【宅建士解説】フロントマン変更の悩み解決ガイド|担当交代からリプレイスまで

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マンション管理組合の運営において、管理会社の担当者、通称「フロントマン」の対応は非常に重要です。しかし、「レスポンスが遅い」「引き継ぎが不十分なまま担当者がすぐ変わる」といった悩みは、多くの管理組合で聞かれます。フロントマンの頻繁な変更は、管理品質の低下に直結し、マンションの資産価値にも影響を及ぼしかねません。

この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、マンションのフロントマンが頻繁に変わる背景から、具体的な解決策までをステップごとに解説します。担当者変更を要求する際の手順や注意点、さらには管理会社自体の変更(リプレイス)を成功させるための現実的な方法まで、管理組合の理事会が今すぐ実践できる知識を提供します。長期的な視点でマンションの価値を守るための、信頼できるパートナー選びの参考にしてください。

管理会社のフロントマン(担当者)とのコミュニケーションは、管理組合運営の要です。しかし、このフロントマンに関する不満や悩みは、多くのマンションで共通して抱えられています。

レスポンスが遅い、引き継ぎが不十分…よくある不満事例

管理組合の役員の皆様から寄せられる不満には、以下のような共通点があります。

  • 対応の遅延:問い合わせや依頼事項への返信が遅い、あるいは忘れられている。
  • 知識・経験不足:専門的な質問に答えられない、提案が的外れである。
  • 引き継ぎの不備:担当者が交代する際、前任者からの引き継ぎが不十分で、話が最初からやり直しになる。
  • 提案力の欠如:現状維持ばかりで、マンションの価値向上やコスト削減に向けた積極的な提案がない。
  • 頻繁な交代:1年未満で担当者が次々と変わり、信頼関係を築けない。

これらの問題は、理事会の運営を停滞させ、住民の不満を増大させる原因となります。

その悩み、あなたのマンションだけではありません

「うちのマンションだけ、担当者に恵まれないのでは…」と感じるかもしれませんが、ご安心ください。担当者の質や変更頻度に関する悩みは、多くの管理組合が直面している共通の課題です。

事実、国土交通省の令和5年度マンション総合調査(令和6年4月公表)によると、管理組合の約76%が現在の管理会社に「満足」または「まあ満足」と回答している一方、裏返せば約24%は何らかの不満を抱えている実態があります。

問題の本質を理解し、適切な手順を踏むことで、状況は改善できます。

目次

なぜフロントマンの変更は多い?業界の構造的な背景

担当者個人の資質も一因ですが、問題の根源にはマンション管理業界が抱える構造的な課題があります。なぜフロントマンは頻繁に変わり、対応品質が低下しやすいのでしょうか。

1人あたり10〜20物件担当?フロントマンの過酷な業務実態

厚生労働省の職業情報サイトによると、フロントマンは複数の物件をかけ持つのが一般的です。業界の実態として、1人あたり10~20物件を担当するケースもあると言われています(出典:厚生労働省 職業情報提供サイト「マンション管理員(フロント)」)。

仮に15物件を担当すると、月1回の理事会があれば、月に15回もの理事会の準備、出席、議事録作成に追われます。これに加えて、日々の問い合わせ対応、各種点検の立ち会い、トラブル処理、会計報告書の作成など、業務は多岐にわたります。このような過重な業務負担が、一物件あたりの対応品質の低下や、担当者の疲弊、ひいては離職につながる大きな要因となっています。

土日開催の理事会と業界の人手不足問題

多くのマンションで理事会が土日に開催されるため、フロントマンは平日休みとなるケースが多く、勤務形態がライフスタイルに影響を与える可能性があります。こうした労働環境に加え、業界全体の人手不足も深刻です。結果として、経験の浅い担当者が十分なサポートを受けられないまま現場に出されたり、退職者の補充が間に合わず一人あたりの担当物件数がさらに増加したりする、という悪循環に陥りやすい構造があります。

フロントマン個人の能力不足を責めるだけでなく、その背景にある「担当物件の過多」や「会社のサポート体制の不備」といった構造的な問題に目を向けることが、根本的な解決の第一歩です。

ステップ1:管理会社へ担当者(フロントマン)の変更を要求する方法

現在のフロントマンの対応に問題がある場合、まずは管理会社に対して担当者の交代を正式に要求することから始めましょう。その際、感情的にならず、論理的かつ段階的に進めることが成功の鍵です。

まずは不満点を具体的に記録・整理する

担当者変更を申し入れる前に、理事会として問題点を客観的な事実に基づいて整理することが不可欠です。

  • いつ:202X年X月X日の理事会で依頼した件
  • 何を:共用廊下の電灯交換の見積もり依頼
  • どうなった:X週間経っても提出されず、催促してようやく出てきた
  • 結果:理事会の議題に間に合わなかった

このように「5W1H」を意識して、具体的な事例を複数記録しておきましょう。議事録に相談の経緯を残しておくことも重要です。

担当者の上長(支店長など)へ改善・変更を申し入れる

記録がまとまったら、担当者本人ではなく、その上司(支店長や営業所長など)に連絡を取ります。申し入れは、可能であれば書面で行い、理事長名で提出すると良いでしょう。

伝えるべき内容は以下の通りです。

  1. 日頃の業務への感謝
  2. 担当者の具体的な問題行動(記録した事実を提示)
  3. それによって管理組合の運営にどのような支障が出ているか
  4. 具体的な改善策、または担当者の変更を正式に要請

【注意】感情論ではなく契約に基づく要求を

申し入れの際は、「やる気がない」「態度が悪い」といった主観的な表現は避けましょう。あくまで管理委託契約書に定められた業務が適切に履行されていないという観点から、冷静に事実を伝えることが重要です。

管理会社には、管理組合に対して善良な管理者としての注意をもって委託事務を処理する義務(善管注意義務)があります。契約内容の不履行を根拠とすることで、管理会社側も真摯に対応せざるを得なくなります。

ステップ2:担当者変更でも改善しないなら管理会社の変更(リプレイス)を検討

担当者を変更してもらったにもかかわらず、状況が改善されない。これは、問題が担当者個人ではなく、管理会社全体の体質やサポート体制に根差している可能性が高いことを示唆しています。その場合は、管理会社自体の変更(リプレイス)を視野に入れる必要があります。

管理会社変更の基本的な流れとスケジュール感

管理会社の変更は、一般的に以下のような流れで進めます。期間は準備開始から新しい管理会社との契約まで、半年から1年程度を見込むのが一般的です。

  1. 理事会での検討:現状の問題点を整理し、管理会社変更の方針を固める。
  2. 新管理会社の選定:複数の候補会社から見積もりを取得し、比較検討する。
  3. 総会での決議:管理会社変更の議案を総会に上程し、承認を得る。
  4. 現管理会社への解約通知:総会決議後、現在の管理会社へ契約の解約を通知する。
  5. 新管理会社との契約・引き継ぎ:新しい管理会社と契約を締結し、業務の引き継ぎを行う。

【法的根拠】管理会社変更の決議要件は?(区分所有法・標準管理規約)

管理会社の変更は、管理組合の総会での決議が必要です。この決議要件は、原則として普通決議、つまり「区分所有者数および議決権の各過半数」の賛成で可決されます(出典:建物の区分所有等に関する法律 第39条第1項、マンション標準管理規約 第47条)。

【最重要注意点】
上記の「普通決議」はあくまで原則です。ご自身のマンションの管理規約で、これと異なる定め(例:特別決議)をすることが可能です。手続きを進める前に、必ずご自身の管理規約で総会の決議要件を確認してください。

解約予告は「3ヶ月前」が原則(標準管理委託契約書)

現在の管理会社との契約を解約する際、いつまでに通知すればよいのでしょうか。国土交通省が作成している「マンション標準管理委託契約書」では、管理組合から解約を申し入れる場合、3ヶ月前までに書面で通知する必要があると定められています(第21条)。

多くの管理委託契約書はこの標準契約書に準拠していますが、これも管理規約と同様に、必ずご自身のマンションが締結している契約書を確認してください。

【失敗しないコツ】管理会社の見積もりは2~3社が現実的な理由

管理会社変更を決めたら、次に複数の会社から見積もりを取ることになります。しかし、やみくもに多くの会社へ声をかけるのは得策ではありません。

なぜ5社以上の相見積もりは敬遠されるのか?管理会社側の本音

管理組合としては多くの会社を比較したいと考えがちですが、管理会社側にとって1つのマンションの見積もり作成には多大な時間と労力がかかります。

  • 現地調査:建物の規模、設備の状況などを複数回にわたり確認。
  • 仕様の確認:現在の管理仕様(清掃の頻度、管理員の勤務時間など)をヒアリング。
  • 積算作業:清掃、エレベーター保守、消防設備点検など、各協力会社との打ち合わせや見積もり取得。
  • 提案書作成:理事会向けのプレゼンテーション資料の作成。

管理会社側にはこれだけの工数がかかるため、5社も6社も競合がいる案件は受注できる確率が低いと判断され、質の高い提案を引き出しにくくなる可能性があります。結果として、経験豊富な良い会社ほど敬遠する傾向にあります。

20〜40戸規模のマンションが取るべき現実的な戦略

特に戸数が少ない小〜中規模のマンションの場合、管理会社が得られる利益も限られます。そのため、信頼できそうな会社を2~3社に絞り込み、じっくりと比較検討するのが最も現実的で、質の高い提案を引き出しやすい戦略と言えます。

絶対NG!「一式見積もり」ではなく費目ごとの詳細見積もりを要求する

見積もりを依頼する際に最も重要なのは、「管理委託費一式」のような大雑把な見積もりを絶対に受け入れないことです。必ず以下の費目ごとに金額を明記した、詳細な見積書の提出を求めてください。

費目内容
事務管理業務費フロントマンの業務、会計業務などに対する費用
管理員業務費管理員の人件費
清掃業務費日常清掃、定期清掃の費用
建物・設備管理業務費エレベーター、消防設備などの法定点検費用

費目が分かれていないと、どの業務にいくらかかっているのかが不明瞭で、管理会社間の比較や、将来のコスト削減交渉が非常に困難になります。

優秀なフロントマン・信頼できる管理会社を見極める14のチェックポイント

新しい管理会社や担当者を選ぶ際、どこに注目すればよいのでしょうか。ここでは、業務遂行能力と専門性を見極めるための具体的なチェックポイントを紹介します。

業務遂行能力を見極めるポイント

日々の業務を円滑に進める能力は、以下の点で確認できます。

  • 対応の迅速さ:質問や依頼へのレスポンスが早いか。
  • 議事録の提出速度:理事会の議事録(案)が1週間以内に提出されるか。
  • 担当物件の把握:自分のマンションの課題や特徴を正確に理解しているか。
  • 進行のスムーズさ:理事会や総会の議事進行を適切にサポートできるか。
  • 点検の立ち会い:各種設備の点検にきちんと立ち会っているか。
  • 管理人への指導:管理員や清掃員への指導・教育が徹底されているか。
  • トラブル処理能力:住民間のトラブルなどに冷静かつ適切に対処できるか。

専門性と信頼性を見極めるポイント

専門的な知識や法令遵守の姿勢も重要です。

  • 管理業務主任者資格の保有:マンション管理適正化法第56条に基づく国家資格を保有しているか。
  • 管理組合の利益優先:会社の利益ではなく、常に管理組合の立場で考えてくれるか。
  • 積極的な提案力:コスト削減や資産価値向上に関する提案があるか。
  • 滞納者への督促:管理費等の滞納者に対して、毅然とした対応が取れるか。
  • 人柄・コミュニケーション能力:理事や住民と良好な関係を築けるか。
  • 仕事への意欲:熱意をもって業務に取り組んでいるか。
  • 頻繁な巡回:定期的にマンションを巡回し、状況を確認しているか。

【注意】「マンション管理適正評価制度」の正しい見方

近年、「マンション管理適正評価制度」という制度が注目されています。これは、マンションの管理状態(管理組合の運営、会計状況など)を専門家が評価し、星の数で公表するものです。

ここで注意すべきは、この制度はあくまで「マンションの管理状態」を評価するものであり、管理会社そのものを直接評価・格付けする制度ではないという点です。

ただし、高い評価を得ているマンションは、管理組合の運営がしっかりしており、結果としてそれをサポートする管理会社の体制も良好である可能性が高いと言えます。管理会社選定の際の一つの参考情報として活用すると良いでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1: マンションのフロントマン(担当者)を変更してもらうことは可能ですか?

A1: 可能です。まずは担当者の上長(支店長など)に対し、具体的な不満点(いつ、何を依頼したが、どう対応されなかったか等)を記録に基づいて伝え、改善または担当者の変更を正式に要求します。感情的にならず、管理委託契約書の内容に基づいて冷静に交渉することが重要です。

Q2: 管理会社を変更するには、どのような手続きが必要ですか?

A2: 一般的には、①理事会での方針決定、②複数社からの見積もり取得・比較検討、③総会での決議(原則として普通決議)、④現管理会社への解約通知(原則3ヶ月前)、⑤新管理会社との契約・引き継ぎ、という手順で進めます。詳しくは本文の「ステップ2」をご覧ください。

Q3: 管理会社の見積もりは何社から取るのが良いですか?

A3: マンションの規模にもよりますが、むやみに多くの会社に依頼すると、管理会社側の負担が大きいため敬遠されることがあります。特に20~40戸規模のマンションでは、信頼できる候補を2~3社に絞って、深く比較検討するのが現実的かつ、質の高い提案を引き出しやすい方法です。

まとめ:長期的な資産価値を守るパートナー選びを

マンションのフロントマンが頻繁に変わる、対応が悪いといった悩みは、多くの管理組合が抱える問題です。その背景には、担当者個人の資質だけでなく、業界全体の構造的な課題が存在します。

問題解決のためには、まず現状の問題点を具体的に記録し、管理会社の上長へ担当者変更を要求するというステップを踏むことが重要です。それでも改善が見られない場合は、管理会社の変更(リプレイス)が有効な選択肢となります。

管理会社を変更する際は、法的な手続き(総会の普通決議など)を正確に理解し、2〜3社から詳細な見積もりを取って比較検討することが成功の鍵です。今回ご紹介したチェックポイントを活用し、管理組合と二人三脚でマンションの資産価値を長期的に守っていける、信頼できるパートナーを選びましょう。


【免責事項】
本記事は、2025年10月20日時点の情報に基づき、マンション管理に関する一般的な情報提供を目的として作成されており、個別の事案に対する法的な助言を行うものではありません。管理会社の変更や契約に関する具体的な手続きを進める際は、必ずご自身のマンションの管理規約および管理委託契約書をご確認の上、必要に応じて専門家にご相談ください。法令や各種制度は改正される可能性があるため、常に最新の情報をご確認いただくようお願いいたします。


参考資料

  • 厚生労働省 職業情報提供サイト jobtag「マンション管理員(フロント)」
    https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/474
  • 国土交通省「令和5年度マンション総合調査」(令和6年4月26日公表)
    https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001721364.pdf
  • 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和3年6月22日改正版、第47条(決議事項)参照)
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001629908.pdf
  • 国土交通省「マンション標準管理委託契約書」(令和3年6月22日改正版、第21条(契約期間および更新)参照)
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001411626.pdf
  • e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」(令和3年5月26日最終改正、第39条第1項(集会の決議)参照)
    https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
  • 一般社団法人マンション管理業協会「マンション管理適正評価制度」
    https://www.kanrikyo.or.jp/tekiseika/evaluation/

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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