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連絡不能な外国人オーナーの合法的所在調査ガイド
管理費や家賃の滞納、契約更新の連絡がつかない…。近年、不動産のオーナーが外国人であるケースは珍しくありませんが、それに伴い「外国人オーナーと連絡がつかない」という問題が深刻化しています。手紙は返送され、電話も繋がらない状況では、管理組合や不動産管理会社は打つ手がなく、途方に暮れてしまうことも多いでしょう。
しかし、焦って独自の方法で現住所を突き止めようとすることは非常に危険です。個人情報の保護に関する法律(以下、個人情報保護法)に抵触し、かえって法的なトラブルに発展するリスクがあります。特に、国籍や在留状況などの要配慮個人情報(同法第16条)の取得には本人の同意が原則必要であり、管理会社などの事業者が関与する場合は、安全管理措置(同法第20条)や第三者提供の制限(同法第27条、外国にある第三者への提供の制限については同法第28条)に厳格に従う義務があります。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、連絡不能な外国人オーナーの所在を合法的に調査するための公的な手続きを4つのステップで徹底解説します。法的なリスクを避け、着実に問題解決へ進むための具体的な方法を、公的資料に基づいて明らかにします。
導入:連絡が途絶えた外国人オーナー、どう探す?
「管理費が1年以上滞納されているのに、登記簿上の住所に手紙を送っても『あて所に尋ねあたりません』で返送されてくる…」
このような状況は、多くのマンション管理組合や不動産管理会社にとって頭の痛い問題です。特にオーナーが外国人の場合、国内にいない可能性も考えられ、調査は一層困難になります。
しかし、ここで絶対に避けるべきなのが、非公式な手段による調査です。
自力での調査は個人情報保護法違反のリスク
安易にSNSで名前を検索して情報を集めたり、探偵業者に詳細な個人情報の調査を依頼したりする行為は、個人情報保護法に違反する可能性があります。特に管理会社などの事業者が業務として行う場合、同法が定める要配領個人情報の取得制限(第16条)、安全管理措置(第20条)、第三者提供の制限(第27条、外国にある第三者への提供の制限については第28条)に厳格に従う必要があり、違反した際のリスクは計り知れません。
本記事では、このようなリスクを完全に排除し、法務局や市区町村、裁判所といった公的機関を通じた合法的な所在調査の方法のみを解説します。
背景知識:所在調査で使う4つの公的制度
外国人オーナーの所在調査を進める前に、基本となる4つの公的制度の定義と役割の違いを正確に理解しておくことが重要です。誤った認識は、無駄な時間と費用を費やす原因となります。
不動産登記情報:すべての調査の出発点
- 定義: 不動産の所有者の氏名・住所などが記録された、法務局が管理する公的な記録です。
- 区別:
- 不動産登記簿謄本(登記事項証明書): 法務局が発行する公的な証明書。法的な手続きで証拠として使用できます。
- 登記情報提供サービス: インターネットで登記情報を閲覧できるサービス。低コストですが、法的な証明力はありません。
- 読者のメリット: 不動産登記法に基づき、手数料を払えば誰でも所有者の公式情報を取得できます。これがすべての合法的な調査のスタートラインです。
住民票の写し:国内在住の可能性を探る
- 定義: 日本国内の市区町村に住む人の居住関係を証明する書類です。2012年の住民基本台帳法改正により、3ヶ月を超えて在留する外国人も対象となりました。
- 区別: 俗に「外国人住民票」と呼ばれることがありますが、正式には日本人と同じ「住民票の写し」です。
- 読者のメリット: 登記簿上の住所が国内の場合、その場所に住民登録があるかを確認できます。ただし、請求には「滞納管理費の請求」といった自己の権利を行使するための「正当な理由」と、それを証明する資料(例:管理規約、未払いを示す書類)が必要です(住民基本台帳法 第12条の3)。
弁護士会照会:専門家が行う高度な調査
- 定義: 弁護士が依頼された事件の調査のため、所属する弁護士会を通じて官公庁や企業に必要な情報の照会を行う制度です(弁護士法 第23条の2)。
- 区別: 個人や法人が直接利用することはできません。必ず弁護士への依頼が必要です。
- 読者のメリット: 管理費滞納による訴訟準備など、具体的な法的紛争がある場合に、一般にはアクセスできない情報(例:出入国在留管理庁の記録)の開示を求められる可能性があります。
公示送達:訴訟を前提とした最終手段
- 定義: 裁判の相手方の所在がどうしても不明な場合、裁判所の掲示板やウェブサイトに一定期間掲示することで、訴状などが相手方に届いたものとみなす法的手続きです(民事訴訟法 第110条)。
- 区別: これは調査方法ではなく、訴訟を進めるための手続きです。
- 読者のメリット: あらゆる調査を尽くしても所在が判明しない場合でも、この手続きにより訴訟を開始し、最終的に滞納管理費の支払い命令などの判決を得ることが可能になります。
【4ステップ解説】連絡不能な外国人オーナーの合法的な所在調査フロー
ここからは、連絡不能な外国人オーナーの所在を調査するための具体的な手順を、4つのステップで解説します。必ずStep1から順番に進めてください。
Step1:不動産登記簿で公式情報を確認する
⚠️ 重要な前提:管理組合規約の確認
本ガイドで推奨する所在調査は、管理組合の現行規約に合致することを前提としています。
進める前に、以下を確認してください:
- 管理規約に「滞納者への通知方法」「個人情報調査権」の規定があるか
- 規約がない場合は、総会決議で調査を承認したか
- 滞納通知が規約に基づく正当な催告か
規約と矛盾する場合は、法律家(弁護士)に事前相談が必須です。
何よりもまず、対象不動産の登記情報を確認します。これは誰でも合法的に行える、最も基本的かつ重要な初動調査です。
【宅建士のチェックポイント】
調査の第一歩は必ず登記簿からです。ここに記載された所有者の氏名・住所が、以降のすべての調査の起点となる公式情報となります。
- 取得方法:
- 法務局の窓口: 対象不動産を管轄する法務局で「登記事項証明書交付申請書」を提出します。1通600円の手数料が必要です。
- 登記情報提供サービス: オンラインで情報を確認する最も手軽な方法です。所有者事項の照会は1件141円(税込)で、初期調査に適しています(出典:登記情報提供サービス)。
- 確認箇所: 取得した情報のうち、「権利部(甲区)」に記載されている所有者の氏名と住所を確認します。これが法的に記録されている最終の所有者情報です。
【注記】固定資産税台帳での国籍確認は不可
地方税法第381条により、固定資産税課税台帳には所有者の国籍情報が記載されていません。そのため、登記簿で情報を得た後も、国籍の特定には住民票請求や弁護士会照会などの追加調査が必要です。
Step2:住民票の写しを請求し、国内の住所を追跡する
Step1で判明した住所が日本国内だった場合、次はその市区町村役場で「住民票の写し」の交付を請求します。
- 請求の条件: 誰でも請求できるわけではありません。管理費滞納のようなケースでは、「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために住民票の記載事項を確認する必要がある場合」に該当します(住民基本台帳法)。
- 必要なもの:
- 請求書(各市区町村の様式)
- 請求理由を明らかにする資料(疎明資料)
- 管理費等の滞納状況がわかる書類
- 対象不動産の登記簿謄本
- 管理組合の規約など、請求者と相手方との関係がわかる書類
- 請求者の本人確認書類(運転免許証など)
- 手数料
これにより、登記簿の住所に現在も住んでいるか、あるいは別の場所に転出している場合はその転出先住所が判明する可能性があります。
実務上の注意:市区町村の判断基準の多様性
住民票交付には「正当な理由」の疎明が必要ですが、その判断は市区町村によって異なります。以下の順序で段階的に進めることが推奨されます:
- 管理組合の規約および滞納通知書(初期段階)
→ 受け入れられない可能性(目安:30%) - 催告内容証明郵便、督促状等の証拠
→ 受け入れ率上昇(目安:60%) - 簡易裁判所への支払督促申し立て後、その旨の記載
→ 受け入れ率大幅向上(目安:90%以上)
※市区町村が却下した場合は、Step3(弁護士会照会)または Step4(公示送達)への進行を検討
Step3:専門家を通じて国外の所在を調査する
登記簿上の住所が海外であったり、住民票の追跡でも所在が不明だったりした場合は、一般人が行える調査の限界です。ここからは専門家の力が必要になります。
弁護士会照会制度の活用
管理費の回収訴訟などを弁護士に依頼した場合、その弁護士は「弁護士会照会」を利用できます。これにより、出入国在留管理庁などに対して情報の開示を求めることが可能です。
照会先の例と判明する可能性のある情報:
- 出入国在留管理庁: 在留記録、日本からの出国先、再入国の有無など
【重要】外国人登録原票廃止後の情報開示制度(2012年7月9日以降)
かつての「外国人登録原票」は廃止されましたが、その後の調査手法は以下のとおりです:
① 本人による開示請求(出入国在留管理庁)
– 出入国在留管理庁が保有する個人情報の開示を、本人が直接請求可能(行政機関情報公開法 第1条)
– 在留資格、在留期限、過去の出入国記録が対象
– ただしオーナー本人の協力が必要
② 弁護士会照会による情報取得
– 弁護士が「具体的な法的紛争の解決」を前提に、出入国在留管理庁に「保有個人情報開示請求」を照会
– 得られる情報は限定的(本人住所・在留資格等に限定される場合多い)
– 在留カード失効・不法滞在等の情報開示は不可(別途要件あり)
③ 2025年国土利用計画法改正との関連
– 2025年7月より国土利用計画法の改正に伴い土地取得時の国籍報告制度が開始されました。
– ただし、この新制度は既存の外国人オーナーには遡及適用されません。
外務省による「所在調査」は利用できるか?
外務省は海外にいる日本人の所在を調査するサービスを提供していますが、利用できるのは「三親等内の親族」に限られます。したがって、管理組合や管理会社がこの制度を直接利用してオーナーを探すことはできません。(出典:外務省、2025年8月1日更新版に基づく)
Step4:最終手段としての法的手続き「公示送達」を検討する
上記すべての調査を尽くしてもオーナーの所在が不明な場合、残された手段が「公示送達」です。
これは、訴訟を提起する際に、裁判所に申し立てることで送達があったとみなしてもらう手続きです。申立てには、これまでの調査で所在が不明であったことを証明する「所在調査報告書」の提出が必要となります。
公示送達は、あくまで訴訟を進めるための手続きであり、多大な時間と費用がかかる最終手段です。この段階に至る前に、弁護士などの専門家に相談し、費用対効果や成功の見込みを慎重に判断することが不可欠です。
よくある質問(FAQ)
Q1. オーナーの国籍情報を把握することは個人情報保護法に違反しないか?
A. 個人情報保護法自体は「国籍情報の取得」を一律禁止していません。ただし以下の要件が必須です:
- 取得の正当性: 管理費回収等、正当な事由があること
- 目的の限定: 滞納管理のみに利用し、他の目的に流用しないこと
- 安全管理: 取得した国籍情報を安全に保管・管理すること
- 本人への通知: 可能な限り、何のために国籍情報が必要か説明し、同意を得ること
本ガイドで推奨する「登記簿取得」「住民票請求」「弁護士会照会」は、すべて正当な法的枠組みに基づくため、個人情報保護法違反とはなりません。
Q2. 外国人オーナーが日本に定住していない場合はどうなるか?
A. Step4の「公示送達」により、訴訟を進めることが可能です。ただし以下の点に注意してください:
- 訴訟成立後の 強制執行が困難 (外国にいる相手方から金銭回収するため)
- 弁護士会照会でも所在が不明な場合、訴訟判決を得ても回収が困難になる可能性
- 事前に弁護士に費用対効果を相談 することを強く推奨
Q3. 2025年の国籍報告制度が始まると、このガイドは使えなくなるか?
A. いいえ。本ガイドは引き続き有効です。
新制度は 新規の土地取得者を対象とするものであり、既存の外国人オーナーについては遡及適用されません。このため、現在連絡がつかない外国人オーナーの所在調査には、本ガイドの手続きが引き続き必要となります。
実務ヒント:国土交通省のガイドラインに学ぶ所有者特定フロー
実は、これまで解説してきた調査フローは、国の示す公式な指針にも沿ったものです。
国土交通省は「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する土地所有者等探索・特定マニュアル」を公表しています。このマニュアルでは、所有者を探すための標準的なプロセスとして、以下のような段階的調査を推奨しています(出典:国土交通省)。
- 公簿上の調査: 不動産登記簿で所有権登記名義人の氏名・住所を確認する。
- 居住確認調査: 登記簿上の住所を訪問したり、近隣住民に聞き取りをしたりして、居住実態を確認する。
- 住所等の情報の追跡: 住民票や戸籍の附票(※)を取得し、住所の履歴を追う。
※戸籍の附票:本籍地の市区町村で管理される、住所の移転履歴が記録された書類。
このように、公的な記録を起点に、段階的に調査範囲を広げていくアプローチが、国も推奨する王道であることがわかります。
2025年国土利用計画法改正の影響と今後の展望
2025年7月より、国土交通省は土地取得時の国籍報告制度の段階的導入を開始しています。これにより、今後新規に土地を取得する外国人オーナーの把握が従来より容易になる可能性があります。
本ガイドの手続きとの関係:
- 改正前: 登記簿上の住所から個別に調査する必要がありました。
- 改正後(2025年7月以降): 新規取得者の国籍が自治体に報告されますが、既存のオーナーには遡及適用されません。そのため、本ガイドの手続きは引き続き有効です。
読者への推奨:
現在、管理費滞納等で所在調査が必要な場合は、本ガイドの手続きを早期に進めることをお勧めします。新制度の詳細は国土交通省の発表をご確認ください。
まとめ:連絡不能な外国人オーナーの所在調査を成功させる3つの鉄則
連絡がつかない外国人オーナーの所在調査は、焦らず、法に則って進めることが何より重要です。最後に、合法的な調査を成功させるための3つの鉄則をまとめます。
- 【鉄則1】必ず公的記録(不動産登記簿)から始める
すべての調査の出発点は、誰でも合法的に取得できる不動産登記簿です。ここから得られる公式情報を基に、次のステップを計画しましょう。 - 【鉄則2】安易な自己調査は行わない(法令遵守)
SNSでの特定や無許可のデータアクセスは、個人情報保護法に抵触する重大なリスクを伴います。必ず法務局、市区町村、裁判所といった公的機関を通じた手続きを踏んでください。 - 【鉄則3】一般調査で行き詰まったら、速やかに専門家(弁護士)へ
住民票の追跡などで所在が不明となった場合、それ以上の調査は一般人には困難かつ危険です。法的紛争の解決を視野に入れ、弁護士会照会などの専門的な手法を活用できる弁護士に相談することが、最も確実で安全な道です。
外国人オーナーとの連絡不能問題は、放置すればするほど解決が困難になります。この記事で紹介した合法的なステップを参考に、まずは第一歩を踏み出してください。そして、少しでも手続きに不安を感じたら、一人で抱え込まず専門家の助けを借りることを強くお勧めします。
免責事項
本記事は、連絡不能な不動産所有者の所在調査に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的助言ではありません。個別の事案については、弁護士等の専門家にご相談ください。また、本記事の内容は執筆時点の法令等に基づいておりますが、最新の法改正や個別の契約条項が最優先される点にご留意ください。
参考資料
- [1] 登記情報提供サービス https://www1.touki.or.jp/
- [2] 外務省「海外での所在調査」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/todoke/shozai/index.html
- [3] 国土交通省「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する土地所有者等探索・特定マニュアル」 https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001767142.pdf
- [4] 弁護士法(e-Gov法令検索) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324AC0000000205
- [5] 民事訴訟法(e-Gov法令検索) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=408AC0000000109
- [6] 住民基本台帳法(e-Gov法令検索) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=342AC0000000081
- [7] 個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0000000057
- [8] 日本弁護士連合会「弁護士会照会制度」 https://www.nichibenren.or.jp/activity/professional/practic_support/shokai.html
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

