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マンションの感震ブレーカー、設置義務はある?【結論:義務ではない】
マンションの防災対策を検討する理事会や区分所有者の皆様にとって、「感震ブレーカー」は重要なテーマの一つです。特に「設置は義務なのか?」という疑問は多くの方が抱くことでしょう。
結論から言うと、2025年現在、マンションへの感震ブレーカー設置は法的な義務ではありません。しかし、国は大規模地震による「通電火災」を防ぐため、その普及を強く推奨しています。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、一次情報に基づいて以下の点を分かりやすく解説します。
- 感震ブレーカーの設置義務に関する法的な位置づけ
- なぜ設置が推奨されるのか(通電火災のリスク)
- マンションで設置を進めるための具体的な手順と総会決議のポイント
- 費用負担を軽減する自治体の補助金制度と探し方
この記事を読めば、感震ブレーカー設置の必要性を正しく理解し、管理組合で導入を検討するための具体的な道筋が見えてくるはずです。
マンションの感震ブレーカー、設置義務はある?【結論:義務ではない】
マンションの管理組合で防災対策を議論する際、まず気になるのが「感震ブレーカーの設置は法律で義務付けられているのか」という点です。ここでは、法的な現状と国の考え方を正確にお伝えします。
法的義務化の現状(2025年時点)
2025年12月時点で、感震ブレーカーの設置を直接義務付ける法律はありません。建築基準法や消防法にも、新築・既存を問わず設置を強制する規定は存在しないのが現状です(出典:企業メディア、2024年)。
「義務」ではなく「推奨」- 国の普及方針と背景
法的義務はないものの、国は感震ブレーカーの普及を強力に推進しています。この背景には、過去の大規模地震で多発した「通電火災」への強い危機感があります。
2014年に閣議決定された「首都直下地震緊急対策推進基本計画」を受け、内閣府・消防庁・経済産業省が連携し、感震ブレーカーの普及啓発を進めています(出典:経済産業省、2015年)。これは、個々の住宅の火災発生を防ぐことが、地域全体の延焼被害を抑える上で極めて重要だという認識に基づいています。
民間規格「内線規程」での位置づけ
電気工事の事実上の標準ルールである「内線規程」も、感震ブレーカーの設置を後押ししています。この規程自体に法的拘束力はありませんが、ほとんどの電気工事はこの規程に準拠して行われます。
2019年4月の改定で、内線規程は以下の通り定めました(出典:経済産業省、2015年)。
- 勧告: 防火地域・準防火地域内の住宅に施設すること。
- 推奨: 上記以外のすべての住宅に施設すること。
つまり、法律上の「義務」ではないものの、国や電気工事業界が一体となって「設置することが望ましい」という方向性を示しているのです。
なぜ推奨される?感震ブレーカーの役割と通電火災のリスク
感震ブレーカーの役割を理解するためには、まず「通電火災」の恐ろしさを知る必要があります。これは、地震そのものではなく、地震後の停電復旧時に発生する火災です。
地震火災の半数以上は「電気」が原因(通電火災)
阪神・淡路大震災や東日本大震災では、火災原因の半数以上が電気に起因するものだったと分析されています。通電火災の発生メカニズムは以下の通りです。
- 地震発生: 家具が転倒し、ヒーターなどの電化製品の上に可燃物(カーテン、本など)が覆いかぶさる。または、家具の下敷きになった電気コードが損傷する。
- 停電: 地震の影響で電力供給がストップする。住民は、電化製品のスイッチが入ったまま避難することが多い。
- 停電復旧(通電再開): 電力会社が復旧作業を行い、電気が再び流れる。
- 出火: スイッチが入ったままのヒーターや損傷したコードから発熱・スパークし、周囲の可燃物に着火する。
住民が避難して不在の時に発生するため、初期消火が極めて困難になり、大規模な延焼につながりやすいのが通電火災の最大の特徴です。
どう作動する?感震ブレーカーの仕組みと種類
感震ブレーカーは、この通電火災を防ぐための装置です。震度5強相当の揺れを感知すると、自動的に分電盤の主幹ブレーカーを落として家全体の電気供給を遮断します。これにより、避難中に電気が復旧しても、電気器具からの出火を防ぐことができます。千葉市消防局(2025年10月更新)も同様の機能説明を行っており、停電後の電力復旧時における感震ブレーカーの遮断機能が、通電火災防止の重要なポイントとされています。
感震ブレーカーには、設置方法や機能によっていくつかの種類があります。
| 種類 | 特徴 | 設置方法 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| 分電盤内蔵型 | 予め分電盤に感震機能が組み込まれている。新築や分電盤交換時に最適。 | 電気工事士による工事が必要 | 5万円~10万円程度 |
| 後付け型(分電盤) | 既存の分電盤の隣に感震ユニットを追加で設置する。 | 電気工事士による工事が必要 | 2万円~5万円程度+工事費 |
| 簡易タイプ(コンセント型・おもり式) | 特定のコンセントやブレーカーのスイッチに設置。個人でも設置可能な製品が多い。 | 工事不要 | 数千円~1万円程度 |
マンション全体で導入を検討する場合、各住戸の分電盤に設置する「後付け型」や、新築時に「分電盤内蔵型」を採用するのが一般的です。
マンションで感震ブレーカーを設置する手順と総会決議
個別の住宅と異なり、マンションで感震ブレーカーを全戸一括導入するには、管理組合としての合意形成が不可欠です。ここでは、その手順と注意点を解説します。
管理組合の合意形成プロセス:総会決議のポイント
マンション全戸への感震ブレーカー設置は、各住戸の分電盤という「専有部分」に工事が及ぶものの、防災対策という「共用部分」の利益にも資する行為です。そのため、管理組合の総会で決議を得るのが一般的なプロセスとなります。
感震ブレーカーの設置が「共用部分の変更」に該当するかどうかは、法的な判断が必要です。管理規約の内容によっても結論が変わるため、必ず専門家への相談が欠かせません。
区分所有法第17条では、共用部分の「形状又は効用の著しい変更」には特別決議(区分所有者及び議決権の各4分の3以上)が必要と定めています。感震ブレーカー設置がこれに該当するかは、各マンションの管理規約の定めと現地の建築状況によって判断が異なります。ブレーカーの設置が建物の形状や効用を「著しく」変更するとは考えにくい場合が多いため、一般的には普通決議(過半数)で足りるケースが想定されていますが、この判断は最終的に各マンションの管理規約に優先します。
重要:組合の決議要件は、本記事よりも管理規約および現契約条項が最優先です。決議プロセスの進行にあたっては、必ず管理組合の顧問弁護士またはマンション管理士に対象マンションの管理規約を提示した上で、具体的な判断を仰ぐことが必須です。
業者選定と見積もりの注意点【管理組合の実務】
理事会で設置方針が固まったら、次に施工業者を選定し、見積もりを取得します。ここで注意したいのが、相見積もりの取り方です。
確かに競争原理を働かせるために複数社から見積もりを取ることは重要ですが、業者側の調査・打ち合わせ負担を考慮した上で、管理組合と施工業者の間で協力体制を構築することが、長期的な信頼関係へ繋がります。
管理会社側も、見積もり作成には現地調査や各種点検会社との調整など多大な労力を要します。相見積もりの取得に際しては、信頼できる施工業者を選定し、現地調査や打ち合わせに十分な時間を設けることで、精度の高い見積もりが実現します。業者側の対応姿勢も重要な評価指標となります。
活用できる?自治体の補助金制度を徹底解説
感震ブレーカーの設置費用は、自治体の補助金制度を活用することで負担を軽減できる場合があります。お住まいの地域で利用可能な制度がないか、必ず確認しましょう。
お住まいの地域は対象?補助金の探し方
補助金制度の有無や内容は、自治体によって大きく異なります。最新かつ正確な情報を得るには、以下の方法が有効です。
- 内閣府の公式サイトを確認する: 内閣府は、全国の自治体の支援制度を一覧にまとめて公開しています。「感震ブレーカー 支援制度一覧 内閣府」などで検索すると、最新のPDF資料が見つかります。
- 自治体の公式サイトで検索する: 「(お住まいの市区町村名) 感震ブレーカー 補助金」というキーワードで検索するのが最も確実です。防災担当課や建築指導課のページに情報が掲載されていることが多いです。
【地域別】補助金制度の事例
補助金の内容は様々です。ここではいくつかの自治体の事例(2025年度情報)をご紹介します。
| 実施自治体 | 補助率・金額 | 補助上限額 | 実施年度 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 東京都杉並区 | 区が機器購入費を負担 | (自己負担2,000円~) | 2025年度(要確認) | 特例対象者は自己負担なし |
| 静岡県浜松市 | 費用の2/3 | 30,000円 | 2025年度(2025年8月更新) | 既存住宅の場合 |
| 石川県 | 費用の1/2 | 種類別に設定 | 2025年度(要確認) | 1戸1基まで |
| 三重県桑名市 | 費用の1/2 | 40,000円 | 2025年度(要確認) | 簡易タイプも対象 |
最新の全国一覧を確認する:内閣府(防災担当)が「都道府県・市区町村における感震ブレーカーの支援制度一覧(令和6年度版)」を公開しています。お住まいの地域の最新情報は、必ず以下のいずれかで確認してください:
– 内閣府公式サイト「感震ブレーカー普及啓発」ページ
– 各自治体の防災担当課の公式ウェブサイト(「〇〇市 感震ブレーカー 補助金」で検索)
このように、補助率や上限額は地域によって大きく異なります。また、申請期間が限られていたり、年度の予算がなくなり次第終了となるケースも多いため、早めの情報収集が肝心です。
申請手続きの流れと注意点(例:浜松市)
補助金の申請プロセスは自治体ごとに定められています。例えば静岡県浜松市の場合、以下のような流れになります(出典:静岡県浜松市公式サイト、2025年8月7日更新)。
- 事前相談: まず市の窓口に相談し、補助対象となる工事か確認する。
- 設置工事: 相談後、業者に依頼して感震ブレーカーを設置する。
- 申請: 工事完了後、領収書や工事写真などを添えて市に補助金を申請する。
ここで重要なのは、多くの補助金制度では「工事着工前の申請・相談」が必須である点です。工事を終えてから補助金の存在を知っても、対象外となることがほとんどですので、必ず事前に手続きを確認してください。
感震ブレーカー設置に関するよくある質問
ここでは、感震ブレーカー設置に関して寄せられることの多い質問にお答えします。
Q1. 賃貸マンションの場合は誰が設置する?
賃貸マンションの場合、感震ブレーカーの設置義務はオーナー(貸主)にも入居者(借主)にもありません。防災意識の高いオーナーが、物件の付加価値向上のために自主的に設置するケースや、入居者が簡易タイプを自己負担で設置するケースが考えられます。管理組合として議論する対象は、主に分譲マンションとなります。
Q2. 費用はどれくらいかかる?
費用はブレーカーの種類によって大きく異なります。
- 分電盤タイプ(後付け型): 製品代が2万円~5万円程度、これに電気工事士による工事費が加わります。複数戸をまとめて発注することで、1戸あたりの工事費を抑えられる可能性があります。
- 簡易タイプ(コンセント型など): 工事が不要な製品が多く、数千円から1万円程度で購入できます。ただし、家全体の電気を止められるわけではないため、効果は限定的です。
全戸一括で導入する場合は、分電盤タイプを検討するのが一般的です。
Q3. 設置後のメンテナンスは必要?
感震ブレーカー自体は、一度設置すれば頻繁なメンテナンスが必要な機器ではありません。ただし、製品によっては作動テストが推奨されている場合があります。設置時に施工業者から、定期的な点検の要否やテスト方法について説明を受けておくと安心です。
まとめ:義務ではないが、全戸一括設置は「資産価値向上」にも繋がる防災投資
改めて結論をまとめます。
- 設置義務: マンションへの感震ブレーカー設置は、法的な義務ではありません。
- 国の姿勢: しかし、通電火災を防ぐ極めて有効な手段として、国は設置を強く「推奨」しています。
- 設置プロセス: マンションで導入するには、管理組合での合意形成が不可欠です。一般的には総会の普通決議で進められることが多いですが、管理規約の確認と専門家への相談が必須です。
- 費用: 自治体によっては手厚い補助金制度が用意されているため、費用負担を軽減できる可能性があります。
感震ブレーカーの設置は、単に「自分たちの命と財産を守る」だけでなく、火災による近隣への延焼被害を防ぐという社会的な意義も持ちます。防災対策がしっかりしているマンションは、将来的な資産価値の維持・向上にも繋がる重要なアピールポイントとなります。
まずは理事会でこの記事を参考に議論を始め、お住まいの自治体の補助金制度を調べてみてはいかがでしょうか。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定のマンション固有の法的助言ではありません。以下の点を必ず確認してください:
- [最重要]管理規約と現契約条項が本記事の内容に優先します。感震ブレーカー設置に関する決議要件、費用負担、工事仕様などは、各マンションの管理規約および管理委託契約書を確認し、専門家(弁護士、マンション管理士)に最終判断を求めてください。
- 感震ブレーカーの設置義務、補助金制度、関連法令は変更される可能性があります。最新情報については、内閣府・消防庁・各自治体の公式サイトで随時確認してください。
- 本記事に基づく設置判断、工事実施、補助金申請は自己責任です。具体的な行動に移す際には、管理組合、施工業者、行政機関と協議してください。
【2025年12月時点の追記】 2026年に区分所有法改正が予定されており、耐震性・火災安全性が不適合な建物において、共用部分変更の決議要件(区分所有者及び議決権の各4分の3以上)が緩和される可能性があります。感震ブレーカー設置がこの規定の対象となるかについては、改正法の施行後に改めて専門家へご相談ください。
参考資料
- 経済産業省 (2015)『감震ブレーカーの普及啓発』
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2015/10/270105-1.html - 内閣府(防災担当)『感震ブレーカーの普及啓発』
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/denkikasaitaisaku/index.html - 株式会社シー・ディー・イー (2024)『感震ブレーカーの設置は義務化されている?仕組みや種類、補助金について解説』
https://www.cdedirect.co.jp/media/c4-safety/c42-breaker/10467/ - 千葉市消防局 (2025)『感震ブレーカーを設置しましょう!』(2025年10月8日更新)
https://www.city.chiba.jp/shobo/yobo/yobo/kansin-braker.html - 静岡県浜松市 (2025)『感震ブレーカー設置費補助事業』(2025年8月7日更新)
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/kensido/kanshin.html - 石川県 (2024)『感震ブレーカーを設置しましょう!』
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/bousai/shobo/kasaiyobou/kanshinbreaker.html

