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マンションのエレベーターや給排水ポンプが突然故障し、高額な修繕費用が発生したら…。その費用は一体誰が、どこから負担するのでしょうか。多くのマンション区分所有者が抱えるこの不安に対し、本記事では明確な答えを提示します。結論から言えば、共用設備の故障に関する費用は、原則として区分所有者全員で積み立てている「修繕積立金」から支出されます。
しかし、なぜそう決まっているのか、どのような手続きが必要なのか、そして積立金が不足した場合はどうすればよいのか、具体的なルールを知らないと適切な対応は困難です。この記事では、宅地建物取引士の視点から、区分所有法や国のガイドラインといった根拠に基づき、共用設備の故障費用に関するルールを徹底解説。費用負担の境界線から、実務上の見積もり取得の注意点、将来に備える長期修繕計画の重要性まで、マンション管理に不可欠な知識を網羅します。
【結論】共用設備の故障費用は原則「修繕積立金」から支出される
エレベーター、自動ドア、給排水ポンプといったマンションの共用設備が故障した場合、その修繕にかかる費用は、原則として全区分所有者で積み立てている「修繕積立金」から支出されます。これは一部の人が使わない設備であっても、マンション全体の資産価値を維持するために不可欠な共有財産と見なされるためです。
根拠は区分所有法(1962年制定、改正含む)とマンション標準管理規約
この費用の負担原則は、法律と国の指針によって明確に定められています。
法的根拠の三層構造
第1層:共用部分の定義(区分所有法第2条第1項・第4条第1項)
- 建物の各部分が「共用部分」に該当することの法定根拠。共用部分とは、区分所有者の単独所有に属さない部分で、エレベーターや給排水ポンプなどの設備がこれに該当します。
第2層:保存行為と管理行為の区分(区分所有法第18条第1項)
- 共用部分の「保存行為」は管理者が単独で実行可能。例:突発的な給水ポンプ故障の応急修繕。これにより、緊急時の迅速な対応が保障されます。
第3層:費用負担の原則(区分所有法第19条)
- 各区分所有者の持分割合(通常は専有部分の床面積割合)に応じた費用分担。マンション標準管理規約第25条第2項で「共用部分の共有持分に応じて算出」と具体化されます。
- 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法) 区分所有法第19条では、共用部分の管理にかかる費用は、区分所有者がその持分に応じて負担すると定められています。つまり、共用設備の修繕費用は、区分所有者全員で公平に負担する義務があるのです。
- マンション標準管理規約 国土交通省が示す「マンション標準管理規約」(2021年改定版。最新の改正状況にご注意ください)は、多くのマンション管理規約の雛形となっています。この規約の第28条では、修繕積立金は「一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕」および「不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕」に充当できると明記されています。突発的な共用設備の故障は後者に該当するため、修繕積立金を取り崩して対応することが認められています。
【ポイント】修繕積立金と管理費は別モノ
修繕積立金と混同されやすいのが「管理費」です。管理費は日常の清掃、共用部分の光熱費、管理員の人件費などに使われる費用であり、計画修繕や突発的な高額修繕には充てられません。将来のための貯金(修繕積立金)と、日々の生活費(管理費)は目的が全く異なると理解しましょう。
「共用部分」と「専有部分」の境界はどこ?費用負担が変わるポイント
費用負担のルールを正しく理解するには、「共用部分」と「専有部分」の区別が不可欠です。この境界線を誤ると、自己負担すべき修繕を管理組合に請求したり、その逆の事態を招いたりする可能性があります。
- 共用部分: 区分所有者全員で共有する部分。修繕は管理組合の責任と費用(修繕積立金)で行います。
- 専有部分: 各区分所有者が単独で所有権を持つ住戸の内部。修繕は所有者の自己責任と自己負担で行います。
建物構成要素の法定分類(区分所有法第4条・標準管理規約第7条)
マンション標準管理規約第7条の「別紙第1」では、建物各部分の所有関係を以下のように定めています。
【共用部分に該当する配管例】
- 給水主管、給湯主管、排水本管(建物全体に給排水を供給する垂直・水平方向のメイン配管)
- ガス本管、電気幹線(同様に複数戸に供給する基幹インフラ)
【専有部分に該当する配管例】
- 各住戸への分岐配管(縦管から分岐し、特定の住戸に接続される部分)
- 住戸内の内線配管・器具接続部分
重要注記:
「責任分界点」の判定には、物理的な位置だけでなく、「建物全体に共通して必要か」「複数の住戸に共通して影響するか」という機能的視点が必要です。判断に迷う場合は、管理組合が建築士や管理士に相談することが推奨されます。
エレベーターや給排水ポンプ、機械式駐車場の設備、建物の構造躯体(柱・壁・床)、廊下、階段などは、誰の目から見ても明らかな共用部分です。これらの維持管理・修繕は管理組合の重要な責務となります(出典:国土交通省「マンション標準管理規約」別表第2)。
注意すべき「配管」の区分:縦管は共用、横管は専有
最も判断が難しいのが、給排水管やガス管などの配管です。たとえ自分の部屋の壁や床下を通っていても、その役割によって費用負担者が変わります。
- 共用部分: 縦管(主管) – 建物全体に給排水やガスを供給する、垂直方向に設置されたメインの配管。費用負担: 管理組合(修繕積立金)。
- 専有部分: 横管(枝管) – 縦管から分岐し、各住戸内のキッチンや浴室、トイレなどに接続される配管。費用負担: 区分所有者(自己負担)。
トラブルが多い漏水事故では、この縦管・横管のどちらが原因かで費用負担者が180度変わるため、非常に重要なポイントです。
玄関ドアや窓ガラスの扱いは規約で要確認
玄関ドアや窓(サッシ・ガラス)は、共用部分でありながら、その使用や日常的な管理は各居住者に委ねられる「専用使用権」が設定されているのが一般的です。
国交省の標準管理規約では、錠と内部塗装など「専有部分と一体的に利用される部分」の管理は、専用使用権を持つ区分所有者が自己の責任と負担で行うとされています。ただし、大規模修繕で全戸の窓サッシを交換する場合などは、管理組合の負担となります。このあたりの細かなルールはマンションごとに異なるため、必ずご自身の管理規約を確認してください。
修繕を実施するための手続きと決議要件
共用設備の故障を発見しても、管理組合がすぐに修繕工事を発注できるわけではありません。原則として、適切な手続きと決議を経る必要があります。ただし、マンションの個別管理規約で定められた範囲を超えないこと(例: 標準管理規約第22条の小規模修繕規定)を確認してください。
原則は管理組合の「総会決議」が必要
共用部分の形状や効用の著しい変更を伴わない修繕(性能を維持するための通常の修繕)は、区分所有者および議決権の各過半数の賛成(普通決議)によって決定します(出典:区分所有法第17条第1項、マンション標準管理規約第47条)。
例えば、故障した給水ポンプを同等性能の新しいものに交換する場合などがこれにあたり、理事会が修繕案と見積もりを総会に上程し、承認を得るのが一般的な流れです。
修繕の種類と決議要件の対照表
| 修繕の性質 | 法的根拠 | 決議要件 | 実行主体 | 実例 |
|---|---|---|---|---|
| 保存行為 | 区分所有法第18条第1項 | 決議不要 | 管理者(理事長等) | 破損タイルの応急交換、漏水応急処置 |
| 通常の修繕 | 区分所有法第17条第1項 | 普通決議(過半数) | 管理組合総会 | 給水ポンプの同等性能交換、外壁補修 |
| 共用部分の変更 | 区分所有法第17条第3項 | 特別決議(4分の3以上) | 管理組合総会 | 給水ポンプの高性能機への更新、外壁の断熱改修 |
※決議要件は管理規約で別段の定めがある場合、規約が優先される(区分所有法第39条、マンション標準管理規約第46条等参照)
軽微な修繕(保存行為)や緊急時の対応は?
すべての修繕に総会決議が必要となると、迅速な対応ができません。そのため、法律や規約には例外が設けられています。
- 保存行為: 共用部分の損傷を防いだり、現状を維持したりするための行為は、管理者(通常は理事長)や各区分所有者が単独で行えます(出典:区分所有法第18条第1項)。共用廊下の電球交換や、破損したタイルの応急処置などが該当します。
- 緊急時の対応: 予期せぬ事故や災害により、緊急の対応が必要な場合は、理事会や理事長の判断で応急的な修繕を行うことが規約で認められているケースがほとんどです。この場合、総会での承認は事後報告・追認という形になります。
設備の性能を向上させる「改良(グレードアップ)」を伴う修繕は、共用部分の「変更」にあたり、原則として区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成(特別決議)が必要になる場合があります。単純な交換か、性能向上を伴う変更かで決議要件が変わる点に注意が必要です。
修繕積立金が不足している場合の3つの選択肢
いざ修繕が必要となった際に、修繕積立金の残高が不足していることが判明するケースは少なくありません。その場合、管理組合は以下の選択肢を検討することになります。
選択肢1:一時金の徴収
最も直接的な方法が、不足分を補うために区分所有者から「一時金」を徴収することです。この方法も総会での特別決議(区分所有者および議決権の各4分の3以上)が必要となるのが一般的で、合意形成には多大な労力がかかります。
選択肢2:金融機関からの借入れ
管理組合が金融機関から融資を受ける方法もあります。特に、住宅金融支援機構が提供する「マンション共用部分リフォーム融資」は、多くの管理組合に利用されています。借入れには返済計画の策定が不可欠であり、将来の修繕積立金会計を圧迫しないか慎重な検討が求められます。
選択肢3:修繕内容の見直し・先送り(リスクも解説)
費用を抑えるために、修繕の範囲を限定したり、実施時期を先送りしたりする選択肢です。しかし、これは根本的な解決にはならず、むしろ問題を深刻化させる危険性をはらんでいます。
設備の不具合を放置すれば、居住者の生活に支障が出るだけでなく、二次被害(例:給水ポンプ故障による漏水)を引き起こし、かえって修繕費用が膨らむリスクがあります。
【実務のリアル】修繕工事の見積もり取得で失敗しないための注意点
適切な修繕工事を行うためには、信頼できる施工会社を選び、適正な価格で契約することが重要です。その際に多くの管理組合が陥りがちな見積もり取得の落とし穴について、実務的な視点から解説します。
相見積もり取得の適切な進め方
「2~3社」とされる理由
管理組合が相見積もりを依頼する際、依頼先を2~3社に限定することが実務的に推奨される背景には、以下の効率性の考慮があります。
理由1:見積作成の作業量
- 現地調査(複数回)、清掃、エレベーター保守、消防設備点検など、各協力会社との打ち合わせ、会計状況や長期修繕計画の精査、理事会との面談(複数回)などの工数がかかる。特に、自主管理で戸数が少ない小規模マンション(20戸~40戸程度)の場合、過度な相見積もり(5社以上)を要求すると、検討材料が増加する一方で、依頼先の対応が難しくなる可能性があります。
理由2:管理組合側の意思決定コスト
- 依頼先を絞ることで、詳細な検証と質疑に注力でき、品質確保の観点から有効です。
推奨:
- 信頼できる管理会社や施工会社を2~3社選定し、詳細な内訳を求める。
- 相見積もり段階で競争圧力を過度に高めるより、提出後の丁寧な検証に注力する方が、管理組合の適正な判断を支援します。
【参考】マンション管理士資格試験・各種実務指南で推奨される相見積もり数
管理会社側の本音:過度な見積もり要求を避けるべき理由
管理会社が見積もりを作成するまでには、以下のような多くの工程が発生します。
- 現地調査(複数回)
- 清掃、エレベーター保守、消防設備点検など、各協力会社との打ち合わせ
- 会計状況や長期修繕計画の精査
- 理事会との面談(複数回)
これらの工数を考えると、受注の可能性が低い多社競合の案件に全力で取り組むのは難しいのが実情です。組合側が誠実な対応を求めるなら、依頼する側も相手の労力に配慮する姿勢が重要になります。
【補足】管理委託型マンションでの留意点
管理会社に管理を委託している場合、以下の点を確認してください:
- 標準管理委託契約書(国土交通省・日本マンション管理業協会)に基づいているか
- 修繕の具体的な判断基準(保存行為 vs. 通常修繕)が管理会社と組合間で合致しているか
- 緊急時の対応ルール(理事長の専決権限の範囲)が規約・契約で明確か
【出典】標準管理委託契約書 [国土交通省]
見積書で必ずチェックすべき「一式」表記のリスク
提出された見積書を比較検討する際は、「〇〇工事 一式」という表記に注意が必要です。この「一式」の内訳が不透明だと、何にいくらかかっているのか分からず、価格の妥当性を判断できません。
適正な見積書は、材料費、人件費、諸経費などが細かく記載されています。不明瞭な「一式」表記が多い見積もりは避け、必ず詳細な内訳の提出を求めるようにしましょう。
普段から備えるべき「長期修繕計画」の重要性
突発的な故障に慌てないためには、日頃からの備えが何よりも重要です。その核となるのが「長期修繕計画」です。
マンション管理適正化法(令和4年4月1日施行)と管理計画認定制度
2022年4月に施行された改正マンション管理適正化法により、「管理計画認定制度」がスタートしました。これは、長期修繕計画の策定や修繕積立金の適正な設定など、一定の基準を満たす管理組合の管理計画を、市区町村が認定する制度です。
認定を受けると、以下のようなメリットがあります。
- マンションの市場価値向上
- 住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」で金利優遇が受けられる
- 市区町村の裁量による一部自治体で固定資産税の減額措置(最新の自治体条例を確認せよ)
認定を受けるための主な要件(詳しくは市区町村にご確認ください)
- 長期修繕計画が策定され、計画期間が30年以上であること。
- 修繕積立金の額が、長期修繕計画の趣旨に照らして著しく低額でないこと。
- 管理規約に、緊急時における理事長の専決など、必要な事項が定められていること。
- 理事会・総会が適切に運営されていること。
この制度は、管理組合が自主的に管理レベルを向上させるための強力なインセンティブとなっています。
最低積立率に関する国交省ガイドライン
国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(最新版)では、修繕積立金の月額目安を以下のように示しています:
- 一般的な目安: 月額200~250円/㎡程度
- 地域・建物特性による調整:高経年建物や海岸地帯では上記を上回る水準が推奨される
- 計画見直し: 5年ごとを目安に見直し、物価上昇・実績との乖離を反映
【出典】国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
管理計画認定制度の要件との連動
管理計画認定制度の認定要件には「修繕積立金の適正な設定」が含まれます。本制度により、以下の利益が生じます:
- マンション資産価値の向上と流通促進
- 住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資」での金利優遇(機構内規)
- 自治体による固定資産税の減額措置(自治体により異なる)
5年ごとの計画見直しで資金不足を防ぐ
長期修繕計画は、一度作ったら終わりではありません。国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」では、5年程度ごとに計画を見直すことが推奨されています。
物価の変動や建物の劣化状況に合わせて計画を更新し、必要な修繕積立金額を再計算することで、将来の資金不足リスクを未然に防ぐことができます。
【参考】修繕積立金の会計処理に関する注記(税務・会計の一般的考慮)
修繕積立金の適切な会計分類は、マンション管理の財務透明性に関わります。ただし、具体的な税務申告や会計処理については、各管理組合の顧問税理士または管理会社の経理担当者にご確認ください。
【参考】マンション標準管理規約第61条「収支決算」
よくある質問(FAQ)
まとめ:共用設備の故障に備えて今すぐ確認すべきこと
マンション共用設備の突発的な故障。その費用は原則として「修繕積立金」から支出されますが、いざという時に慌てないためには、日頃からの正しい知識と備えが不可欠です。
最後に、この記事の重要なポイントをまとめます。
- 費用負担の原則: エレベーターやポンプなど共用設備の修繕費用は、区分所有法に基づき「修繕積立金」で賄う。
- 境界線の確認: 費用負担者を明確にするため、管理規約で「共用部分」と「専有部分」の範囲(特に配管や窓など)を確認しておく。
- 手続きの理解: 修繕には原則として総会の普通決議が必要。ただし、軽微な修繕や緊急時は例外があることを知っておく。
- 資金不足への備え: 一時金徴収や借入れは最終手段。まずは長期修繕計画を定期的に見直し、計画的な積立を行う。
- 賢い見積もり取得: 相見積もりは2~3社が適切。「一式」表記を避け、詳細な内訳で比較検討する。
この記事をきっかけに、ご自身のマンションの管理規約や長期修繕計画を改めて確認し、来るべき修繕に備える一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
免責事項
本記事は、マンション管理に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の物件や個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。記載されている情報は記事執筆時点の法令や情報に基づくものであり、最新の法改正や、個別のマンション管理規約、総会決議の内容が優先されます。また、区分所有法等の改正が予定されており、一部規定が変更される可能性があります。 具体的な問題については、ご自身のマンションの管理組合、管理会社、またはマンション管理士等の専門家にご相談ください。
参考資料
- e-Gov法令検索. 「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」. <https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069>
- 国土交通省. 「マンション標準管理規約(単棟型)」. <https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html>
- 国土交通省. 「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(PDF). <https://www.mlit.go.jp/common/001080837.pdf>
- 国土交通省. 「長期修繕計画作成ガイドライン」(PDF). <https://www.mlit.go.jp/common/001080843.pdf>
- 国土交通省. 「マンション管理・再生ポータルサイト マンション管理計画認定制度について」. <https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000066.html>
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

