エレベーター点検はなぜ重要?法的義務から契約内容まで、管理組合が知るべきすべて

エレベーター前で、作業員が管理組合の理事に点検内容を説明しているイラスト。
目次

■ エレベーターは「命を運ぶ設備」

エレベーターはマンションの共用設備の中でも特に事故が人命に直結しやすい重要インフラです。
普段何気なく利用していても、その安全性は法律で義務付けられた点検と、日常的な保守管理で支えられています。
一度重大事故が起きれば管理組合や所有者にとって多額の賠償責任や社会的信用失墜を招きかねません。
「今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫」という思い込みは最も危険です。 


■ 法定点検(定期検査報告)の根拠と義務

エレベーターの「法定点検」は建築基準法第12条および施行令第129条の12に明記されています。
内容としては、12か月以内ごとに1回、昇降機検査資格者による性能検査を実施し、その結果を所轄の特定行政庁へ報告することが所有者の義務です。

対象項目の例

  • 巻上機やワイヤーロープの摩耗・損傷状況
  • 制動装置の作動状態
  • 戸開走行保護装置(DOOV)の設置状況と機能確認
  • 停止階の精度、ドア開閉の異常有無
  • かご内非常用装置の作動確認
  • 機械室・昇降路内の清掃状態

この年次検査報告を怠ると建築基準法第101条により50万円以下の罰金刑の可能性があり、
自治体によっては未報告物件の公表や是正命令が行われる例もあります。
理事会では毎年の報告提出状況を必ず確認し、保存することが基本です。


■ 保守点検(いわゆる定期点検)の法的位置付け

法定点検に加え、日常的に行うのが「保守点検」です。
これは**建築基準法第8条(維持保全義務)**により、
「所有者は建物を常に安全かつ適法な状態に維持する」ことが定められています。

ここで多くの人が誤解しがちなのは、
「保守点検の回数は法律で決まっている」わけではない
という点です。
国や自治体の通達、メーカーのメンテマニュアル、国交省の「昇降機保守点検標準契約書」などを踏まえ、
実務上は月1回程度の点検を実施するのが一般的です。
逆に点検回数を大幅に減らすと、事故が起きた際に維持保全義務違反として責任を問われやすくなります。


■ POG契約とフルメンテ契約の違い

エレベーターの保守契約には「POG契約」と「フルメンテナンス契約」の2種類があります。

✅ POG契約

  • Parts(部品)Oil(油脂類)Grease(グリース)の略。
  • 点検作業・注油・消耗部品交換までは含むが、主要部品(巻上機・制御盤・ドアモーターなど)の交換費用は含まれない。
  • 突発的な故障が発生すると、都度高額の修理費用が別途請求される。

✅ フルメンテナンス契約

  • 点検に加えて、大部分の修理・部品交換が保守料に含まれる。
  • 月額はPOGより高めだが、費用の平準化ができるため、築年数が経過して修理リスクが増える物件では安心感が高い。

最近はエレベーターの更新時期を過ぎた築20年以上のマンションで、
「POGで費用を抑えていたら部品供給終了で修理費が跳ね上がった」という例が多発しています。
契約内容を理事会で把握しておき、定期的に見直すことが大切です。


■ 遠隔監視システムの役割と認識

最近のエレベーターには、**遠隔監視(リモートモニタリング)**が標準装備されていることが多く、
24時間365日、かご内閉じ込めや異常作動を監視センターへ自動通報します。

✅ 【遠隔監視の仕組み】

  • 異常信号を検知すると監視センターへ自動通知
  • かご内非常電話で利用者が直接センターへ連絡可能
  • 遠隔でのデータ解析により、異常の兆候を早期把握できる

しかし、ここで重要なのは
「遠隔監視があるから物理点検は不要」ではない
という点です。
遠隔監視はあくまで異常の兆候を把握するツールであり、
巻上機の摩耗、ワイヤーロープの張り具合、注油などは現地作業なしでは維持できません。

また、制御盤更新時には遠隔監視装置も更新が必要になることが多く、
長期修繕計画に含めていないと後で思わぬコストが発生するリスクがあります。


■ 点検未実施の場合の具体的リスク

法定検査報告未提出は罰則(50万円以下の罰金)が課されるだけでなく、
事故が発生した際には「適切な保守管理を怠った」として管理組合が数千万円規模の損害賠償責任を負うこともあります。
さらに、保険会社からも保守不備を理由に支払いを減額される可能性があります。

事故が起きてからでは遅く、
「きちんと点検していれば防げた」という状況では、
住民間のトラブルや理事の責任問題に発展するケースも少なくありません。


■ 更新計画と助成制度を活用する

エレベーターの耐用年数は一般的に20〜25年が目安とされています。
部品供給が終了すると修理不能になるリスクがあるため、
保守点検結果を踏まえ、早めに更新時期を検討し、
長期修繕計画に反映させておくことが不可欠です。

一部の自治体では、戸開走行保護装置(DOOV)の後付け設置や制御盤更新に対する補助金制度を設けているところもあります。
最新の補助要件を点検業者と共有し、住民への説明資料に含めると合意形成がスムーズです。


■ 管理組合が守るべき具体ポイント

管理組合としては以下を徹底してください。

✅ 法定検査報告の提出を毎年チェックし、報告書を保存する
✅ 保守契約(POGかフルメンテか、遠隔監視は含まれるか)を役員交代時に必ず確認する
✅ 点検記録を理事会で回覧し、異常や改善指摘があればすぐ対応する
✅ 住民説明会で、遠隔監視だけに頼らず物理点検が不可欠であることを説明する
✅ 更新計画と助成制度を積極的に活用する


■ まとめ

  • 法定検査報告(年1回)は法的義務、未実施は罰則と信用低下につながる
  • 保守点検は法で回数は決まっていないが、維持保全義務として月1回程度が実務標準
  • POGとフルメンテは費用構造が大きく異なるため築年数や機種に応じて見直す
  • 遠隔監視は点検の代わりではなく異常の早期発見を支える補助装置にすぎない
  • 更新計画を長期修繕計画に組み込み、住民説明で納得を得ておく

エレベーターの安全は、「きちんと点検する」という当たり前の積み重ねによって守られます。正しい知識と契約内容の理解、そして計画的な管理体制を築き、住民の安心・安全を確保しましょう。

エレベーターの保守点検契約や長期修繕計画についてお困りではありませんか? 専門家への相談も選択肢の一つです。

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この記事を書いた人

保有資格:(管理業務主任者・ 保険募集人・甲種防火管理者)
不動産業界歴5年。外部管理者方式や関連法規についての知識も豊富に持っております。
管理組合様それぞれのニーズに合った資産形成のご提案も行ってまいります。
組合様に最適な業者の選定や価格交渉により、コストパフォーマンスの高い管理を実現します。

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