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「もし、委託しているマンション管理会社が倒産したら…?」
管理組合の役員であれば、誰もが一度は抱く不安ではないでしょうか。組合員から預かっている大切な修繕積立金や管理費(預託金)が、倒産によって失われてしまう事態は避けなければなりません。
この記事では、管理会社の倒産という万一の事態に備え、管理組合の大切な資産である修繕積立金を法的に保全する方法を、資格を持つ不動産ライターが分かりやすく解説します。
結論から言えば、法律に基づいた適切な「分別管理」が徹底されていれば、修繕積立金は管理会社の倒産から守られます。この記事を読めば、ご自身のマンションがどの管理方式に該当し、今何をすべきかが明確になります。大切な資産を守るための第一歩として、ぜひ最後までご覧ください。
【基本】なぜ修繕積立金は守られるのか?法的根拠をわかりやすく解説
管理会社が倒産しても、なぜ管理組合の資産は守られるのでしょうか。その背景には、資産の所有権と法律による保護規定があります。この章では、その法的根拠をわかりやすく解説します。
所有権は管理組合にある ― 管理会社はあくまで”預かっているだけ”
まず理解すべき最も重要な原則は、「修繕積立金の所有権は、いかなる場合も管理組合にある」という点です。管理会社は、管理組合との管理委託契約に基づき、金銭を「預かっている」に過ぎません。
したがって、管理会社が倒産しても、管理組合の資産が自動的に倒産処理の対象となるわけではありません。この大原則が、資産保全の出発点となります。
区分所有法が定める管理組合の「先取特権」とは
管理組合の権利は、法律によっても強く保護されています。特に重要なのが、建物の区分所有等に関する法律(通称:区分所有法)です。
区分所有法第7条第1項は、管理組合が区分所有者に対して有する債権について、その区分所有権及び建物に備え付けた動産に対する先取特権を認めています。同法第7条第2項では、この先取特権の優先順位及び効力について、民法第329条第2項の共益費用の先取特権と同等の効力を有するものとして定めています。この先取特権は、他の債権者よりも優先的に弁済を受けられる強力な権利です。ただし、この先取特権が有効に機能するためには、修繕積立金が「管理組合の資産」として明確に分別管理されていることが大前提です。分別管理が不十分な場合、先取特権の適用が制限され、無担保一般債権として扱われ、回収の見込みが極めて低くなる可能性があります。
【判例】管理会社名義の預金でも、組合の所有権が認められたケース
実際の裁判でも、管理組合の所有権が認められています。例えば、管理会社が自社名義で管理組合の修繕積立金を預金していた口座について争われた類似の判例では、たとえ口座名義が管理会社であっても、その原資が区分所有者から集められた修繕積立金であり、管理組合に帰属するものであることが明らかであれば、その所有権は管理組合にあると判断されました。これは、分別管理の重要性を示す力強い根拠となります。
【最重要】契約書で今すぐ確認!修繕積立金の3つの「分別管理」方式
資産保全の鍵を握るのが「分別管理」です。これは、管理会社が自社の財産と、管理組合から預かった修繕積立金などの資産を、明確に分けて管理することを指します。マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)では、その具体的な方法が定められています。
マンション管理適正化法が定める3つの選択肢
管理会社は、管理組合の資産を以下の3つの方式のいずれかで管理しなければならないと、法律の施行規則で定められています(マンション管理適正化法施行規則 第87条)。あなたのマンションがどの方式を採用しているか、管理委託契約書で今すぐ確認しましょう。
| 方式 | 口座の仕組み | 倒産時の安全性 | 理事の管理負担 | 保証契約の要否 | 法令根拠 | 保証制度 | リスク詳細 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| イ方式 (収納・保管分離型) | 管理費と修繕積立金を管理会社の「収納口座」に一旦入金後、修繕積立金分を管理組合名義の「保管口座」に移す。 | 中 | 小 | 必要 (収納口座の月額費用1ヶ月分以上) | マンション管理適正化法施行規則 第87条 第1項 | 必須:管理会社に対する預り金保証制度への加入 | 修繕積立金が収納口座から保管口座への移動まで管理会社口座に存在するため、その間の倒産時に資金流出リスク。保証限度額は通常、月額の1~3ヶ月分程度 |
| ロ方式 (支払い代行型) | 修繕積立金は組合員から直接、管理組合名義の「保管口座」へ。管理費のみ管理会社の「収納口座」へ入金。 | 中~高 | 中 | 必要 (収納口座の月額費用1ヶ月分以上) | マンション管理適正化法施行規則 第87条 第2項 | 必須:管理費収納口座に対する保証制度加入 | 修繕積立金は直接保管口座に入金されるため安全性が相対的に高いが、管理費の一時経由リスクは残存。保証制度の加入有無を必ず確認すること |
| ハ方式 (組合直接管理型) | 修繕積立金・管理費ともに、管理組合名義の口座で組合自身が管理する。 | 高 | 大 | 不要 | マンション管理適正化法施行規則 第87条 第3項 | 不要:理事長が直接通帳・印鑑を保管するため、管理会社の倒産から完全に分離 | 管理会社が組合資産に物理的にアクセスできないため、最高レベルの安全性を実現。ただし理事の事務負担が増加 |
表が表示されない場合、以下のテキストで内容を確認ください:
– イ方式(収納・保管分離型):口座の仕組み – 管理費と修繕積立金を管理会社の収納口座に一旦入金後、修繕積立金分を管理組合名義の保管口座に移す。倒産時の安全性 – 中。理事の管理負担 – 小。保証契約の要否 – 必要(収納口座の月額費用1ヶ月分以上)。法令根拠 – マンション管理適正化法施行規則 第87条 第1項。保証制度 – 必須:管理会社に対する預り金保証制度への加入。リスク詳細 – 修繕積立金が収納口座から保管口座への移動まで管理会社口座に存在するため、その間の倒産時に資金流出リスク。保証限度額は通常、月額の1~3ヶ月分程度。
– ロ方式(支払い代行型):口座の仕組み – 修繕積立金は組合員から直接、管理組合名義の保管口座へ。管理費のみ管理会社の収納口座へ入金。倒産時の安全性 – 中~高。理事の管理負担 – 中。保証契約の要否 – 必要(収納口座の月額費用1ヶ月分以上)。法令根拠 – マンション管理適正化法施行規則 第87条 第2項。保証制度 – 必須:管理費収納口座に対する保証制度加入。リスク詳細 – 修繕積立金は直接保管口座に入金されるため安全性が相対的に高いが、管理費の一時経由リスクは残存。保証制度の加入有無を必ず確認すること。
– ハ方式(組合直接管理型):口座の仕組み – 修繕積立金・管理費ともに、管理組合名義の口座で組合自身が管理する。倒産時の安全性 – 高。理事の管理負担 – 大。保証契約の要否 – 不要。法令根拠 – マンション管理適正化法施行規則 第87条 第3項。保証制度 – 不要:理事長が直接通帳・印鑑を保管するため、管理会社の倒産から完全に分離。リスク詳細 – 管理会社が組合資産に物理的にアクセスできないため、最高レベルの安全性を実現。ただし理事の事務負担が増加。
イ方式:収納後に分離する方式(保証契約が必要)
イ方式は、管理費も修繕積立金も一旦管理会社の「収納口座」に入金され、その後、修繕積立金分だけが管理組合名義の「保管口座」に移される方式です。
一時的に組合の資産が管理会社の口座を経由するため、保管口座へ資金が移動するまでの間に倒産した場合、リスクに晒される可能性があります。そのため、法律では管理会社に対し、万一に備えて保証契約を締結することを義務付けています。
ロ方式:修繕積立金は直接保管口座へ(保証契約が必要)
ロ方式は、修繕積立金は組合員から直接、管理組合名義の「保管口座」へ振り込まれる方式です。日常経費である管理費のみが管理会社の口座を経由します。
修繕積立金が管理会社の口座を一切通らないため、イ方式より安全性が高まりますが、管理費についてはリスクが残るため、こちらも保証契約が必要です。
ハ方式:組合が直接管理する最も安全な方式(保証契約は不要)
ハ方式は、修繕積立金も管理費も、すべて管理組合名義の口座(通称:組合の保管口座)で、管理組合自身が管理する方式です。通帳や印鑑も管理組合(通常は理事長)が保管します。
この方式では、管理会社が組合の資産に直接触れることが物理的に不可能なため、倒産リスクから完全に切り離されます。そのため、法律上も保証契約の締結は不要とされています。理事の管理負担は増えますが、資産保全の観点からは最も安全な方法です。
もしもの時のために!管理会社倒産の兆候と組合の緊急対応フロー
管理会社の倒産は、ある日突然起こるとは限りません。多くの場合、事前に何らかの兆候が見られます。平時からの備えと、兆候発見後の迅速な対応が資産を守るために不可欠です。
STEP1:平時から行うべき3つの予防措置
倒産という最悪の事態を避けるため、平時から以下の3点を確認・徹底しましょう。
- 管理委託契約書の確認
前章で解説した「分別管理方式(イ・ロ・ハ)」が契約書に明記されているか、どの方式かを必ず確認します。 - 会計報告と監査の徹底
管理会社から提出される月次の収支報告書と、通帳のコピー(または残高証明書)を照合し、資金が適切に管理されているか理事会で毎月チェックします。また、多くのマンションの管理規約では、監事による年1回以上の会計監査が定められています。 - 保証制度の確認
イ方式またはロ方式の場合、管理会社が預り金保証制度に加入しているか確認します。これは業界団体などが提供する制度で、加入は任意の場合もあるため、加入の有無と保証内容を証明する書類の提出を求めましょう。
イ・ロ方式採用時に確認すべき預り金保証制度
マンション管理適正化法施行規則第87条で定められた「イ・ロ方式」では、管理会社に対する預り金保証制度への加入が実質的に必須である場合があります。現在、業界で提供されている主要な保証制度は、加入は任意で、保証限度額は通常、月額管理委託料の1ヶ月分相当です。
未加入管理会社の場合の代替手段:
- 信託銀行等の第三者機関による信託口座の活用(マンション管理適正化法で認容される分別管理手段の一つ)。
- 契約書に「倒産時の預託金返還に関する担保条項」を明記し、弁護士による法的チェックを実施。
STEP2:見逃せない!倒産の危険信号リスト
以下のような兆候が見られたら、危険信号です。一つでも当てはまれば、理事会で緊急に情報共有してください。
- 清掃や点検の業者への支払いが遅れている噂がある
- 管理担当者の交代が異常に頻繁、または連絡がつかない
- 管理会社の本社や営業所が急に移転・閉鎖した
- 月次の会計報告書の提出が遅れがちになる
- 経営不振に関する報道や噂が出ている
STEP3:兆候発見後の緊急アクション(臨時総会・口座確認・契約解除)
危険信号を察知したら、待ったなしで行動を開始します。
- 口座の保全と残高確認
直ちに金融機関に連絡し、管理組合名義の口座の取引状況や残高を確認します。ハ方式の場合は、通帳と印鑑が安全な場所にあることを確認します。 - 臨時総会の招集と決議
管理委託契約の解除と、預託金の全額引き揚げ(返還請求)について、臨時総会を招集し、決議を行います。管理委託契約の解除及び臨時総会の招集・決議については、区分所有法第39条(集会の決議は区分所有者及び議決権の各過半数で決する、普通決議の要件)、マンション標準管理規約第48条(修繕積立金等の保管及び運用は総会の決議による)に基づきます。ただし、個別の管理規約又は管理委託契約書の条項が法定要件よりも厳格である場合(例:特別多数決議、組合員の3分の2以上など)は、その管理規約・契約条項が優先されます。契約解除を行う前に、必ず現行の管理規約及び委託契約書の「解除に関する条項」を確認し、専門家に相談してください。 - 内容証明郵便による契約解除通知
総会決議に基づき、弁護士に相談の上、管理会社に対して契約解除の意思と預託金の返還を求める通知を内容証明郵便で送付します。
STEP4:破産手続開始後の対応(破産管財人への連絡)
万が一、管理会社が破産手続を開始してしまった場合、管理組合は債権者として手続きに参加する必要があります。
裁判所から選任された「破産管財人」(通常は弁護士)が財産管理を行います。管理組合は、速やかに破産管財人に連絡を取り、分別管理されている預金の返還を求めます。万が一、分別管理が不十分で資産が混在している場合は、「破産債権届出」を行い、配当を求めることになります。この段階では法的な専門知識が不可欠なため、必ずマンション問題に詳しい弁護士に相談してください。
失敗しない!次の管理会社選びと契約のポイント
現在の管理会社との契約を解除し、新しい管理会社を探す際には、同じ轍を踏まないためのポイントがあります。更新や解約にあたっては、現行の管理委託契約条項が最優先されるため、事前に弁護士に確認してください。
新規契約で絶対に盛り込むべき4つの重要条項
新しい管理会社と契約する際は、口約束ではなく、必ず契約書に以下の内容を明記させましょう。現行契約条項が最優先されるため、更新前に弁護士確認を。
| (記載例) 第XX条(分別管理) 乙(管理会社)は、甲(管理組合)から受領する修繕積立金及び管理費等について、マンション管理適正化法施行規則第87条に定める「ハ方式」により管理するものとする。口座の名義は甲とし、通帳及び届出印は甲の理事長が保管する。 |
- 分別管理方式の明記(「ハ方式」を推奨) 現行契約条項が最優先されるため、更新前に弁護士確認を。
- 月次会計報告と通帳コピー等の提出義務 現行契約条項が最優先されるため、更新前に弁護士確認を。
- 監事による監査への協力義務 現行契約条項が最優先されるため、更新前に弁護士確認を。
- 契約解除時の速やかな資料・預託金返還条項 現行契約条項が最優先されるため、更新前に弁護士確認を。
【注意点】相見積もりは2~3社が現実的 ― 管理会社側の負担も考慮しよう
新しい管理会社を選ぶ際、多くの会社から見積もりを取りたくなる気持ちは分かります。しかし、やみくもに多数の相見積もりを依頼するのは、かえって良質な提案を遠ざける可能性があります。
管理会社が見積もりを作成するには、現地調査、既存の管理仕様の確認、清掃や各種点検業者との調整など、相当な時間と労力がかかります。特に小中規模のマンション(50~200戸程度)の場合、労力に見合わないと判断され、真剣な提案が出てこないことも少なくありません。複数の管理会社から見積もり取得を行う際の候補社数については、マンションの規模(戸数)・地域・専有面積に応じて異なるが、小中規模マンションでは2~3社、大規模マンション(200戸以上)では3~4社が業界の一般的慣行とされています。これは、過度な相見積もり依頼が管理会社側の見積もり作成コストを増加させ、結果として質の低い提案を招くリスクを回避するためです。
候補を2~3社に絞ることで、各社がより深くマンションと向き合い、質の高い提案をしてくれる可能性が高まります。ただし、この判断は個別マンションの状況(既存管理会社への満足度、競争入札の必要性など)に応じて柔軟に対応してください。組合側の要望が強すぎると、管理会社から敬遠される恐れもあります。例えば、自主管理のような20戸-40戸程度の小規模マンションでは、管理会社が積極的に管理を取得しようとしない場合も多く、相見積もりの多さが不利に働く可能性があります。
「一式見積もり」はリスクの元!必ず詳細な内訳を求めよう
見積もりを比較する際は、「管理委託費一式」といった包括的な項目に注意してください。これでは、どの業務にいくらかかっているのかが全く分かりません。
「事務管理業務費」「清掃業務費」「建物・設備管理業務費」など、業務内容ごとに費用が breakdown された詳細な見積もりを必ず求めましょう。これにより、コストの妥当性を比較検討しやすくなります。
まとめ:大切な資産を守るために、管理組合が今すぐやるべきこと
本記事では、管理会社の倒産というリスクから、管理組合の大切な資産である修繕積立金をいかにして守るかを解説しました。最後に、重要なポイントを振り返ります。
- 修繕積立金の所有権は管理組合にある。 管理会社はあくまで預かっているだけ。
- 資産保全の鍵は「分別管理」。 マンション管理適正化法で定められています。
- 最も安全なのは、組合が直接口座を管理する「ハ方式」。
- 倒産の兆候を見逃さず、発見後は速やかに臨時総会などのアクションを。
- 新会社選びでは「ハ方式」採用と「詳細な見積もり」を絶対条件に。
理事として、組合員の資産を守る重責を担う皆様に、今すぐ行っていただきたいことがあります。それは、お手元の「管理委託契約書」を取り出し、「分別管理」の条項を確認することです。
ご自身のマンションがイ・ロ・ハのどの方式で管理されているかを知ることが、すべての対策の第一歩となります。
免責事項
本記事は、マンション管理に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別具体的な案件に対する法的助言を行うものではありません。実際の対応にあたっては、必ず弁護士やマンション管理士等の専門家にご相談ください。また、本記事で引用した法令や制度は、2025年12月時点の情報を基としたものであり、最新の法改正や個別の管理規約、契約条項が最優先されることをご了承ください。本記事は一般情報提供であり、個別契約・規約は最優先されます。
参考資料
- 建物の区分所有等に関する法律(e-Gov法令検索) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
- マンションの管理の適正化の推進に関する法律(e-Gov法令検索) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000149
- マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則(e-Gov法令検索) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413M60000802011
- 破産法(e-Gov法令検索) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000075
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html
