マンション管理規約にカスハラ対策条項を盛り込む4ステップガイド

本記事のマンション管理規約対策で扱わない種類のハラスメントを説明する図。主に「住民から管理業務従事者へ」のカスハラが対象である一方、「管理会社の社内でのパワハラ・セクハラ」は管理会社の雇用主責任(労働施策総合推進法など)の問題であり、「住民間の騒音やペット問題」は共同生活上のマナー違反として別途規約の「生活上のルール」で対応すべき問題です。この図は、ハラスメントの種類を正しく見極め、適切な対応ルートを選択することの重要性を示し、管理組合の対応範囲を明確にするメリットを提供します。

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マンション管理規約にカスタマーハラスメント対策条項を盛り込む方法

マンション管理組合の役員の皆様、管理員やフロント担当者への過度な要求、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」にお悩みではないでしょうか。対応に追われることで理事会の負担が増え、管理の質そのものへの影響も懸念されます。こうした状況を受け、令和5年(2023年)9月11日に国土交通省の指針である「標準管理委託契約書」が改訂され、カスハラへの具体的な対応が盛り込まれました。この動きは、管理会社だけでなく、管理組合にも組織的な対応を促すものです。

本記事では、不動産法務の専門家の視点から、マンション管理の現場で深刻化するカスタマーハラスメント問題に対し、管理規約にどのような対策条項を盛り込むべきかを解説します。国の最新動向や法的な背景、具体的な条項例文から規約改正のステップ、実務上の注意点までを網羅的に提供します。この記事を読めば、組合として取るべき具体的なアクションが明確になり、快適なマンション環境と管理の質を守るための第一歩を踏み出せます。

目次

背景知識:カスハラ対策の必要性と法的根拠

なぜ今、マンション管理規約でカスタマーハラスメント対策が重要視されているのでしょうか。その背景には、国の定義の明確化と、管理業界における重要なルールの改訂があります。

カスタマーハラスメント(カスハラ)と正当なクレームの違い

まず、「カスタマーハラスメント」と「正当なクレーム」を区別して理解することが第一歩です。本記事では、マンション管理の住環境における住民から管理業務従事者に対する迷惑行為を主に扱います。

厚生労働省は、カスタマーハラスメントを「顧客等からのクレーム・言動のうち、その要求の内容の妥当性に照らして、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、それにより労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています(出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」)。

一方で、管理の質を向上させるための建設적인意見や、不備を指摘する正当なクレームは、管理組合の運営にとって不可欠です。問題となるのは、その要求内容や要求の仕方が「社会通念上不相当」なレベルに達しているかどうかです。

  • 正当なクレームの具体例:
    • 共用廊下の電灯が切れているので交換してほしい
    • 定められた日時に清掃が行われていない
    • 長期修繕計画の進捗について説明を求めたい
  • カスタマーハラスメントに該当しうる行為の具体例:
    • 管理員の個人的な連絡先を教えるよう執拗に要求する
    • 深夜に何度も電話をかけ、長時間にわたり同じ内容の不満を繰り返す
    • 他の住民の前で管理員を大声で罵倒し、人格を否定する
    • 理事会の決定事項に従わず、担当者を脅迫するような言動をとる

この2つを区別し、カスハラに対しては組織として対応する姿勢を明確にすることが、管理現場の疲弊を防ぎ、結果的に住民全体の利益を守ることにつながります。

なぜ今対策が急務なのか?2023年「標準管理委託契約書」改訂

対策が急がれる直接的なきっかけは、令和5年(2023年)9月11日に行われた国土交通省の「マンション標準管理委託契約書」の改訂です。これは管理組合と管理会社が契約を結ぶ際のひな形であり、多くの契約の基礎となっています。

この改訂で、主に以下のカスタマーハラスメント対策条項が追加されました。

  1. 指示系統の明確化(第8条関係): 管理組合から管理会社への指示は、原則として「管理組合が指定した者(理事長など)」から行うこととされました。一部の組合員が直接、管理会社の従業員に過度な要求をすることを防ぐ目的があります。
  2. 有害行為の中止要求(第12条関係): 組合員等が管理会社の従業員に対しカスハラを行った場合、管理会社はその行為の中止を求めることができると明記されました。
  3. 組合の対応努力義務(第12条関係): 管理会社からカスハラ行為の報告を受けた管理組合は、その是正等、必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされました。

(有害行為の中止要求)
第十二条 甲又は乙は、相手方、相手方の特定の従業員又は他の組合員等に対し、甲の組合員等が、暴力的要求行為、威圧的な言動その他のハラスメント(以下「カスタマーハラスメント」という。)を行ったときは、当該行為の中止その他必要な措置を講ずることを求めることができる。
2~3(略)
(出典:国土交通省「マンション標準管理委託契約書」第12条)

この改正は、管理会社に従業員を守る権利と手段を与えると同時に、管理組合にも問題解決に向けた協力・対応を求めるものです。管理組合が「何もしない」という選択肢は取りにくくなり、管理規約という組合の最高規範に具体的な対応ルールを定めておく必要性が飛躍적으로高まったのです。また、マンション管理業協会の2024年調査では、改訂契約書の内容反映状況は31%にとどまっており、対応は途上段階です。

手続・対応ステップ:管理規約改正とカスハラ対策条項の導入

「標準管理委託契約書」の改訂を受け、管理組合として具体的なアクションを起こすには、管理規約の改正が最も有効な手段です。ここでは、規約に盛り込むべき条項の考え方と、改正手続きの具体的な流れを解説します。

管理規約に明記すべきハラスメント対策条項【例文あり】

管理規約にカスハラ対策条項を新設する際は、以下の3つのポイントを盛り込むことが重要です。以下の条項例はあくまで一般的なサンプルです。規約改正にあたっては、必ず弁護士やマンション管理士等の専門家にご相談ください。

ポイント1:迷惑行為の定義と禁止

まず、組合としてどのような行為を問題と捉えるかを明確に定義し、禁止する旨を宣言します。

  • (記載例)
    第〇条(共同生活の秩序を乱す行為の禁止)
    区分所有者等は、その専有部分又は共用部分の使用にあたり、管理業務の円滑な遂行を妨げ、又は管理業務に従事する者の就業環境を害する、次の各号に掲げる行為その他社会通念上不相当と認められる行為をしてはならない。
    (1)暴力、脅迫、威圧的な言動、名誉を毀損する言動、プライバシーを侵害する言動
    (2)正当な理由のない、長時間の拘束や執拗な言動
    (3)その他、厚生労働省が定めるカスタマーハラスメントに準ずる行為

ポイント2:組合の調査・是正措置に関する権限

問題行為が発生した際に、理事会が調査し、是正を求めることができる権限を明記します。これにより、組合としての対応に法的根拠が生まれます。

  • (記載例)
    第〇条(理事会の勧告及び指示)
    理事会は、前条の行為による共同生活の秩序の維持に重大な影響があると認める場合、当該行為を行った区分所有者等に対し、その是正等のため、必要な勧告又は指示を行うことができる。

ポイント3:問い合わせ窓口のルール化

「標準管理委託契約書」の改正趣旨を踏まえ、管理会社への問い合わせ方法をルール化することも有効です。これにより、現場担当者への直接的・過度な要求を防ぎます。

  • (記載例)
    (管理業務に関する意見・要望)
    管理業務に関する意見・要望は、緊急時を除き、理事会が指定する方法(書面又は電子記録等)により提出するものとする。

管理規約の改正を進めるための4ステップ

管理規約にカスハラ対策条項を追加するには、建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号。以下「区分所有法」)に基づく正式な手続きが必要です。

管理規約の変更は、区分所有法第31条に基づき、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議(特別決議)が必要です。ただし、管理規約に別段の定めがある場合はそちらを優先します。

この重い決議要件をクリアするためには、丁寧な準備と合意形成が不可欠です。

  • Step1: 理事会での素案作成と専門家への相談
    まずは理事会で問題意識を共有し、規約改正の必要性を議論します。その上で、本記事で紹介したような条項の要素を盛り込んだ規約の素案を作成します。この段階で、顧問の弁護士やマンション管理士に相談し、法的に問題がないか、表現が適切かといった専門的なアドバイスを受けることが極めて重要です。
  • Step2: 組合員への事前説明と意見集約
    総会でいきなり議案を提出しても、多くの組合員は背景を理解できず、否決されるリスクが高まります。総会の数ヶ月前から、広報誌や掲示板、説明会などを通じて、なぜ規約改正が必要なのか(管理サービスの維持、従業員保護の重要性など)を丁寧に説明しましょう。説明会などで出た意見や懸念を吸い上げ、必要であれば素案に反映させる姿勢も合意形成につながります。
  • Step3: 総会での決議(特別決議)
    十分な周知期間と説明を経たのち、通常総会または臨時総会に「管理規約改正の件」として議案を上程します。総会では、改正の趣旨、条項の具体的な内容、質疑応答での丁寧な回答が求められます。その後、特別決議の要件(区分所有者数および議決権の各4分の3以上の賛成)を満たすことを目指して採決を行います。
  • Step4: 改正後の周知徹底
    無事に規約が改正されたら、それで終わりではありません。最終的な改正規約の全文を全組合員に配布し、何がどのように変わったのかを改めて周知します。特に問い合わせ窓口のルールなどを変更した場合は、徹底した案内が必要です。

FAQ(よくある質問)

ここでは、管理規約のカスハラ対策に関して、理事の方からよく寄せられる質問にお答えします。

規約改正の費用はどれくらいかかりますか?

規約改正にかかる費用は、主に専門家への報酬です。弁護士やマンション管理士に規約案の作成やリーガルチェック、総会運営のサポートなどを依頼する場合に発生します。費用の目安は、依頼する業務範囲(規約案作成、総会資料作成、リーガルチェック等)やマンションの規模によって大きく異なるため、複数の専門家に見積もりを依頼して比較することをお勧めします。

管理会社への見積もり依頼で気をつけることはありますか?

管理委託費の見積もりや規約改正サポートの見積もりを取る際、組合側としては少しでも良い条件を引き出したいと考えるのは自然なことです。しかし、注意点もあります。

第一に、管理会社が見積もりを作成するには、現地調査、既存の契約内容の精査、協力会社との調整など、相応の時間と手続きが必要であることを理解しておく必要があります。複数の事業者から相見積もりを取得し、提案内容と費用を比較検討することが望ましいです。

第二に、見積書の内容は、清掃業務、設備点検業務、事務管理業務など、業務ごとの内訳が明示されているかを確認しましょう。これにより、サービス内容とコストの妥当性を比較検討しやすくなります。

今後の法改正で注意すべき点はありますか?

マンション管理に関する法律や国の指針は、社会情勢に合わせて見直されます。2023年の標準管理委託契約書の改訂に続き、マンション管理業協会や国土交通省の審議会では、さらなるハラスメント対策の強化が検討される可能性があります。最新の動向は、国土交通省や関連団体の公式情報で定期的に確認することが重要です。

実務ヒント:トラブル回避のための法的注意点

カスハラ対策を組合主導で進めるにあたり、良かれと思った対応が思わぬ法的トラブルを招くことがあります。ここでは、管理組合役員が知っておくべき重要な注意点を解説します。あくまで一般論であり、個別事案は弁護士に相談してください。

管理組合がやってはいけない「非弁行為」とは?

カスハラ行為者に対して「法的措置を講じる」といった警告書を管理組合の名前で送付したり、代理人として交渉したりすることは、弁護士法(昭和24年法律第205号)第72条で禁止されている「非弁行為」に抵触する可能性が高いです。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。(以下略)
(出典:弁護士法 第72条)

損害賠償請求書、退去勧告通知、法的措置予告状など、法的効果を生じさせることを目的とした書面作成・発送は、弁護士への委任が必須です。管理組合が独断で作成・発送すると弁護士法第72条に抵触するリスクが高いです。管理組合ができるのは、規約に基づく「勧告」や「指示」といった事実上の措置までです。この境界線を誤ると、組合自体が違法行為に問われかねないため、注意が必要です。

対象外となるハラスメントとの違い

本記事で解説しているカスハラ対策は、主に「住民から管理業務従事者へ」の行為を対象としています。以下のようなハラスメントは、別の法律やルールで対応すべき問題であり、今回議論している管理規약の条項で直接解決することは困難です。

  • 管理会社の社内でのパワハラ・セクハラ: これは管理会社の雇用主としての責任(労働施策総合推進法など)の問題です。
  • 住民間の騒音やペット問題: これらは共同生活上のマナー違反であり、まずは当事者間での解決や、管理規約の「生活上のルール」に関する条項に基づいて対応します。

問題の種類を正しく見極め、適切な対応ルートを選択することが、迅速な解決につながります。

まとめ:組織的な対応で、快適なマンション環境と管理の質を守る

本記事では、マンション管理規約にカスタマーハラスメント対策条項を盛り込むための具体的な方法と注意点を解説しました。

  • 背景: 2023年の「標準管理委託契約書」改訂により、管理組合にもカスハラへの対応努力義務が求められるようになった。
  • 対策: 規約に「迷惑行為の定義・禁止」「組合の是正措置権限」「窓口ルール」を明記することが有効。
  • 手続: 規約改正には区分所有者・議決権の各4分の3以上の特別決議が必要であり、丁寧な事前説明と合意形成が不可欠。
  • 注意: 組合が独断で法的措置に踏み切ると「非弁行為」となるリスクがあるため、個別具体的な対応は必ず弁護士等の専門家に相談すること。

カスタマーハラスメントは、管理サービスの質を低下させ、ひいてはマンション全体の資産価値にも影響を及ぼしかねない重大な問題です。管理組合が規約という明確なルールのもとで組織的な姿勢を示すことは、管理業務に従事する人々を守るだけでなく、すべての住民が快適に暮らせる環境を維持するために不可欠です。本記事を参考に、あなたのマンションでも対策の第一歩を検討してみてはいかがでしょうか。

免責事項

本記事は、マンション管理規約におけるカスタマーハラスメント対策に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的アドバイスを提供するものではありません。

記事の内容は、執筆時点の法令や情報に基づいています。最新の法令改正や、個々のマンション管理規約の具体的な条項が最優先されます。

管理規約の改正や個別事案への対応にあたっては、必ず弁護士、マンション管理士等の専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによるいかなる損害についても、当サイトは一切の責任を負いかねます。

参考資料

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この記事を書いた人

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