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はじめに
かつては「マンション=駐車場完備」が販売上の強みでした。しかし近年は少子高齢化やカーシェアの普及により、駐車場が余るマンションが急増しています。特に機械式駐車場は維持費が高額で、空きが増えると修繕積立金を圧迫し、住民全体の負担増に直結します。
本稿では、駐車場余りがもたらす財政リスクと、実際に取り得る活用策・対策を整理します。
駐車場余りが財政を圧迫する仕組み
固定費が重い機械式駐車場
- 年間保守点検費:1基あたり20〜30万円
- 大規模改修:築20年前後で数百万円〜1千万円単位
- 部品供給終了後は全基入替が必要になることも
仮に「50台収容の機械式」で利用率50%に落ち込むと、維持費の半分を空き区画分として修繕積立金から補填せざるを得なくなります。
長期修繕計画への影響
国交省ガイドラインに基づく長期修繕計画では、エレベーターや給排水管と並び「機械式駐車場改修」が大きな支出項目です。
しかし利用率低下により収入が減ると、修繕積立金の不足を早期に招き、積立金改定や一時金徴収のリスクが発生します。
空き駐車場の活用方法
駐車場余りへの対策は「収益化」と「維持費削減」の2軸で考えるのが現実的です。
(1)外部貸し出し(時間貸し・月極)
- コインパーキング事業者と提携し、機械式を平置きに改修して外部に貸す
- 月極利用なら近隣相場で収益を安定化
- 時間貸しなら駐車需要が高いエリアで有効
👉 注意点:区分所有法上は共用部分の使用方法変更にあたり、総会特別決議が必要。収益の配分ルールも細則で明記する必要があります。
(2)バイク置場・駐輪場への転用
- 空き区画をバイクや自転車用に改修
- 初期費用は1区画数万円〜数十万円程度
- バイク利用者は一定層あり、需要が安定
👉 メリット:改修コストが比較的安価で、駐車収入減少を補いやすい。
(3)トランクルーム・レンタルスペース
- 車室を改造しトランクルームとして外部貸与
- 月額5,000〜10,000円程度で安定収入
- セキュリティが強いマンションは特に有利
👉 課題:消防法や建築基準法の適合確認が必須。
(4)EV充電設備の優先設置
- 空き区画をEV専用に改修し、利用料を上乗せ
- 国や自治体の補助金を活用可能
- 将来の資産価値向上策としても有効
維持費削減の選択肢
(1)機械式駐車場の一部停止
- 利用率の低い段階を停止し、保守費用を削減
- 年間数十万円単位で節約可能
- 将来再利用の可能性を残す場合は「撤去」より柔軟
(2)撤去・平置き化
- 根本的な解決策は「機械式駐車場を撤去」
- 撤去費用:1基数百万円〜1,000万円超
- ただし長期的には維持費削減効果が大きい
👉 撤去は区分所有法上の「重大な共用部分変更」に該当するため、**総会の特別決議(4分の3以上の賛成)**が必要。
実務での導入ステップ
- 利用実態調査:駐車場稼働率・近隣相場を調査
- 将来試算:修繕積立金への影響シミュレーションを提示
- 活用案の比較:外部貸し・バイク転用・撤去など複数案を提示
- 総会議案書作成:費用・収益・合意形成方法を明記
- 総会特別決議:共用部分の用途変更や撤去には必須
- 実施・運用開始:収益と維持費削減効果を毎年報告
まとめ
駐車場余りは単なる「空き区画」の問題ではなく、修繕積立金を確実に圧迫する構造的リスクです。
対応を先送りすればするほど財政悪化につながり、最終的には一時金徴収や修繕積立金大幅値上げといった住民負担に直結します。
したがって管理組合は、
- 利用実態の「見える化」
- 外部貸しや転用による収益化
- 撤去・平置き化による維持費削減
を組み合わせ、特別決議のプロセスを踏んで計画的に対応することが不可欠です。
「駐車場余りへの無策」が、マンションの資産価値を大きく下げる時代に入っています。今こそ理事会が積極的に議題に上げ、住民全体で合意形成を図るべきでしょう。