WEB総会導入完全ガイド:議決権行使・電子署名の法的要件と4ステップ

国土交通省のロゴが入った「ITを活用した総会・理事会実施ガイドライン」の冊子と、区分所有法関連の書籍、そしてペンとノートが机の上に並べられている。これらの資料がマンション管理組合役員にとって不可欠な情報源であることを示し、専門家や公式ガイドラインに基づく正確な知識の重要性を伝える。

※本コラムの内容は、当社が独自に調査・収集した情報に基づいて作成しています。無断での転載・引用・複製はご遠慮ください。内容のご利用をご希望の場合は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。

マンション総会の参加率低下や運営の煩雑さにお悩みの管理組合役員の皆様へ。解決策として注目される「WEB総会(オンライン総会)」ですが、安易な導入は法的なリスクを伴います。特に「議決権行使」や「電子署名」の扱いは、法律で厳格に定められており、これを無視した総会決議は無効となる恐れさえあります。

本記事では、不動産法務を専門とするライター(宅地建物取引士および行政書士資格保有)が、区分所有法や電子署名法、国土交通省の公式ガイドラインといった一次情報に基づき、WEB総会を法的に有効な形で導入するための具体的な手順と注意点を徹底解説します。この記事を読めば、WEB総会導入の不安が解消され、自信を持って次のステップに進むことができるでしょう。

目次

そもそもWEB総会(オンライン総会)とは?3つの開催方式

WEB総会(オンライン総会)とは、インターネット等のIT技術を活用し、区分所有者が物理的に一堂に会することなく開催される総会の総称です。国土交通省のガイドラインでは、主に3つの開催方式が示されています(出典:国土交通省「ITを活用した総会・理事会実施ガイドライン」)。それぞれの特徴を理解し、ご自身のマンションに合った方式を検討することが第一歩です。

表が表示されない場合の代替記述:開催方式(1)リアル総会+オンライン傍聴型(発言・議決権行使なし):概要はリアル会場で総会を開催し、オンラインで視聴のみ可能。メリットはIT苦手層の参加しやすさ、デメリットはオンライン参加者の議論参加不可。(2)リアル総会+オンライン参加型(発言・議決権行使あり):概要はリアル会場とオンラインを併用し、オンライン参加者も発言・投票可能。メリットは選択肢の多さ、デメリットは運営の複雑さ。(3)フル・オンライン総会(事前投票型含む):概要はリアル会場なしでオンラインのみ開催、リアルタイムまたは事前投票。メリットは場所・時間の柔軟性、デメリットは通信環境依存。事前投票型は区分所有法第45条の全員承諾による電磁的決議に該当する別スキームである点に注意。

開催方式概要メリットデメリット
リアル総会+オンライン傍聴型(発言・議決権行使なし)リアル会場で総会を開催し、オンラインで視聴のみ可能。・ITが苦手な層の参加しやすさ
・基本的な総会形式を維持
・オンライン参加者の発言・投票不可
・通信環境の安定性が必要
リアル総会+オンライン参加型(発言・議決権行使あり)リアル会場とオンラインを併用し、オンライン参加者も発言・投票可能。・参加方法の選択肢が広い
・活発な議論が可能
・運営が複雑になる
・機材や人員の準備が必要
フル・オンライン総会(事前投票型含む)リアル会場なしでオンラインのみ開催。リアルタイムまたは事前投票で議決。・組合員が時間や場所を選ばない
・参加のハードルが低い
・リアルタイム議論が制限される場合あり
・通信障害リスク

【法的根拠①】WEB総会での議決権行使は「規約改正」が絶対条件

WEB総会導入にあたり、最も重要な法的要件が「電磁的方法」による議決権行使の根拠を設けることです。これを怠ると、たとえ最新のWEB総会システムを導入しても、その決議は法的に無効と判断されるリスクがあります。

区分所有法第39条が定める「電磁的方法」による議決権行使

まず、「電磁的方法」とは何かを正確に理解しましょう。これは、電子メールやウェブサイトを利用した議決権行使を指す法律用語です。区分所有法では、この方法による議決権行使を認めていますが、それには明確な条件があります。

区分所有者は、規約又は集会の決議により、書面による議決権の行使に代えて、電磁的方法(…)によって議決権を行使することができる。

(出典:建物の区分所有等に関する法律 第39条第3項)

この条文が示す通り、WEB総会で議決権を行使するためには、あらかじめ管理規約でその旨を定めるか、または総会でその実施を決議しておく必要があります。

「規約」または「集会の決議」がなければ無効になるリスク

「うちの組合には規約に何もないけれど、とりあえずメールで賛否を送ってもらおう」といった安易な運用は非常に危険です。法的な根拠がないまま行われた電磁的方法による議決権行使は、区分所有法上の有効な議決権行使とは認められません。その結果、定足数を満たさなかったり、決議そのものが成立しなかったりする事態に繋がりかねません。

【重要】WEB総会での議決権行使を有効にするには、システム導入の前に必ず「規約改正」または「事前承認の総会決議」が必要です。

恒久的な措置としてWEB総会を導入する場合は、一時的な集会の決議ではなく、管理規約を改正し、電磁的方法による議決権行使を正式なルールとして明記することが強く推奨されます。

【注意】システム導入だけでは不十分!法務省令が定める方法とは

区分所有法で認められる「電磁的方法」は、法務省令で具体的に定められています(出典:建物の区分所有等に関する法律施行規則 第3条)。

  • 電子メールを利用する方法
  • ウェブサイト(総会システムなど)を利用する方法

ただし、これらの方法を用いる際は、本人からのものであることを確認するための措置(ID・パスワードによるログインなど)や、改ざんされていないことを確認できる仕組みが求められます。本人確認にはID・パスワード単独では不十分であり、以下の対策が有効です:

  • 二要素認証(SMS、電話確認等)の導入
  • デジタル署名(電子証明書ベース)による本人確認
  • サイバー攻撃や大規模通信障害による決議無効化リスクの事前明示

単にPDFファイルをメールに添付して送るだけでは、本人確認や改ざん防止の観点から法的要件を満たさない可能性があるため、注意が必要です。

2025年改正による定足数変更と特別決議要件の緩和

2025年5月に改正された区分所有法(2026年4月1日施行)により、総会の定足数が議決権総数の「半数以上」から「過半数」(例:100戸のマンションで50戸以上から51戸以上に変更)に厳格化されます。また、改正区分所有法に対応してマンション標準管理規約も改正され、電磁的方法導入に限り、一定要件下で特別決議の要件が「4分の3以上」から「多数決」に緩和されることが確定しています。これにより、2026年4月以降の総会運営では現行規約の決議要件が無効となるため、2026年4月までの規約改正が必須です。

【法的根拠②】「電子署名」が必須なのは議事録をデータで作成する場合のみ

WEB総会とセットで語られることの多い「電子署名」ですが、その役割を誤解しているケースが散見されます。全ての議決権行使に電子署名が必要なわけではありません。

区分所有法第42条が定める「署名に代わる措置」とは?

電子署名が関連するのは、議決権行使そのものではなく、「議事録」の作成方法です。区分所有法では、総会の議事録には議長および出席した区分所有者2名が署名(または記名押印)することを義務付けています。そして、この議事録を紙ではなく、Wordファイルのような電子データ(電磁的記録)で作成する場合、紙の署名に代わる措置として「電子署名」が求められるのです。

(議事録が)電磁的記録をもつて作成されているときは、当該電磁的記録に記録された情報については、議長及び集会に出席した区分所有者の二人が法務省令で定める署名に代わる措置をとらなければならない。

(出典:建物の区分所有等に関する法律 第42条第4項)

電子署名法が定める「電子署名」の役割

ここでいう「署名に代わる措置」とは、具体的には「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)第2条第1項」に定められた電子署名を指します(出典:建物の区分所有等に関する法律施行規則 第4条)。電子署名とは、電子文書に対して行われる技術的な措置であり、以下の2点を証明する役割を持ちます。

  1. 本人性の証明:その電子文書が、間違いなく本人によって作成されたこと。
  2. 非改ざん性の証明:その電子文書が、作成後に改ざんされていないこと。

これにより、電子データで作成された議事録も、紙の議事録と同等の法的効力を持つことが保証されます。

電子署名の種類

電子署名の種類は主に2つあり、マンション議事録の場合、利便性から立会人型が一般的に選択されています。

  • 当事者型署名:本人が秘密鍵を保有し、公開鍵で身元を確認する方式(高セキュリティ、操作複雑)。
  • 立会人型署名:サービス事業者が代わりに署名する方式(利便性重視、コスト低廉)。

【最重要】全ての議決権行使に電子署名は不要!

ここが最も重要なポイントです。電子署名が法的に必須となるのは、あくまで「議事録を電子データで作成する場合」に限定されます。WEB総会でオンライン議決権行使を行ったとしても、最終的な議事録を従来通り「紙」で作成し、議長と出席者が押印するのであれば、電子署名は不要です。WEB総会導入のハードルを必要以上に上げてしまわないためにも、この違いは正確に理解しておきましょう。

【実践ガイド】WEB総会導入に向けた規約改正の4ステップ

法的な要件を理解した上で、実際にWEB総会を導入するための手順を4つのステップで解説します。なお、本稿は情報提供目的であり、システム選定・構築は必ず管理会社または専門事業者に依頼してください。

  • Step1: 規約改正案の作成と事前周知
    • まず、「電磁的方法による議決権行使を認める」旨を盛り込んだ管理規約の改正案を作成します。国土交通省が公開している「マンション標準管理規約」のコメントを参考にするとスムーズです。
    • 改正案を理事会で承認し、総会開催の1〜2ヶ月前には組合員に配布して内容を周知します。
  • Step2: 通常総会での規約改正の決議
    • 改正案を議案として、従来通りのリアルな総会を開催します。
    • 管理規約の変更は「特別決議」事項であり、現行(~2026年3月)では「組合員総数の4分の3以上」かつ「議決権総数の4分の3以上」の賛成が必要です。2026年4月施行の改正区分所有法に対応し、電磁的方法導入に限り、一定要件下で多数決が可能化されることが確定しています。ご自身のマンションの現行規約では2026年4月に成立要件・決議要件が無効となるため、2026年4月までに必ず規約改正を行う必要があります。
  • Step3: WEB総会システムの選定と本人確認方法の構築
    • 規約改正の目処が立ったら、具体的なシステムを選定します。セキュリティ、使いやすさ、費用などを比較検討します。
    • 組合員一人ひとりの本人確認をどのように行うか(ID/パスワードの発行、二要素認証の導入など)を決定し、体制を構築します。
  • Step4: 組合員への操作方法の説明とテスト実施
    • システム導入後、組合員向けに操作説明会を開催したり、マニュアルを配布したりします。
    • 本番の総会の前に、模擬的な議案でテスト投票を行うなど、全員がスムーズに操作できるようサポートすることが成功の鍵です。本稿は情報提供目的であり、管理会社の業務範囲を超える操作指導は専門家に依頼してください。

WEB総会と電子署名に関するよくある質問(Q&A)

Q. 規約改正なしに、試験的にオンラインで意見を聞くのはOK?

意見を収集するだけで、法的な議決権行使を伴わないアンケートのような形であれば問題ありません。ただし、その結果をもって「決議された」とみなすことはできないため、あくまで参考意見の聴取に留める必要があります。

Q. 議決権行使書のPDFをメールで送るだけではダメ?

法務省令が求める「本人確認」や「改ざん防止」の措置が講じられていないため、単なるメール添付だけでは法的に無効と判断されるリスクが高いです。専用のシステムを利用し、ID・パスワード等でログインした上で投票する仕組みが安全です。

Q. 電子署名にはどんなサービスを使えばいい?

議事録の電子化に伴い電子署名が必要な場合、クラウド上で利用できる電子契約サービスなどが選択肢になります。大きく「当事者型署名」(本人が秘密鍵を保有し、公開鍵で身元を確認する方式)と「立会人型署名」(事業者が代わりに署名)の2種類がありますが、マンション議事録の場合、費用や手軽さから「立会人型(事業者署名型)」のサービスが利用されることが多いです。

Q. 高齢者などITが苦手な人への配慮はどうする?

高齢者など参加障壁がある場合、リアル会場での総会とオンライン参加を併用する「ハイブリッド型」(リアル総会+オンライン参加型)の導入が最も有効な解決策です。また、従来通りの「議決権行使書(書面)」の提出も引き続き受け付けることで、誰もが参加できる機会を確保することが重要です。

Q. 2026年4月までに規約改正できなかった場合、総会決議は無効になるのか?

A. はい。2026年4月1日に改正区分所有法が施行されると、多くのマンションで現行規約の成立要件・決議要件が法改正の内容と適合しなくなり、その規約に基づく総会決議の有効性に疑義が生じる可能性があります。法的に有効な総会運営を継続するため、遅くとも2026年3月末までに、新区分所有法に対応した規約改正を完了することが強く推奨されます。詳細は必ず弁護士やマンション管理士にご相談ください。

実務ヒント:システム導入時のポイント

WEB総会導入を成功させるには、法律知識だけでなく、実務上のコツも押さえておく必要があります。

セキュリティと本人確認で押さえるべき法的要件

システムの選定にあたっては、国土交通省のガイドラインが求めるセキュリティ水準を満たしているかを確認することが重要です。

  • 本人確認: 議決権を行使する者が間違いなく区分所有者本人であることを確認できる仕組み(ID・パスワード、二要素認証など)。
  • 改ざん防止: 投票内容が後から変更されない仕組み。
  • 個人情報保護: 組合員の個人情報を、個人情報保護法に則って適切に管理すること。

これらの要件を満たした、信頼できるサービス事業者を選びましょう。

WEB総会システム導入の見積もりを取る際の注意点

WEB総会システムやそのサポートを管理会社に依頼する際、複数の業者から見積もりを取る(相見積もり)ことは重要です。しかし、過度な相見積もりはかえって敬遠される可能性がある点も知っておきましょう。

管理会社は、見積もりを作成するために、現地調査、清掃や各種点検など外注先との調整、理事会との複数回の面談など、多くの手間と時間をかけます。特に20戸〜40戸程度の中小規模マンションの場合、コストをかけても受注に繋がらないリスクを警戒します。管理委託内容の精査および、会計状況、そして1棟全体の管理費等の見積もり作成をするには3〜4回ほど現地に足を運び、また清掃会社、EV点検、消防、警備など多岐にわたって外注先会社との打ち合わせを行ったうえで理事会数名との面談も数回こなすため労力がかかります。むやみに5社も6社も見積もりを依頼すると、多くの会社から対応を断られてしまう可能性があります。本当に比較検討したい2〜3社に絞って、誠実に見積もりを依頼することが、結果的に良いパートナーを見つける近道です。

まとめ:法令遵守で実現するスムーズなマンション総会

マンション総会のデジタル化は、組合運営を効率化し、参加率を向上させる強力な手段です。しかし、その成功は厳格な法的要件の遵守にかかっています。

最後に、WEB総会導入で失敗しないための重要ポイントをまとめます。

  • 最大の前提条件: 電磁的方法による議決権行使は、「規約改正」または「集会の決議」がなければ法的に無効。
  • 電子署名の正しい理解: 電子署名が必須なのは「議事録を電子データで作成する場合」のみ。議決権行使そのものには不要。
  • 導入のステップ: ①規約改正案の作成 → ②特別決議での承認(2026年4月施行の法改正に対応するため規約改正が必須。要件緩和も活用) → ③システム選定 → ④組合員への説明・テスト、という手順を確実に踏む。
  • IT弱者への配慮: リアル会場や書面提出との併用(ハイブリッド方式)を検討し、全ての組合員が参加できる環境を維持する。

これらの法的根拠と実務上のポイントを押さえ、あなたのマンションでも安全でスムーズなWEB総会を実現してください。

免責事項

本記事は、2025年5月時点の法令や情報に基づき、WEB総会に関する一般的な情報を提供することを目的としています。2026年4月施行予定の区分所有法改正により要件が変更される可能性があるため、最新情報を確認してください。個別の管理組合の状況に応じた法的助言を行うものではありません。具体的な規約改正や総会運営、システムの選定にあたっては、必ず弁護士やマンション管理士等の専門家、またはご利用のサービス提供者にご相談ください。最新の法改正や個別の契約条項が最優先されます。


参考資料

  • 国土交通省, ITを活用した総会・理事会実施ガイドライン(令和3年改正対応版). https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001384375.pdf
  • 法務省, 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)及び関係法令. https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00073.html
  • e-Gov法令検索, 建物の区分所有等に関する法律施行規則. https://laws.e-gov.go.jp/law/415M60000010047
  • e-Gov法令検索, 電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法). https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000102
  • 全国マンション管理士会連合会, 電磁的方法による議決権の行使-その2. https://www.mankan.or.jp/06_consult_arc/03_operation/0302_rally_27301.html
  • EMG総合法律事務所, 集会議事録が電磁的記録で作成されているときの電子署名について. https://www.emg-total-law-office.jp/post/集会議事録が電磁的記録で作成されているときの電子署名について
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この記事を書いた人

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