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マンション管理組合の役員の皆様、書庫に山積みになった膨大な書類の管理にお困りではありませんか。「これらの書類をスキャンしてデジタル化し、紙の原本は捨ててしまいたい」と考えるのは自然なことです。しかし、安易なデジタル化と廃棄は、法的なリスクを伴う可能性があります。
結論から申し上げますと、適切な法的要件を満たした「電子保存」を行えば、紙の原本を廃棄することは可能です。しかし、単に書類をスキャンしてPDFにするだけでは、その要件を満たせません。この記事では、宅地建物取引士の知見を基に、管理組合の書類を法的に問題なくデジタル化し、適切に保存・廃棄するためのルールと手順を徹底解説します。保存期間の定めから、規約変更のステップまで、具体的な進め方がわかります。
なぜ管理組合の書類管理は大変なのか?膨大な紙が引き起こす3つの問題
理事会室や集会所の片隅が、何年も前の総会議事録や契約書の段ボールで埋まっていないでしょうか。管理組合の運営には、法律で保存が義務付けられている書類が多く、年々増え続ける紙の管理は役員の皆様にとって大きな負担となっています。具体的には、主に3つの問題が挙げられます。
問題1:保管スペースの圧迫と物理的な劣化
最も直接的な問題は、物理的な保管スペースです。限られた共用スペースが書類で占有されてしまうだけでなく、紙媒体は経年により劣化します。湿気によるカビや虫食い、インクの退色など、いざという時に読めなくなってしまうリスクも抱えています。
問題2:必要な書類を探す手間と時間
過去の修繕工事の契約書や、数年前の総会の議事録を確認したいとき、大量のファイルの中から目的の書類を探し出すのは大変な労力です。特に、緊急性の高いトラブルが発生した際に、迅速な情報確認ができないことは、管理組合の意思決定を遅らせる要因にもなり得ます。
問題3:役員交代時の引き継ぎの煩雑さ
管理組合の役員は、1〜2年で交代することが一般的です。その都度、膨大な紙の書類を整理し、後任者へ引き継ぐ作業は非常に煩雑です。引き継ぎが不十分な場合、過去の経緯がわからなくなり、管理運営に支障をきたすケースも少なくありません。
これらの課題を解決する有効な手段が、書類のデジタル化です。しかし、そこには守るべき法的なルールが存在します。
【重要】書類のデジタル化と原本廃棄の法的ルール
「スキャンしてPDFにしたから、もう紙の原本は捨てて大丈夫」と考えるのは早計です。法的に有効な電子データとして認められ、原本を廃棄するためには、単なるスキャン以上の手続きが求められます。
スキャンしただけ(単なるPDF化)では原本は捨てられない
まず理解すべき重要な点は、「電磁的記録」と「法的に有効な電子署名がされた電磁的記録」は異なるということです。
- 電磁的記録: パソコンで作成したファイルや、紙をスキャンしたPDFデータなど、電子的に記録された情報全般を指します。
- 電子署名: そのデータが「誰によって作成され」かつ「作成後に改ざんされていないこと」を技術的に証明する仕組みです。印影をスキャンした画像を貼り付けただけでは、法的な電子署名にはあたりません。
- タイムスタンプ: ある時刻にその電子データが存在し、それ以降改ざんされていないことを証明する技術です。電子署名と組み合わせることで、データの信頼性をさらに高めます。
スキャンしただけのPDFファイルは、誰でも簡単に作成・編集できてしまうため、そのデータが本物であるという「真正性」が担保されません。そのため、原則として紙の原本を廃棄することは認められていないのです。
紙の原本を廃棄できる「電子保存」の要件
紙の原本を廃棄し、電子データのみを正式な記録として保存するためには、その電子データが「原本に代わるもの」として法的に認められる必要があります。具体的には、電子化する書類の種類に応じ、電子帳簿保存法、電子署名法、e-文書法などの関連法令の要件に適合する必要があります。主な要件として以下の点が求められます。
- 見読性: 保存された電子データを、必要に応じていつでも明瞭な状態で表示・印刷できること。
- 完全性: 保存期間中、記録が破壊されたり、改ざんされたりしないように措置が講じられていること(例:タイムスタンプの付与、改ざん防止機能)。廃棄前に、電子保存版の真正性保証(改ざん防止機能、タイムスタンプ等)の要件を充足していることを確認する必要があります。
- 機密性: 権限のない者がアクセスできないように措置が講じられていること(例:アクセス制御、パスワード設定)。
- 検索性: 必要な情報を速やかに探し出せる状態であること。
これらの要件を満たすために、電子署名やタイムスタンプの技術が利用されます。
根拠となる法律(区分所有法・電子署名法など)のポイント
管理組合の書類のデジタル化に関連する主要な法律は、区分所有法と電子署名法です。
特に重要なのが総会議事録の扱いです。区分所有法では、議事録を電子データ(電磁的記録)で作成する場合について、以下のように定めています。
第四十二条4 前項の議事録が電磁的記録をもつて作成されている場合における当該電磁的記録に記録された情報の内容の閲覧の請求については、法務省令で定めるところによる。この場合において、当該電磁的記録は、法務省令で定める方法により表示したものでなければならない。
(出典:建物の区分所有等に関する法律)
(注:2023年改正により条文が変更。以前は電子署名が必須とされていたが、現在は法務省令への委任規定となっており、最新の法令および法務省令を確認する必要があります。実務上は真正性担保のため電子署名が依然として重要。紙の署名済み議事録をスキャンして電子保管する場合、電子署名は不要です)
また、電子署名には、その文書が本物であることを法的に推定させる強い効力があります。電子署名法第3条は、本人による一定の要件を満たす電子署名が行われている電子文書は、「真正に成立したものと推定する」と定めています(出典:電子署名及び認証業務に関する法律)。これは、裁判などにおいて、その文書が正式なものであると認められやすくなることを意味します。
【2025年4月1日施行の改正区分所有法における新規定】
第31条の2「組合員名簿等の作成・保管」
・理事長が組合員名簿・居住者名簿を書面または電磁的記録により作成・保管することを義務化
・電磁的記録版の閲覧については第49条第5項(議事録閲覧規定)を準用
・毎年1回以上の内容確認義務
参照:国土交通省「マンション標準管理規約 令和6年改正について」、e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」
| 電子署名の種類 | 本人確認方法 | 法的効力(真正性の推定) | 管理組合での利用シーン例 |
|---|---|---|---|
| 当事者型 | 電子証明書などを用い、厳格な身元確認を経て本人が署名 | 強い推定が働く(電子署名法第3条) | 総会議事録の電子作成、重要な外部契約 |
| 立会人型 | メール認証などで本人意思を確認し、サービス事業者が署名 | サービスによっては3条の推定効が認められる可能性も検討されている | 理事会議事録の承認、軽微な発注書 |
| (参考)スキャン画像 | なし(印影の画像データ) | 推定効なし | 回覧用の参考資料(原本は別途保管)。電子署名法上の「電子署名」には該当しない |
【書類別】法定保存期間とデジタル化の可否一覧
管理組合が保管すべき書類には、法律や管理規約で保存期間が定められているものがあります。デジタル化を進める前に、どの書類をいつまで保存すべきか、そしてデジタル化や原本廃棄が可能かを確認しておくことが不可欠です。
永久保存が推奨される書類
法的義務はなくとも、組合の歴史や権利関係を示す極めて重要な書類は、永久に保存することが強く推奨されます。
- 管理規約(原始規約および改正後の規約)
- 竣工図、設計図書
- 確認済証、検査済証
これらの書類は、マンションが存在する限り必要となる可能性があるため、デジタル化と並行して原本も大切に保管すべきです。
一定期間の保存が義務付けられる書類
区分所有法や標準管理規約に基づき、一定期間の保存が求められる書類です。
- 総会議事録: 法律上の保存期間の定めはありませんが、過去の重要な意思決定の証拠として極めて重要です。国土交通省の標準管理規約コメント(令和6年版)では保管が推奨されており、実務上は永年保管(法律上の定めなし、慣例・実務上の重要性から)とされています。
- 会計帳簿および関連書類: 収支計算書、貸借対照表などの決算書類は、その重要性から長期間の保存が必要です。
以下に、主要な書類の保存期間とデジタル化の可否に関する目安をまとめました。
| 書類の種類 | 保存期間(推奨) | 根拠・理由 | デジタル化と原本廃棄の可否 |
|---|---|---|---|
| 管理規約 竣工図書 |
永久 | 建物の根本規則・構造を示す最重要書類 | デジタル化は推奨。 原本も必ず保管。 |
| 総会議事録 (署名・押印済のもの) |
永年推奨 (法律上の定めなし、慣例・実務上の重要性から) |
区分所有法・国土交通省『マンション標準管理規約コメント』(令和6年版) 過去の意思決定の証拠 |
電子署名法等の要件を満たす電子化であれば原本廃棄は可能。 紙の議事録をスキャンしただけのものは、原本の保管が原則。 電子署名付かつ真正性が担保されていれば廃棄可。 |
| 理事会議事録 | 10年 | 標準管理規約コメント | デジタル化を推奨。期間満了後、理事会決議等を経て廃棄可。 |
| 会計帳簿 (決算書類等) |
10年 | 標準管理規約コメント (税法上の保存期間7年も参考に) |
電子帳簿保存法の要件を満たせば可。専門家への確認が望ましい。 |
| 管理委託契約書等 | 契約期間中+5年程度 | トラブル発生時の証拠 | 電子契約でない場合、契約終了後も一定期間は原本保管が安全。 |
管理組合の書類デジタル化|失敗しないための4ステップ
法的なルールを理解した上で、実際に書類のデジタル化を進めるには、計画的なステップが必要です。思いつきで始めると、後々のトラブルの原因になりかねません。
ステップ1:管理規約の変更と総会での合意形成
書類の電子化について管理規約に定めを設け、総会で承認を得ることです。特に、総会議事録を電子的に作成・保管したり、Web会議システムで総会を開催したりするには、その根拠となる規約の定めが不可欠です。電磁的方法による管理組合の運営(議事録作成、議決権行使等)には、総会での決議による管理規約の変更が前提となります。
規約の変更は、区分所有法第32条により、区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成による「特別決議」が必要です(出典:建物の区分所有等に関する法律)。総会では、なぜデジタル化が必要なのか、どのようなメリットがあるのか、費用はどれくらいかかるのか、電子署名要件、セキュリティ対策、システム維持コストなどについても具体的な導入計画と合わせて住民への十分な説明と合意形成が不可欠です。
| (記載例)規約変更案 第〇条(議事録の作成及び保管) 2 総会の議事録は、書面のほか、電磁的記録をもって作成することができる。電磁的記録により作成された議事録は、理事長が保管する。 3 理事長は、電磁的方法による議決権行使を認める場合、議決権行使書を電磁的記録により作成し、保管することができる。 |
ステップ2:デジタル化する書類の範囲とルールの決定
すべての書類を一度にデジタル化するのは現実的ではありません。まずは対象とする書類の範囲を決めましょう。
- 優先順位付け: 保管スペースを多く取っている書類や、閲覧頻度の高い書類(総会議事録、長期修繕計画書など)から着手するのが効率的です。
- ルール策定: ファイルの命名規則、フォルダ構成、アクセス権限などを定めます。「西暦4桁_総会種別_議事録.pdf」(例:2024_通常総会_議事録.pdf)のように、誰が見てもわかるルールを作ることが重要です。
ステップ3:電子化ツールの選定
書類を安全に管理するため、適切なツールを選びます。単なるファイルサーバーではなく、セキュリティや真正性を担保できる機能を持つクラウドサービスがおすすめです。
- 必須機能: アクセスログ管理(誰がいつアクセスしたか記録)、バージョン管理、電子署名・タイムスタンプ機能。
- 選択肢: 文書管理に特化したクラウドストレージサービスや、電子契約サービスなどを比較検討します。電子契約サービスを利用し、電子署名を行う場合は、電子署名法第2条に定める要件(本人性及び非改ざん性)を満たす形式(当事者型または立会人型)の電子署名を用いる必要があります。
ステップ4:運用ルールの整備と役員間での引き継ぎ体制構築
ツールを導入しても、運用ルールがなければ形骸化してしまいます。
- 運用マニュアルの作成: データの保存方法、閲覧・更新の手順、トラブル時の対応などをまとめた簡単なマニュアルを作成します。
- 引き継ぎ体制の確立: 役員が交代する際に、IDやパスワード、運用ルールを確実に引き継ぐための手順を定めておきましょう。管理会社に管理を委託している場合は、管理会社と協力して引き継ぎ体制を構築することも有効です。
デジタル化でよくある質問(FAQ)
Q1. どんなツールを選べば良い?
A1. 電子署名法や電子帳簿保存法に対応し、セキュリティ機能が充実している法人向けのクラウドストレージや文書管理システムが推奨されます。無料の個人向けサービスは、セキュリティや長期的なサービス継続性の観点から、管理組合の公式な書類保管には不向きな場合があります。
Q2. デジタル化の費用はどれくらいかかる?
A2. 費用は大きく分けて2種類あります。
- 初期費用: 過去の紙書類をスキャンする費用。専門業者に依頼する場合、段ボール1箱あたり数万円程度が目安ですが、書類の種類や量によって変動します。
- 月額費用: クラウドサービスの利用料。ユーザー数やデータ容量に応じて、月額数千円〜数万円程度が一般的です。
これらの費用は管理費から支出されるため、総会で予算案として承認を得る必要があります。
Q3. 管理会社に見積もりを依頼するときの注意点は?
A3. 複数の管理会社から相見積もりを取ることは有効ですが、注意も必要です。やみくもに5社、6社と見積もりを依頼すると、敬遠される可能性があります。管理会社は見積もり作成のために、現地調査や協力会社との打ち合わせなど、多大な労力をかけています。特に戸数の少ないマンションでは、労力に見合わないと判断され、見積もり自体を断られることもあります。現実的には、2〜3社に絞って誠実な対応で依頼することが、良い関係を築き、質の高い提案を受けるためのコツです。
Q4. パソコンが苦手な役員や住民がいる場合はどうすれば?
A4. すべての人にデジタル化を強制するのは困難です。以下のような配慮が考えられます。
- 移行期間を設ける: しばらくは紙とデジタルを併用し、徐々に慣れてもらう。
- 説明会の開催: 役員や住民向けに、ツールの使い方に関する簡単な説明会を開く。
- 閲覧場所の確保: 集会所の共用パソコンで書類を閲覧できるようにする。
- 印刷オプション: 必要に応じて紙で印刷して配布できる体制を維持する。
デジタル化の目的は効率化であり、住民を置き去りにすることではありません。丁寧な合意形成が不可欠です。
まとめ:書類デジタル化はルール作りから。専門家への相談も視野に
管理組合の書類のデジタル化は、保管スペースの削減や業務効率化に大きく貢献する有効な手段です。しかし、成功のためには、単にスキャンするだけでなく、法的な要件を正しく理解し、計画的に進めることが不可欠です。
改めて重要なポイントをまとめます。
- 結論: 単なるスキャンでの原本廃棄はNG。電子署名法などの要件を満たした電子保存であれば可能。
- 第一歩: デジタル化を進める前に、総会の特別決議で管理規約を変更し、組合としての公式なルールを定める。
- 書類の精査: すべての書類を一括で扱うのではなく、保存期間や重要度に応じてデジタル化の対象と方法を検討する。
- 合意形成: 役員だけでなく、住民全体の理解を得ながら、無理のないペースで進める。
書類のデジタル化には、法解釈や専門的なIT知識が求められる場面もあります。自組合での判断に迷う場合は、マンション管理士や弁護士、ITに詳しい専門家へ相談することも有効な選択肢です。ルールに基づいた適切なデジタル化で、よりスマートで持続可能なマンション管理を目指しましょう。
免責事項
本記事は、マンション管理組合の書類のデジタル化に関する一般的な情報を提供するものであり、特定の管理組合の状況に対する法的な助言を行うものではありません。記載されている情報は、記事作成時点の法令や情報に基づいています。
本記事は2025年12月23日時点の情報に基づいています。
特に以下の最新改正については、管理組合の実装前に官公庁資料で必ず確認してください:
- 令和6年度改正マンション標準管理規約(国土交通省、2024年6月)
- 改正区分所有法(2025年4月1日施行)第31条の2・第42条4項
- 電子帳簿保存法改正関連の最新法務省令
法令等は改正される可能性があるため、具体的な手続きを進める際には、必ず最新の法令をご確認いただくか、弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談ください。個別の書類の廃棄等の判断は、管理組合の責任において、管理規約および関連法令に基づき慎重に行ってください。
参考資料
- e-Gov法令検索. (n.d.). 建物の区分所有等に関する法律. Retrieved from https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
- e-Gov法令検索. (n.d.). 電子署名及び認証業務に関する法律. Retrieved from https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000102
- 国土交通省. (2024). マンション標準管理規約 令和6年改正について. Retrieved from https://www.mansion-info.mlit.go.jp/wp-content/uploads/2025/03/マンション標準管理規約%20令和6年改正について.pdf
- 法務省. (n.d.). 電子署名法の概要と解説~電子署名法第2条、第3条関係~. Retrieved from https://www.moj.go.jp/MINJI/minji39.html
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

