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マンションの理事会役員の「なり手不足」や、管理業務の高度化・複雑化に悩んでいませんか?多くの管理組合が直面するこの課題に対し、国も活用を後押ししているのが、マンション管理士などの「外部専門家」を役員に登用する仕組みです。しかし、導入には法的な手続きが必要で、特に規約の改正やルールの整備が不可欠です。
この記事では、国土交通省の最新ガイドラインやマンション標準管理規約(令和7年改正)に基づき、外部専門家を役員として選任するための具体的なステップを解説します。必要な規約改正、選任細則に盛り込むべき必須項目、トラブルを防ぐための契約のポイントまで、理事会の皆様がすぐに行動に移せるよう、網羅的にガイドします。正しい手順を踏むことで、専門知識と組合の自主性を両立させ、持続可能なマンション管理を実現しましょう。
導入:なぜ今、役員に外部専門家を登用する必要があるのか?
近年、多くのマンション管理組合で外部の専門家を役員として迎え入れる動きがみられます。その背景には、避けては通れない二つの大きな課題が存在します。本解説は、国土交通省の「外部専門家の活用ガイドライン」(令和6年6月改訂版)や、令和7年に改正されたマンション標準管理規約の内容に基づくもので、平成29年の初版制定以降、管理の困難化と理事のなり手不足への対応として制度が進化してきました。最新の法令や管理規約を最優先に確認してください。
多くの管理組合が直面する「理事のなり手不足」
マンション居住者の高齢化やライフスタイルの多様化に伴い、理事会の役員を引き受ける「なり手」が不足する問題が深刻化しています。役員の業務は負担が大きく、責任も伴うため、敬遠されがちなのが実情です。役員の不在は、管理組合の機能不全に直結し、資産価値の維持にも影響を及ぼしかねません。
管理の高度化・複雑化と専門知識の必要性
建物の老朽化による大規模修繕工事の計画、法改正への対応、住民間のトラブル解決など、現代のマンション管理はますます高度で複雑になっています。これらの課題に的確に対応するには、法律、会計、建築といった専門的な知識が不可欠です。専門知識を持つ外部専門家を役員として迎え入れることは、管理の質を大きく向上させます。
法的根拠:国も後押しする外部専門家の活用
こうした状況を受け、国土交通省も外部専門家の活用を推奨しています。
根拠となるのが、多くの管理組合が規約の雛形とする「マンション標準管理規約」です。この規約では、組合員以外から役員を選任するための規定が設けられています(出典:国土交通省、マンション標準管理規約(令和7年改正))。
最新の「外部専門家の活用ガイドライン」(出典:国土交通省、2024年)や令和7年版に改正された「マンション標準管理規約」でも、理事のなり手不足等に対応するため、専門家活用の具体的な手法が示されており、国を挙げてこの取り組みが後押しされていることがわかります。
背景知識:外部専門家の役員登用とは
外部専門家の役員登用を検討する前に、関連する用語と制度の枠組みを正確に理解しておくことが重要です。特に「管理規約」や「決議」の種類、類似制度との違いを把握することが、手続きを円滑に進める第一歩となります。
【最新情報】2025年10月までに、マンション標準管理規約(単棟型)が令和7年版として改正されました。外部専門家の役員要件について、以下の点が整備されています:
- 役員の資格から「組合員のうちから」という限定を明確に解除できる規定が標準化されました
- 欠格条項(破産者、禁錮刑経験者など)を細則で定める方式が制度化されました
- 国内に居住しない区分所有者について、国内管理人の選任を義務付けることも規約で定められるようになりました
【用語整理①】標準管理規約とマンション管理規約
まず、言葉の定義を整理しましょう。
- マンション標準管理規約:国土交通省が作成・公開している、マンション管理規約のモデル(雛形)です。法的な強制力はありませんが、多くの管理組合がこれを参考に自らの規約を作成しています。
- マンション管理規約:各マンションの実情に合わせて定められた、そのマンション独自のルールブックです。法的な効力を持ち、組合運営の根本規則となります。
外部専門家を登用するには、後者の「マンション管理規約」を、標準管理規約を参考にして改正する必要があります。この違いを理解することで、どの文書を、どのような手続きで変更すればよいかが明確になります。
【用語整理②】「外部専門家役員」と「外部管理者」の違い
次に、混同されやすい二つの制度の違いを区別します。
- 外部専門家の役員登用(本記事のテーマ):区分所有法および標準管理規約に基づき、理事会の一員(理事・監事)として外部の専門家を選任する制度です。理事会は存続し、組合の自主的な運営を維持したまま、専門的な知見を取り入れます。
- 外部管理者方式:マンション管理適正化法に基づく制度で、理事会を設置せず、外部の専門家が「管理者」として組合の業務全般を執行する方式です。
【重要な区別】
本記事のテーマ「外部専門家の役員登用」では、理事会の体制は維持され、組合員による監視・運営方針の決定権も保持されます。一方「外部管理者方式」では理事会を設置せず、外部専門家が「管理者」として大幅な権限を委譲される制度であり、制度の目的・適用条件・ガバナンス体制が本質的に異なります。
導入を検討する際は、「理事会の自主性を保ちたいか、業務全般を専門家に委任したいか」という根本方針で選別することが重要です。この二つは全く異なる制度です。組合の自主性やガバナンス体制を維持したい場合は、本記事で解説する「外部専門家の役員登用」が適しています。どちらの制度が自分の組合に合っているかを見極めることが、将来の運営を左右します。
手続・対応ステップ:外部専門家を選任する3つの手順
外部専門家を役員に選任するプロセスは、大きく3つのステップに分かれます。特に、総会での決議要件を間違えると手続きが無効になる可能性があるため、慎重に進める必要があります。
【注記】上記のステップはテキストベースで記述したものです。詳細は本文の各ステップを参照してください。
【STEP1】規約改正:外部役員登用の土台を作る総会特別決議
外部専門家を登用するための最初の、そして最も重要なステップが「管理規約」の改正です。
なぜ規約改正が必須なのか?
多くの管理規約では、役員の資格を「そのマンションの組合員(区分所有者)」に限定しています。そのため、組合員ではない外部専門家を役員にするには、まず、標準管理規約第35条などを参考に、「組合員以外の者から役員を選任できる」という旨の条文を規約に追加する必要があります。これが法的な土台となります。
ここで間違うと無効に!「特別決議」と「普通決議」の決定的違い
規約の改正は、マンションの根幹ルールを変更する重要な行為であるため、「特別決議」という非常に厳しい要件が課せられています(出典:建物の区分所有等に関する法律 第31条)。
- 特別決議:対象事項の例(規約の改正、建替え決議、共用部分の重大な変更)、必要な賛成数(組合員数 および 議決権総数の各4分の3以上(区分所有法第31条) ※ただし、管理規約で別段の定めがある場合は、当該規約の規定が優先されます(区分所有法第39条))
- 普通決議:対象事項の例(役員の選任、解任、予算、決算の承認、細則の制定、変更)、必要な賛成数(出席組合員の議決権の過半数)
【注記】上記の決議要件はテキストベースで記述したものです。詳細は区分所有法を確認してください。
議案準備から総会開催までの推奨スケジュール
特別決議を成功させるには、周到な準備が不可欠です。
- 総会3~4ヶ月前:理事会で規約改正の必要性、改正案の骨子を検討。
- 総会2ヶ月前:組合員向けの事前説明会を開催。改正の趣旨を丁寧に説明し、質疑応答を通じて理解を求める。
- 総会1ヶ月前:規約改正案を添付した総会の招集通知を発送。
【STEP2】選任細則の制定:登用のルールを明確にする
規約で外部役員の登用が可能になったら、次に具体的な運用ルールを「役員選任細則」として定めます。細則の制定は、通常「普通決議」で可能です。
細則に必ず盛り込むべき推奨項目例
国土交通省のガイドラインや最新の標準管理規約(令和7年改正)を参考に、以下の項目を盛り込み、公平で透明性の高いルールを作りましょう(出典:国土交通省、2024年)。これらはガイドラインに基づく推奨項目例であり、各組合の実情に合わせて調整してください。
- 資格要件:どのような専門家を対象とするか。(例:マンション管理士、弁護士、建築士の有資格者、管理業務主任者として〇年以上の実務経験者など)
- 選任手続:候補者をどのように探し、選ぶか。(例:理事会による推薦、組合員からの推薦、公募)
- 役職・任期:どの役職(理事、監事)を、どれくらいの期間任せるか。
- 報酬・経費:報酬額の基準、支払い方法、業務で発生する経費のルール。
- 業務範囲・権限:担当する具体的な業務と権限の範囲。
- 欠格条項:役員として不適切な人物を排除するための条件。
- 解任手続:期待される業務執行がなされない場合の解任ルール。
- 本人確認・資格確認:顔写真付き身分証明書や資格証明書の提示を求める規定(令和7年版規約で明示)。
- 国内連絡先の確保:役員が国内に居住しない場合の、国内連絡担当者の選任ルール(令和7年版規約で明示)。
特に、役員としてふさわしくない人物を選んでしまうリスクを避けるため、「欠格条項」は重要です。
(記載例)役員選任細則 第〇条(欠格条項)
次の各号の一に該当する者は、役員となることができない。
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者
- マンション管理士の登録を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない者
【STEP3】候補者選定から選任・契約までの実務フロー
規約と細則が整備されたら、いよいよ具体的な候補者を選任する段階に進みます。
- 理事会での候補者選定:細則に基づき、理事会で候補者を探し、面談などを通じて適性を評価します。
- 総会での「選任決議」:理事会が推薦する候補者について、総会に「役員選任議案」を提出します。役員の選任は「普通決議」で可決されます。
- 「委託契約」の締結:総会で選任が承認された後、管理組合と外部専門家との間で「業務委託契約」を締結します。この契約で、報酬や具体的な業務内容を最終確定させます。
重要なのは、STEP1の規約改正(特別決議)と、STEP3の役員選任(普通決議)は、別の手続きであり、必要な決議要件が異なるという点です。この2段階のプロセスを混同しないように注意してください。外部専門家は、区分所有法第25条・第26条に基づく忠実義務(善良な管理者の注意義務、組合の利益を優先する義務など)を負います。
FAQ:外部役員選任に関するよくある質問
外部役員の選任を検討する中で、多くの組合役員が抱くであろう疑問についてお答えします。
Q1. どんな専門家を選ぶべき?資格は必須?
A1. 国のガイドラインでは、専門家としてマンション管理士、弁護士、公認会計士、建築士などが例示されていますが、必ずしも資格保有者に限定されません。大切なのは「マンション管理に関する専門的な知識や経験」です。例えば、他マンションでの理事長経験が豊富な方や、管理会社で長年実務に携わってきた方も有力な候補者となり得ます。
選任細則で「〇〇の資格を持つ者、または同等の知識・経験を有すると理事会が認めた者」のように、柔軟な基準を設けることも有効です。具体的な判断基準として、マンション管理に関する実務経験、特定の資格、関連法規への精通などが想定されます。
Q2. 契約書では何を確認すべき?
A2. 外部専門家とのトラブルを防ぐため、業務委託契約書の内容は非常に重要です。個別の契約書作成は専門家への相談が必須ですが、最低限、以下の項目は必ず確認・明記しましょう。
- 業務の範囲:どこからどこまでを担当するのか(例:会計業務全般、大規模修繕工事の企画・監修支援)。
- 善管注意義務:「善良な管理者の注意をもって業務を遂行する」という義務(民法第644条)と、区分所有法上の忠実義務の遵守を明記します。
- 責任の範囲:業務上の過失で組合に損害を与えた場合の賠償責任について。
- 報酬と経費:金額、支払時期、経費精算のルール。
- 守秘義務:職務上知り得た個人情報や組合の秘密を守る義務。
- 利益相反の開示義務:専門家自身やその関連会社が組合と取引を行う可能性がある場合、事前にその関係性を開示する義務。
契約書テンプレートの提示は避け、これらの項目を基に専門家と相談してください。
Q3. 利益相反が心配です。
A3. 利益相反は、外部専門家を登用する上で最も注意すべきリスクの一つです。例えば、役員に就任した専門家が、自身と関係の深い工事業者を大規模修繕工事に推薦するケースなどが考えられます。
これを防ぐためには、監事によるチェック体制の強化が不可欠です。「一定額以上の契約については、必ず理事会だけでなく監事の承認も必要とする」「利益相反の可能性がある取引については、総会での事前承認を義務付ける」といったルールを細則や契約書に定めておきましょう。透明性を確保し、特定の個人や企業に利益が偏らない仕組み作りが重要です。具体的な解決策として、理事会での事前承認や組合員への情報開示を活用してください。
【補足】外部専門家による多数社への見積もり依頼は、相手企業への負担が大きく、信頼関係構築の障害になる場合があります。管理組合側の「透明性確保」と「相手企業への配慮」のバランスを取ることが、長期的なパートナーシップ構築につながります。
実務ヒント:導入後の円滑な運営のために
外部専門家を選任して終わりではありません。導入後、円滑に組合運営を進めていくための実務的なヒントをいくつかご紹介します。
管理会社との円滑な役割分担と連携
外部専門家役員と既存の管理会社との関係は、事前に整理しておく必要があります。専門家が加わることで、管理会社への指示や監督が的確になるメリットがある一方、両者の役割分担が曖昧だと混乱を招きます。既存の内部理事との利害調整として、コミュニケーション不足や役割分担の不明確さを防ぐため、定例会議の開催や責任範囲の文書化をおすすめします。
- 役割分担の明確化:理事会議事録や契約書で、誰が何をどこまで担当するのかを文書で明確にしておきましょう。
- 見積もり依頼の注意点:管理会社の見直しなどで相見積もりを取る際、外部専門家の主導で過度な要求をしないよう注意が必要です。数多くの会社に見積もりを依頼すると、1社あたりの作成コスト(現地調査や外注先との調整等)が膨大になるため、多くの管理会社は敬遠しがちです。特に戸数が少ないマンションではその傾向が顕著です。管理会社側は、管理委託内容の精査および会計状況、1棟全体の管理費等の見積もり作成をするには3~4回ほど現地に足を運び、清掃会社、EV点検、消防、警備など多岐にわたって外注先会社との打ち合わせを行ったうえで理事会数名との面談も数回こなすため労力がかかります。現実的には、2~3社に絞って誠実に見積もりを依頼するのが、良いパートナーを見つけるための賢明な進め方です。
小規模組合でも実践可能な「部分登用」
「理事長まで外部に任せるのは抵抗がある」「コストが心配」という小規模マンションでは、「部分登用」から始めるのも一つの手です。
例えば、専門性が高く負担の大きい「会計担当理事」や「監事」のみを外部専門家に依頼する方法です。理事長は組合員が務めることで組合の自主性を保ちつつ、専門的なサポートを受けることができ、コストも抑えられます。
導入から定期的な見直し
外部専門家登用は、一度導入したら終わりではありません。実務上、導入後の定期的な見直しが推奨されています。
「理事会の運営は効率化したか」「管理コストは適正になったか」「住民の満足度は向上したか」といった観点で定期的に検証し、より良い運営体制を目指すPDCAサイクルを回していくことが重要です。
まとめ:自主性と専門性を両立し、持続可能な組合運営へ
役員のなり手不足と管理の高度化という課題を解決する有効な一手として、外部専門家の役員登用は非常に魅力的です。しかし、その導入には法に則った正確な手続きが不可欠です。
本記事で解説したポイントを再度確認しましょう。
- 【土台作り】管理規約の改正:総会で「組合員及び議決権総数の各4分の3以上」の特別決議を得て、外部から役員を選任できる根拠を作る。
- 【ルール整備】選任細則の制定:資格要件、選任手続、報酬、欠格条項などを定めたルールを、原則として普通決議で制定する。
- 【実行】候補者の選任と契約:細則に基づき候補者を選定し、総会の普通決議で選任。業務委託契約を締結する。
専門家の力を借りることは、管理を「丸投げ」することではありません。あくまで組合の自主性を維持しながら、専門的な知見を活用して管理の質を高め、組合員全体の利益につなげることが目的です。この制度を正しく理解し、活用することで、あなたのマンションを持続可能で資産価値の高いものにしていきましょう。
免責事項
本記事は、マンション管理組合における外部専門家の役員登用に関する一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的な助言を行うものではありません。管理規約の改正や契約書の作成にあたっては、必ず弁護士やマンション管理士等の専門家にご相談ください。また、本記事の内容は作成日時点の法令や情報に基づいており、最新の法改正や個別の管理規約の内容が優先されます。
参考資料
- 国土交通省「外部専門家の活用ガイドライン(令和6年6月改訂)」(2024年)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001746827.pdf - 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)令和7年版」(2025年改正)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html - デジタル庁 e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069 - デジタル庁 e-Gov法令検索「民法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

