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マンション管理組合の役員になると、管理会社との間で「管理委託契約書」を取り交わします。その際、見落とされがちながら後々のトラブルになりやすいのが「印紙税」の負担問題です。「更新のたびにどちらが払うのか?」「そもそも、いくらかかるのか?」といった疑問は、組合運営のコスト管理において非常に重要です。法律上のルールと実務上の慣行が異なるため、正しい知識がなければ管理会社との間で不要な摩擦を生む原因にもなりかねません。
この記事では、資格を持つ不動産ライターが、管理委託契約書にかかる印紙税の基本から、管理組合と管理会社のどちらが負担すべきかという本題、さらには契約更新時の注意点まで、国税庁の公式見解などの一次情報に基づいて徹底解説します。この記事を読めば、印紙税に関する疑問を解消し、管理会社と円滑に交渉を進めるための具体的な知識が身につきます。
背景知識:管理委託契約書の印紙税、その基本
まず、管理委託契約書の印紙税に関する基本的なルールを理解しましょう。なぜ税金がかかるのか、税額はいくらなのか、そして法律上の納税義務者は誰なのか、という3つのポイントを押さえることが重要です。
あなたの管理委託契約はどちらの文書?判定フロー
管理委託契約書が第2号文書(請負に関する契約書)か第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)かを判断するためのフローを以下に示します。国税庁 No.7100(課税文書に該当するかどうかの判断)およびNo.7102(請負に関する契約書)を基にしています。判定が不明確な場合は、税務の専門家や所轄の税務署への確認が望ましいです。
- 契約書に「管理業務の内容」として「清掃、設備点検、修繕など」の具体的な完成作業が記載されているか → YES → 第2号文書(請負)の可能性が高い。ただし、主たる内容が委任契約(例: 事務管理業務)である場合は該当しない場合がある。
- 契約に「契約期間3ヶ月超+更新条項」が明記されているか → YES → 第7号文書(継続的取引)の可能性が高い。
- 上記が混在(例: エレベーター点検は請負、一般事務管理は委任)していないか → 混合契約の可能性あり。内容により課税判定が異なるため、税務の専門家や所轄の税務署への確認が望ましい。
なぜ印紙税が必要?「第2号文書」と「第7号文書」
印紙税とは、印紙税法で定められた特定の文書(課税文書)を作成した際に課される税金です。管理委託契約書は、その内容によって主に2種類の課税文書に該当する可能性があります。
- 第2号文書(請負に関する契約書): 国税庁 No.7102によると、当事者の一方が仕事の完成を約し、相手方がその結果に対して報酬を支払うことを内容とする契約書です。管理委託契約における清掃、保守点検、修繕といった業務は「請負」にあたるため、多くの管理委託契約書がこれに該当します。税額は契約金額によって変動します。ただし、主たる内容が請負契約に該当する場合に限ります。
- 第7号文書(継続的取引の基本となる契約書): 営業者間(例:管理組合と管理会社)で、特定の種類の取引を継続して行うための基本的な契約書です。契約期間が3ヶ月を超え、更新の定めがある場合などが該当し、税額は一律4,000円です。
用語の整理
- 印紙税: 経済取引で作成される特定の文書(課税文書)に課される税金(出典:印紙税法)。
- 収入印紙: 印紙税を納付したことを証明するために文書に貼付する証票。郵便局や法務局で購入できます。
どちらに該当するかは契約の主たる内容によりますが、清掃や設備点検といった具体的な作業が含まれる場合、一般的には第2号文書として扱われるケースが多いです。
印紙税額はいくら?契約金額に応じた税額一覧
管理委託契約書が「第2号文書」に該当する場合、印紙税額は契約書に記載された契約金額に応じて決まります。2022年4月1日施行の改正印紙税法により、金融機関が作成する一部の契約書が非課税となりましたが、多くの管理委託契約書はこの改正の対象外であることが一般的です。
| 契約金額 | 印紙税額 |
|---|---|
| 100万円以下 | 200円 |
| 100万円超 200万円以下 | 400円 |
| 200万円超 300万円以下 | 1,000円 |
| 300万円超 500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円超 1,000万円以下 | 10,000円 |
| 1,000万円超 5,000万円以下 | 20,000円 |
| 5,000万円超 1億円以下 | 60,000円 |
| 1億円超 5億円以下 | 100,000円 |
| 5億円超 100億円以下 | 200,000円 |
| 100億円超 | 400,000円 |
(表が表示されない場合:契約金額100万円以下=200円、100万円超200万円以下=400円、200万円超300万円以下=1,000円、300万円超500万円以下=2,000円、500万円超1,000万円以下=10,000円、1,000万円超5,000万円以下=20,000円、5,000万円超1億円以下=60,000円、1億円超5億円以下=100,000円、5億円超100億円以下=200,000円、100億円超=400,000円。1億円超の階級は高額契約の場合に適用)
契約金額の記載がない場合は、一律200円の印紙税が課されます(出典:国税庁 No.7102)。
納税義務者は誰?法律上の「連帯納税義務」
印紙税法では、課税文書の「作成者」が納税義務を負うと定められています(出典:印紙税法 第3条第1項)。管理委託契約書は管理組合と管理会社が共同で作成するため、法律上は印紙税法第3条第2項により、双方が「連帯して印紙税を納める義務」を負います。
これを「連帯納税義務」といい、どちらか一方が印紙を貼付して納税すれば、もう一方の納税義務は消滅します。しかし、もし納税されていなければ、税務署はどちらに対しても納付を求めることができます。この法律上の原則が、次の「誰が負担するのか?」という実務上の問題につながっていきます。
手続・対応ステップ:印紙税は管理組合と管理会社のどちらが負担するのか?
法律上は「連帯納税義務」ですが、実際の契約現場では誰が印紙代を支払っているのでしょうか。ここでは、法律と実務慣行の違い、そしてトラブルを避けるための具体的な方法を解説します。
法律上の原則と実務上の「折半」または「管理会社負担」
法律上は管理組合と管理会社に連帯納税義務がありますが(印紙税法第3条第2項)、実務上は異なる慣行が見られています。よく見られる慣行は以下の2パターンです。
- 折半負担: 契約書を2通作成し、それぞれが保管する1通分について各自が印紙税を負担する(事実上の折半)。
- 管理会社負担: 管理会社が受注者として、2通分の印紙税を全て負担する。
なぜこのような慣行が生まれたのでしょうか。それは契約書を2通作成する背景に理由があります。
なぜ慣行が生まれた?契約書を2通作成する背景
管理委託契約では、管理組合と管理会社がお互いに契約内容の証拠として、署名・捺印した原本を1通ずつ保有するのが通例です。このとき、1通の契約書にだけ印紙を貼り、もう1通をコピーで済ませるわけにはいきません。双方が「原本」を必要とするため、2通とも課税文書として印紙を貼る必要があります。
この状況で法律の原則通り「連帯義務」を解釈すると、どちらか一方が2通分を負担したり、1通分の負担を押し付け合ったりと、不公平感やトラブルが生じやすくなります。そこで、実務上の知恵として「それぞれが持つ1通分を各自で負担する(折半)」という慣行が定着したのです。
法律では連帯義務ですが、実務では「折半」が最も公平でトラブルの少ない方法として広く受け入れられています。
トラブル回避の鍵は契約書への「負担者明記」
最も確実なトラブル回避策は、契約書に印紙税の負担者を明確に記載しておくことです。特に契約更新時に担当役員が変わると、過去の口約束は忘れ去られがちです。契約書に明記することで、誰が見ても負担者が明らかになり、不要な揉め事を未然に防げます。
さらに、マンション管理規約(2025年12月12日公表の改正版、国土交通省)で印紙税の負担を定める場合、区分所有法第31条に基づく組合総会の特別決議が必要です。これにより、組合全体で統一した運用が可能となります。
| (記載例) 本契約書の作成にかかる印紙税は、甲(管理組合)及び乙(管理会社)が各自保有する契約書について、それぞれ負担するものとする。 |
このように一文を追加するだけで、将来にわたっての円滑な契約関係を維持できます。
【要注意】契約更新時の印紙税、見落としやすいポイント
「最初の契約で印紙を貼ったから、更新時は不要だろう」と考えるのはよくある誤解です。契約更新時こそ、印紙税で注意すべき点が多く存在します。
「自動更新」でも印紙税はかかる?課税対象となる変更内容とは
たとえ契約書に「自動更新」条項があったとしても、油断は禁物です。国税庁の見解では、元の契約の「重要事項」(国税庁 No.7127参照)が変更される場合、その変更を証明するために作成された文書(覚書や変更契約書など)は新たに印紙税の課税対象となります。
ここでいう「重要事項」とは、主に以下のような項目を指します。
- 契約金額(管理委託費)の変更
- 契約期間の変更
- 管理業務の範囲・内容の変更
- 支払方法の変更
単に期間が延長されるだけでなく、上記のような実質的な内容変更を伴う更新の場合は、新しい契約と見なされ、変更後の内容に基づいて計算された印紙税が必要になるのです。ただし、変更内容が軽微である場合は非課税となるケースもあるため、税務の専門家や所轄の税務署への確認が望ましいです。
原契約が「第2号文書」か「第7号文書」かで扱いが変わるケース
原契約がどちらの文書に該当するかで、更新時の扱いが異なる場合があります。
- 原契約が第2号文書(請負)の場合:
重要事項の変更があれば、変更契約書は新規契約と同様に印紙税が発生し、変更後の契約金額に応じた印紙税がかかります。 - 原契約が第7号文書(継続的取引)の場合:
契約期間を更新する覚書なども、原則として課税文書(4,000円)となります。ただし、変更内容が軽微である場合は非課税となるケースもあり、判断が分かれることがあります。契約期間の記載があり、かつ当該契約期間が3月を超えるものに限る点に留意してください。
どちらに該当するか不明な場合は、契約内容を精査する必要があるため、税務の専門家や所轄の税務署への確認が望ましいでしょう。
更新時に負担で揉めないための事前確認事項
- 原契約書を確認する: 印紙税の負担者について記載があるかチェックする。
- 管理会社に確認する: 更新時の印紙税負担に関する管理会社の方針(折半か、会社負担か)を事前にヒアリングする。
- 変更内容を明確にする: 今回の更新で「重要事項」の変更があるかどうかを理事会内で共有する。
- 合意内容を議事録と契約書に残す: 負担について合意した内容は、必ず総会や理事会の議事録に残し、新しい契約書(または覚書)にも明記する。
実務ヒント:賢く立ち回るための交渉術と予防策
印紙税に関する知識を身につけたら、それをどう実務に活かすかが重要です。コスト削減につながる選択肢や、管理組合として有利に交渉を進めるためのヒントをご紹介します。
印紙税が不要になるケース「電子契約」の活用
実は、印紙税を合法的に節約する方法が一つだけあります。それは「電子契約」の活用です。
管理委託契約書を電子データで作成し、電子署名で締結した場合、印紙税は課税対象となりません。
これは、印紙税法基本通達別紙第44条「電子データは課税文書に該当しない」という見解によるものです。電子契約を導入すれば、印紙税のコストを完全にゼロにできるだけでなく、契約書の郵送や保管の手間も省け、業務効率化にもつながります。
注意点:電子データを印刷・製本した場合の扱い
電子データを単に印刷して保管するだけなら非課税ですが、印刷した書面に改めて当事者双方が署名・捺印し、『契約の成立を証明する目的で』相手方に交付した場合は、その書面が課税文書と見なされ、印紙税が必要になります。
交渉・予防策:管理会社との関係を良好に保つために
管理委託費の見直しなどで複数の管理会社から見積もりを取る(相見積もり)ことは、コストを適正化する上で有効な手段です。しかし、その進め方には注意が必要です。
【管理会社側の本音】相見積もりは複数社に依頼する際、見積もり作成にかかる管理会社の負担を配慮し、事前に依頼社数を説明することが円滑な交渉につながります
管理組合側としては多くの会社を比較したいところですが、むやみに多数の見積もりを依頼すると、管理会社から敬遠される可能性があります。なぜなら、管理委託費の見積もり作成は、管理会社にとって非常に大きな労力がかかるからです。
- 現地調査: 正確な見積もりのため、担当者はマンションに3〜4回足を運び、建物の状態や設備を確認します。
- 外注先との調整: 清掃、エレベーター点検、消防設備点検など、各専門業者との打ち合わせが必要です。
- 理事会との面談: 組合の要望をヒアリングし、提案内容を説明するために、複数回の面談を行います。
特に20〜40戸程度の中小規模マンションでは、この労力に見合う利益を確保しにくいため、過度な相見積もりを求める組合は「手間がかかる割に受注できる確率が低い」と判断され、熱心な提案を受けにくくなることがあります。質の高い提案を引き出すためにも、相見積もりは見積もり作成の負担を考慮した範囲で依頼するのが現実的です。
見積もり依頼時に印紙税負担を明確にする一言
見積もりを依頼する段階で、印紙税の負担についても確認しておくと、後の交渉がスムーズになります。
| (見積もり依頼時の確認例) 「御見積のご提案、ありがとうございます。なお、契約締結時の印紙税のご負担について、御社ではどのように対応されておりますでしょうか。」 |
また、見積書を依頼する際は「一式」といった大まかな項目ではなく、清掃費、設備点検費、事務管理費など、費目ごとの内訳が分かる詳細な見積書の提出を依頼することが、印紙税を含めたコスト把握に有効です。
よくある質問(Q&A)
ここでは、管理委託契約書の印紙税に関してよく寄せられる質問にお答えします。
Q. 契約金額の記載がない契約書の印紙税はどうなりますか?
A. 契約金額の記載がない第2号文書(請負に関する契約書)の印紙税額は、200円です(出典:国税庁 No.7102)。ただし、後日、金額を補充する覚書などを作成した場合は、その時点で金額に応じた印紙税が課される可能性があります。
Q. 負担について合意したのに相手が貼ってくれませんでした。どうなりますか?
A. 契約書で「管理会社が負担する」と合意したにもかかわらず、管理会社が印紙を貼らなかった場合でも、法律上の納税義務は「連帯」です。そのため、税務調査などで指摘された場合、管理組合側にも納税する義務が生じます。まずは管理会社に履行を求め、応じない場合は管理組合で立て替えて納税し、後でその費用を管理会社に請求するという流れになります。
Q. 印紙を貼り忘れた場合、罰則はありますか?
A. はい、あります。印紙を貼り忘れると「過怠税(かたいぜい)」という罰則が科されます。本来納めるべきだった印紙税額とその2倍に相当する金額、合計で本来の3倍の税額を徴収されることになります。ただし、税務調査を受ける前に、貼り忘れを自主的に申し出た場合は、1.1倍の金額に軽減されます。貼り忘れに気づいたら、速やかに対応することが重要です。
まとめ:印紙税の知識で不要なトラブルを回避しよう
本記事では、管理委託契約書における印紙税の負担について解説しました。最後に重要なポイントをまとめます。
- 法的義務: 管理組合と管理会社は「連帯納税義務」を負う。
- 実務上の慣行: 契約書を2通作成し、各自が保有する分を負担する「折半」が一般的。
- トラブル予防策: 契約書に印紙税の負担者を必ず明記する。
- 契約更新時の注意: 管理委託費など「重要事項」の変更があれば、更新時も新たに印紙税が必要。
- コスト削減策: 電子契約を活用すれば、印紙税は非課税になる。
- 賢い交渉術: 相見積もりは複数社に依頼する際、見積もり作成の負担を考慮し、見積もり段階で印紙税負担を確認する。
印紙税は少額に見えても、法律が関わる重要なコストです。正しい知識を持つことで、管理会社との良好な関係を保ちながら、管理組合の資産を適切に守ることができます。今回の内容を参考に、自信を持って契約業務に臨んでください。
また、2026年4月1日施行予定のマンション管理適正化法改正に対応した規約・契約書の更新が必要となるため、最新の国交省通知を確認の上、対応ください。マンション標準管理規約および標準管理委託契約書は、2025年12月12日公表の改正版を参照し、施行日を明示して運用してください。
免責事項
本記事は、管理委託契約書に関する印紙税の一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的・税務的助言を与えるものではありません。
印紙税法等の法令は改正される可能性があります。契約の締結や税務申告にあたっては、必ず最新の法令をご確認いただくとともに、個別の事案については弁護士、税理士等の専門家または所轄の税務署にご相談ください。契約内容については、個々の管理委託契約書の条項が最優先されます。
参考資料
- 国税庁「No.7102 請負に関する契約書」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7102.htm - 国税庁「No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7100.htm - 国税庁「印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/inshi/pdf/zeigaku_01.pdf - 国税庁「No.7127 契約内容を変更する文書」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7127.htm - 国税庁「第7節 作成者等」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/inshi/besshi01/07.htm - e-Gov法令検索「印紙税法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=342AC0000000054 - 国土交通省「マンション標準管理委託契約書」(2025年12月12日改正版)

