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マンションの将来を左右する「長期修繕計画」。その見直し、先延ばしにしていませんか?
築年数が経過し、現在の計画や修繕積立金の額に漠然とした不安を感じている管理組合の理事の方も多いのではないでしょうか。特に2022年の法改正以降、計画の妥当性を見直す重要性は増すばかりです。しかし、将来の資金ショートを防ぎたくても「何から手をつければいいかわからない」のが実情かもしれません。
この記事では、宅地建物取引士の視点から、専門家による「長期修繕計画の無料診断」を賢く活用する方法を徹底解説します。法的背景から具体的な診断内容、失敗しないための注意点まで、理事会が今すぐ取り組める実務的なステップをまとめました。この記事を読めば、将来の資産価値を守るための第一歩を、自信を持って踏み出せるようになります。
背景知識:なぜ今、長期修繕計画の見直しが急務なのか
なぜ多くのマンションで、今、長期修繕計画の見直しが急務とされているのでしょうか。その背景には、法改正による制度変更と、建物の資産価値を維持するための現実的な要請があります。
まず、基本的な用語を整理しましょう。
【用語の整理】
- 長期修繕計画:マンションの建物や設備を長期間良好な状態で維持するための、将来の修繕工事の時期や費用をまとめた計画書。
- 修繕積立金:長期修繕計画に基づき、将来の大規模修繕工事に備えて区分所有者から毎月徴収するお金。
- 管理費:日常の清掃や管理委託費など、日々の管理に使われる費用。修繕積立金とは明確に区別されます。
これらの違いを理解することが、適切な資金計画を立てる第一歩です。その上で、見直しが求められる3つの理由を見ていきましょう。
【2022年法改正】マンション管理適正化法と「5年ごとの見直し」推奨
最大の理由は、2022年4月に施行された改正マンション管理適正化法です。この法改正で「管理計画認定制度」が創設され、適切な管理計画を持つマンションが自治体から認定を受けられるようになりました。
この認定基準の中で、長期修繕計画が策定され、定期的な見直しが行われていることが重要な要件とされています(出典:国土交通省「管理計画認定基準の見直し等について」、2022年)。国土交通省のガイドラインでは、具体的に「5年程度ごと」の見直しが推奨されており、さらに「5年程度ごとに調査を実施し、その後1年から2年程度の間に見直しを行う」とより具体的に示されています。これは努力義務であり、区分所有法やマンション管理適正化法に長期修繕計画の見直しに関する直接的な罰則規定はありませんが、認定を取得し資産価値を維持向上させるためには、事実上必須の対応と言えるでしょう。
見直しの最適なタイミングは「大規模修繕の3年前」
計画全体の見直しは5年ごとが目安ですが、特に重要なのが大規模修繕工事を控えたタイミングです。一般的に、工事実施の3年ほど前には計画の見直しに着手するのが理想的です。
なぜなら、この時期に改めて建物調査診断を行い、実際の劣化状況に合わせて工事内容や仕様、費用を精査する必要があるからです。直前になって慌てて計画を見直すと、資金不足が発覚しても対応が間に合わない可能性があります。
計画期間も「30年以上」が新常識に
かつて長期修繕計画の期間は「25年以上」とされていましたが、法改正に伴い、新築マンションと同様に「30年以上」が標準となりました(出典:国土交通省「管理計画認定基準の見直し等について」、2022年)。
さらに、機械的に「12年ごと」とされていた大規模修繕の周期も、建材の進化などを踏まえ「12年~15年」と柔軟な設定が認められるようになっています。お使いのマンションの計画が古い基準のままであれば、早急な見直しが必要です。
手続・対応ステップ1:「無料診断」でわかる4つのこと
「見直しの必要性はわかったけれど、何から手をつければ…」という理事会にとって、第一歩となるのが専門家による「無料診断」です。これは、現在の長期修繕計画書をプロの視点でチェックしてもらうサービスです。無料診断では、主に以下の4つのポイントが明らかになります。
Point1: 計画期間・修繕周期の妥当性
まず、計画全体の期間が30年以上確保されているか、大規模修繕の周期が建物の実態(立地、建材、仕上げ等)に合っているかなどを診断します。例えば、一律12年周期で計画されていても、診断の結果15年周期に延長可能と判断されれば、積立金の値上げ幅を抑制できる可能性があります。また、建物の材質や性能から15~18年に周期を伸長できる場合もあります。
Point2: 修繕項目の過不足と工事仕様の最適化
計画に盛り込まれている修繕項目に漏れはないか、逆に不要な工事が含まれていないかをチェックします。例えば、機械式駐車場設備の消火設備が修繕計画にまったく反映されていなかった場合、その差額が3,000万円に上る可能性があります。また、オーバースペックな工事仕様になっていないかなど、コスト削減に繋がる指摘も期待できます。
Point3: 費用の算出根拠と最新単価の反映
作成から時間が経った計画では、工事費の単価が現状と乖離しているケースが少なくありません。無料診断では、現在の物価や人件費を考慮した概算費用との比較が行われ、将来の費用不足リスクを洗い出します。見直し時には最新の単価や物価を考慮し、工事の概算を再算出することが、実現可能な資金計画策定に不可欠です。
Point4: 修繕積立金の見直し必要性と将来シミュレーション
診断結果を基に、現在の修繕積立金の額で将来の工事費用を賄えるか、資金ショートの危険はないかをシミュレーションします。積立金が不足する場合、どの程度の値上げが必要になるかの目安も示されます。無料診断の目的としてマンション管理適正評価制度および管理計画認定制度への対応が明示されており、これらの新制度要件を満たすための検証が含まれ、自己評価を行うためのサポートや情報提供が位置づけられています。
【監修者注】無料診断の限界も理解しよう
無料診断はあくまで計画書に基づく「机上での簡易診断」です。詳細な建物調査や、正式な計画書作成は有料サービスとなります。しかし、計画の問題点を初期段階で把握し、理事会内で課題を共有するための第一歩として非常に有効です。
手続・対応ステップ2:診断〜総会決議までの5ステップ
無料診断で課題が見つかったら、次はいよいよ本格的な見直し作業です。理事会が主導し、専門家のサポートを得ながら進めるのが一般的です。
Step1: 専門家(コンサルタント)の選定と無料診断の依頼
まずは信頼できる専門家(マンション管理士、修繕コンサルタント等)を探し、無料診断を依頼します。この際、複数の候補から話を聞くことが重要です(詳細は後述)。
Step2: 診断レポートの受領と理事会での内容精査
提出された診断レポートを基に、理事会で現状の課題を共有します。どの点を優先的に見直すべきか、専門家の意見も交えながら議論します。
Step3: (有料)計画見直し・作成支援サービスの契約
無料診断の結果、本格的な見直しが必要と判断した場合、専門家と正式にコンサルティング契約を結びます。計画案の作成だけでなく、次のステップである組合員への説明までサポートしてくれる業者を選ぶとスムーズです。無料診断後、より詳細な見直しが必要な場合は、有料の長期修繕計画見直し・作成サービス(30年計画・60年計画対応、国土交通省標準書式対応)を提供します。
Step4: 組合員への説明会の開催と合意形成
新しい計画案が固まったら、総会での決議に先立ち、組合員向けの説明会を開催します。なぜ見直しが必要なのか、積立金がどう変わるのかなどを丁寧に説明し、質疑応答を通じて理解を深めてもらう、合意形成における最も重要なプロセスです。専門業者は、単に計画を作成するだけでなく、説明会や総会に同席して、組合員の合意形成までサポートする付加価値サービスを提供しており、これは資金計画改定の実行率向上に寄与します。
Step5: 総会での決議(普通決議と特別決議の違い)
最終的に、総会で新しい長期修繕計画(案)と、それに伴う修繕積立金の改定(案)を決議します。ここで注意すべきは、決議の要件です。
- 普通決議:長期修繕計画の「計画」そのものの変更。原則として、出席組合員の議決権の過半数で可決(区分所有法第39条)。ただし、規約に別段の定めがある場合はその定めに従います。
- 特別決議:修繕積積立金の「金額」の変更など、管理規約の変更を伴う場合。原則として、組合員総数の4分の3以上、かつ議決権総数の4分の3以上の賛成が必要(区分所有法第31条)。
ただし、これらはあくまで原則です。ご自身のマンションの管理規約で別途定めがある場合は、そちらが優先されます。必ず管理規約を確認し、不明な点は専門家や弁護士に相談してください。
手続・対応ステップ3:「積立金不足」判明時の3つの対応策
診断の結果、最も懸念されるのが「修繕積立金の不足」が判明するケースです。しかし、パニックになる必要はありません。対応策は主に3つあります。
選択肢1: 修繕積立金の値上げ(推奨)
最も健全で推奨される方法が、将来にわたって資金計画が成り立つよう、積立金の月額を計画的に引き上げることです。負担は長期に分散されるため、一人ひとりの月々の負担増は比較的小さく抑えられます。組合員の合意形成が必要となりますが、将来の安心のための最も確実な一手です。ただし、修繕積立金の改定は管理規約の変更を伴うことが多く、その場合は総会での特別決議が必要となる点に注意が必要です。
選択肢2: 一時金の徴収
大規模修繕工事の直前など、目前に迫った資金不足を補うために、全戸から一時金を徴収する方法です。短期的に資金を確保できますが、一戸あたりの負担額が大きくなりがちで、特に年金生活者や所得の低い世帯には大きな負担となるため、合意形成が難しい場合があります。
選択肢3: 金融機関からの借り入れ
住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」などを利用する方法です。一時的な負担なく工事に着手できますが、当然ながら利息が発生し、返済期間中は組合全体の負債となります。あくまで最終手段と考えるべきでしょう。
将来の世代に負担を先送りしないためにも、まずは「積立金の値上げ」を軸に検討し、組合員の理解を得る努力をすることが、マンション全体の資産価値を守ることに繋がります。
FAQ:長期修繕計画の見直しに関するよくある質問
Q1. 無料診断は本当に無料ですか?追加費用を請求されませんか?
A1. はい、信頼できる専門業者が提供する初期診断は無料です。診断レポートの提出までが無料で、その後の詳細な計画作成やコンサルティングは有料となります。無料の範囲は事前に必ず確認しましょう。
Q2. 見直しにはどのくらいの期間がかかりますか?
A2. 目安として、無料診断の依頼から総会決議まで、スムーズに進んでも半年〜1年程度はかかります。特に組合員向け説明会など合意形成には時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールで進めることが重要です。
Q3. 積立金の値上げに反対する人が出たらどうすれば良いですか?
A3. 反対意見の背景には「なぜ値上げが必要なのか」という情報不足や将来への不安があります。専門家にも同席してもらい、客観的なデータ(診断結果、将来の資金シミュレーションなど)を基に、見直しをしない場合のリスクを丁寧に説明し、理解を求める努力が不可欠です。個別の感情論ではなく、マンション全体の利益を考える視点を持ってもらうことが大切です。
実務ヒント:無料診断で失敗しないための3つのポイント
無料診断は有効なツールですが、使い方を誤ると時間と労力を無駄にしかねません。成功に導くための3つのポイントを押さえましょう。
相見積もりは2〜3社が現実的
複数の専門家から意見を聞くことは重要ですが、やみくもに相見積もりを取るのは得策ではありません。特に20〜40戸程度の中小規模マンションの場合、5社も6社も見積もりを依頼すると、専門家側から敬遠される可能性があります。
なぜなら、無料診断とはいえ、計画書の読み込みや概算作成には専門家の相応の労力がかかるためです。現地調査や理事会との面談が伴う場合はなおさらです。中立的な専門家2〜3社に絞って丁寧に話を聞くのが、結果的に質の高い提案を引き出すコツです。組合側の要望が強すぎると、専門家側が労力増大を理由に敬遠する恐れがあるため、2〜3社程度が現実的です。
専門家は「中立性」で選ぶ|管理会社任せにしない
日常的に付き合いのある管理会社に見直しを依頼するのは容易な選択肢に見えます。しかし、管理会社は将来の工事受注も視野に入れているため、提案が自社に有利な内容に偏る可能性もゼロではありません。
理想は、特定の施工会社と利害関係のない、独立系のマンション管理士や建築士系のコンサルタントに相談することです。管理組合の立場に立った、中立的なアドバイスが期待できます。管理組合理事は、専門家(マンション修繕コンサルタント)を中立的な立場で選定することが注意点として明記されており、管理会社系列の推薦だけに依存しない工夫が必要です。
「管理計画認定制度」と「管理適正評価制度」の違いを正しく理解する
最近よく耳にする2つの制度ですが、その性質は異なります。この違いを理解しないと、専門家の提案を正しく評価できません。管理計画認定制度はマンション管理組合とマンション建物の管理状態を評価するものであり、特定の「マンション管理会社」の業務品質や信頼性を評価する制度ではありません。管理適正評価制度も管理会社を評価するものではなく、管理組合が自らの管理状況を評価・公表する自己認証の公表制度です。
- 管理計画認定制度:評価主体は市区町村などの地方公共団体、評価の対象はマンションの管理計画(長期修繕計画を含む)、性質は行政による認定。
- マンション管理適正評価制度:評価主体は(専門家がサポートし)管理組合自身、評価の対象はマンションの管理状態全般、性質は管理組合による自己評価・公表。
重要なのは、どちらの制度も「マンション管理会社」を評価・格付けするものではないという点です。無料診断が「適正評価制度の要件充足を検証する」と謳っている場合、それは「管理組合が自己評価を行うための情報提供やサポートをする」という意味合いであり、第三者が評価を保証するものではないと理解しましょう。特に「マンション管理適正評価制度」は、管理会社を評価する制度ではなく、あくまで管理組合が自らの管理状況を客観的に把握し、公表するための「自己評価」の仕組みである点を混同しないことが重要です。
まとめ:将来の安心のために、今すぐ計画の妥当性をチェックしよう
長期修繕計画の見直しは、将来の資金ショートを防ぎ、マンションの資産価値を維持するために不可欠な管理組合の責務です。
- 2022年の法改正により、5年ごとの見直しと30年以上の計画期間が新常識に。
- 第一歩として「無料診断」を活用し、計画の課題を客観的に把握することが有効。
- 診断後は、理事会主導で専門家のサポートを得ながら、合意形成を経て総会決議を目指す。
- 積立金不足が判明しても、値上げ、一時金、借入といった選択肢を冷静に検討する。
- 専門家選定では「中立性」を重視し、相見積もりは2~3社に絞るのが現実的。
何から始めるべきか迷っているなら、まずは信頼できる専門家を探し、無料診断を依頼することから始めてみませんか。行動を起こすなら、早ければ早いほど有利です。この記事が、皆さんのマンションの明るい未来に向けた一助となれば幸いです。
信頼できる情報の確認先として、以下の公的機関や専門家団体もご活用ください。
- 国土交通省
- 公益財団法人マンション管理センター
- お住まいの都道府県のマンション管理士会
- 住宅金融支援機構(マンションライフサイクルシミュレーション)
免責事項
本記事は、執筆時点の法令や情報に基づき、一般的な情報提供を目的として作成されたものです。特定のマンションの状況に対する法的・財務的アドバイスを行うものではありません。長期修繕計画の見直しや修繕積立金の改定など、具体的な検討を進める際には、必ず管理組合内で十分に協議し、マンション管理士や弁護士などの専門家にご相談ください。また、法令等は改正される可能性があるため、最新の情報は国土交通省などの公式サイトでご確認いただくようお願いいたします。
参考資料
- 国土交通省「管理計画認定基準の見直し等について」 (2022) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001967968.pdf
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)コメント」 (2024) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001733324.pdf
- さくら事務所「長期修繕計画 無料診断」 https://www.s-mankan.com/campaign/chokei
- D-MAN管理事務所「マンションの長期修繕計画の見直し」 https://dman.co.jp/p2679/
- 株式会社山本財宅「マンション管理適正化法の改正についてわかりやすく解説」 (2022) https://yamatozaitaku.com/column/mankan/2204_optimization-method/
- 公益財団法人マンション管理センター http://www.mankan.or.jp
- 住宅金融支援機構「マンションライフサイクルシミュレーション」 https://www.jhf.go.jp/simulation_loan/m-simulation/index.html
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

