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築古マンションの建替えを検討する際の法的要件と実務ステップ
築古マンションの老朽化が進み、大規模な修繕や「建替え」という選択肢が現実味を帯びてくると、管理組合や区分所有者の皆様は大きな決断を迫られます。しかし、一体誰に、どのように相談すれば良いのでしょうか。身近な管理会社に全てを任せれば安心、と考えるのは早計かもしれません。管理会社にはその役割と限界があり、「建替え」という重大な意思決定は、あくまで区分所有者自身が主体となって進める必要があります。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、築古マンションの建替えを検討する際に不可欠な法的要件、現実的な判断基準、そして管理会社や専門家との上手な付き合い方を解説します。安易な期待や誤解を避け、冷静な判断を下すための第一歩として、ぜひご一読ください。最終的な目標は、皆様が自身のマンションの状況を客観的に把握し、次の具体的な行動に移せるようになることです。
背景知識:建替えの法的ハードルと判断基準
マンションの建替えは、区分所有者全員の財産に大きな影響を与えるため、法律で厳格なルールが定められています。まずは、その前提となる法的要件と、建替えか延命改修かを判断するための客観的な基準を理解しましょう。
マンション建替えは「区分所有者と議決権の各5分の4」の同意が必要
マンションの建替えは、管理組合の総会で多数決で簡単に決められるものではありません。区分所有法第62条で極めて高いハードルが設定されています。
建替え決議は、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数でしなければならない。
(出典:建物の区分所有等に関する法律 第六十二条第一項)
ここで重要なのは、「区分所有者数(頭数)」と「議決権」のそれぞれで5分の4以上の賛成が必要という「二重の要件」です。
- 区分所有者: マンションの部屋を所有している人の数。
- 議決権: 通常、管理規約で定められ、専有部分の床面積の割合に応じて決まります。
つまり、広い部屋を所有している少数の人が反対するだけで、人数では賛成が多数でも建替え決議は否決される可能性があります。この厳しい要件が、建替えの実現を難しくしている最大の要因です。ただし、各マンションの管理規約に特別の定めがある場合は、規約が法の要件に優先します。建替え検討時には、必ずご自身の管理規約を確認し、規約が建替え決議要件に影響を与える可能性を考慮してください。
(区分所有法第62条の全体構造)
- 第1項:基本要件として、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数で建替え決議をしなければならない。
- ただし、改正法により、特定の危険性が認められるマンションについて、以下の緩和が適用されます:
- 耐震性不足等の場合:区分所有者及び議決権の各4分の3以上(改正第62条第2項)。
- 被災マンション等の場合:区分所有者及び議決権の各2分の1以上(改正第62条第3項)。
建替え決議は区分所有法に基づくものであり、決議成立後にマンション建替え円滑化法が適用され、権利変換計画の認可手続きに移行します。これらは分業関係にあり、決議自体は区分所有法の要件が優先されます。
【2026年施行予定】耐震性不足等の場合は「4分の3」へ要件緩和
現行法の要件があまりに厳格であるため、老朽化マンションの再生が進まないという課題がありました。そこで、法改正により、一定の条件下では要件が緩和されることが決定されました。
2025年5月23日に「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、2026年4月1日から施行される予定です。この改正区分所有法第62条により、以下のいずれかの条件を満たす「特定マンション」について、建替え決議の要件が「区分所有者数および議決権の各4分の3以上」に緩和されます。
- 耐震性不足: 震度6強以上で倒壊・崩壊する危険性が高いと診断されたマンション。
- 外壁剥落等の危険性: 外壁の剥落、鉄筋の露出などにより、周辺に危害を生じる恐れがあるマンション。
- 給排水管腐食: 給排水管の更新が困難で、居住性が著しく低下するマンション。
- 火災安全性不足: 避難設備等の法定基準を満たさず、火災時の崩壊恐れがあるマンション。
- バリアフリー基準不適合: 高齢者等配慮対策等級が1または2であり、改修による改善が著しく困難なマンション。
これらの条件の該当性は、専門家による建物診断や特定行政庁の「要除却認定」プロセスに基づいて判定されます。ご自身のマンションがこれらの条件に該当するかどうかは、建築士などの専門家に依頼して確認してください。
「建替え」か「延命改修」か?判断を左右する3つの基準
法的な要件と並行して、現実的な選択肢として「建替え」と「延命改修(大規模修繕や耐震補強)」のどちらが最適かを比較検討する必要があります。判断の拠り所となるのは、主に以下の3つの基準です。
| 比較基準 | 建替え | 延命改修 |
|---|---|---|
| 基準1:費用 | 高額な個人負担が発生。 (解体費、建築費、仮住まい費用等) | 比較的安価。 多くは修繕積立金や一時金で対応。 |
| 基準2:時間 | 長い。 合意形成から完成まで5~8年程度。 | 比較的短い。 工事期間は数ヶ月~2年程度。 |
| 基準3:建物状態 | 建物診断の結果、構造体に 根本的な問題がある場合。 | 構造体は健全で、 部分的な補修・更新で機能維持が可能な場合。 |
表が表示されない場合のテキスト代替: 基準1(費用)-建替え: 高額な個人負担が発生(解体費、建築費、仮住まい費用等)。延命改修: 比較的安価で、多くは修繕積立金や一時金で対応。基準2(時間)-建替え: 長い(合意形成から完成まで5~8年程度)。延命改修: 比較的短い(工事期間は数ヶ月~2年程度)。基準3(建物状態)-建替え: 建物診断の結果、構造体に根本的な問題がある場合。延命改修: 構造体は健全で、部分的な補修・更新で機能維持が可能な場合。
重要なのは、「築年数」だけで判断しないことです。築40年でもメンテナンス状態が良好なマンションもあれば、築30年で深刻な問題を抱えるケースもあります。国土交通省も、専門家による客観的な建物診断に基づいた判断を推奨しています(出典:国土交通省「マンションの建替えか修繕かを判断するためのマニュアル」)。建替えの場合、個人所有者の自己負担額が平均1300万円程度に達する報告例もあり、改修との費用対比を慎重に行ってください。
手続・対応ステップ:築古マンション再生に向けた4ステップ・ロードマップ
建替えの検討は、場当たり的に進めると混乱を招きます。以下の4つのステップに沿って、段階的に進めることが成功の鍵です。
Step1: 建物診断と情報収集(初期段階)
まず、マンションの現状を客観的に把握することから始めます。
- 専門家による建物診断の実施: 建築士などの専門家に依頼し、耐震性、コンクリートの劣化状況、給排水管の寿命などを調査します。これが全ての判断の基礎となります。耐震診断や外壁調査は、区分所有法上の要件としても推奨されます。
- 修繕履歴と積立金の確認: これまでの修繕履歴と、現在の修繕積立金の残高を確認します。修繕積立金では建替え費用を賄えない可能性があるため、早期の試算が必要です。
- 公的窓口への相談: 後述する国土交通省や自治体の相談窓口で、初期段階のアドバイスを求めます。
Step2: 法令確認と理事会での啓発(準備段階)
現状把握ができたら、理事会内で共通認識を形成します。
- 法令・規約の確認: 区分所有法やご自身のマンションの管理規約における建替え関連の条項を再確認します。管理規約の特別の定めが法の要件に優先する可能性があるため、建替え決議要件への影響を検証してください。
- 勉強会の開催: 理事会メンバーで建替えと延命改修のメリット・デメリット、法的要件、今後の進め方について学びます。
- 専門家候補の情報収集: 管理会社に協力してもらい、相談できるコンサルタント、建築士、弁護士などの候補リストを作成します。
Step3: 費用試算と比較検討(比較段階)
具体的な数値を基に、選択肢を比較します。
- 概算費用の試算: 専門家の協力を得て、「建替えをした場合の費用(個人の追加負担額含む、解体費・建築費・仮住まい費用・税金等)」と「今後30年間の大規模修繕を続けた場合の費用」の両方を試算します。建替え組合設立後の権利変換計画認可前に、施工者との事業性検討を推奨します。
- 住民へのアンケート: 全区分所有者に対し、建替えや大規模な修繕に対する意向や、費用負担の許容度についてアンケート調査を実施します。
Step4: 住民合意形成と決議準備(実行段階)
比較検討の結果、建替えを目指す方針が固まったら、合意形成プロセスに入ります。
- 住民説明会の開催: 建物診断の結果や費用試算を分かりやすく説明し、質疑応答の時間を十分に設けます。複数回の開催が望ましいです。
- 建替え推進委員会の設置: 理事会とは別に、関心の高い住民を中心としたワーキンググループを立ち上げ、きめ細かな情報提供や意見集約を行います。合意形成に1~3年を要する可能性があります。
- 総会での決議: 全ての準備が整ったら、臨時総会を招集し、建替え決議案を上程します。決議成立後、建替え組合を設立し、マンション建替え円滑化法に基づく権利変換計画を策定・都道府県知事認可申請します。
実務ヒント:賢い相談先の選び方と付き合い方
建替え検討プロセスでは、専門的な知見が不可欠です。しかし、誰に何を相談すれば良いのでしょうか。ここでは、管理会社との適切な関係構築のコツと、最初に頼るべき公的機関を紹介します。
管理会社への「上手な」相談方法と役割の限界
日常的な管理業務を委託している管理会社は、最も身近な相談相手です。しかし、その役割には限界があることを理解しておく必要があります。
管理会社の役割:専門家紹介と組合運営のサポート
管理会社の主な役割は、建替えを判断するための「支援」です。
- 専門家の紹介: 信頼できる建築士、コンサルタント、弁護士などの候補を複数紹介する。
- 組合運営の補助: 理事会の運営や住民説明会の開催準備などをサポートする。
- 情報提供: 国や自治体の支援制度などの情報を提供する。
重要なのは、管理会社自身が「建替えすべきか」という法的・技術的な判断を下すことはないという点です。そのような行為は、建築士法や弁護士法に抵触する可能性があるため、コンプライアンスを重視する会社ほど行いません。最終的な判断主体は、あくまで管理組合(区分所有者)です。
【重要】管理会社の利益相反リスク
改正マンション管理適正化法により、管理会社が管理者を兼務して建設工事の発注者となる場合や、管理会社が推薦する業者と契約する場合、区分所有者への事前説明が義務化されました。建替え検討段階では、このような利益相反を適切に管理するため、複数業者の見積もり比較と第三者専門家の関与が重要です。管理会社に過度に依存せず、主体的に判断してください。
なぜ「相見積もり5社以上」は敬遠されるのか?
建替えコンサルティングや設計会社を選ぶ際、「多くの会社から見積もりを取ろう」と考えるかもしれません。しかし、特に20戸~40戸程度の中小規模マンションで、5社以上の相見積もりを管理会社に依頼するのは現実的ではありません。
なぜなら、精度の高い見積もりを作成するには、管理会社に以下のような大きな負担がかかるからです。
- 現地調査: 複数回(3~4回程度)現地に足を運び、建物の状況を確認する。
- 外注先との調整: 清掃、エレベーター、消防設備などの協力会社と打ち合わせを行う。
- 理事会との面談: 見積もり内容を説明するために、何度も理事会に出席する。
過度な要求は管理会社の負担を増やし、「手間がかかる割に受注できるか分からない案件」と判断され、かえって協力が得られにくくなる可能性があります。組合側の要望が強すぎると、管理会社から敬遠される恐れもあります。現実的には、事前に管理会社と相談し、信頼できそうな2~3社に絞って依頼するのが賢明です。
「一式」ではない詳細な見積もりを依頼するコツ
見積もりを依頼する際は、「コンサルティング費用一式」といった大まかなものではなく、項目ごとに詳細な内訳を出すよう依頼しましょう。
- 建物診断費用
- 住民アンケート実施費用
- 住民説明会運営支援費用
- 事業計画(資金計画)作成支援費用
詳細な見積もりを求めることで、各社のサービス内容を正確に比較でき、組合内の合意形成にも役立ちます。
最初に頼るべきプロの相談先|公的機関リスト
管理会社や特定の事業者からの情報だけでなく、中立的な立場からのアドバイスを得ることは極めて重要です。まずは以下の公的機関に相談することをおすすめします。
- 公益財団法人 マンション管理センター: 国土交通大臣から指定を受けた唯一の全国的な相談機関です。電話相談や対面相談(一部有料)に応じており、建替えに関する法制度や進め方について専門的なアドバイスが受けられます。最新の法令解釈や決議手続き、公的融資制度の案内も可能です。
- お住まいの都道府県・市区町村の住宅政策担当課: 多くの自治体で、マンション管理や建替えに関する無料の相談窓口を設けています。独自の助成金制度や専門家派遣制度を用意している場合もあるため、必ず確認しましょう。東京都をはじめ、各自治体が建替え推進マニュアルを公開しています。
- e-Gov(電子政府の総合窓口): 区分所有法やマンション建替え円滑化法などの最新の条文は、ここで誰でも確認できます。法改正の正確な情報を自ら確認することを強く推奨します。
よくある質問(FAQ)
Q. 築何年から建替えを検討すべきですか?
A. 築年数に明確な基準はありません。国土交通省の調査では建替えを実現したマンションの平均築年数は30年~40年以上が多いですが、これはあくまで結果論です。重要なのは、専門家による建物診断の結果、建物の寿命や安全性に問題があると判断された時点です。
Q. 建替えに反対した場合はどうなりますか?
A. 建替え決議(5分の4または4分の3以上)が可決された場合、反対した区分所有者に対して、所有する区分所有権と敷地利用権を時価で売り渡すよう請求することができます(区分所有法第63条)。これを「売渡し請求権」といいます。つまり、多数の賛成で決議された場合、反対者は最終的にマンションから退去せざるを得なくなります。ただし、この請求は決議成立後5年以内にしなければならず、時価評価をめぐる紛争リスクもあります。管理規約の特別の定めを確認し、弁護士などの専門家に相談してください。
Q. 管理会社はどこまでやってくれますか?
A. 管理会社の役割は、あくまで管理組合の「サポーター」です。具体的には、専門家の紹介、総会運営の補助、公的制度の情報提供などが主です。建替えの是非を判断したり、特定の業者を強く推奨したりすることは、その役割を超えています。管理会社に過度に依存せず、主体的に判断することが重要です。
まとめ:安易な判断は禁物。まずは冷静な現状把握から
築古マンションの建替えは、区分所有者の財産と生活に大きな影響を及ぼす、極めて重大なプロジェクトです。その道のりは決して平坦ではなく、「区分所有者と議決権の各5分の4以上」という高い法的ハードルが存在します。
管理会社への丸投げはNG。まずは専門家の診断で現状を客観的に把握し、公的機関に相談することから始めましょう。
本記事で解説したポイントをまとめます。
- 法的要件の理解: 建替えには「頭数」と「議決権」の二重の同意が必要。管理規約の特別の定めが優先する可能性あり。2025年5月23日成立の改正法により、2026年4月1日施行予定で、耐震性不足等の5条件を満たす特定マンションでは要件が4分の3以上に緩和される。
- 客観的な判断基準: 築年数ではなく、専門家による「建物診断」の結果に基づき、「建替え」と「延命改修」の費用・時間・メリットを比較検討する。
- 管理会社との賢い付き合い方: 管理会社の役割は「支援」と理解し、利益相反リスクを考慮。過度な相見積もり依頼は避け、2~3社への詳細な見積もり依頼が現実的。
- 公的機関の活用: 特定の事業者の意見に偏らないよう、まずはマンション管理センターや自治体など、中立的な窓口に相談する。最新法令はe-Govで確認を。
安易に「建替えありき」で話を進めると、住民間の対立を招き、計画が頓挫しかねません。まずは冷静にマンションの現状を把握し、信頼できる専門家の助言を得ながら、一歩ずつ着実に検討を進めていきましょう。
免責事項
本記事は、2025年12月時点の法令や情報に基づき、一般的な情報提供を目的として作成されたものです。特定のマンションの建替えや改修を推奨するものではなく、個別の案件に対する法的な助言を行うものではありません。
マンションの建替えや大規模修繕に関する最終的な判断は、必ず弁護士、建築士等の有資格専門家にご相談の上、最新の法令や個別の管理規約・契約条項に従って行ってください。出典URLは最終確認日2025年12月時点です。
参考資料
- 建物の区分所有等に関する法律(e-Gov法令検索): https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
- マンションの建替え等の円滑化に関する法律(e-Gov法令検索): https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=414AC0000000078
- 国土交通省「マンションの建替えか修繕かを判断するためのマニュアル」: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001374071.pdf
- 国土交通省「マンション建替え等・改修に関し、区分所有法上の決議要件を緩和する改正法案を閣議決定」: https://www.mlit.go.jp/report/press/house06_hh_000234.html
- 公益財団法人マンション管理センター: https://www.mankan.or.jp/
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

