管理員の雇用維持と移籍:管理会社変更時の4ステップ完全ガイド

管理委託費の見積もりにおける主要な内訳項目を示す円グラフ。人件費、清掃費、事務費など各項目を明示的に分けることで、費用の適正性を確認しやすくなることを視覚的に伝えています。

※本コラムの内容は、当社が独自に調査・収集した情報に基づいて作成しています。無断での転載・引用・複製はご遠慮ください。内容のご利用をご希望の場合は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。

マンション管理員の雇用維持と管理会社変更時の移籍方法

マンション管理会社の変更や事業撤退は、管理組合にとって大きな転機です。その際、長年親しんだ管理員の雇用がどうなるのかは、多くの理事役員様が抱える切実な悩みではないでしょうか。管理員の解雇を避け、スムーズな引き継ぎを実現するためには、感情論ではなく、法的な根拠と実務的な手順を踏まえた周到な準備が不可欠です。

この記事では、宅地建物取引士の知見を基に、管理員の雇用を維持し、新しい管理体制へ円滑に移籍させるための具体的な方法を解説します。契約形態の確認から総会決議、新旧管理会社との交渉術まで、管理組合が直面する課題を4つのステップで整理しました。信頼できる管理員との関係を維持し、マンションの資産価値を守るための一助となれば幸いです。

目次

背景知識:なぜ今「管理員の雇用維持」が重要課題なのか?

管理員の雇用維持が、なぜこれほど重要な経営課題として浮上しているのでしょうか。その背景には、社会構造の変化とマンション管理業界が直面する二つの大きな現実があります。

管理員不足と高齢化の現実

現在、マンション管理業界では、管理員のなり手不足が深刻な問題となっています。少子高齢化に伴い、管理業務の担い手は減少し、既存の管理員の多くも高齢化が進んでいます。この状況は、一度経験豊富で信頼できる管理員を失うと、同等水準の人材を新たに確保することが一般的に困難になる傾向があります。管理員の質は、マンションの住み心地や資産価値に直結するため、安易な解雇は避けるべき経営判断と言えるでしょう。

管理会社変更・撤退がもたらす雇用不安

管理会社の変更や、中小規模の管理会社が事業から撤退するケースは、管理員の雇用に直接的な影響を及ぼします。管理会社が変われば、通常、管理員との雇用契約も新しい会社が引き継ぐか、あるいは一度リセットされることになります。実務上、管理会社変更時に現行の管理員が新管理会社で継続勤務するケースが多い一方で、契約リセット(または解雇)となるケースもあります。つまり、適切な事前交渉を行えば、継続勤務の可能性は高いということです。

この際、管理組合として明確な方針がなければ、管理員は一方的に解雇されたり、労働条件が悪化したりするリスクに晒されます。住民との良好な関係を築いてきた管理員の雇用を守ることは、管理組合自身の安定した運営にも繋がる重要な課題なのです。

2026年の管理会社撤退リスクについて

2026年は、マンション管理業界にとって転機の年です。管理員の最低賃金上昇、社会保険料負担増により、採算の合わないマンションから管理会社が3ヶ月前予告による一方的撤退を行うケースが増加する見通しです。本記事で説明する管理員の雇用維持は、同時に管理会社の撤退予告への対応とも連動しています。適切な労働環境整備(給与・勤務時間の改善)は、管理会社からの撤退予告を防ぐためにも有効な施策です。

【重要】契約関係の確認:「雇用」か「業務委託」か

管理員の雇用維持を検討する上で、まず最初に確認すべき最も重要な点があります。それは、あなたの管理組合(または現在の管理会社)と管理員との間の契約が「雇用契約」なのか、それとも「業務委託契約」なのかという点です。この違いによって、法的な責任や取るべき手続きが全く異なります。

法的責任が全く異なる「雇用契約」と「業務委託契約」

契約書の名称だけで判断するのは早計です。法的には、契約の名称よりも、業務の実態が重視されます。

  • 雇用契約: 労働者が使用者の指揮命令下で労働を提供し、使用者がその対価として賃金を支払う契約です。労働基準法(昭和22年法律第49号)などの労働法規によって労働者が保護されます。
  • 業務委託契約: 特定の業務の完成を目的とし、受託者が独立して業務を遂行する契約です。原則として指揮命令関係はなく、労働法規の保護対象外となります。

この区別を理解することは、管理組合のリスク管理に直結します。もし実態が「雇用」であるにもかかわらず「業務委託」として扱っている場合、労働法違反を問われる可能性があります。非法人格の管理組合であっても、人格なき社団として実態があり、直接雇用が可能である点も考慮してください。

契約書の名目より実態が優先される「使用従属関係」とは

裁判所や労働基準監督署は、契約が雇用か業務委託かを判断する際、「使用従属関係」の有無を実質的に見ます。使用従属関係とは、簡単に言えば、労働者が使用者の指揮監督のもとで労働している状態を指します。

以下の表は、その判断基準をまとめたものです。ご自身のマンションの状況と照らし合わせてみてください。

雇用契約(労働者性あり)業務委託契約(労働者性なし)
指揮命令関係業務の進め方や時間配分について、具体的な指示・管理を受ける業務の進め方は基本的に受託者の裁量に委ねられる
勤務時間の拘束始業・終業時刻や休憩時間が決められ、場所的にも拘束される勤務時間の裁量は広く、拘束性が低い
報酬の性質時間給や月給など、労働時間の対価として支払われる(賃金)業務の完成・成果物に対して支払われる(報酬)
機材・備品の提供会社側(使用者)が提供する本人(受託者)が自前で用意する
表:雇用契約と業務委託契約の判断基準
※ 上表の判断基準は労働基準監督署や裁判例に基づくものです。実際の判断では、複数の要素を総合的に勘案します。契約書の名義だけで判断せず、実際の勤務実態(指揮命令の有無、勤務時間の拘束性など)が重視されます。疑義がある場合は、労働基準監督署または弁護士に相談してください。
※ 表はテキストリストとして代替可能: – 指揮命令関係:雇用契約(業務の進め方や時間配分について、具体的な指示・管理を受ける) vs 業務委託契約(業務の進め方は基本的に受託者の裁量に委ねられる) – 勤務時間の拘束:雇用契約(始業・終業時刻や休憩時間が決められ、場所的にも拘束される) vs 業務委託契約(勤務時間の裁量は広く、拘束性が低い) – 報酬の性質:雇用契約(時間給や月給など、労働時間の対価として支払われる(賃金)) vs 業務委託契約(業務の完成・成果物に対して支払われる(報酬)) – 機材・備品の提供:雇用契約(会社側(使用者)が提供する) vs 業務委託契約(本人(受託者)が自前で用意する)

もし、管理員が管理組合や管理会社から具体的な業務指示を受け、勤務時間が厳密に管理されているのであれば、契約書が「業務委託」となっていても、法的には「雇用」と判断される可能性が高いと言えます。

管理員の雇用維持・移籍を実現する4つのステップ

現在の管理員との良好な関係を維持し、次の管理体制へスムーズに移行するためには、計画的な手順を踏むことが不可欠です。ここでは、法的な根拠に基づいた実務的なフローを4つのステップに分けて解説します。

管理員の雇用維持は、組合の単独判断では進められません。
必ず法的な決議要件と、関係各所との事前調整が必要になります。

Step1: 現状の可視化と理事会での方針固め

まず、理事会で現状を正確に把握し、方針を固めます。

  • 業務内容の洗い出し: 管理員の現在の業務範囲、勤務時間、休日などをすべてリストアップします。
  • 契約内容の確認: 現行の管理委託契約書や管理規約を確認し、管理員に関する条項を精査します。
  • 問題点と課題の共有: 「なぜ管理会社を変更するのか」「管理員の雇用を維持したい理由は何か」を理事会内で明確に共有し、合意形成を図ります。

Step2: 総会資料の準備(変更理由・コスト効果の明示)

理事会の方針が固まったら、総会に提出するための客観的な資料を作成します。

  • 管理会社変更の理由: 現状の問題点と、変更によって何が改善されるのかを具体的に示します。
  • 新旧プランの比較: 新しい管理会社(または組合の直接雇用)の体制と、現行体制のコスト、サービス内容を比較表などで分かりやすく提示します。
  • 規約変更案の作成: 管理員の勤務時間などを管理規約で定めている場合、その変更が必要であれば規約案を準備します。マンション標準管理規約(国土交通省)では、管理員の業務時間は定めるべき事項とされています(第26条関連)。ご自身のマンションで現行規約がこれを定めている場合、変更には特別決議が必要です。規約変更は、規約に定められた事項に限り特別決議を優先します(建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第31条)。

Step3: 新旧管理会社との事前協議と条件交渉

総会決議の前に、関係する管理会社との水面下での協議が成功の鍵を握ります。

  • 現管理会社への通知: 契約に基づき、解約の意向を伝えます。解約通知期間(通常3ヶ月前など)を必ず確認してください。解約時は現管理委託契約書の条項(通知期間・解約金等)が最優先されるため、事前精査を。契約残期間がある場合、中途解約金が発生するリスクが存在するため、事前に確認が不可欠です。
  • 新管理会社候補との交渉: 新しい管理会社候補に対し、「現行の管理員の雇用維持(移籍)」を契約の条件として打診します。管理員の給与や社会保険などの条件についても、ここで詰めておく必要があります。組合側の要望が強すぎると、管理会社から敬遠される恐れがあるため、2~3社に絞った相見積もりが目安とされます。過度な相見積もりは、管理会社側の見積作成負担増大(現地調査3~4回、外注先打ち合わせ、理事会面談など)につながり、対応品質低下につながる可能性があります。

Step4: 総会での決議と新契約の締結

全ての準備が整ったら、総会で区分所有者の承認を得ます。ここで重要になるのが、議案に応じた決議要件の理解です。

  • 管理会社の選任・解任: これは管理組合の通常業務とされ、原則として普通決議(区分所有者および議決権の各過半数での決議)で足ります(区分所有法第39条)。第39条(普通決議):「集会に出席した区分所有者及び議決権の過半数をもって可決する。ただし、管理規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。」
  • 管理規約の変更: 管理員の勤務形態などを規約で定めている場合、その変更は特別決議(区分所有者数および議決権の各4分の3以上の多数による決議)が必要となります(区分所有法第31条)。可決条件:出席者及び議決権の各4分の3以上(出席者の75%以上かつ議決権75%以上)。第31条(特別決議):「集会に出席した区分所有者の議決権の4分の3以上(区分所有者及び議決権の各4分の3以上)で可決する。」

総会で議案が可決された後、速やかに新しい管理会社と管理委託契約を締結し、管理員本人にも移籍に関する合意を得ます。既存の契約は、契約書に定められた手順に則って解約手続きを進めます。

【法令ワンポイント】2026年4月施行の改正区分所有法について 2026年4月1日に改正区分所有法が施行されます。改正の主眼は建替え・一括売却の決議要件緩和(5分の4→4分の3)にあり、管理員の雇用維持・勤務時間変更に関する決議要件(区分所有法第31条)は従来通り区分所有者数および議決権の各4分の3以上です。本記事の手続きに変更はありません。常に最新の法令を確認することが重要ですが、基本的な手続きの考え方は維持される見込みです。

よくある質問(FAQ)

管理員の雇用維持・移籍に関して、管理組合様からよく寄せられる質問にお答えします。

Q1. 管理会社が変わると、管理員さんは必ずクビ(解雇)になるのですか?

A1. 必ずしもそうとは限りません。管理員の雇用主は、多くの場合、管理会社です。そのため、管理会社が変更になれば、理論上は雇用契約も終了する可能性があります。しかし、管理組合が新しい管理会社との契約条件として「現管理員の雇用の引き継ぎ」を強く要請し、新会社と管理員本人が合意すれば、雇用を維持したまま移籍することは実務上、十分に可能です。そのためには、本記事で解説したような事前の交渉と準備が不可欠です。

Q2. 管理員の勤務時間を変更するのに、なぜ総会の特別決議が必要な場合があるのですか?

A2. それは、多くのマンションの「管理規約」で、管理員の業務時間や休日が定められているためです。管理規약は、マンションの憲法のようなもので、その内容を変更するには、区分所有法に基づく特別決議(区分所有者数および議決権の各4分の3以上の賛成)という厳格な手続きが求められます。たとえ管理会社との契約書(管理委託契約書)の内容を変更するだけだとしても、その内容が規約と異なる場合は、規約自体の変更が必須となるのです。

Q3. 新しい管理会社を探すなら、たくさんの会社から見積もりを取った方が得じゃないですか?

A3. 一見そう思われがちですが、過度な相見積もりは逆効果になる場合があります。特に、20戸から40戸程度の中小規模マンションでは、2~3社への相見積もりが目安とされます。過度な相見積もりは、管理会社側の見積作成負担増大につながり、対応品質低下につながる可能性があります。理由は、管理会社側の多大な労力にあります。正確な見積もりを作成するには、現地調査を3~4回行い、清掃・設備・警備など多くの外注先と打ち合わせを重ねる必要があり、膨大な時間とコストがかかるためです。誠実な管理会社を見つけるためには、依頼先を2~3社に絞り、各社とじっくり向き合う方が良い結果に繋がります。内訳明細書を要求し、一式見積りを避けることが透明性を確保します。

実務上のヒント:専門家と制度を賢く活用する

管理員の雇用維持を成功させるためには、管理組合の努力だけでなく、専門家の知見や公的な制度を上手に活用することが重要です。

敬遠されない見積もり取得のコツ

前述の通り、やみくもな相見積もりは避けるべきです。管理会社に敬遠されず、質の高い提案を引き出すためのポイントは以下の通りです。

  • 依頼は2~3社に絞る: 信頼できそうな会社を事前にリサーチし、候補を厳選します。
  • 依頼内容を明確にする: 「現行の管理員を雇用維持すること」を必須条件として明確に伝えます。
  • 内訳明細書を要求する: 人件費、清掃費、事務管理費など、項目ごとの内訳が分かる見積書の提出を求めましょう。これにより、費用の透明性が確保され、会社ごとの比較がしやすくなります。

誠実な管理会社は、これらの要望に丁寧に対応してくれるはずです。逆に、詳細な説明を渋るような会社は、注意が必要かもしれません。

補助金・助成金活用の注意点

自治体によっては、マンションの管理適正化や労働環境改善を目的とした補助金・助成金制度が存在します。例えば、2026年度の東京都〇〇区では、管理員の雇用維持に関する改善費用に対する補助が予定されています。これらを活用できれば、組合の費用負担を軽減できる可能性があります。

ただし、注意点が2つあります。第一に、補助金制度は年度や自治体によって大きく異なり、頻繁に改定されます。対象となる年と地域を正確に把握する必要があります。第二に、申請手続きが煩雑なため、通常の管理会社は提案を嫌がる傾向があります。補助金申請に不安がある場合は、申請実績が豊富な専門家への相談が推奨されます。

管理事業撤退でお困りの企業様へ

管理事業からの撤退やマンション管理員の雇用維持には、法務・労務の専門知識が必要です。弁護士、社会保険労務士、マンション管理士などの専門家に相談することが推奨されます。

まとめ:管理員の雇用維持は、周到な準備と信頼できるパートナー選びが成功の鍵

マンション管理員の雇用を維持し、新しい管理体制へ円滑に移籍させるためには、以下の3つのポイントが重要です。

  1. 契約関係の正確な理解: 組合と管理員の関係が「雇用」か「業務委託」か、その実態を把握することが全ての出発点です。
  2. 法的手続きの遵守: 管理規約の変更には「特別決議」、管理会社の選定には「普通決議」など、区分所有法に定められた手続きを正しく踏む必要があります。
  3. 計画的な交渉と準備: 新旧管理会社との事前協議や、総会に向けた丁寧な資料作成が、円満な移行を実現します。

これらの手続きは、法律や契約に関する専門知識が求められるため、管理組合だけで全てを遂行するのは容易ではありません。管理員の雇用というデリケートな問題だからこそ、実績豊富な専門家のサポートを得ることが、トラブルを未然に防ぎ、最善の結果を導くための近道となります。

あなたのマンションと、そこで働く管理員、そして全ての居住者にとって最適な未来を選択するために、この記事が具体的な行動のきっかけとなれば幸いです。

免責事項

本記事は、2026年2月27日現在の法令や情報に基づき、一般的な情報提供を目的として作成されたものです。個別の事案に対する法的な助言や見解を示すものではありません。実際の意思決定にあたっては、必ず最新の法令やご自身のマンションの管理規約・契約書をご確認の上、弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談ください。

参考資料

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士・管理業務主任者)不動産業界歴23年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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