築30年超マンションの給排水管更新ガイド:専有部同時施工の5ステップと法的根拠

マンションの会議室で、管理会社の担当者と管理組合の理事たちが、笑顔で建設的な話し合いをしている様子。互いに信頼し合っている雰囲気が伝わり、適切なコミュニケーションと尊重が、プロジェクト成功の鍵であることを示しています。背景には、プロジェクト計画の資料が控えめに映り込んでいます。

※本コラムの内容は、当社が独自に調査・収集した情報に基づいて作成しています。無断での転載・引用・複製はご遠慮ください。内容のご利用をご希望の場合は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。

目次

築30年超のマンションで必須の給排水管同時更新:管理組合主導の専有部配管一斉工事ガイド

築30年を超えたマンションで課題となる、給排水管の老朽化。特に、各住戸内の「専有部」の配管は管理組合の目が届きにくく、漏水事故の温床となりがちです。共用部の配管だけ新しくしても、専有部の古い配管が原因で漏水すれば元も子もありません。そこで重要になるのが、給排水管更新における専有部と共用部の「同時施工」です。

この記事では、2020年12月の法改正で可能になった管理組合主導による専有部配管の一斉更新について、宅地建物取引士の視点から解説します。法的根拠から合意形成の進め方、費用分担、トラブル回避策まで、マンション管理組合理事の方が知りたい情報を網羅的にまとめました。この記事を読めば、複雑な配管更新プロジェクトの参考情報として活用し、専門家に相談するための道筋が明確になるでしょう。

なぜ今、専有部と共用部の「同時」更新が重要視されるのか?

マンションの給排水管更新において、共用部だけでなく専有部も含めた一斉工事が推奨されるのには明確な理由があります。それは、漏水リスクの根本的な解決と、マンション全体の資産価値維持に直結するからです。

漏水リスクの低減と資産価値の維持

マンションの配管は、共用廊下などを縦に走る「竪管(たてかん)」(共用部)と、そこから各住戸のキッチンや浴室へ分岐する「横引管(よこびきかん)」(専有部)で構成されています。
築年数が経過すると、両方の管が腐食し劣化します。

仮に共用部の竪管だけを更新しても、専有部の横引管が古いままでは、そこから漏水するリスクは残ります。漏水事故は、被害住戸だけでなく階下の住戸にも甚大な被害を及ぼし、多額の損害賠償問題に発展しかねません。専有部と共用部を同時に更新することで、配管設備全体をリニューアルし、漏水リスクを大幅に低減できます。これは、住民の安全な暮らしを守ると同時に、マンション全体の資産価値を維持・向上させる上で極めて重要です。

国土交通省も後押しする同時施工の効率性

専有部と共用部の同時施工は、国もその効率性を認めています。2020年12月に改正されたマンション標準管理規約のコメントでは、以下のように示されています。

共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。

(出典:国土交通省「マンション標準管理規約コメント」)

個々の区分所有者がバラバラにリフォームするよりも、管理組合が主導して一斉に工事を行う方が、足場の設置や資材の共同購入、工事管理などにおいてスケールメリットが働き、一戸あたりの費用を抑えられます。また、断水などの影響も計画的に一度で済ませられるため、住民の生活への負担も軽減できるのです。

【法的根拠】専有部配管更新を管理組合が主導できる理由

かつて専有部の配管は、各区分所有者の責任で管理するのが原則でした。しかし、それでは一体的な更新が進まないため、2020年12月のマンション標準管理規約改正で、管理組合が主導して専有部配管の更新工事を行える法的根拠が整備されました。ここでは、その根拠と必要な手続きを解説します。

ポイント1:管理組合が「一体的」に管理できる範囲の拡大

改正されたマンション標準管理規約の第21条第2項には、次のように定められています。

(記載例)
(マンション標準管理規約 第21条第2項)
専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、
管理組合がこれを行うことができる。

さらに、第21条第7項では、「以後のその配管は管理組合の責任と負担において行うものとする」と規定されており、更新工事後の保守・修繕も管理組合の義務となります。これにより、専有部の配管であっても、共用部の配管と構造上一体であり、一体的な管理が必要だと合理的に判断されれば、管理組合が更新工事の主体となれることが明確になりました。規約改正時には、この工事後の管理責任を区分所有者に十分説明し、合意を得ることが重要です。

ポイント2:区分所有法との関係|特別決議と普通決議の使い分け

専有部を含む配管更新を進めるには、2段階の決議が必要です。この違いを理解することが、円滑な計画推進の鍵となります。原則として、共用部分の変更に該当する工事は区分所有法第31条に基づき特別決議を要しますが、2025年のマンション標準管理規約見直しにより、構造躯体に影響がない場合は普通決議で工事実施が可能となる場合があります(各マンションの管理規約を優先確認ください)。

決議の種類目的決议要件法的根拠
普通決議管理規約を改正し、専有部配管を管理組合で管理できる根拠を作る区分所有者数および議決権数の各過半数区分所有法 第39条1項
特別決議改正した規約に基づき、実際に工事の実施を決定する(原則、構造躯体に影響がない場合は普通決議で足りる可能性あり)区分所有者数および議決権数の各4分の3以上区分所有法 第17条1項、第31条
普通決議と特別決議の使い分け(表が表示されない場合: 普通決議[目的=規約改正、要件=過半数、根拠=区分所有法39条1項] / 特別決議[目的=工事実施、要件=4分の3以上、根拠=区分所有法17条1項、第31条]。詳細は本文参照)
  1. ステップ1:管理規約の改正(普通決議)
    まず、自分たちのマンションの管理規約に、前述の標準管理規約第21条第2項・第7項のような定めを追加します。この規約改正自体は「普通決議」で、総会に出席した区分所有者および議決権数の各過半数の賛成で可決できます。
  2. ステップ2:工事実施の決定(特別決議または条件付き普通決議)
    規約が改正された後、実際に給排水管更新工事を実施することを総会で決議します。この工事は、建物の形状や効用の著しい変更を伴わない場合でも、「共用部分の変更」にあたるため、原則として「特別決議」が必要です。これは、全区分所有者数および全議決権数の各4分の3以上の賛成が求められる、非常にハードルの高い決議です。ただし、構造躯体に影響がない場合は普通決議で足りる可能性があり(区分所有法第31条、2025年標準管理規約見直し参照)、各マンションの状況に応じて専門家に相談してください。

「規約改正(普通決議)」と「工事実施(特別決議または条件付き普通決議)」は別物です。この2段階の手続きを混同しないよう、計画的に進めましょう。

【5ステップで解説】専有部を含む給排水管更新の進め方

法的根拠を理解した上で、実際にプロジェクトをどう進めるか。ここでは、計画から工事完了までの流れを5つのステップに分けて解説します。

ステップ1:劣化診断と長期修繕計画への位置づけ

まずは専門家による配管の劣化診断を実施し、現状を正確に把握します。内視鏡調査などで配管内部の腐食や詰まり具合を確認し、更新の必要性や緊急性を判断します。
同時に、マンション管理適正化法第70~72条に基づき作成された長期修繕計画を見直し、今回の給排水管更新(専有部含む)を計画に明確に位置づけることが重要です。これにより、計画の妥当性と資金計画の透明性が高まります。長期修繕計画は管理組合の義務であり、専有部配管更新を修繕積立金で賄う場合も、この計画との整合性を確保してください。

ステップ2:規約改正と合意形成(説明会の開催)

ステップ1の診断結果を基に、工事の必要性やメリットについて住民向けの説明会を複数回開催します。ここでは、なぜ同時施工が必要なのか、費用は誰がどう負担するのか、工事中の生活への影響はどうなるのか、といった疑問に丁寧に答えることが不可欠です。
この合意形成プロセスと並行して、前述の管理規約改正のための総会(普通決議)の準備を進めます。

ステップ3:設計・施工業者の選定と見積もり取得

管理組合として、設計コンサルタントや施工業者を選定します。業者選定にあたっては、複数の業者から見積もりを取得する「相見積もり」が原則です。これにより、工事費用の妥当性を判断しやすくなります。
ただし、見積もり取得は管理会社や業者にとって大きな労力がかかるため、最初から5社も6社も依頼するのは現実的ではありません。管理会社は現地調査を3~4回行い、清掃会社、EV点検、消防、警備などの外注先との打ち合わせや理事会面談を複数回こなす必要があり、過度な依頼は対応を渋られる可能性があります。信頼できる2~3社に絞って依頼するのが賢明です。「2~3社程度で比較検討したい」といった現実的な依頼をし、管理会社をパートナーとして尊重する姿勢を見せることが、結果的に質の高い協力関係を築き、良い工事につながります。

ステップ4:総会決議(工事実施と費用負担の承認)

設計仕様、工事業者、見積金額、費用負担のルール、工期などが固まったら、いよいよ工事実施のための総会(特別決議または条件付き普通決議)を開きます。
ここでは、単に工事の実施を承認するだけでなく、「専有部の工事費用に修繕積立金の一部を充当する」といった資金計画についても、合わせて決議する必要があります。4分の3以上という高いハードルを越えるためには、ステップ2での丁寧な合意形成がものを言います。修繕積立金の健全性確保のため、月会費値上げや計画調整を伴う場合もあります(区分所有法・管理規約優先確認要)。

ステップ5:工事実施と完了検査

総会で承認が得られたら、いよいよ工事開始です。工事中は、住民への周知徹底や工程管理が重要になります。工事完了後は、管理組合と専門家が立ち会い、設計図書通りに施工されているか、漏水はないかなどを厳しくチェックする完了検査を行います。問題がなければ、引き渡しとなります。

費用とトラブルを乗り越えるためのQ&A

専有部を含む配管更新で最も気になるのが「費用」と「トラブル」です。ここでは、よくある疑問にQ&A形式で答えます。

Q1. 費用は誰がどこまで負担するの?

費用分担は、最も重要な論点の一つです。原則は以下の通りです。

  • 共用部(竪管など):管理組合が修繕積立金から負担
  • 専有部(横引管など):各区分所有者が自己負担

ただし、同時施工のメリットを活かすため、規約を改正し、総会で決議すれば、専有部の工事費用の一部または全部を修繕積立金から補助することも可能です。ただし、「どの工事を共用扱いにするか」は規約細則で定める必要があり、総会前に全区分所有者に具体的な分担表を提示することが推奨されます。修繕積立金の健全性確保のため、月会費値上げや計画調整を伴う場合あり(区分所有法・管理規約優先確認要)。

【戸数別】給排水管更新の費用シミュレーション(目安)
工事費用はマンションの構造や配管の材質によって大きく変動しますが、一般的な目安は以下の通りです。

マンション規模共用部工事費(総額)1戸あたり専有部工事費(自己負担)
50戸約2,500万円~4,000万円約50万円~80万円
100戸約4,500万円~7,000万円約45万円~75万円
200戸約8,000万円~1億3,000万円約40万円~70万円
※上記はあくまで目安であり、配管の劣化状況、材質、工法により変動します。(表が表示されない場合: 50戸=共用2,500-4,000万円/戸50-80万円、100戸=共用4,500-7,000万円/戸45-75万円、200戸=共用8,000-1億3,000万円/戸40-70万円。詳細は本文参照)

Q2. 専有部工事を拒否する区分所有者がいる場合はどうする?

特別決議で工事が決定しても、専有部への立ち入りを拒否する区分所有者が出てくる可能性があります。特別決議で工事が決定しても、専有部への立ち入りを拒否する区分所有者に対し、管理組合は法的強制力を有しません(区分所有法の原則)。専有部分の管理は所有者責任が基本です(区分所有法第31条)。
まず行うべきは、粘り強い説得です。工事の必要性や、放置した場合の漏水リスクを丁寧に説明し、理解を求めます。
それでも同意が得られない場合、区分所有法第6条第3項に基づき「共同の利益に反する行為の停止」を裁判所に請求する方法も理論上はありますが、これは時間も費用もかかる最終手段です。まずは、なぜ拒否するのか理由を真摯にヒアリングし、解決策を共に探る姿勢が重要です。原則として、個別区分所有者の同意が必須です。

Q3. 先に自費で配管をリフォームした居住者への対応は?

一斉更新の計画が持ち上がる前に、すでに自費で専有部の配管をリフォーム済みの区分所有者もいるでしょう。この場合、不公平感から計画に反対されるケースが少なくありません。
対策として、管理規約の細則で「先行工事者への補償ルール」を定めておくことが有効です。例えば、「一斉更新工事の10年以内に同等以上の仕様で更新済みの場合、管理組合が一斉更新で負担する専有部工事費相当額の一部(例: 30万円)を補助する」といったルールを総会で決議しておけば、合意形成がスムーズに進みます。補償算定は『管理組合が事前に複数業者から取得した住戸タイプ別見積額に基づく』方式が実務的です。金額・条件は規約細則で定め、総会決議で承認を得ることが不可欠です。(出典:国土交通省「マンション標準管理規約コメント」参考)

実務担当者が知るべき2つのヒント

計画をさらに円滑かつ有利に進めるための実務的なヒントを2つご紹介します。

ヒント1:負担を軽減する補助金制度の活用

給排水管の更新工事には、国や自治体の補助金制度が利用できる場合があります。これを活用しない手はありません。

  • 国土交通省「マンション長寿化等モデル事業」
    専有部と共用部の一体的な更新など、マンションの長寿命化に貢献する先進的な取り組みに対して、工事費の一部(最大1/3(参考値、2025年12月現在の最新制度内容は国土交通省公式サイトおよびご自身の自治体に確認ください))が補助されます。採択されるには、丁寧な合意形成や長期修繕計画との整合性が評価されます。(出典:国土交通省)
  • 自治体の助成制度(例:東京都)
    東京都の「マンション改良工事助成制度」のように、多くの自治体が独自の助成制度を設けています。2025年12月23日時点の制度では、戸当たり最大600万円(耐震改修を伴う場合)、最長20年の配管全面更新対象です。お住まいの市区町村の窓口で最新情報を確認してみましょう。(出典:東京都都市整備局)

ヒント2:管理会社との上手な付き合い方

見積もり取得や業者選定において、管理会社の協力は不可欠です。しかし、管理組合側の要望が強すぎると、敬遠されることもあるので注意が必要です。

見積もり作成には、現地調査や複数の下請け業者との調整など、管理会社にとって多大な労力がかかります。管理会社は管理委託内容の精査、会計状況、1棟全体の管理費等の見積もり作成のため、3~4回の現地訪問、清掃会社、EV点検、消防、警備などの外注先打ち合わせ、理事会面談を複数回行う必要があり、20~40戸程度の小規模マンションでは特に負担が大きいです。したがって、理由もなく多数の会社に相見積もりを依頼すると、対応を渋られたり、質の低い見積もりしか出てこない可能性があります。
「2~3社程度(3社以上は現実的でない)で比較検討したい」といった現実的な依頼をし、適切な期間(通常2~3ヶ月)を設定して管理会社をパートナーとして尊重する姿勢を見せることが、結果的に良い協力関係を築き、質の高い工事につながります。

まとめ:専有部を含む給排水管更新を成功させる3つの要点

マンションの給排水管更新において、専有部と共用部の同時施工は、漏水リスクを低減し資産価値を維持するための最適な選択肢です。この複雑なプロジェクトを成功させるためには、以下の3つの要点を押さえることが不可欠です。

  1. 法的根拠の正しい理解
    「規約改正のための普通決議」と「工事実施のための特別決議または条件付き普通決議」という2段階の手続きを理解し、計画的に進めることが全ての土台となります。
  2. 徹底した情報公開と丁寧な合意形成
    専門家による劣化診断結果などの客観的なデータを示し、説明会を重ねて住民の不安や疑問に真摯に答える姿勢が、4分の3以上という高い合意形成のハードルを越える力になります。
  3. 公平なルール作りと資金計画
    費用分担の原則を明確にし、先行工事者への補償ルールを設けるなど、全区分所有者の公平性を担保することが重要です。同時に、補助金活用や修繕積立金からの拠出を検討し、現実的な資金計画を立てましょう。

専有部を含む給排水管の同時更新は、管理組合にとって一大事業です。しかし、この記事で解説したステップと要点を参考に、専門家の力も借りながら一歩ずつ着実に進めれば、必ず成功させることができます。

免責事項

本記事は、マンションの給排水管更新に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の物件や状況に対する法的な助言を行うものではありません。
実際の計画推進にあたっては、必ず弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談ください。また、法令や補助金制度は改正される可能性があるため、必ず最新の情報をご確認いただくとともに、ご自身のマンションの管理規約の条項が最優先されることにご留意ください。本記事は2025年12月23日時点の情報に基づくもので、最新の法令改正および貴マンション管理規約を必ず確認してください。

参考資料

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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