が及びます。
日常の清掃・点検・受付業務の質の低下
まず直接的な影響として、日常業務の質が低下します。
- 共用廊下やエントランスの清掃が行き届かなくなる
- ゴミ置き場が常に散らかっている
- 電球切れなどの軽微な不具合が放置される
- 来訪者の受付対応が不十分になる
こうした小さな乱れが積み重なることで、マンション全体の雰囲気が悪化し、住み心地の悪さにつながります。
トラブル対応の遅れと住民間の関係悪化
経験豊富な管理員は、住民からの相談に乗り、騒音やゴミ出しルール違反といった小さなトラブルが大きくなる前に対処する「緩衝材」の役割も担っています。
管理員が不在になったり、経験の浅い担当者に代わったりすると、こうした初期対応が遅れがちになります。結果として、住民同士が直接対立し、コミュニティ内の関係が悪化するケースも少なくありません。
管理会社からの「契約終了通告」という現実
最も深刻なシナリオは、管理会社から管理委託契約の更新を断られることです。前述の通り、管理会社は人件費の高騰と人手不足から、利益を確保できない物件や対応に手間のかかる物件を選別し始めています。契約更新・解約時は、現行管理委託契約書および管理規約の条項を最優先に確認し、専門家相談を推奨します。
「人手が確保できないため、来年度以降の契約更新はできません」
ある日突然、このような通告を受ける可能性はゼロではありません。新たな引き受け手が見つからなければ、管理組合が自分たちで清掃や会計を行う「自主管理」に移行せざるを得なくなり、理事会の負担は計り知れないものになります。管理が行き届かないマンションは、当然ながら資産価値も下落していきます。
新たな選択肢「AI管理」「遠隔監視」とは?解決策を解説
人による管理が限界を迎えつつある今、新たな選択肢として「AI管理」や「遠隔監視」といったテクノロジーの活用が注目されています。AI巡回システムや遠隔監視技術の導入が注目されていますが、現時点で大規模な導入事例の統計データは限定的です。検討する場合は、実績のある管理会社や専門事業者に相談し、費用対効果を慎重に比較してください。ここでは、これらの技術で何ができるのか、そしてメリット・デメリットを整理します。
用語の整理:AI管理・遠隔監視システムとは?
まず、混同しがちな用語を整理しましょう。
- 有人管理: 従来通り、管理員がマンションに常駐または巡回して業務を行う形態。
- AI巡回・監視システム: マンション敷地内に設置されたAI搭載カメラが、異常(不審者の侵入、倒れている人、水漏れなど)を自動で検知し、警備会社や管理会社へ通報するシステム。
- 遠隔監視システム: 各所に設置されたカメラの映像を、管理会社のコールセンターなどで集中監視する形態。異常があれば、現地に警備員を派遣するなどの対応をとる。
これらは単独で導入されることもあれば、組み合わせて利用されることもあります。例えば「AIが異常を検知し、遠隔監視センターで状況を確認後、警備員を派遣する」といった連携が可能です。
メリット:24時間監視によるセキュリティ強化とコスト構造の変化
AI管理や遠隔監視を導入する主なメリットは以下の通りです。
- 24時間365日の監視体制: 人のように勤務時間や休憩時間に縛られず、常にマンションを見守ることができます。これにより、夜間や早朝など、管理員が不在の時間帯のセキュリティが格段に向上します。
- 客観的な記録と証拠能力: AIは見たものを客観的に記録します。万が一、不審者の侵入や器物損壊といったトラブルが発生した場合、その映像は有力な証拠となります。
- コスト構造の変化: 年々上昇する「人件費(変動費)」を、システムの「リース料やサービス利用料(固定費)」に置き換えることができます。これにより、将来的な人件費高騰リスクを抑制し、長期的な収支計画が立てやすくなる可能性があります。
デメリットと課題:初期投資、メンテナンス費用、プライバシー問題
一方で、導入には慎重な検討が必要です。
- 高額な初期投資と維持費: AIカメラやシステムの導入には、数百万円単位の初期費用がかかる場合があります。また、月々のサービス利用料や機器のメンテナンス費用も継続的に発生します。
- 「人」でしかできない業務の代替は困難: AIは異常検知は得意ですが、住民からの「ちょっとした相談」に応じたり、荷物の受け渡しを柔軟に行ったり、共用部の植栽を手入れしたりといった、温かみのあるコミュニケーションや臨機応変な対応はできません。
- プライバシーへの配慮と合意形成: 常に監視カメラが作動している状況は、一部の住民に「監視されている」という心理的な圧迫感を与える可能性があります。また、データの取り扱いに関するルールを明確に定め、住民全体の合意を得ることが不可欠です。
AI管理は万能ではありません。しかし、人手不足という大きな課題に対し、管理の質を維持・向上させるための強力な「道具」となり得ます。AI導入による具体的な費用削減事例や導入マンション数の統計は、公開データが限定的なため、検討時に専門家への相談をお勧めします。また、AI管理とプライバシー保護の両立に関する判例も限定的です。
| 比較軸 | 従来の有人管理 | AI巡回・遠隔監視システム |
|---|---|---|
| コスト | 変動費(人件費、年々上昇リスク) | 固定費(初期導入費、月額利用料) |
| 対応時間 | 契約時間内(例:平日9時~17時) | 24時間365日 |
| 業務の質 | ・柔軟な判断、コミュニケーションが可能 ・個人のスキルや経験に依存 | ・異常検知の正確性、記録の客観性に優れる ・定型業務が中心で、複雑な判断は不可 |
| セキュリティ | 「人の目」による抑止力 | 見逃しのない監視、異常の即時通報 |
| プライバシー | リスクは比較的低い | 常に監視されている感覚、データ漏洩リスク |
表が表示されない場合: 比較軸 | 従来の有人管理 | AI巡回・遠隔監視システム
コスト | 変動費(人件費、年々上昇リスク) | 固定費(初期導入費、月額利用料)
対応時間 | 契約時間内(例:平日9時~17時) | 24時間365日
など。
AI管理導入を検討する管理組合が踏むべき4つのステップ
「うちのマンションでもAI管理を検討してみようか」と考え始めたら、やみくもに業者を探すのではなく、順序立てて進めることが成功の鍵です。管理組合が踏むべき4つのステップを解説します。
Step1:現状の管理業務の棚卸しと課題の明確化
まず、現在の管理員が「いつ」「どこで」「何をしているか」を具体的に洗い出します。
- 清掃(場所、頻度、時間)
- 受付・来客対応(件数、内容)
- 巡回・点検(ルート、チェック項目)
- ゴミ出し(分別指導、整理)
- 各種立ち会い(消防設備点検、エレベーター保守など)
この作業を通じて、「どの業務に時間がかかっているか」「人手不足でどの業務が滞っているか」といった、自分たちのマンションが抱える課題が明確になります。管理員の8割以上が61歳以上で、半数が65~70歳と言われており、団塊世代が75歳以上となる「2025年問題」により、管理員不足がさらに深刻化するでしょう(業界団体、2024年)。
Step2:AIで代替できる業務と「人」でしかできない業務の仕分け
次に、Step1で洗い出した業務を「AI(機械)でもできること」と「人でないと難しいこと」に仕分けします。
- AI向きの業務例:
- 定時巡回による不審者・異常の検知
- 共用施設の予約状況のモニタリング
- 駐車場の無断駐車の監視
- 「人」向きの業務例:
- 住民からの相談対応、コミュニケーション
- ゴミ出しマナーの個別指導
- 共用部の美化活動(植栽の手入れなど)
この仕分けによって、「管理員は週5日常駐から週3日の巡回に変更し、不在の時間帯はAI監視システムでカバーする」といった自組合に最適な「ハイブリッド型」の管理体制が見えてきます。
Step3:現実的な相見積もりの取得方法
具体的なプランが見えたら、複数の管理会社やシステム会社から見積もりを取得します。管理会社の人手不足が深刻化している現状から、見積もり依頼を受け付けられる会社の数や、対応可能な時間が限定されている傾向があります。
見積もり依頼は2~3社に絞るのが現実的です。
なぜなら、精緻な見積もりを作成するには、管理会社は現地調査、清掃や警備などの外注先との調整、理事会との面談など、多大な時間と労力を要するからです。特に20~40戸程度のマンションの場合、管理委託内容の精査および会計状況、1棟全体の管理費等の見積もり作成をするには3~4回ほど現地に足を運び、清掃会社、EV点検、消防、警備など多岐にわたる外注先との打ち合わせや理事会数名との面談をこなす労力がかかります。
見積もりを依頼する際は、必ず「事務管理費」「清掃業務費」「設備管理費」といった費目ごとの内訳を明記させるようにしてください。「管理委託費一式」といった大まかな見積もりは、コストの妥当性を判断できなくさせるため、絶対に避けるべきです。
Step4:総会での合意形成と法的要件の確認
最終的に導入を決めるのは、管理組合の総会です。AI監視システムの導入、特に監視カメラの設置は、法的な観点から慎重な手続きが求められます。
法令確認のポイント
監視カメラ設置は、以下の複数の法的枠組みに関わります。
- 区分所有法 第39条(普通決議): 共用部分の「管理」に該当する場合、区分所有者および議決権の各過半数の賛成で決定可能。ただし、ご自身のマンション管理規約に別段の定めがある場合は、その定めが優先されます。
- マンション管理適正化法 第103条: 総会の決議とは別に、カメラ設置を伴う管理委託契約の変更時には、管理業務主任者による「重要事項の説明」が法律で義務付けられています。
- 個人情報保護法: 録画データの取り扱いについて、個人情報としての保護義務が生じます。
監視カメラの設置は、以下の決議要件に従います。
【基本】区分所有法 第39条による普通決議
- 区分所有者および議決権の各過半数の賛成で決定可能。
- ただし、管理規約に『カメラ設置には特別決議(各4分の3以上)を要する』などの別段の定めがある場合は、その定めが優先されます。
【注意】プライバシー配慮による特別決議の検討
- 監視カメラの常時稼働は、プライバシー権侵害のリスクが高いと判断される場合、より厳格な特別決議(各4分の3以上の賛成)を求める専門家もいます。
- 記事作成時点では、統一的な判例が限定的なため、必ず弁護士またはマンション管理士に相談してください。
プライバシー保護のルール作り: 個人情報保護法の観点からも、カメラの設置目的や撮影範囲、録画データの保存期間、管理責任者などを明確にした運用ルールを規約や細則で定める必要があります。
| (例)監視カメラ運用細則(管理規約の別紙として定める場合の参考例) 第1条(目的)本マンションの防犯及び防災を目的として、共用部分に監視カメラを設置する。 第2条(撮影範囲)撮影範囲は、エントランス、駐車場、ゴミ置場等の共用部分とし、各住戸の玄関内部など専有部分が映り込まないよう最大限配慮する。 第3条(データの保管)録画データは、原則として7日間保管した後、自動的に消去する。 |
表が表示されない場合: (例)監視カメラ運用細則 第1条(目的)本マンションの防犯及び防災を目的として… など。
これらの法的な手続きやルール作りは、管理組合だけでは判断が難しい場合があります。必要に応じて、弁護士やマンション管理士といった専門家のアドバイスを求めることが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1: AI管理を導入すれば、管理員は完全に不要になりますか?
A1: 必ずしもそうとは言えません。AIは巡回や監視といった定型業務は得意ですが、住民とのコミュニケーションや柔軟なトラブル対応など、「人」でしかできない業務も多く残ります。多くのマンションでは、AIと有人管理を組み合わせた「ハイブリッド型」が現実的な選択肢となるでしょう。
Q2: AI管理の導入費用はどのくらいかかりますか?
A2: 費用はマンションの規模や導入するシステムの内容によって大きく異なります。カメラの台数や機能、24時間監視センターとの連携の有無などにより、初期費用が数十万円から数百万円、月額費用が数万円から数十万円と幅があります。まずは複数の専門業者から見積もりを取得し、費用対効果を慎重に比較検討することが不可欠です。
Q3: 監視カメラでプライバシーは侵害されませんか?
A3: プライバシー保護は最も重要な論点です。そのためには、「なぜカメラを設置するのか(目的)」「どこを撮影するのか(範囲)」「録画データは誰がいつまで管理するのか(運用ルール)」を管理規約や細則で明確に定め、全区分所有者で共有することが絶対条件です。ルールに基づいた適切な運用を行えば、プライバシー権の侵害リスクを最小限に抑えることは可能です。
まとめ:未来のマンション管理のために、今から始めるべきこと
本記事では、マンション管理員の人手不足という深刻な問題と、その解決策としてのAI管理について解説しました。
- 現状認識: 管理員の人手不足は、高齢化や他業種との人材獲得競争による構造的な問題であり、管理費の高騰や管理の質低下、ひいては資産価値の下落に直結します。
- 解決策の検討: AI管理や遠隔監視は、24時間のセキュリティ確保やコスト構造の改善に繋がる有効な選択肢ですが、初期投資やプライバシーへの配慮といった課題もあります。
- 次への一歩: AI導入は万能薬ではありません。大切なのは、まず自分たちのマンションの現状の管理業務を洗い出し、「何が課題で、何を解決したいのか」を理事会で共有することです。
人手不足の波は、今後ますます高くなることが予想されます。問題が深刻化する前に、ぜひ理事会で「私たちのマンションの未来の管理体制」について話し合うことから始めてみてください。この記事が、その第一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
注記:本記事の情報範囲について
本記事は、2025年12月20日時点で公開されている統計情報およびニュース報道に基づいています。特に以下の項目については、Web上の公開データが限定的なため、検討時に専門家への相談をお勧めします。
- AI導入による具体的な費用削減事例、導入マンション数の統計
- AI管理とプライバシー保護の両立に関する判例
- 地域別・物件規模別の管理費上昇率の詳細
- マンション管理員の高齢化率、人手不足の深刻度(統計確認済み)
- 管理会社の登録業者数減少トレンド(国土交通省データ確認)
免責事項
本記事は、マンション管理に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の物件に対する法的な助言を行うものではありません。監視カメラの設置や管理委託契約の変更など、具体的な検討を進める際には、必ず弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談ください。また、本記事の内容は作成日時点の情報に基づいており、最新の法令改正や個別の管理規約の内容が優先されます。
参考資料
- 国土交通省「マンション管理業者の登録数について」(報道発表資料)https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo16_hh_000001_00257.html
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
- e-Gov法令検索「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC1000000149
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

