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マンション管理組合の理事として、フロント担当者の対応に頭を悩ませていませんか?「連絡が遅い」「提案がない」「頼りにならない」といった不満は、多くの組合が直面する共通の課題です。しかし、担当者を変更してほしいと伝えるのは、管理会社との関係悪化を懸念して躊躇しがちです。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、管理会社との関係を維持しつつ、円滑にフロント担当者の変更を求めるための「要望書の書き方」を徹底解説します。法的根拠に基づいた正しい手順、角が立たない伝え方、そしてすぐに使えるテンプレートまで、具体的なステップに沿ってご紹介します。この記事を読めば、一人で抱え込まずに、冷静かつ効果的に管理の質を向上させるための一歩を踏み出せるはずです。
(この記事は、2025年12月20日時点の法令・標準規約に基づく一般情報です。個別の管理委託契約書を確認の上、必要に応じて専門家にご相談ください。)
前提知識:担当者変更は「契約解除」ではなく「契約内容の改善要求」
フロント担当者の変更を考える際、最も重要なのはその位置づけを正しく理解することです。これは管理会社との契約を打ち切る「リプレイス」とは全く異なります。マンション管理適正化法第3条から第5条に基づく管理の質の向上を目的とした、契約履行の改善要求です。
要望書は管理会社との関係を続けるための第一歩
担当者変更の要望書は、管理会社との関係を断ち切るための最後通告ではありません。むしろ、現行の管理委託契約を健全に継続するため、業務の質を改善してほしいという「前向きな提案」です。
管理会社側も、質の高いサービスを提供できなければ評判に関わります。そのため、組合からの客観的な事実に基づいた改善要求は、真摯に受け止められるケースがほとんどです。要望書は、対立ではなく対話のスタート地点と捉えましょう。
法的根拠:理事会決議で可能、総会は原則不要
ここで、「担当者変更」と「管理会社変更(リプレイス)」の手続きの違いを明確に整理します。
| 項目 | フロント担当者の変更 | 管理会社の変更(リプレイス) |
|---|---|---|
| 位置づけ | 管理委託契約の履行に関する改善要求 | 管理委託契約の解約と新規契約 |
| 必要な決議 | 理事会決議 | 総会の普通決議 (区分所有者および議決権の各過半数) |
| 法的根拠 | 管理委託契約に基づく善管注意義務(民法第644条)および区分所有法第29条(理事会の権限) | 区分所有法第39条第1項、標準管理規約第47条 |
| メリット | 手続きが比較的簡易で、迅速な改善が期待できる | 管理体制を根本から見直せる |
| 現契約条項優先 | 管理委託契約書の条項を確認 | 管理委託契約書の解約条項(例: 第21条)を優先 |
(表が表示されない場合、以下リスト参照:
– 位置づけ: フロント担当者の変更 – 管理委託契約の履行に関する改善要求 / 管理会社の変更 – 管理委託契約の解約と新規契約
– 必要な決議: フロント担当者の変更 – 理事会決議 / 管理会社の変更 – 総会の普通決議(区分所有者および議決権の各過半数)
– 法的根拠: フロント担当者の変更 – 管理委託契約に基づく善管注意義務(民法第644条)および区分所有法第29条(理事会の権限) / 管理会社の変更 – 区分所有法第39条第1項、標準管理規約第47条
– メリット: フロント担当者の変更 – 手続きが比較的簡易で、迅速な改善が期待できる / 管理会社の変更 – 管理体制を根本から見直せる
– 現契約条項優先: フロント担当者の変更 – 管理委託契約書の条項を確認 / 管理会社の変更 – 管理委託契約書の解約条項(例: 第21条)を優先)
フロント担当者の変更は、管理委託契約の履行改善を求めるものであり、管理会社の人事権の範囲内で行われる事項です。そのため、管理会社そのものを変更する際に必要な「総会の普通決議」は原則として不要であり、理事会決議によって管理会社へ正式な申し入れができます。
これは、担当者変更が「管理委託契約に基づく善管注意義務(民法第644条)の履行要求」であり、かつ「理事会の権限(区分所有法第29条)の範囲内」と解釈されるためです。理事会議事録に「フロント担当者変更を求める要望書の提出を決議した」旨を明記し、申し入れが理事会の正式な意思であることを証拠として残しましょう。
ただし、ご自身のマンションの管理規約や管理委託契約書で決議要件が別途定められている場合は、そちらが優先されます。手続きを進める前に、必ず内容を確認してください。
担当者変更と管理会社変更(リプレイス)の決定的な違い
読者が最も知りたいメリットは、手続きの簡便さです。担当者変更は、リプレイスに比べて時間的・労力的なコストを大幅に抑えられます。
- 担当者変更の場合: 理事会での議論と要望書提出が中心。
- リプレイスの場合: 複数社からの見積取得、総会準備(資料作成、招集通知)、総会での決議、新旧管理会社の引継ぎなど、膨大な手間と時間が必要です。
まずは現行の管理会社との協力関係の中で解決を目指すことが、組合運営の負担を軽減する現実的な選択肢と言えます。
【5ステップ】フロント担当変更要望書の作成手順
要望書は、感情的にならず、客観的な事実を積み重ねて作成することが成功の鍵です。以下の5つのステップに沿って進めましょう。
Step1:問題点の客観的な記録・整理(事実ベースで)
要望書に説得力を持たせるため、まずは「いつ、誰が、何を依頼し、どうなったか」を時系列で記録します。この記録が、要望書の根拠となる最も重要な証拠となります。
(記録フォーマット例)
- 日付: 令和○年○月○日
- 依頼内容: 理事会にて、共用廊下の電球切れ交換を依頼。
- 対応: 「業者に手配します」との返答。
- 結果・影響: 2週間経過後も未交換。住民から再度指摘があり、理事長が直接業者へ連絡する事態となった。
「やる気がない」「態度が悪い」といった主観的な評価は避け、あくまで客観的な事実のみを淡々と記録しましょう。管理委託契約書の別紙を確認の上、契約内容との整合性を検証してください。
Step2:要望書の基本構成を組み立てる
要望書は、以下の構成で組み立てると、相手に意図が伝わりやすくなります。
- 件名: 「フロント担当者変更に関するご要望」など、内容が明確にわかるように。
- 宛名: 担当者本人ではなく、その上司である「支店長」や「営業所長」宛てにします。
- 導入: 日頃の管理業務への感謝を述べ、良好な関係を望んでいる姿勢を示します。
- 問題点の指摘: Step1で記録した事実を具体的に列挙します。
- 組合への影響: 問題点が原因で、修繕計画の遅延など、組合運営にどのような支障が出ているかを説明します。
- 改善提案: 業務改善、または担当者の変更を具体的に要請します。
- 結び: 回答期限を設け、誠実な対応を求めます。
- 署名: 管理組合理事長名で、組合としての正式な要望であることを示します。
管理委託契約書の条項を事前に確認し、改善要求が契約内容に沿うことを確かめてください。
Step3:角が立たない表現を選ぶ(NG/OK表現例)
同じ内容でも、表現一つで相手の受け取り方は大きく変わります。関係を悪化させないための表現のコツを掴みましょう。
| NG表現(感情的・主観的) | OK表現(客観的・協調的) |
|---|---|
| いつも対応が遅くて困っています。 | ○月○日にご依頼した件について、○日現在、ご対応いただけていない状況です。 |
| あの担当者はやる気が感じられません。 | 理事会の決定事項が、計画通りに実行されない事例が複数発生しております。 |
| こんなことでは信頼できません。 | 貴社との信頼関係を維持し、管理の質を向上させるため、改善をお願いしたく存じます。 |
(表が表示されない場合、以下リスト参照:
– NG: いつも対応が遅くて困っています。 / OK: ○月○日にご依頼した件について、○日現在、ご対応いただけていない状況です。
– NG: あの担当者はやる気が感じられません。 / OK: 理事会の決定事項が、計画通りに実行されない事例が複数発生しております。
– NG: こんなことでは信頼できません。 / OK: 貴社との信頼関係を維持し、管理の質を向上させるため、改善をお願いしたく存じます。)
Step4:理事会内での合意形成
要望書を提出する前に、必ず理事会で内容を審議し、決議を得ておきましょう。「理事長が勝手にやった」と見なされると、管理会社に足元を見られる原因になります。理事会議事録に、要望書を提出することを決議した旨を明記しておくことが重要です。
Step5:しかるべき宛先へ正式に提出する
作成した要望書は、担当者本人に手渡すのではなく、その上長(支店長など)に直接届く方法で提出します。
- 推奨される方法: 内容証明郵便、または配達証明付き郵便
- 目的: 「受け取っていない」という言い逃れを防ぎ、会社として正式に受理された記録を残すため。
メールで送付する場合は、開封確認設定を利用し、送信記録を保管しておきましょう。
【テンプレート付】すぐに使える要望書の例文
以下のテンプレートを参考に、ご自身の状況に合わせて内容を修正してご活用ください。
件名と宛名のポイント
- 件名: 「フロントご担当者様の業務改善に関するお願い」「フロントご担当者様の変更に関するご要望」など、要望の強度に応じて調整します。
- 宛名: 管理会社の代表取締役社長宛、または担当支社の支店長宛とします。これにより、組織としての対応を促します。
本文の構成(感謝→問題指摘→影響→提案)
本文は、常に「感謝」から始めます。これは、相手の立場を尊重し、対話の姿勢を示すためのビジネスマナーです。その後、「問題指摘」「影響」「提案」と論理的に展開することで、要望の正当性を伝えます。
テンプレート全文(コピーして使用可能)
| (記載例) 令和○年○月○日 (管理会社名) (役職)支店長 ○○ ○○ 様 件名:フロントご担当者様の変更に関するご要望 拝啓 貴社におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。 平素は当マンションの管理業務に多大なるご尽力を賜り、厚く御礼申し上げます。 さて、このたび当管理組合理事会にて慎重に協議を重ねました結果、現在のフロントご担当者の業務遂行に関し、遺憾ながら看過しがたい複数の問題点が確認されました。つきましては、管理組合運営の正常化を図るため、本書面をもってご担当者の変更を要望いたします。 具体的な問題点は以下の通りです。 I.【会計報告の遅延】 令和○年○月○日の理事会において期限を定めて依頼した「修繕積立金の運用状況に関する報告書」について、正当な理由なく1ヶ月以上提出が遅延し、次期総会の議案策定に支障が生じました。 II.【理事会指示事項の不履行】 令和○年△月△日の理事会で決議された「共用部照明のLED化に関する相見積もりの取得(3社)」について、2ヶ月が経過した現在もなお、1社からの見積もりしか提出されておらず、計画が停滞しております。 III.【住民からの問い合わせへの対応放置】 複数名の住民から寄せられた「駐車場区画の白線補修」に関する問い合わせに対し、ご担当者は「確認します」と返答されたまま、1ヶ月以上具体的な対応がなく、住民からの不満の声が理事会に寄せられております。 これらの事態は、貴社との管理委託契約書に定められた善管注意義務(民法第644条)の履行が、著しく不十分であると言わざるを得ません。具体的な契約条項については、理事会で事前にご確認の上、実際の条項番号をご記入ください。 ※善管注意義務は民法第644条に基づくもので、標準管理委託契約書では第3条ないし第21条等に規定されることが一般的です。ご自身の管理委託契約書をご確認ください。 つきましては、当管理組合との円滑な連携が可能で、誠実な業務遂行を期待できる別のご担当者への交代を、早急にご検討いただきたく存じます。 当組合としましては、今後も貴社との良好なパートナーシップを継続していきたいと考えております。何卒、本状の趣旨をご賢察の上、本書面受領後2~4週間程度以内に、今後のご対応についてご回答を賜りますようお願い申し上げます。 敬具 (マンション名)管理組合 理事長 ○○ ○○ (印) |
(表が表示されない場合、上記をテキストとしてコピー使用ください)
要望書提出後の流れと対応策
要望書を提出して終わりではありません。その後の対応と評価が、管理の質を本当に改善できるかを左右します。
Step1:管理会社からの回答を待つ(目安期限内)
要望書で指定した期限(文例では2〜4週間としています)を目安に、管理会社からの回答を待ちます。通常、支店長クラスの役職者から、現状調査の結果や今後の改善策、あるいは担当者変更の内示などが示されます。
Step2:改善状況をモニタリングする(3ヶ月程度)
管理会社から改善計画が提示された場合、あるいは新しい担当者に変更された場合は、すぐに評価を下さず、3ヶ月程度のモニタリング期間を設けることを推奨します。これは、新担当者の業務習熟や改善計画の効果を評価するために必要な期間であり、管理業界の評価サイクル(四半期単位)などを考慮した目安です。
管理会社側も新しい体制を構築したり、業務プロセスを見直したりするには時間が必要です。この期間、理事会として改善状況を定期的にチェックし、議事録に記録を残します。
Step3:改善が見られない場合の次の選択肢(管理会社変更の検討)
モニタリング期間を経ても状況が改善されない、あるいは管理会社から誠実な対応が見られない場合、この段階で初めて「管理会社そのものの変更(リプレイス)」が現実的な選択肢となります。その際は、別の管理会社への相談や見積取得を進めることになります。
よくある誤解と注意点|失敗しないためのQ&A
最後に、担当者変更をめぐって理事が陥りがちな誤解や注意点をQ&A形式で解説します。
Q1. 要望書を出したら、一方的に契約解除されたりしませんか?
A. 標準管理委託契約書では、管理会社側から契約を解約するには「組合側に契約不履行などの重大な理由」があり、かつ「相当の期間を定めた催告」が必要です。
正当な理由に基づく改善要求はこれに該当しないため、一方的に契約を解除されることは通常ありません。ただし、これは標準的な契約書の場合です。念のため、ご自身の管理委託契約書の解約に関する条項(例:第21条)を必ず事前に確認してください。
Q2. 多くの会社から相見積もりを取った方が有利になりますか?
A. いいえ、むしろ逆効果になる場合があります。
担当者変更を求める段階で、むやみに複数の管理会社から相見積もりを取ることは避けるべきです。管理会社にとって、見積もりの作成は大きな負担を伴います。
- 管理会社側の労力: 現地調査(3~4回)、清掃・警備・設備点検など外注先との打ち合わせ、会計状況の精査、理事会との面談など、多大な時間とコストがかかります。
特に20戸~40戸程度の中小規模マンションの場合、過度な見積もり要求は、管理会社の応札意欲を減退させ、優良企業の参入を阻害する可能性があります。交渉の最終段階で、本命の2~3社に絞って見積もりを依頼するのが現実的です。初期段階での過度な見積もり依頼が、管理会社の意欲減退や協議の停滞を招く恐れがある点に留意してください。
Q3. 細かい要求をたくさん盛り込んだ方が良いですか?
A. いいえ、主要な問題点に2~3つ絞り込むことを推奨します。
要求が多岐にわたると、論点がぼやけてしまい、管理会社側も「クレーマー的な組合だ」と身構えてしまいます。主要な改善してほしい、組合運営の根幹に関わる問題に絞って具体的に指摘する方が、要望の重みが伝わり、解決につながりやすくなります。
まとめ:冷静な対話で管理の質を向上させよう
フロント担当者への不満は、感情的に伝えても解決しません。重要なのは、以下の3つのポイントです。
- 事実の記録: 「いつ、何を、どうなったか」を客観的に記録する。
- 正式な手続き: 理事会で合意し、担当者の上長宛に書面で要望する。
- 段階的なアプローチ: まずは改善要求から始め、それでもダメならリプレイスを検討する。
フロント担当者の変更要望は、管理会社との関係を壊すためではなく、より良いパートナーシップを築くための対話の機会です。この記事で紹介した手順とテンプレートを参考に、冷静かつ建設的なアプローチで、あなたのマンションの管理品質向上を実現してください。
重要な留意事項(非弁行為回避)
本記事で提供するテンプレート、要望書例、対応手順は、マンション管理組合の一般的な運営に関する情報提供です。
以下の場合は、弁護士等の専門家に相談してください:
- 管理会社が要望に応じず、契約解除を示唆された場合
- 要望書提出後、管理会社側から反論書が届いた場合
- 理事会内で意見が分かれ、決議が困難な場合
- 管理委託契約書の内容が標準書式と大きく異なる場合
本記事の記述は法的助言ではなく、あくまで一般情報です。個別案件の法的判断は、弁護士・宅地建物取引士等の専門家にご相談ください。
免責事項
本記事は、マンション管理組合の運営に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言を行うものではありません。実際の対応にあたっては、必ずご自身のマンションの管理規約および管理委託契約書の条項をご確認の上、必要に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。法令や各種制度は改正される可能性があるため、最新の情報をご確認いただくようお願いいたします。
参考資料
- e-Gov法令検索. 「建物の区分所有等に関する法律」(最終改正: 令和5年)。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069 - 国土交通省. 「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和6年度改正版)。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html - 国土交通省. 「マンション標準管理委託契約書」(令和6年度改正版)。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000053.html
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。
