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マンションで突然の水漏れ。「この修繕費用、いったい誰が負担するの?」と不安に思った経験はありませんか。特に、壁や床の中を通る給排水管のトラブルは、責任の所在が分かりにくく、住民間のトラブルに発展しやすい問題です。
結論から言うと、給排水管の責任の境界線は「法律」と、あなたが住むマンションの「管理規約」で明確に定められています。具体的には、複数の住戸で共有する「縦管」は共用部分として管理組合が、各住戸に引き込まれる「横管」は専有部分として区分所有者個人が、それぞれ責任を負うのが原則です。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、区分所有法や国土交通省のガイドラインといった一次情報に基づき、給排水管の責任分界点を図解でわかりやすく解説します。漏水時の費用負担や、トラブルを未然に防ぐためのチェックポイントまで、網羅的にご紹介。この記事を読めば、「もしも」の時に慌てず、冷静に対処できるようになります。
給排水管の責任境界線:結論は「法律」と「管理規約」で決まる
マンションの給排水管のトラブルで最も重要なのは、「どこまでが自分の責任範囲か」を正確に知ることです。この責任の境界線は、個人の感覚や話し合いで決まるものではなく、法的なルールに基づいて判断されます。
責任を分ける「専有部分」と「共用部分」とは?
まず、マンションにおける責任範囲の基本となる2つの重要な用語を押さえましょう。
- 専有部分:区分所有者が単独で所有し、排他的に利用できる部分です。具体的には、住戸の壁・床・天井で囲まれた内側の空間や、その内部に設置された設備(キッチン、浴室、トイレなど)を指します。
- 共用部分:区分所有者全員で共有し、共同で管理・使用する部分です。廊下、階段、エレベーターだけでなく、建物の構造を支える柱や壁、そして複数戸が使用する給排水管の「縦管」なども含まれます。
この2つの区別を理解することが、給排水管の責任問題を解決する第一歩です。自分の部屋の中にあっても、それが建物全体の機能維持に必要な設備であれば「共用部分」として扱われることがあるのです。
法的根拠となる3つのルール:区分所有法・標準管理規約・判例
給排水管の責任分界点を判断する際には、以下の3つのルールが階層的に適用されます。
- 【大原則】建物の区分所有等に関する法律(区分所有法) 国が定めた法律で、マンションの権利関係の基本ルールです。共用部分は「専有部分以外の建物の部分」と広く定義されています(出典:区分所有法 第2条)。
- 【具体的な指針】マンション標準管理規約 国土交通省が作成した管理規約のひな形です。多くのマンションがこの規約を参考に独自のルールを定めています。給排水管については、共用部分の範囲を具体的に定めており、実務上の重要な判断基準となります。
- 【司法判断の蓄積】判例 過去の裁判で示された判断です。例えば、床スラブ下を通過する排水管の枝管について、最高裁判所がこれを共用部分と判断した判例があります(詳細は管理規約、設計図、裁判所判例集で確認してください)。
これらのルールの中で、最も優先されるのは、あなたが住むマンション独自の「管理規約」です。まずはご自身のマンションの管理規約を確認することが不可欠です。
【図解】縦管・横管で見る!給排水管の専有・共用部分の境界
言葉だけでは分かりにくい給排水管の責任範囲。ここでは、一般的なマンションの構造を図でイメージしながら、専有部分と共用部分の具体的な境界線を見ていきましょう。
(※ここに「マンション給排水管の全体構造」の図を挿入)
縦管(立て管):複数戸が使う「共用部分」
縦管(たてかん)とは、建物の床を垂直に貫き、複数の住戸の排水や給水を集めて流す、いわば「本管」です。これは個人の意思で交換したり修理したりできないため、建物の基本的なインフラと位置づけられます。
- 帰属: 共用部分
- 管理責任: 管理組合
- 修繕費用: 修繕積立金から支出
マンション標準管理規約(単棟型、2023年版)の別表第2でも、給排水設備の「立て管」は共用部分と明確に定められています。したがって、縦管が原因で漏水が発生した場合、その修繕費用や下の階への賠償は、原則として管理組合が負担します。
横管(枝管):各住戸内の「専有部分」
横管(よこかん)とは、共用部分である縦管から分岐して、各住戸のキッチンや浴室、トイレなどに接続される配管のことです。これはその住戸の居住者だけが使用するため、専有部分とみなされます。
- 帰属: 専有部分
- 管理責任: 各区分所有者
- 修繕費用: 個人負担
責任の境界線は、縦管と横管の接続部分です。マンション標準管理規約別表第2では、給排水設備として「配管継手及び立て管」を共用部分と明記しており、一般的には、立て管から分岐して各住戸に引き込まれた横管(枝管)のうち、住戸専有部分内にある部分が区分所有者の責任範囲とされます。ただし、床スラブ下を通過する部分など、構造上一体の部分は例外です。
縦管と横管の接続部分が、共用部分と専有部分の責任のターニングポイントになります。
【要注意】床スラブを貫通する横管は「共用部分」の可能性
ここで一つ、注意が必要なケースがあります。それは、床のコンクリート(床スラブ)の下を通り、下の階の天井裏を配管が通っている場合です。
(※ここに「給排水管の責任分界点(スラブ上・スラブ下)」の図を挿入)
築年数が古いマンションに多いこの構造では、横管であっても床スラブを貫通している部分については、建物の構造体と一体とみなされ「共用部分」と解される傾向にあります。ただし、学説には複数の見方があり、最終的な判断は管理規約、設計図書、および必要に応じて専門家(弁護士、マンション管理士)の判断が必要です。なぜなら、その部分を修繕するには下の階の天井を開ける必要があり、個人の判断で工事を行うことが困難だからです(出典:国土交通省 マンション標準管理規約 別表第2関係コメント)。
自分の部屋の床下だからといって、すべてが専有部分とは限りません。この点も管理規約や設計図書で確認することが重要です。
また、給水管の場合、本管から各住戸の水道メーターを含む部分が共用部分、メーターから住戸内の配管までが専有部分とされるのが一般的です(出典:マンション標準管理規約別表第2)。
ケース別:漏水トラブルの責任と費用負担はこう決まる
実際に漏水が発生してしまった場合、費用負担はどのように決まるのでしょうか。原因箇所に応じた3つのケースを見ていきましょう。
(※ここに「漏水トラブル時の責任判断フローチャート」の図を挿入)
ケース1:共用部分(縦管など)が原因の場合 → 管理組合が負担
縦管の老朽化や詰まり、床スラブ下の横管の破損などが原因で漏水した場合、その責任は管理組合にあります。
- 修繕費用: 破損箇所の修繕費用は、マンションの修繕積立金から支払われます。
- 損害賠償: 漏水によって被害を受けた自室や階下の部屋の内装復旧費用、汚損した家財道具などへの賠償も、管理組合が加入している個人賠償責任保険(施設賠償責任保険)」などで対応するのが一般的です。
ケース2:専有部分(住戸内の横管)が原因の場合 → 区分所有者が負担
キッチンや浴室の蛇口の閉め忘れ、洗濯機の排水ホース外れ、あるいは専有部分である横管の劣化や詰まりが原因の場合は、その住戸の区分所有者が責任を負います。
- 修繕費用: 自身の住戸内の修繕費用は、当然自己負担です。
- 損害賠償: 階下の住戸に与えた損害についても、区分所有者個人が賠償責任を負います。この時に備え、個人で火災保険の「個人賠償責任特約」や「水漏れ(水濡れ)補償」に加入しておくことが極めて重要です。
原因不明の漏水は?区分所有法第9条が定める「推定責任」
厄介なのが、調査をしても漏水の原因箇所が特定できないケースです。この場合、法律は区分所有者を保護するルールを設けています。
区分所有法第9条では、「建物の設置又は保存に瑕疵(欠陥)があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する」と定められています。
原因がはっきりしない漏水トラブルは、法律上、まず「共用部分の欠陥」が原因であると推定されます。
つまり、原因不明の段階では、まず管理組合側の責任が推定されるということです。もし管理組合が責任を免れたいのであれば、「原因は専有部分にある」あるいは「管理組合として損害防止に必要な注意を尽くしていた」ことを証明しなければなりません。この規定は、情報や調査能力で劣る個々の区分所有者が不利にならないようにするための重要なルールです。
トラブル回避のために区分所有者が今すぐすべきこと
給排水管のトラブルは、起きてからでは手遅れになることがあります。ここでは、平時のうちに区分所有者ができる具体的な対策をご紹介します。
最重要:あなたのマンションの「管理規約」を確認する方法
これまで何度も触れてきましたが、すべての基本はあなたのマンションの「管理規約」です。ファイルに綴じられた書類の束を見てうんざりするかもしれませんが、確認すべきポイントは限られています。
チェックリスト
- □ まず「別表」を探す: 多くの場合、規約の巻末に「別表第2 共用部分の範囲」といったリストがあります。
- □ 「給排水設備」の項目を確認: そこに「立て管」「配管継手」「横管」に関する記載があるかチェックします。
- □ スラブ貫通部分の記載はあるか: 床スラブ下の配管について、専有部分か共用部分か明記されているか確認します。
管理規約は、通常、入居時に不動産会社から渡されるか、管理会社に依頼すれば閲覧・コピーが可能です。
専有部分も管理組合で修繕できる?「一体管理」という選択肢
専有部分である横管も、築年数が経てばいずれは更新が必要になります。しかし、各区分所有者がバラバラに工事を行うのは非効率で、施工品質にもばらつきが出かねません。
そこで有効なのが、「一体管理」という考え方です。 標準管理規約第21条第2項では、専有部分の配管であっても、共用部分と構造上一体となっている部分については、管理組合が一体的に管理・修繕工事を行うことができると定めています。
なお、令和3年(2021年)の標準管理規約改正により、給排水管から生じた損害について、専有部分であっても管理組合が責任主体となる可能性が拡大されました。詳細はご自身のマンションの管理規約改訂状況を確認してください。
この規定を管理規約に盛り込むことで、管理組合が主導して全戸の横管(専有部分)を一斉に更新する計画を立て、費用も修繕積立金から支出する、といった対応が可能になります。これは、マンション全体の資産価値を維持する上でも非常に有効な手段です。
規約に記載がない・不明な場合の相談先
管理規約を読んでも分からなかったり、そもそも詳細な規定がなかったりする場合もあるでしょう。その際は、一人で悩まずに以下の窓口に相談しましょう。
- マンションの管理会社:まず第一の相談先です。過去の事例や修繕履歴に詳しい場合があります。
- 管理組合の理事会:他の住民も同じ疑問を持っているかもしれません。理事会を通じて議題に上げてもらうことも有効です。
- 専門家(マンション管理士、弁護士):法的な解釈や他のマンションの事例に詳しい専門家です。地域の相談窓口や紹介サービスを利用できます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 漏水調査で部屋への立ち入りを求められたら拒否できる?
A1. 正当な理由なく拒否することは難しいとされていますが、調査の方法・時間帯について交渉する余地があります。 区分所有法第6条第2項では、建物の維持管理のために必要な範囲で、他の区分所有者の専有部分への立ち入りを請求できると定められています。漏水の原因調査はまさにこれに該当し、協力する義務があります。詳細な対応については、管理組合および必要に応じて弁護士に相談してください。
Q2. 築年数が古いマンションは特に注意が必要?
A2. はい、特に注意が必要です。 配管の寿命は材質にもよりますが、一般的に銅管で60年程度、鋳鉄管で40年程度、塩ビ管や樹脂管で30年程度とされています(出典:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」等)。築年数の経ったマンションでは、配管自体の老朽化による漏水リスクが高まります。ご自身のマンションの長期修繕計画で、給排水管の更新がいつ頃予定されているかを確認しておくことをお勧めします。ただし、責任分界点の確認は、築年数にかかわらず管理規約と設計図が基本となります。
Q3. 専門家(弁護士、マンション管理士)にはどこで相談できる?
A3. 以下のような公的な相談窓口を利用するのが安心です。
- お住まいの地域の弁護士会:法律相談センターなどで、不動産問題に詳しい弁護士を紹介してもらえます。
- 各都道府県のマンション管理士会:マンション管理の専門家であるマンション管理士への相談が可能です。
- (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター(住まいるダイヤル):国土交通大臣指定の公的な相談窓口で、電話相談などが利用できます。
まとめ:給排水管の管理は「自己責任」と「共同責任」の理解から
マンションの給排水管の責任分界点について解説してきました。最後に重要なポイントをまとめます。
- 責任の原則: 複数戸で使う「縦管」は共用部分(管理組合責任)、各戸専用の「横管」は専유部分(個人責任)です。
- 判断基準: 最終的な判断は、法律や国のひな形よりも、あなたのマンション独自の「管理規約」が優先されます。
- 例外に注意: 床スラブを貫通する横管は「共用部分」扱いになる場合があります。
- トラブルへの備え: 原因不明の漏水は管理組合の責任と推定されます。個人としても賠償責任保険への加入は必須です。
給排水管の管理は、自分の資産を守る「自己責任」の側面と、共同住宅全体の資産価値を維持する「共同責任」の側面を併せ持っています。まずはご自身のマンションの管理規約を一度確認することから始めてみてください。それが、安心で快適なマンションライフへの第一歩となるはずです。
免責
この記事は、不動産取引における一般的な情報提供を目的としており、特定の物件や個別の事案に対する法的な助言を行うものではありません。給排水管の管理責任や費用負担に関する最終的な判断は、必ずご自身のマンションの管理規約、設計図書等の一次資料をご確認の上、必要に応じて管理組合、管理会社、弁護士、マンション管理士等の専門家にご相談ください。法令や標準管理規約は改正される可能性があるため、常に最新の情報をご参照ください。
参考資料
- e-Gov法令検索. 「建物の区分所有等に関する法律」. <https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069>
- 国土交通省. 「マンション標準管理規約(単棟型、2023年版)」. <https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html>
- 公益財団法人不動産流通推進センター(RETIO). (2021). 「マンションの給排水管はどこまでが共用部分か?」. <https://www.retpc.jp/archives/19669/>
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

