マンション玄関ドア修繕の責任は誰?専有・共用部分の区分と費用負担基準

マンション管理規約と、それを読みながら専門家に相談している様子を写した写真。規約書や図面が広げられたテーブルを囲み、真剣な表情で話し合う人々が写っている。読者がマンション管理の複雑さを理解し、専門家との連携の重要性を認識するのに役立つ。信頼性と安心感を伝える。

マンション玄関ドア修繕の責任は誰が負担?専有部分・共用部分の区分と費用負担の判断基準

本記事について 本記事は、分譲マンション(区分所有建物)の区分所有者向けの内容です。賃貸マンションの入居者に関するご質問は、【FAQ】セクションをご参照ください。

マンションの玄関ドアがガタついたり、鍵の調子が悪くなったりしたとき、「この修理費用は自己負担?それとも管理組合が出してくれるの?」と悩んだ経験はありませんか。玄関ドアの修繕は、誰がその費用を負担するのか、責任の所在が分かりにくく、トラブルに発展しやすい問題の一つです。

結論から言うと、玄関ドアの修繕における責任の区分は、故障した「部位」と「原因」によって明確に決まります。国の指針である「マンション標準管理規約」では、錠(鍵)と内側の塗装は個人の所有物である「専有部分」、ドア本体やドアクローザーなどはマンション全体の資産である「共用部分」と定められています。

注記:本記事での玄関ドアの責任区分は、令和7年(2025年)に改正されたマンション標準管理規約に基づいています。

この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、法的根拠に基づいて玄関ドアの修繕責任の区分、費用負担の判断基準、そしてトラブルを避けるための具体的な手続きを分かりやすく解説します。ご自身のケースを正しく理解し、スムーズな修繕を進めるためにお役立てください。

目次

玄関ドア修繕の責任区分―「専有部分」と「共用部分」が鍵

マンションの玄関ドアの修繕責任を判断するうえで最も重要な考え方が、「専有部分」と「共用部分」の区別です。これは、マンションの所有と管理に関するルールを定めた「区分所有法」および、国土交通省がそのひな形を示す「マンション標準管理規約」に基づいています。

玄関ドアの共有部分性は、区分所有法第6条に基づき『建物全体の安全・一体性に関わる部分』と定義され、共有部分として扱われます。

専有部分と共用部分の定義

まず、基本的な用語を整理しましょう。

  • 専有部分: 区分所有者が単独で所有し、排他的に使用できる部分です。具体的には、住戸の内部空間(壁、床、天井の内側)が該当します。
  • 共用部分: 区分所有者全員で共有する部分です。廊下、階段、エレベーター、建物の構造を支える壁などがこれにあたります。共用部分の維持管理は、管理組合が主体となって行い、その費用は管理費や修繕積立金から賄われます。

玄関ドアは、この専有部分と共用部分の境界に位置するため、部位によって扱いが異なります。

国土交通省が示す玄関ドアの責任区分

国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」では、玄関ドアの責任区分について明確な指針が示されています。

(対象物件の範囲)
第7条 2 別表第2に掲げるもののうち、玄関扉については、錠及び内部塗装部分を専有部分とする。

(出典:国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」第7条)

この規定に基づくと、玄関ドアの各部位の責任区分は、原則として以下の通り整理できます。これは専門家の間でも共通の認識となっています。玄関ドア本体(外側および構造部分)およびドアクローザーは共用部分とされ、管理組合の維持管理となります。

部位区分原則的な費用負担者
錠(シリンダー、鍵)専有部分区分所有者(個人)
ドアの内部塗装専有部分区分所有者(個人)
ドア本体(扉)、ドア枠共用部分管理組合
ドアクローザー共用部分管理組合
蝶番(ちょうつがい)、ドアガード、ドアスコープ共用部分管理組合
表が表示されない場合、以下のリストを参照:
– 錠(シリンダー、鍵): 専有部分(区分所有者負担)
– ドアの内部塗装: 専有部分(区分所有者負担)
– ドア本体(扉)、ドア枠: 共用部分(管理組合負担)
– ドアクローザー: 共用部分(管理組合負担)
– 蝶番(ちょうつがい)、ドアガード、ドアスコープ: 共用部分(管理組合負担)

ポイントは、「錠(鍵)」と「内側の塗装」のみが個人の資産(専有部分)であり、それ以外のドア本体や各種部品は共用部分として扱われるという点です。したがって、鍵を紛失してシリンダーごと交換する費用は自己負担、ドアの建付けが悪くなった場合の調整費用は管理組合の負担となるのが基本です。

【原因別】費用負担の判断基準が変わる3つのケース

部位だけでなく、「なぜ修繕が必要になったか」という原因も費用負担を判断する重要な要素です。主なケースは以下の3つに分けられます。

ケース1:経年劣化による不具合

長年の使用によりドアクローザーの油が漏れた、ドアが重くなったなど、自然な劣化が原因の場合は、共용部分の維持管理にあたります。一般的には管理組合が修繕積立金を用いて修繕することが多いとされていますが、多くのマンションでは区分所有者負担と定める個別規約も存在するため、ご自身のマンション管理規約で必ず確認が必須です[1][2]。ドアクローザーの油漏れ、調整不良など経年劣化による不具合の場合、共用部分の維持管理にあたります。ただし、ご自身のマンションの管理規約によっては区分所有者負担と定められている場合もあるため、管理組合に必ず相談してください。一般的には、大規模修繕時の一括交換は管理組合負担ですが、個別交換は個人負担とするマンションも多くあります。

多くのマンションでは、長期修繕計画の中で玄関ドアの点検・調整時期(例:12〜15年ごと)が定められています。

ケース2:個人的な使用による故障や破損

「子どもがドアにボールをぶつけてへこませた」「鍵穴に異物を詰らせて壊してしまった」など、居住者の故意・過失によって発生した故障や破損は、原因者である区分所有者が費用を負担して原状回復する責任を負います(出典:O-UCCINO)。これは、共用部分であるドア本体に損害を与えた場合も同様です。

個人使用による破損(鍵・ノブ故障)は区分所有者負担とされますが、実務確認が必須です。

ケース3:大規模修繕計画の一環としての交換

築年数が長くなったマンションなどでは、防犯性能の向上や美観の維持を目的として、全戸の玄関ドアを一度に交換することがあります。これはマンション全体の資産価値を維持・向上させるための工事であり、長期修繕計画に基づいて管理組合の費用負担で実施されます。取替は34〜38年ごととするのが長期修繕計画の標準です。玄関ドア交換工法別費用として、はつり工法40〜100万円、カバー工法30〜60万円、本体のみ20〜50万円が一般的です。自治体の補助金(例:先進的窓リノベ2025事業で43,000〜266,000円)を活用できる場合がありますが、その対象は玄関ドア特有ではなく、窓との断熱改修セットが原則です。玄関ドア単体の補助金制度は限定的のため、管理組合に必ず確認してください。

トラブル回避!玄関ドア修繕で失敗しないための正しい4ステップ

玄関ドアの不具合に気づいたとき、自己判断で業者に修理を依頼するのは禁物です。共用部分に手をつけてしまうと、後々大きなトラブルに発展しかねません。必ず以下のステップを踏んでください。

Step1:まず自分のマンションの「管理規約」を確認

この記事で解説しているのは、あくまで国土交通省の「標準管理規約」に基づく一般的なルールです。最も優先されるのは、あなたが住むマンション独自の「管理規約」です。まずは規約を読み、玄関ドアに関する規定(専有部分・共用部分の範囲、修繕の手続きなど)を確認しましょう。

なお、管理規約の決議変更は区分所有法第39条により『区分所有者および議決権の過半数による普通決議』で可能ですが、その規約の定めが最優先的に適用されます。すなわち、本記事で述べる『標準的なルール』より、あなたのマンション管理規約が絶対的に優先されることをご理解ください[区分所有法第39条]。

Step2:管理組合(または管理会社)へ事前相談

規約を確認したら、次に管理組合の理事会、もしくは日常の管理を委託している管理会社へ状況を報告し、相談します。このとき、以下の情報を伝えるとスムーズです。

  • 不具所が起きている箇所(写真があると分かりやすい)
  • いつから、どのような不具合か
  • 考えられる原因

Step3:理事会の承認を得てから業者を手配

相談の結果、管理組合が負担する共用部分の修繕と判断されれば、通常は管理組合(管理会社)が業者を手配します。自己負担となる専有部分の修繕であっても、共用部分に影響が及ぶ可能性があるため、必ず理事会の承認を得てから業者選定に進みましょう。特にドアの色やデザインは、マンション全体の景観に関わるため、規約で指定されていることがほとんどです。

Step4:工事の実施と完了報告

承認された内容に従って工事を実施します。工事が完了したら、管理組合へ報告しましょう。

無断で玄関ドアを修繕・交換すると、規約違反として原状回復を求められるリスクがあります。

区分所有法第57条では、共同の利益に反する行為をした区分所有者に対し、他の区分所有者の全員または管理組合法人が、行為の停止や原状回復を請求できると定めています。実際に、管理組合の承認を得ずに玄関ドアを交換した区分所有者に対し、原状回復を命じた裁判例も存在します(出典:SCS-MANSION)。「知らなかった」では済まされないため、手続きは必ず守りましょう。その判断は各マンションの管理規約および専門家の意見に基づくことを補足します。

玄関ドア修繕に関するよくある質問(FAQ)

Q. マンションの玄関ドア、鍵交換の費用は誰が負担しますか? A. 国土交通省の標準管理規約では、錠(鍵)は専有部分とされており、原則として区分所有者(居住者)の負担となります。経年劣化であっても、鍵の所有者である個人が負担するのが一般的です。ただし、ご自身のマンションの管理規約で異なる定めがある場合もありますので、必ずご確認ください。

Q. 玄関ドアのドアクローザーが壊れました。修理費用は誰の負担ですか? A. ドアクローザーは、標準管理規約において共用部分とされています。そのため、経年劣化による故障の場合は、管理組合が修繕積立金等で費用を負担するのが一般的です。ただし、物をぶつけるなど個人的な過失で壊した場合は、原因者である区分所有者の負担となります。ドアクローザー交換費用は2〜3万円が一般的(専門業者依頼時)で、内訳として本体10,000〜20,000円、施工10,000〜15,000円、出張0〜8,000円です。また、玄関扉の保証期間は、中高層住宅アフターサービス基準(日本住宅性能検査協会等)で2年とされています。

Q. 玄関ドアの色を好きな色に塗り替えてもいいですか? A. いいえ、認められないケースがほとんどです。玄関ドアの外観(色、デザイン)はマンション全体の統一性を保つために重要な要素であり、共用部分として扱われます。勝手に色を変更すると管理規約違反となり、原状回復を求められる可能性があります。塗装を希望する場合は、必ず管理組合に相談してください。

Q. 賃貸マンションの場合、玄関ドアの修理費用は誰の負担ですか? A. 賃貸マンションでは、ドアクローザーの修理費用は原則オーナー負担です。入居者は原状回復義務がありますが、経年劣化によるものはオーナー側が負担するのが一般的です。詳細は賃貸借契約書を確認し、管理会社に相談してください。

修繕前に知っておきたい2つの実務的なヒント

最後に、よりスムーズに修繕を進めるための実務的なヒントを2つお伝えします。

ヒント1:「標準管理規約」と「個別規約」は違うことを再認識する

繰り返しになりますが、国土交通省の「標準管理規約」は、あくまで法的な拘束力のない「ひな形」です。最終的なルールは、あなたのマンションで定められ、総会で承認された「管理規約」そのものです。中には、標準管理規約とは異なる特別な定め(例えば、ドアクローザーも専有部分とするなど)を設けているマンションも存在します。必ず最新の個別規約を確認する癖をつけましょう。

ヒント2:相見積もりは2〜3社が現実的

管理組合主導で修繕を行う場合、費用の妥当性を確認するために複数の業者から見積もり(相見積もり)を取ることがあります。複数見積で比較検討することは、適切な工事費用の判定に有効ですが、実務的には管理会社と相談の上、3社程度に絞り、それぞれから詳細な内訳提示を求めることが現実的です。

管理会社側は、管理委託内容の精査および会計状況、1棟全体の管理費等の見積もり作成に労力がかかるため(現地調査3〜4回、外注先調整、理事会面談数回など)、過度な相見積もり数(5社以上)は業者参加を難しくする可能性があります。特に20〜40戸程度の中小規模マンションでは、2〜3社に絞ることが円滑な修繕につながります。見積もりは一式ではなく、詳細内訳を求めましょう。

まとめ:玄関ドアの修繕は「規約確認」と「事前相談」が鉄則

本記事では、マンションの玄関ドア修繕における責任区分と費用負担について解説しました。最後に、重要なポイントを振り返ります。

  • 責任区分の基本原則: 錠(鍵)と内側の塗装は「専有部分」で個人負担。ドア本体やドアクローザーなどは「共用部分」で管理組合負担。
  • 費用負担の判断軸: 「部位」だけでなく、経年劣化か個人的な過失かという「原因」によっても負担者が変わる。
  • 最優先すべきは「個別規約」: 国の標準規約はあくまで参考。あなたのマンションの管理規約が絶対的なルール。
  • 行動の鉄則: 自己判断は絶対にNG。まずは「管理規約を確認」し、必ず「管理組合(管理会社)へ事前相談」する。

玄関ドアの不具合は、毎日の生活に直結するストレスの原因となります。正しい知識と手順を身につけ、管理組合と良好なコミュニケーションを取りながら、スムーズな解決を目指しましょう。相談先として国土交通省のマンション管理支援センターを活用し、正確な判断を求めるのも有効です。

免責事項

本記事は、2025年12月1日時点の法令(令和7年マンション標準管理規約を含む)や一般的な情報に基づいて作成されています。執筆には万全を期しておりますが、その内容の正確性や完全性を保証するものではありません。

個別の不動産取引や法律問題に関する具体的な判断や助言を行うものではなく、実際の修繕にあたっては、必ずご自身のマンション管理規約をご確認の上、管理組合や弁護士、マンション管理士などの専門家にご相談ください。最新の法改正や個別の契約条項が本記事の内容に優先します。

参考資料

  • [1] O-UCCINO「マンションの玄関ドアは専有部分?共用部分?リフォーム前に知っておきたいこと」
  • [2] タケビ「マンション玄関ドア交換!管理組合に申請する手順と注意点について」
  • [3] 柏原ライフ「マンションの玄関ドア・サッシの修繕費用負担は誰か|専有・共有部分の範囲」
  • [4] マックグラス「マンションの玄関ドア交換はいつ?大規模修繕のタイミングや費用、注意点を解説」
  • [5] SCS-MANSION(マンション管理相談センター)「マンション管理組合と区分所有者の間で玄関扉改修工事を巡り訴訟に発展」
  • [6] 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」、(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansionkiyaku.html)
  • [7] 新藤塗装「ドアクローザーは共用部?専有部?マンション居住者であれば知っておくべきこと」
  • [8] 国土交通省「「マンション標準管理規約」の改正の主なポイント」(令和7年(2025年))、(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001789708.pdf)
  • [9] さいたまマンション「玄関ドアと窓サッシは共用部分」
  • [10] 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)第21条」では、専用使用部分の維持管理は「使用者の責任と負担」と定められている(https://www.mlit.go.jp/common/001085450.pdf)

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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