管理会社の委託範囲を最低限に!コストと品質で失敗しない判断基準とは

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マンションの管理委託費を削減したいけれど、どこまで業務を任せるべきか、品質が落ちるのは避けたい。多くのマンション管理組合役員が抱えるこの悩み。管理会社への委託範囲を「最低限」にすることは可能なのでしょうか。

結論から言えば、最適な委託範囲は一つではなく、マンションの規模、築年数、そして管理組合役員の活動状況といった「マンションの体力」によって決まります。コスト削減だけを追求し、自分たちのマンションの実情に合わない範囲まで業務を削ってしまうと、管理品質の低下を招き、結果的に資産価値を損なうことになりかねません。

この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、管理会社の委託範囲を「最低限」にしたいと考える管理組合役員の皆様へ、法律で定められた業務の核心から、失敗しない見直し手順、そしてご自身のマンションに合った委託範囲の判断基準まで、一次情報に基づいて分かりやすく解説します。

まずお読みください:この記事の対象について

本記事は、区分所有者が管理組合を形成する「分譲マンション」を対象としています。アパートや賃貸マンションのオーナー様向けの賃貸管理(プロパティマネジメント)とは、法律や契約形態が異なりますのでご注意ください。

目次

3つの管理形態|全部委託・一部委託・自主管理の違いとは?

マンションの管理方法は、管理会社への委託範囲によって大きく3つに分けられます。それぞれの特徴を理解することが、最適な委託範囲を考える第一歩です。

全部委託方式:最も主流な丸投げスタイル

「全部委託」とは、マンション管理組合の運営に関わる業務のほぼ全てを管理会社に委託する方式です。後述する法律で定められた「基幹事務」を含め、管理員業務や清掃業務、理事会・総会の支援まで幅広く任せます。

国土交通省の最新調査によれば、この全部委託方式が最も主流です(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」、2024年)。役員の負担が最も軽く、専門的な知識やノウハウを活用できるメリットがありますが、その分、管理委託費は最も高くなります。

一部委託方式:コストと労力のバランスを取る選択肢

「一部委託」とは、必要な業務だけを選んで管理会社に委託する方式です。例えば、専門性が高い会計業務や設備点検だけを委託し、清掃や管理員業務は管理組合が直接別の業者に発注する、あるいは役員が担うといったケースが考えられます。

コスト削減と役員の負担軽減のバランスを取りやすいのが特徴で、委託範囲を「最低限」にしたい場合、この一部委託方式が主な検討対象となります

自主管理方式:コストは最小、負担とリスクは最大

「自主管理」とは、管理会社に業務を一切委託せず、会計、清掃、修繕計画、業者選定など、全ての業務を管理組合役員が中心となって行う方式です。

管理委託費がかからないためコストを最小限に抑えられますが、役員の負担は非常に大きくなります。また、専門知識の不足から管理品質が低下したり、法的な義務を果たせなかったりするリスクも伴います。

【定義の区別】全部委託と一部委託の境界線は?
この2つの方式を分ける明確な基準は、後述する「基幹事務」を全て委託しているかどうかです。会計・出納・修繕企画という3つの基幹事務を全て管理会社に任せていれば「全部委託」、そのうち一つでも管理組合が自ら行うか、または基幹事務以外の業務のみを委託している場合は「一部委託」に分類されます(出典:国土交通省「マンション標準管理委託契約書コメント」、2021年)。

委託範囲の核心「基幹事務」とは?法律で定められた3つの業務

管理委託範囲を考える上で最も重要なキーワードが「基幹事務」です。これは「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)」で定められた、マンション管理の根幹をなす3つの業務を指します。

(定義)
第八号 基幹事務 管理組合の会計の収入及び支出の調定及び出納並びにマンション(専有部分を除く。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整をいう。
(出典:マンションの管理の適正化の推進に関する法律 第2条第8号)

具体的には以下の3つです。

①会計の収入・支出の調定

管理費や修繕積立金の収支予算案・決算案の作成、未収金の督促など、管理組合のお金の流れを管理・計画する業務です。

②出納業務

管理組合の口座から、共用部分の光熱費や各種点検費用、業者への支払いなどを実際に行う業務です。管理組合の財産を直接動かす重要な役割を担います。

③維持・修繕に関する企画・実施の調整

長期修繕計画の作成・見直しや、大規模修繕工事の業者選定の補助、日常的な小修繕の手配など、建物の資産価値を維持するための計画を立て、実行をサポートする業務です。

これらの基幹事務は、管理組合の財産管理と建物の保全に直結するため、非常に重要度が高く設定されています。

【注意】基幹事務の自己管理は役員の法的責任(善管注意義務)を伴う

コスト削減のために基幹事務の一部または全部を管理組合で直接行おうと考える場合、役員が負うことになる法的な責任を理解しておく必要があります。

建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)では、管理組合の役員(管理者)は「善良なる管理者の注意をもって、その職務を行わなければならない」と定められています。これは「善管注意義務」と呼ばれ、役員には、その立場として通常期待されるレベルの注意を払って業務を遂行する義務があることを意味します。

もし専門知識の不足から会計処理を誤って組合に損害を与えたり、必要な修繕を怠って建物の劣化を招いたりした場合、善管注意義務違反として役員個人が管理組合に対して損害賠償責任を問われる可能性もゼロではありません。基幹事務を自ら担うことは、それだけの重い責任を伴うのです。

基幹事務以外で「削減」を検討できる業務一覧

委託範囲を最低限に絞る際、現実的な見直しの対象となるのは、基幹事務以外の業務です。国土交通省の「標準管理委託契約書」では、主に以下の業務が例示されています(出典:国土交通省「マンション標準管理委託契約書」別表第1、2021年)。

①管理員業務(受付、点検、報告など)

住民や来訪者の対応、共用部分の鍵の管理、簡単な巡回点検などを行います。
【見直しの選択肢】

  • 常駐(週5日、日中勤務)→ 巡回(週2〜3日、短時間)に変更
  • 勤務時間を短縮
  • 管理員業務自体をなくし、緊急時のみの対応(オンコール)に切り替える

②清掃業務(日常清掃、定期清掃)

エントランスや廊下、ゴミ置き場などの日常的な清掃や、床のワックスがけなどの定期的な清掃です。
【見直しの選択肢】

  • 清掃の頻度を減らす(例:毎日→週3回)
  • 清掃範囲を限定する
  • 管理会社経由ではなく、管理組合が直接清掃業者と契約する

③建物・設備管理業務(法定点検は削減不可)

エレベーターや消防設備、給排水設備などの定期的な保守点検です。
【見直しの選択肢】

  • 管理会社経由ではなく、専門の保守点検業者と直接契約する

【注意】法定点検を怠ると法令違反となります
建築基準法第12条に基づく定期報告や、消防法第17条の3の3に基づく消防用設備等の点検は、法律で義務付けられています。これらの法定点検を実施しなかったり、虚偽の報告をしたりした場合、建築基準法違反として100万円以下の罰金(同法第101条)、または消防法違反として30万円以下の罰金もしくは拘留(同法第44条)の対象となる可能性があります。法定点検は削減対象ではなく、必ず実施しなければならない義務です。

④事務管理業務(理事会・総会支援など)

理事会や総会の案内状作成・出欠確認、議事録案の作成、各種届出の受付など、管理組合の運営をサポートする事務作業です。
【見直しの選択肢】

  • 議事録作成は役員が行い、管理会社には内容のチェックのみ依頼する
  • 理事会への出席頻度を減らしてもらう

委託範囲を最低限にするメリット・デメリット

委託範囲の見直しは、良い面ばかりではありません。メリットとデメリットを客観的に比較し、冷静に判断することが重要です。

メリット:管理委託費の削減効果

最大のメリットは、コスト削減です。委託範囲を見直すことで、一定のコスト削減効果が期待できます。ただし、削減幅はマンションの規模や委託範囲の絞り方によって大きく異なるため、必ず複数の管理会社から見積もりを取得し、具体的な金額を確認することが重要です。

デメリット①:管理組合(役員)の負担増

コスト削減の裏返しとして、管理会社が担っていた業務を役員が引き継ぐことになるため、負担は確実に増加します。先行事例では、理事会の開催頻度が増加したり、役員の年間活動時間が数十時間単位で増加したりしたケースも報告されています。時間的な負担だけでなく、精神的なプレッシャーも増えることを覚悟しなければなりません。

デメリット②:専門性欠如によるトラブルリスク

特に基幹事務の一部を自ら行う場合、専門知識や経験の不足が大きなリスクとなります。過去の事例では、会計知識の不足から修繕積立金の使途不明金が発生したり、長期修繕計画の見直しが遅れて必要な工事ができなくなったりといったトラブルが報告されています(出典:公益財団法人マンション管理センター「自主管理への移行事例集」、2018年発行)。専門家であれば未然に防げたはずの問題が、資産価値を大きく損なう結果につながる恐れがあるのです。

【実践編】委託範囲の見直し 失敗しないための3ステップ

実際に委託範囲の見直しを進める際は、以下の3つのステップで慎重に進めましょう。

ステップ1:現状把握|管理委託契約書で「委託業務」と「費用内訳」を確認

まずは現在の管理会社とどのような契約を結んでいるのか、正確に把握することから始めます。管理委託契約書を取り寄せ、特に「委託業務の範囲」と「費用内訳」を重点的に確認しましょう。

チェックポイント:費用内訳は「一式」になっていませんか?
国土交通省は、管理委託費の内訳を項目別に明示すべきという指針を出しています(出典:国土交通省「管理委託費の透明性向上に関する指針」、2022年)。もし見積もりが「管理委託費一式 ○○円」となっている場合、どの業務にいくらかかっているのか不透明です。見直しの際は、必ず項目別の内訳を提示するよう求めましょう。

ステップ2:相見積もり|2〜3社に絞り、質の高い提案を引き出す

現在の契約内容を把握したら、他の管理会社から見積もりを取得します。これを「相見積もり」と呼びます。

国土交通省の手引きでも、相見積もりの依頼先は2〜3社に絞ることが適切とされています。あまりに多くの会社に声をかけると、各社の提案の質が下がり、形式的な価格競争に陥りがちです。

また、管理会社側も見積もり作成には多大な労力をかけています。現地調査や協力会社との調整など、1件の見積もりに数十時間を費やすことも珍しくありません。やみくもに相見積もりを依頼したり、過度な要求をしたりする管理組合は、優良な管理会社から敬遠されてしまうリスクがあることも知っておきましょう。

質の高い提案を引き出すためには、単に「安くしてほしい」と伝えるのではなく、現行の契約書や長期修繕計画、マンションの課題などをまとめた資料を提示し、自分たちのマンションに合った提案を依頼することが重要です。

ステップ3:比較検討|価格だけでなく提案内容と担当者の対応力も評価

複数の会社から見積もりが集まったら、比較検討を行います。このとき、単純な金額の安さだけで判断してはいけません。

  • 提案されている業務内容は、自分たちのマンションの課題解決に繋がるか?
  • 担当者の説明は分かりやすく、質問に的確に答えられるか?
  • 会社の得意分野(例:大規模修繕、コミュニティ形成支援など)は何か?

といった多角的な視点で評価し、管理組合として最も信頼できるパートナーを選びましょう。

【重要】管理委託契約の変更・解約に必要な手続き

管理会社の変更や委託範囲の見直しには、管理組合の集会(総会)における決議が必要です。手続きを誤ると、後々のトラブルにつながるため必ず確認してください。

原則は「普通決議」、ただし管理規約の確認が必須

「建物の区分所有等に関する法律」では、管理委託契約の締結・変更・解約は、原則として区分所有者及び議決権の各過半数による普通決議で決定されます。

しかし、最も重要なのは、実際の決議要件は各マンションの管理規約によって異なる可能性があることです。多くのマンションでは、管理規約で「出席組合員の議決権の過半数」といった独自の定めをしており、この場合は管理規約の定めが優先されます(国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」第47条参照)。

「解約予告期間」も契約書で必ず確認

また、管理会社を変更する際の解約予告期間(例:「3ヶ月前までに書面で通知」等)も、現在の管理委託契約書に記載された条項が最優先されます。総会で変更を決議しても、契約上の予告期間を守らなければ、違約金を請求される可能性もあります。

委託範囲の見直しや管理会社変更を検討する際は、必ず以下を事前に確認してください。

  1. ご自身のマンションの管理規約(特に総会の決議要件)
  2. 現在の管理委託契約書(解約条項・予告期間)

あなたのマンションに最適な委託範囲は?3つの判断基準

では、具体的にあなたのマンションはどこまで委託範囲を絞れるのでしょうか。以下の3つの基準で「マンションの体力」を客観的に評価してみましょう。

判断基準①:マンションの規模(戸数)

一般的に、マンションの規模が大きくなるほど業務は複雑化し、専門性が求められるため、全部委託が適しているとされます。国土交通省の最新調査でも、規模別の委託形態には明確な傾向が見られます。

マンション規模自主管理一部委託全部委託
小規模(21-50戸)4.9%16.8%77.0%
中規模(51-100戸)1.3%11.4%86.9%
大規模(201戸以上)0.5%5.8%93.6%

(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」(2024年)のデータを基に作成)

戸数が少ない小規模マンションほど、一部委託や自主管理の選択肢が現実的になると言えるでしょう。

判断基準②:築年数

築年数が浅いマンションは、設備の不具合が少なく、修繕に関する業務量が比較的少ないため、一部委託に移行しやすい傾向があります。一方、築20年を超え、大規模修繕工事が視野に入ってくるマンションでは、「維持・修繕に関する企画・実施の調整」という基幹事務の専門性が非常に重要になります。この時期に専門家のサポートを削るのは、将来的なリスクを高める可能性があります。

判断基準③:役員の活動状況と専門性

委託範囲を絞るほど、役員の活動量と専門性が求められます。

  • 役員のなり手が不足しておらず、理事会が定期的に機能しているか?
  • 役員の中に、会計や建築、法律などの専門知識を持つ人はいるか?
  • 役員が交代しても、業務を引き継げる体制が整っているか?

これらの問いに対して自信を持って「はい」と答えられない場合、安易に委託範囲を絞るべきではありません。

よくある誤解:新制度は「管理会社選びの基準」ではありません

最近、管理計画認定制度マンション管理適正評価制度といった新しい制度が始まりました。これらを「良い管理会社を見分ける仕組み」と誤解される方がいますが、これは大きな間違いです。

制度名評価する主体評価される対象
管理計画認定制度地方公共団体(市、区など)管理組合が作った「管理計画」
マンション管理適正評価制度第三者評価機関管理組合の「管理状態そのもの」

(出典:国土交通省の各制度資料を基に作成)

どちらの制度も、評価・認定の対象はあくまで「管理組合(マンション)」自身の取り組みであり、委託先の「管理会社」の優劣を直接評価するものではありません。優れた管理会社と契約していても、管理組合側の体制が整っていなければ認定は受けられませんし、逆に適切な管理会社と協力することで認定を得やすくなることも事実です。

管理会社を選ぶ際は、これらの制度の有無ではなく、自分たちのマンションの課題解決能力や担当者の対応力、実績などを総合的に判断しましょう

まとめ:最適な委託範囲を見つけ、マンションの資産価値を守ろう

管理会社の委託範囲を「最低限」にすることは、管理委託費の削減という大きなメリットをもたらす可能性があります。しかし、その実現には、法律で定められた「基幹事務」の重要性を理解し、役員の負担増大や専門性欠如によるリスクを乗り越える覚悟が必要です。

委託範囲の見直しは、ゼロか百かの選択ではありません。

  1. 現状を把握し(契約書確認)
  2. 複数の選択肢を比較検討し(相見積もり)
  3. 自分たちのマンションの「体力」(規模・築年数・役員の状況)に合った最適解を見つける

このプロセスこそが、コストと品質のバランスを取り、長期的な視点でマンションの資産価値を守ることに繋がります。この記事が、あなたの管理組合にとって最良の選択をするための一助となれば幸いです。

免責事項
本記事は、不動産管理に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言を与えるものではありません。管理委託契約の見直しや変更、それに伴う総会の決議要件など、重要な判断にあたっては、必ず最新の法令やご自身のマンションの管理規約原本、管理委託契約書の条項を直接ご確認の上、必要に応じて弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談ください。

参考資料

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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