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マンションの高齢化と安否確認の課題
マンションの高齢化が進み、「住民の安否確認をどうするか」は、多くの管理組合にとって喫緊の課題です。特に、日中管理員がいないマンションでは、万が一の事態への不安が大きくなりがちです。私自身、宅地建物取引士として様々なマンション管理の現場を見てきましたが、理事会で「高齢者見守りサービス」の導入が議題に上るケースは珍しくありません。
しかし、いざ導入を検討しようにも「どのサービスが良いのか?」「費用はどれくらいかかり、誰が負担するのか?」「総会での手続きはどう進めればいいのか?」といった疑問が次々と浮かび、話が進まないことも多いのが実情です。
本記事では、マンション管理組合の役員の皆様が、高齢者見守りサービスを具体的に検討できるよう、以下の点を網羅的に解説します。
- サービスの種類別費用相場と特徴
- マンション導入時の費用構造と負担の考え方
- ニーズ調査から総会決議までの4ステップ
- 導入前に確認すべき法的・倫理的チェックリスト
この記事を読めば、あなたのマンションに最適な見守りサービスの姿と、導入までの具体的な道筋が明確になります。住民の安全とマンションの資産価値を守るための、確かな一歩を踏み出しましょう。
背景知識:見守りサービスの種類とマンション導入の費用相場
高齢者見守りサービスと一口に言っても、機能や費用は様々です。まずは代表的なサービスの種類と、マンションに導入する際の費用構造を正しく理解することが、適切な選択の第一歩です。
代表的な見守りサービスの種類
見守りサービスには、大きく分けて「センサー型」と「ホームセキュリティ型」などがあります。それぞれの特徴と費用感を比較してみましょう。
| 種類 | 費用(初期) | 費用(月額/戸) | 主な機能 | プライバシー配慮 |
|---|---|---|---|---|
| ① センサー型 | 6,000円~20,000円程度 | 980円~3,800円程度 | ドア開閉や人感センサー、電力使用量の変化などで自動検知 | 中~高 |
| ② ホームセキュリティ型 | 68,000円~220,000円程度 | 5,000円~10,000円程度 | 自動検知+緊急通報+駆けつけ | 中~低(緊急時に介入) |
- ① センサー型:低コストで自動検知
住戸のドア開閉や人の動き、あるいは家全体の電力使用量の変化などをセンサーで検知し、一定時間動きがない場合に異常を通知するサービスです。プライバシーへの配慮度合いはサービスによりますが、比較的安価に導入できるのがメリットです。 - ② ホームセキュリティ型:駆けつけまで含む包括的安心
センサーによる自動検知に加え、緊急通報ボタンや健康相談ダイヤル、異常時の警備員による駆けつけサービスまで含まれる高機能なプランです。防犯や火災検知機能と一体になっていることも多く、包括的な安心を求める場合に選択肢となりますが、その分費用は高額になります。
マンション導入の費用構造と変動要因
Webサイトで見る「初期費用0円~20万円程度」と、実際に業者から提示される見積もりが大きく異なることがあります。その差はどこから生まれるのでしょうか。主にセンサー型は初期費用が低く抑えられる一方、ホームセキュリティ型やマンション全体のインフラ改修を伴うケースでは50万円以上に上る可能性があります。この差は、サービス種類、機器の買取かレンタルか、工事規模によるものです。
- 初期費用の差は「導入方式」と「工事費」
多くのサービスには、機器を買い取る「買取プラン」と、月額費用に上乗せする「レンタルプラン(ゼロスタートプラン)」があります。初期費用0円を謳うプランは後者です。また、ホームセキュリティ型などでは、機器代とは別に配線工事費や保証金で数万円~十数万円かかる場合があります。 - 月額費用の変動要因
月額費用は、選択するサービスの機能(駆けつけの有無など)と、導入戸数によって変動します。一般的に、導入戸数が多いほど1戸あたりの単価は下がる傾向にあります。
費用負担は誰が?「管理費会計」か「利用者負担」か
費用を誰が負担するかは、管理組合にとって重要な論点です。主に2つのパターンが考えられます。
- 管理費会計から支出(全戸対象)
- メリット:全戸一括契約で単価を下げやすい。不公平感がなく、マンション全体の安全対策として位置づけられる。
- デメリット:サービスを不要と考える住民から反対される可能性がある。管理費の値上げが必要になる場合もある。
- 利用者負担(希望者のみ)
- メリット:必要な人だけが利用するため、合意形成が容易。
- デメリット:導入戸数が少ないと割高になる。管理組合としての統一的な安全対策にはなりにくい。
どちらの方式が良いかは、マンションの戸数や住民の年齢構成、コミュニティの状況によって異なります。理事会で両方のメリット・デメリットを十分に比較検討することが重要です。
手続・対応ステップ:管理組合が進める導入手続きと総会決議
見守りサービスの導入は、管理組合として正式な手続きを踏む必要があります。ここでは、理事会が主体となって導入を進めるための4つのステップを解説します。
Step1:ニーズ調査と検討委員会の設置
まずは、マンション内に見守りサービスへのニーズがどれくらいあるのかを把握します。アンケートを実施し、独居高齢者の世帯数、安否確認への不安の有無、サービス導入への賛否などを調査しましょう。
一定のニーズが見込まれる場合は、理事会の役員や関心の高い住民で「見守りサービス検討委員会」などを設置すると、その後のプロセスを円滑に進めやすくなります。
Step2:サービス選定と資料収集の取り方
次に、複数のサービス提供会社から資料を取り寄せ、比較検討します。ここで重要なのが資料収集の方法です。一般的に2~3社からの資料収集が検討の参考になる場合がありますが、管理会社側の労力を考慮する必要があります。管理会社は見積もり作成のために現地調査や清掃・点検等の外注先との調整など、多大な労力をかけます。依頼社数が多すぎると敬遠される可能性があり、特に20~40戸程度の小規模マンションでは、積極的な対応が得られにくくなることがあります。また、見積もりを依頼する際は「清掃費一式」のような大雑把な項目ではなく、具体的な作業内容ごとに費用を明示してもらうよう依頼するのが適切です。
【宅建士の実務メモ】管理会社側の視点も考慮
管理委託費の見積もりでは、組合の要望が強すぎると管理会社から敬遠される恐れがあります。管理会社は、管理委託内容の精査、会計状況、1棟全体の管理費の見積もり作成に3~4回の現地訪問、清掃会社・EV点検・消防・警備などの外注先との打ち合わせ、理事会との面談を要します。この労力を踏まえ、依頼を現実的に絞ることが重要です。
サービスを選定する際は、費用だけでなく、以下の点も比較します。
- 異常検知時の連絡フロー(誰に、どの順番で連絡がいくか)
- プライバシーへの配慮
- 導入後のサポート体制
Step3:総会議案書の作成と合意形成のポイント
導入するサービスと費用計画が固まったら、総会に提出する議案書を作成します。議案書には以下の内容を盛り込み、住民の理解を得られるように努めましょう。
- 導入の目的(高齢化の現状、安全確保の必要性)
- 導入するサービスの内容と選定理由
- 費用(初期費用、月額費用)と負担方法
- 導入後の運用体制
- 個人情報の取り扱いに関する説明
事前に説明会を開催し、住民からの質問に丁寧に答える場を設けることも、円滑な合意形成につながります。
Step4:総会決議は「普通」か「特別」か?
見守りサービスの導入は、多くの場合、総会での決議が必要です。このとき、必要な決議が「普通決議」なのか「特別決議」なのかを正しく理解しておく必要があります。ただし、管理規約に特段の定めがある場合や個別事情により決議要件が変わる可能性があるため、管理規約を最優先に確認し、専門家(マンション管理士等)に相談を推奨します。
- 普通決議:区分所有者および議決権の各過半数の賛成で可決。(区分所有法第39条1項)
- 特別決議:区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成で可決。(区分所有法第31条1項など)
見守りサービス導入はどの決議に該当するのでしょうか。これは、サービスの費用をどこから支出し、共用部分に変更を加えるかによって判断が分かれます。
【区分所有法に基づく判断基準】
1. 共用部分への機器設置が「形状又は効用の著しい変更を伴わない」場合
→ 普通決議で可能(区分所有法第17条1項本文)。
2. 管理費の使途としてサービス利用料を支出するため、管理規約の変更が必要な場合
→ 特別決議が必要(区分所有法第31条1項)。
センサー型のように共用部に大掛かりな工事を伴わないサービスで、かつ既存の管理費の使途範囲内で支出できる場合は、普通決議で足りるケースが多いと考えられます。ただし、判断に迷う場合は、管理会社やマンション管理士などの専門家に相談することをおすすめします。また、国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」の第26条(管理事務の実施)や第46条(管理費の徴収)などを参照し、規約の具体的な記載を確認してください。
FAQ:見守りサービス導入に関するよくある質問
ここでは、管理組合の役員の方からよく寄せられる質問にお答えします。
Q. 希望者のみの導入は可能ですか?
A. はい、可能です。
その場合、費用はサービスを利用する個人が負担する「利用者負担」方式となります。管理組合は、希望者を取りまとめて一括で申し込むことで、団体割引などが適用されるかサービス会社に確認してみるとよいでしょう。ただし、この方式ではマンション全体の安全対策というよりは、個別の自助努力という位置づけになります。
Q. 賃貸で貸している部屋の入居者も対象になりますか?
A. 区分所有者(オーナー)の承諾と、実際にお住まいの入居者本人の同意があれば対象にできます。
管理費から費用を支出する場合、賃貸入居者もサービス対象に含めるのが一般的です。ただし、安否情報は極めて重要な個人情報であるため、入居者本人からの明確な同意取得が不可欠です。オーナーを通じて入居者の意思確認を行うのが適切です。
Q. 導入後の運用は誰が担当するのですか?
A. 異常検知時の一次対応や連絡は、管理会社が担うのが一般的です。
サービス会社から異常検知の連絡を受けた管理会社が、事前に定めたルール(例:①本人へ電話 → ②緊急連絡先へ連絡 → ③現場確認)に従って対応します。この連絡・対応フローを、サービス会社、管理会社、管理組合(理事会)の三者で事前に書面で協定しておくことが、トラブルを防ぐ上で非常に重要です。
実務ヒント:コスト削減とリスク管理のポイント
導入を成功させるためには、コストを賢く抑え、法的なリスクを適切に管理することが不可欠です。
助成金・補助金制度の活用
お住まいの自治体によっては、高齢者見守りサービスの導入費用を補助する制度があります。自治体により制度内容が異なり、例えば高崎市では機器設置費用を全額負担(通話料・電気代は自己負担)、立川市や豊中市でも初期費用の一部助成が可能です(出典:高崎市公式ウェブサイト、2024年。立川市公式ウェブサイト、2024年。豊中市公式ウェブサイト、2024年)。
| (事例)高崎市「高齢者見守り支援」 対象サービスを利用する際にかかる初期費用(機器の購入・設置・登録等)について、機器費用全額を助成する制度があります。 (出典:高崎市公式ウェブサイト、2024年) |
このような制度を活用すれば、導入コストを大幅に削減できます。「(お住まいの市区町村名) 高齢者 見守り 助成金」などのキーワードで検索し、利用できる制度がないか必ず確認しましょう。
注意:見守りサービスは「介護保険適用外」
ここで注意すべきは、見守りサービスは原則として介護保険の適用対象外であるという点です。これはあくまでマンション管理の一環としての安全対策サービスであり、公的な福祉サービスとは異なります。サービス内容は安否検知が主で、医療診断や介護支援には該当しません。費用は基本的に自己負担または管理費からの支出となると認識しておきましょう(出典:公益財団法人マンション管理センター、2021年)。
導入前に必須の4つの法的・倫理的チェックリスト
導入後に「こんなはずではなかった」という事態を避けるため、以下の4点は必ず確認・徹底してください。
- 【個人情報保護法】同意取得と情報管理は万全か?
安否情報(生きているかどうかという情報も含む)は個人情報です。サービス利用には、2022年改正個人情報保護法に基づき、本人から書面等で明確な同意を得る必要があります。管理組合が名簿などを管理する場合、「個人情報取扱事業者」としての安全管理義務を負う可能性があるため、誰が、どこまでの情報を、どのように管理するのか、ルールを厳格に定め、専門家確認を推奨します。 - 【サービスの限界】医療行為・介護ではないことの周知徹底
見守りサービスは、あくまで「異常の早期発見」を目的とするものであり、病気の診断や治療、介護行為を行うものではありません。この限界を全住民に正しく周知し、過度な期待を抱かせないことが重要です。 - 【異常検知の基準】管理会社との事前協定は済んでいるか?
「何時間反応がなければ異常とみなすのか?」という基準を、管理会社やサービス会社と事前に具体的に協定しておく必要があります。季節やライフスタイルによる生活パターンの変化、外出時との区別も考慮し、誤報が頻発しないような適切な基準設定が求められます。 - 【管理組合の責任範囲】万が一の際の法的責任
万が一、システムが作動しなかったり、発見が遅れたりした場合、管理組合がどこまで責任を負うのかを明確にしておく必要があります。サービス契約書の内容を精査し、組合の免責事項について確認しておきましょう。また、高齢者虐待防止法の観点から、管理組合には直接の通報義務はありませんが、異常の察知が虐待の早期発見への協力(例:関係機関への情報提供の可能性)を促す役割を担う側面があります。しかし、発見後の介入は行政や専門機関の役割であり、管理組合が直接介入すべきではないことも合わせて理解しておく必要があります。
まとめ:住民の安全と資産価値を守る第一歩
今回は、マンション管理組合が高齢者見守りサービスを導入する際の費用、手続き、注意点について解説しました。
- 費用の鍵はサービス選択:プライバシーに配慮したセンサー型(電力使用量の変化を検知するタイプなど)は比較的安価で、住民合意も得やすいためマンション導入の選択肢となります。
- 手続きの要は合意形成:アンケートでのニーズ把握から始め、総会での丁寧な説明が不可欠です。決議要件は多くの場合「普通決議」で足りますが、規約変更が伴う場合は「特別決議」が必要になる可能性もあります。
- リスク管理を徹底する:個人情報保護法の遵守、サービスの限界の周知、責任範囲の明確化など、法務・倫理面の事前準備を怠らないことが成功の秘訣です。
見守りサービスの導入は、単に高齢住民の安全を守るだけでなく、安心して住み続けられるマンションとして、その資産価値を維持・向上させることにも繋がります。この記事を参考に、あなたのマンションに合った形での導入を、ぜひ具体的に検討してみてください。
免責事項
本記事は、マンションにおける高齢者見守りサービスの導入に関する一般的な情報提供を目的としており、特定のサービスを推奨するものではありません。また、個別具体的な事案に対する法的な助言を行うものでもありません。制度や法令は改正される可能性があるため、導入を検討する際は、必ず最新の情報をサービス提供会社や自治体、弁護士・マンション管理士等の専門家にご確認ください。個別の契約内容が本記事の情報に優先します。
参考資料
- 国土交通省「『居住者等の安否確認』に関するマニュアル」(2020年)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001352635.pdf - 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」
https://www.mlit.go.jp/common/001280537.pdf - 公益財団法人マンション管理センター「マンション管理組合を支援します(業務支援室リーフレット)」(2021年)
https://www.kanrikyo.or.jp/report/pdf/gyoumu/shienleaflet.pdf - hello.inc「【2024年版】高齢者見守りサービス28選|料金・特徴・選び方を徹底比較」(2024年)
https://hello.inc/news/article/monitoring-service-price/ - ALSOK「みまもりサポート」
https://www.alsok.co.jp/person/mimamori/ - SECOM「親の見守りプラン」
https://www.secom.co.jp/homesecurity/plan/senior/ - dskpark.net「マンション内の高齢者をどう見守る?管理組合ができることとは」
https://dskpark.net/archives/676 - 横浜マンション管理組合ネットワーク「これからの分譲マンションで、高齢者の安全対策にどう向き合うか?」
https://yokohama-mankan.com/safety-measures-for-the-elderly/ - 株式会社マインド「マンションでの孤独死を防ぐには?生前の対策と死後の対応方法も解説」
https://www.mind-company.jp/column/post-8806.html - 高崎市公式ウェブサイト「高齢者見守り支援」(2024年)
https://www.city.takasaki.lg.jp/kurashi/korei/kaigo/mimamorishien.html - 立川市公式ウェブサイト「高齢者見守り」(2024年)
https://www.city.tachikawa.lg.jp/shisetsu/fukushi/koreisha/anshin/ - 豊中市公式ウェブサイト「高齢者見守り」(2024年)
https://www.city.toyonaka.osaka.jp/kurashi/fukushi/koreisha/mimamori/
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

