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マンション管理会社の変更を検討している理事の皆様、「もっと良い管理会社があるはずだ」という期待と同時に、「手続きが大変そう」「失敗したらどうしよう」という不安をお持ちではないでしょうか。管理費の削減やサービスの向上といったメリットに目が行きがちですが、安易な変更はかえって状況を悪化させるリスクを伴います。実際に、住民の合意形成が難航したり、コストを下げた結果、管理品質が低下して住民の不満が再燃したりするケースは少なくありません。
この記事では、宅地建物取引士の資格を持つ不動産ライターが、マンション管理会社の変更に伴う具体的なデメリットを徹底解説します。手続き、費用、品質、引き継ぎの各段階で潜む7つの落とし穴と、それらを乗り越えて変更を成功させるための具体的な対策を、法令や公的な資料に基づいて分かりやすく整理しました。この記事を読めば、後悔しないための冷静な判断材料が得られ、理事会や総会での説明にも自信を持って臨めるようになるはずです。
【手続き・合意形成の壁】管理会社変更で最初にぶつかる3つのデメリット
管理会社の変更プロセスは、まず「人」と「手続き」の壁に直面します。この初期段階の障壁を軽く見ていると、計画そのものが頓挫しかねません。
1. 住民の合意形成が難航し、計画が頓挫するリスク
管理会社の変更は、理事会だけで決められるものではありません。マンションの管理運営に関する重要事項として、総会での決議が必要です。
(集会の決議)
(出典:建物の区分所有等に関する法律)
第三十九条 集会の決議は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
これは「普通決議」と呼ばれ、区分所有者の「人数」の過半数と、所有する専有部分の床面積割合で計算される「議決権」の過半数の両方を満たす必要があります。
【留保】本記事で「普通決議」と記述するのは、一般的なケースです。各マンション管理規約で別段の定めがある場合(例:4分の3以上を要する場合など)、規約の定めが優先されます。変更手続き前に必ず現規約を確認してください。また、管理規約の改正が必要な場合は、別途特別決議(区分所有者及び議決権の各4分の3以上)が必要となります。
しかし、この合意形成は簡単ではありません。
- 現状維持を望む声:「今の管理会社で特に不満はない」「変更は面倒」といった意見。
- 変更への不安:「新しい管理会社が本当に良いのか分からない」「管理費が将来上がるのでは?」という懸念。
- 無関心層の存在:総会に欠席したり、議案に関心を示さなかったりする住民が多く、決議の定足数を満たすこと自体が難しい場合もあります。
これらの意見をまとめ、住民説明会などを通じて丁寧に説明するプロセスを怠ると、理事会と住民の間で対立が生まれ、計画が頓挫する大きな原因となります。国土交通省の調査でも、管理会社変更をめぐる住民間トラブルは、相談事例の一つとして報告されています。
2. 理事会の負担増大と議論の長期化
管理会社変更の旗振りを担う理事会、特に理事長や担当役員の負担は想像以上に大きくなります。
- 情報収集・比較検討: 新しい管理会社の候補探し、資料請求、比較表の作成。
- 理事会での議論: なぜ変更するのか、どの会社が良いのか、理事間での意見調整と意思統一。
- 住民への説明: 説明会の開催、資料作成、アンケートの実施と集計。
- 総会準備: 議案書の作成、委任状や議決権行使書の回収。
これらの業務は、現在の管理会社の協力が得にくい中で進める必要があります。理事の多くは本業を持つボランティアであり、時間的・精神的な負担から議論が長期化し、理事の任期中に結論が出ないことも珍しくありません。
3.【要注意】見積もり依頼のやりすぎは優良企業を遠ざける
より良い条件を引き出すために、多くの管理会社から見積もりを取りたいと考えるのは自然です。しかし、5社も6社も相見積もりを依頼するのは逆効果になる可能性があります。
なぜなら、管理会社にとって正式な見積もり作成は、非常に大きな労力がかかる作業だからです。特に中小規模のマンションでは、受注できた場合の利益に対して見積もり作成のコストが見合わないと判断されがちです。あまりに多くの会社に声をかけると、「当選確率の低いコンペ」と見なされ、経験豊富で質の高い管理会社ほど参加を敬遠する傾向があります。
- 現地調査: マンションの規模や設備を把握するため、複数回現地に足を運ぶ。
- 仕様の確認: 管理員業務、清掃、各種法定点検の内容を精査する。
- 外注先との調整: 清掃会社やエレベーター保守会社など、多数の協力会社と打ち合わせを行う。
- 書類作成と面談: 見積書、提案書を作成し、理事会との面談に臨む。
見積もり依頼は、事前に候補を厳選したうえで 2~3社 に絞るのが、質の高い提案を引き出すための現実的な選択です。これは業界の慣行に基づく推奨であり、法令上の要件ではありません。
管理会社への見積もり依頼は、事前に候補を厳選したうえで 2~3社 に絞るのが、質の高い提案を引き出すための現実的な選択です。
【費用・品質の罠】安さを追求した結果、起こりうる2つのデメリット
管理会社変更の最大の動機である「コスト削減」。しかし、目先の安さだけを追求すると、より大きな問題を引き起こすことがあります。
4. 管理委託費は安くなったが、管理品質が低下するリスク
見積もり比較で最も安い会社を選んだ結果、「安かろう悪かろう」に陥るケースです。管理品質の低下は、日々の生活に直接影響します。
- 清掃の質の低下: 清掃員の巡回頻度や作業時間が減り、共用廊下やエントランスが汚れがちになる。
- 管理員(フロント担当)の対応悪化: 担当者のレスポンスが遅い、相談しても具体的な対応をしてくれない、そもそも訪問頻度が低い。
- 提案力の欠如: 理事会に対して、マンションの資産価値を維持・向上させるための改善提案が全くない。
重要なのは、管理委託契約書に明記しにくい「業務の質」の部分で差が出るという点です。管理委託費が安いということは、人件費や業務経費を削っている可能性が高いことを理解しておく必要があります。実際に、管理費を大幅に削減した結果、数年以内に品質低下による住民不満が発生するケースは少なくないと指摘されています。また、管理会社は、管理受託契約の締結前に「重要事項説明書」を交付し、説明する義務があります(マンション管理の適正化の推進に関する法律 第72条)。この説明を怠ったり、虚偽の説明をしたりした場合は、罰則の対象となり得ます。
5. 目先の安さに釣られ、将来的な支出が増大するケース
一部の管理会社は、月々の管理委託費を意図的に安く設定し、別の名目で利益を確保しようとします。
この場合、相場より割高な工事費を請求されたり、不要不急の工事を提案されたりするリスクがあります。目先の管理委託費の削減額よりも、将来の工事費の上乗せ額の方がはるかに大きくなり、結果的に管理組合の財産である修繕積立金を不必要に流出させてしまう恐れがあるのです。消費者庁にも、管理会社変更後の修繕工事に関するトラブル相談が寄せられており、高額な損害につながるケースも報告されています。
【実務・引き継ぎの混乱】見落としがちな2つの重大デメリット
無事に新しい管理会社との契約が決まっても、安心はできません。新旧の管理会社間での「引き継ぎ」が円滑に行われないと、業務が停滞し、重大な問題に発展することがあります。
6. 新旧管理会社の引き継ぎ不備による業務停滞
現在の管理会社との契約を解除する場合、その会社には業務を引き継ぐ義務があります。国土交通省が定める「マンション標準管理委託契約書」(第19条)では、契約終了時に管理組合に引き渡すべき書類(別表第5)が具体的に定められています。
- 会計関連書類: 収支報告書、未収金一覧、預金通帳など。
- 組合運営関連書類: 規約の原本、総会議事録、理事会議事録など。
- 建物・設備関連書類: 設計図書、点検報告書、長期修繕計画案など。
- その他: 鍵、備品など。
しかし、旧管理会社の協力が得られなかったり、そもそも書類の管理がずさんだったりすると、引き継ぎはスムーズに進みません。重要書類や鍵が紛失したり、継続して審議していた議題が放置されたりすることで、新体制での管理業務が開始早々から停滞するリスクがあります。実際、引き継ぎの不備による業務停滞は、管理会社変更時にしばしば見られるトラブルの一つです。
7. 修繕積立金など会計処理の引き継ぎミスと不正リスク
引き継ぎ業務の中で最も重要かつ慎重に行うべきなのが、会計関連の引き継ぎです。
特に、マンションの資産価値の根幹である 修繕積立金 の引き継ぎは、1円単位での正確性が求められます。
標準管理委託契約書第19条では、契約終了時に会計報告を行い、管理費や修繕積立金等の残金を管理組合に返還することが定められています。しかし、このプロセスで以下のような問題が起こる可能性があります。
- 会計帳簿の不整合: 帳簿上の残高と、実際の預金残高が一致しない。
- 未収金の引き継ぎ漏れ: 管理費を滞納している住民の情報が正しく引き継がれず、請求が漏れてしまう。
- 資金の返還遅延・不正: 旧管理会社が意図的に資金の返還を遅らせたり、最悪の場合、横領したりする。
これらの会計トラブルは、管理組合の財産に直接的な損害を与えるだけでなく、新管理会社や理事会への信頼を揺るがす重大な問題に発展します。過去には、修繕積立金の移管ミスが管理組合の財産に大きな損害を与える事例も報告されています。
デメリットを乗り越え、管理会社変更を成功させる5つの対策
これまで見てきたデメリットは、事前に対策を講じることでリスクを大幅に軽減できます。管理会社変更を成功に導くための5つのポイントを紹介します。
1. なぜ変更するのか?「変更目的の明確化」と「理事会の意思統一」
まず、理事会内で「なぜ管理会社を変更したいのか」を徹底的に議論し、目的を明確にすることがスタートです。「管理費が高い」「清掃が不十分」「フロントの対応が悪い」など、具体的な問題点を洗い出し、理事全員で共有します。この意思統一が、今後の長いプロセスを乗り越えるための土台となります。
2. アンケート活用による「住民の不満・要望の見える化」
理事会だけの思い込みで進めるのではなく、アンケートなどを実施して全住民の意見を吸い上げましょう。これにより、住民が何に不満を感じ、新しい管理会社に何を期待しているのかが「見える化」されます。この結果は、住民説明会で合意形成を図る際の客観的なデータとして非常に有効です。
3. 詳細な「要求仕様書」の作成と、現実的な見積もり依頼(2-3社)
新しい管理会社に求める業務内容を具体的に記した「要求仕様書」を作成します。清掃の頻度や仕様、管理員の勤務時間、理事会への出席義務などを細かく定義することで、各社から同じ条件での見積もりを取得できます。「一式」といった大雑把な項目ではなく、費目ごとの内訳が分かる詳細な見積もりを求めることが、品質とコストのバランスを見極める鍵です。そのうえで、候補を2~3社に絞って見積もりを依頼しましょう。
4. 客観的な目で候補会社を評価する
会社の知名度や営業担当者の人柄だけでなく、客観的な基準で候補会社を評価することが重要です。例えば、国土交通省が推進する「管理計画認定制度」は、マンションの管理計画が一定の基準を満たす場合に自治体が認定する制度です。この認定の取得を支援できる実績を持つ管理会社は、適切な管理運営のノウハウを有している可能性が高いと考えられます。ただし、この制度はあくまで管理組合の運営状況を評価するものであり、管理会社そのものを格付けするものではない点に注意が必要です。候補会社の提案力を評価する際は、この認定制度の基準などを参考に、長期的な視点での改善提案能力があるかを見極めましょう。
5. 契約前に「引き継ぎ計画」まで具体的に詰める
新しい管理会社と契約を締結する前に、現在の管理会社からの引き継ぎスケジュールや方法について、具体的な計画を詰めておくことが極めて重要です。新旧の管理会社、そして理事会の三者で引き継ぎに関する覚書を交わすなど、責任の所在を明確にしておくと、後のトラブルを防止できます。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 管理会社変更には、どのくらいの期間がかかりますか?
A1. 一般的に、理事会で検討を開始してから新しい管理会社の業務がスタートするまで、半年から1年程度を見込むのが現実的です。住民アンケート、候補会社の選定、住民説明会、総会決議、引き継ぎ期間などを考慮すると、相応の時間が必要になります。
- Q2. 住民説明会では、どんな点に注意すれば良いですか?
A2. メリットだけでなく、考えられるデメリットやリスクも正直に説明することが信頼を得る鍵です。「なぜ変更が必要なのか」という目的を明確に伝え、アンケート結果などの客観的データを示すと説得力が増します。複数の候補会社に説明会へ参加してもらい、住民が直接質問できる場を設けるのも有効です。
- Q3. 変更に反対する住民がいたら、どう対応すべきですか?
A3. まずは反対意見に真摯に耳を傾け、何に不安を感じているのかを正確に理解することが重要です。感情的に対立するのではなく、データや事実に基づいて丁寧に説明を尽くしましょう。それでも合意が難しい場合は、すぐに採決を急がず、再度議論の場を設けるなど、粘り強い対話を心がける必要があります。
- Q4. 理事会の手続きが複雑で対応しきれません。どうしたら?
A4. マンション管理士(国家資格)に業務委託することを検討してください。管理計画認定申請の支援も含め、専門的サポートが受けられます。費用はかかりますが(業務範囲により異なりますが、一般的に数万円からが目安です)、トラブル回避による効果と比較して判断してください。
まとめ:デメリットの事前把握が、最良のパートナー選びにつながる
マンション管理会社の変更は、組合運営を改善するための強力な選択肢です。しかし、その道のりには「合意形成の壁」「費用の罠」「引き継ぎの混乱」といった数々のデメリットやリスクが潜んでいます。
重要なのは、これらのデメリットを事前に、そして正確に把握し、一つひとつ対策を講じることです。
- 手続き・合意形成: 理事会の負担を覚悟し、住民との丁寧な対話を重ねる。
- 費用・品質: 目先の安さに惑わされず、詳細な要求仕様と見積もりで質を見極める。
- 実務・引き継ぎ: 契約前に引き継ぎ計画を確定させ、会計の透明性を確保する。
安易な乗り換えは失敗のもとです。この記事で解説したデメリットと対策を参考に、あなたのマンションにとって最良のパートナーを見つけるため、慎重かつ計画的にプロセスを進めてください。
免責事項
本記事は、マンション管理会社の変更に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、特定の管理組合の状況に対する個別具体的な法的助言を行うものではありません。管理会社の変更に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。また、記事内で引用している法令や制度は、執筆時点(2025年11月30日)のものです。最新の法令改正や、個別のマンション管理規約、管理委託契約書の条項が最優先されますので、必ずご確認ください。
※ 本記事の著者は宅地建物取引士資格を保有しており、不動産情報提供を目的としています。法律相談ではありません。管理会社変更に伴う具体的な契約判定、規約解釈については、弁護士またはマンション管理士(国家資格)へ相談してください。
参考資料(確認日:2025年11月30日)
- e-Gov法令検索. 「建物の区分所有等に関する法律」. [https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069](https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069)
- 国土交通省. 「マンション標準管理規約(単棟型)」[2023年改訂版]. [https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html](https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html)
- 国土交通省. 「マンション標準管理委託契約書」. [https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001479850.pdf](https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001479850.pdf)
- 国土交通省. 「マンション管理計画認定制度について」. [https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000070.html](https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000070.html)
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

