【4ステップで解説】マンション管理費の値上げ通知が来たら?理事会の対応完全ガイド

※本コラムの内容は、当社が独自に調査・収集した情報に基づいて作成しています。無断での転載・引用・複製はご遠慮ください。内容のご利用をご希望の場合は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。

マンション管理組合の理事に就任された方、あるいはご自身のマンションの将来を考える区分所有者の皆様へ。ある日突然、管理会社から「管理委託費の値上げ」を要請されたら、どう対応しますか?人件費や物価の高騰を背景に、このような要請は全国的に見られ、もはや他人事ではありません。

本記事では、宅地建物取引士の知見を基に、管理委託費値上げの通知を受けてから、その理由の妥当性を検証し、管理会社と交渉し、最終的に総会で意思決定するまでの一連のプロセスを、法的な根拠を交えながら体系的に解説します。感情的な対立を避け、建設的な議論を通じてマンションの資産価値を守るための具体的なステップを、順を追って確認していきましょう。値上げの背景を正しく理解し、冷静かつ適切な初動対応をとることが、最適な結論を導くための第一歩です。

「管理費」と「管理委託費」の違いを正しく理解する

まず、議論の前提となる重要な用語を整理します。「管理費」と「管理委託費」は混同されがちですが、全く異なるものです。

  • 管理費: 区分所有者が管理組合に支払う費用。共用部分の電気代、水道代、清掃費、小規模な修繕費などに充てられます。
  • 管理委託費: 管理組合が業務を委託した管理会社に支払う報酬。管理費会計の中から支出されます。
【図解】管理費と管理委託費のお金の流れ
(ここに「区分所有者」→「管理組合(管理費)」→「管理会社(管理委託費)」というお金の流れを示す図が入ります)

今回、管理会社から要請されるのは、この「管理委託費」の値上げです。この要請を受け、管理組合として値上げを認めるのであれば、その財源を確保するために組合員から徴収する「管理費」全体の額を改定する必要があるか、という議論につながります。この違いを理解することが、冷静な議論のスタートラインです。

値上げ要請はなぜ今増えているのか?

近年、管理委託費の値上げ要請が増えている背景には、社会経済全体の構造的な変化があります。特に、管理員や清掃員の人件費、共用部の光熱費などが継続的に上昇しており、管理会社のコストを圧迫しています。

管理委託費の値上げは、個別の管理会社の問題だけでなく、社会全体のコスト上昇を反映したものです。背景を客観的に理解することで、感情論ではない建設的な議論が可能になります。

次の章では、値上げの具体的な理由をさらに詳しく見ていきましょう。

管理会社が値上げを要請するには、主に以下のような複合的な理由があります。公的なデータを基に、その背景を客観的に把握しましょう。

① 人件費の高騰(最低賃金の上昇)

管理業務の多くは、管理員や清掃員といった人の労働によって支えられています。これらの人件費は、地域別最低賃金の上昇に直接的な影響を受けます。厚生労働省のデータによれば、例えば令和7年度(2025年10月改定)の全国加重平均額は1,074円となるなど、最低賃金は年々上昇を続けており、管理会社のコスト増の最大の要因となっています。

【グラフ】最低賃金と消費者物価指数の推移
(ここに厚生労働省の最低賃金推移と総務省統計局のCPI推移をまとめたグラフが入ります)

② 物価・光熱費の上昇

共用部の照明やエレベーターを動かす電気代、水道代、清掃用具や事務用品などの価格も上昇しています。これらの費用は、総務省統計局が公表する消費者物価指数(CPI)にも反映されており、特に近年のエネルギー価格の高騰は、マンションの維持管理コストに大きな影響を与えています。

③ 法令改正への対応コスト

マンション管理に関する法制度は、社会の変化に合わせて見直されます。例えば、(任意で取得する)マンション管理計画認定制度への対応や、各種設備の法定点検基準の厳格化など、法令を遵守するための書類作成や新たな点検業務には、専門的な知識と追加のコストが必要になる場合があります。

④ サービス内容の高度化・追加

居住者の高齢化に対応した見守りサービスや、多様化するライフスタイルに合わせた宅配ボックスの管理、ITを活用した組合運営サポートなど、求められるサービスの質や範囲が拡大することも値上げの一因です。現在の管理委託費ではカバーしきれない新たな業務を追加する場合、当然ながら費用も増加します。

⑤ 当初の管理委託費が安すぎたケース

特に築年数が浅いマンションでは、分譲時の販売戦略として管理委託費が相場より低く設定されていることがあります。数年が経過し、実際の業務量やコストに見合わないことが判明した場合、管理会社から「適正価格」への是正として値上げが提案されるケースも少なくありません。

目次

【ステップ1】値上げ通知を受けたら理事会が最初にすべきこと

管理会社から値上げ通知が届いた際、慌てて結論を出す必要はありません。理事会として、以下の3つのステップを冷静に進めることが重要です。

【フローチャート】値上げ通知への対応フロー
(ここに「通知受理」→「契約書確認」→「根拠資料請求」→「妥当性検証」→「交渉」→「総会決議」という流れのフローチャートが入ります)

現行の「管理委託契約書」の内容を再確認する

まずは、現在管理会社と締結している「管理委託契約書」を隅々まで確認します。特に以下の項目は重要です。

  • 業務の範囲と内容: 清掃の頻度、管理員の勤務時間、点検業務の詳細など、どこまでの業務が契約に含まれているか。
  • 契約期間: 自動更新の条件や、契約満了の時期はいつか。
  • 契約の変更・解約: 契約内容の変更や解約に関する手続き(例:3ヶ月前の書面による予告など)はどのように定められているか。

これらの内容は、国土交通省が公表している「マンション標準管理委託契約書」を参考に、自分たちの契約が標準的なものと比較してどうなっているかを確認するのも有効です。

管理会社に「値上げの根拠となる積算資料」を正式に請求する

次に、「値上げのお願い」といった曖昧な通知書だけでなく、具体的な積算根拠が示された資料の提出を正式に要請します。単に「人件費が高騰したため」ではなく、どの業務の人件費が、いつの時点と比較して、何%上昇したのか、といった具体的な数値データがなければ、妥当性の判断はできません。これは管理組合として当然の権利です。

区分所有者への初期報告と今後のスケジュールを共有する

理事会内だけで議論を進めるのではなく、早い段階で区分所有者(組合員)全体に対して、「管理会社から管理委託費の値上げ要請があったこと」「現在、理事会でその内容を精査中であること」「今後の検討スケジュール(予定)」などを掲示板や回覧でお知らせすることが重要です。情報共有を徹底することで、憶測による混乱を防ぎ、組合全体の合意形成を円滑に進めることができます。

【ステップ2】提示された見積書の妥当性を徹底検証する4つのポイント

管理会社から積算根拠となる見積書が提出されたら、その内容を徹底的に検証します。以下の4つのポイントに沿って、理事会でチェックしましょう。

Point1:「一式」記載を避け、詳細な内訳を確認する

最も重要なポイントです。「事務管理業務費 一式」「清掃業務費 一式」といった大まかな記載では、何にいくらかかっているのか全く分かりません。

(記載例)
【悪い見積もりの例】
・清掃業務費 一式 300,000円

【良い見積もりの例】
・日常清掃業務(週5日、作業員2名) 250,000円
 - 人件費(時給、法定福利費等含む)
 - 清掃用具費
・定期清掃業務(床面洗浄、年2回) 50,000円
 - 特殊機材費
 - 作業員人件費

国土交通省の「マンション標準管理委託契約書コメント」でも、業務項目の細分化が推奨されています。「一式」記載は、委託業務の内容・範囲が不明確になり、価格の妥当性検証を困難にするため、必ず詳細な内訳の提出を求めてください。標準管理委託契約書の別表には、委託業務の標準的な項目が記載されており、これらと照らし合わせることで、見積もりの項目に漏れや重複がないかを確認できます。

Point2:人件費の値上げ幅は公的データと整合性があるか

値上げ理由の多くを占める人件費については、その上昇率が客観的なデータと乖離していないかを確認します。例えば、所在地の最低賃金の改定率や、社会保険料率の変更などを参考に、提示された値上げ幅が妥当な範囲内かを見極めます。

Point3:業務項目は「標準管理委託契約書」の範囲内か

提示された業務内容が、自分たちのマンションにとって本当に必要なものか、過剰なサービスになっていないかを再評価します。標準的な業務内容と比較し、もし不要な業務があれば、それを削減することでコストダウンができないか検討する材料になります。

Point4:他のマンションの事例や相場と比較する

近隣の同規模・同程度の築年数のマンションが、どのくらいの管理委託費を支払っているか情報を収集することも有効です。ただし、マンションごとに設備やサービス内容は異なるため、あくまで参考情報として活用しましょう。正確な比較は、後述する「相見積もり」によって行います。

【ステップ3】管理会社との交渉とコスト削減の具体策

見積書の検証が終わったら、次は管理会社との具体的な交渉です。単なる値引き要求ではなく、建設的なパートナーとして、お互いが納得できる着地点を探る姿勢が大切です。

交渉の前に:理事会内で方針を統一する

交渉に臨む前に、必ず理事会内で「値上げはやむを得ないが、〇%までなら許容する」「この業務仕様は削減できない」といった方針を明確に統一しておきましょう。担当役員によって言うことが違うと、管理会社との信頼関係を損ない、交渉が難航する原因になります。

交渉の選択肢①:管理仕様の見直し(清掃頻度、巡回点検など)

コストを削減するための最も現実的な方法が、管理仕様(サービスレベル)の見直しです。

  • 清掃: 日常清掃の頻度を週5日から週4日に減らす。
  • 植栽管理: 剪定の回数を年2回から年1回にする。
  • 巡回点検: 設備点検の巡回頻度を一部見直す。

ただし、これらの見直しはマンションの美観や安全性に直結します。コスト削減だけを優先しすぎると、資産価値の低下や居住者の不満につながるため、慎重な検討が必要です。

交渉の選択肢②:段階的な値上げの協議

値上げ自体はやむを得ないと判断した場合でも、一度に大幅な改定を行うと家計への影響が大きくなります。そこで、「3年間かけて段階的に目標額まで引き上げる」といった激変緩和措置を提案することも有効な交渉術です。

相見積もり(あいみつ)の適切な進め方と注意点

現在の管理会社の提示額が妥当か判断し、交渉を有利に進めるために「相見積もり」は非常に有効です。しかし、やみくもに多くの会社へ依頼するのは得策ではありません。

管理会社は見積もりを作成するために、現地調査、会計状況の確認、清掃やエレベーター保守などの外注先との調整、理事会との面談など、多大な時間と労力をかけます。そのため、5社も6社も相見積もりを取ろうとすると、多くの会社から敬遠されてしまい、結果的に質の高い提案を受ける機会を失いかねません。

相見積もりは、価格の妥当性を確認し、より良いパートナーを見つけるための手段です。管理会社側の負担も考慮し、本気で比較検討する2〜3社程度に絞って依頼するのが現実的かつ効果的です。

〔注意〕過度な要求は優良な管理会社を遠ざけるリスクも

管理会社はビジネスパートナーです。コスト削減は重要ですが、過度な値引き要求や非現実的なサービス要求は、良好な関係を損なうだけでなく、質の高いサービスを提供する優良な管理会社から「付き合いきれない組合」と見なされ、撤退されてしまうリスクもあります。適正な対価を支払い、良いサービスを受けるという視点を忘れないようにしましょう。

【ステップ4】最終決定へ:管理費改定の総会決議プロセスと法的要件

管理会社との交渉がまとまり、管理委託費の値上げに合意した場合、あるいはその財源として組合員から徴収する「管理費」の額を改定する必要がある場合、最終的な意思決定は管理組合の総会で行います。ここでの手続きは、法律や規約に基づいて厳格に行う必要があります。

管理費の改定は規約の確認が必須

管理費の額を変更する際の決議要件は、各管理組合の管理規約によって定められています。国土交通省の「マンション標準管理規約」では、原則として「普通決議」(区分所有者および議決権の各過半数の賛成)で決定できるとされています。

決議の種類成立要件(標準管理規約の場合)該当する議案(例)
普通決議区分所有者および議決権の各過半数の賛成・管理費、修繕積立金の額の変更
・役員の選任・解任
・予算・決算の承認
特別決議区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成・管理規約の変更
・共用部分の重大な変更
・建替え決議(5分の4以上)
【表】マンション総会の普通決議と特別決議の要件比較

(管理費等の額)
第二十五条 2 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。
(出典:国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」)

この「管理費等の額」の変更が、標準管理規約では普通決議事項にあたります。ただし、ご自身のマンションの管理規約に「特別決議が必要」といった別段の定めがある場合は、その規約が優先されます。必ず、総会開催前に管理規約を確認してください。

総会議案の作成と事前説明の重要性

総会で円滑に合意形成を図るためには、議案書の記載内容と事前説明が極めて重要です。

  • 議案書に記載すべき内容:
    • 値上げが必要な理由(人件費、物価高騰の客観的データ)
    • 管理会社との交渉経緯
    • 具体的な改定額とその積算根拠
    • 改定した場合の収支予算案
    • 値上げをしなかった場合のリスク(サービスの質の低下など)

総会開催前に説明会を開き、質疑応答の時間を設けるなど、丁寧なプロセスを踏むことが、組合員の理解と納得を得るために不可欠です。

議事録の作成と保管義務

総会で決議が成立したら、議事録を正確に作成し、議長および議事録署名人が署名・押印の上、適切に保管する義務があります。これは、総会の決定事項を法的に有効なものとして記録し、将来のトラブルを防ぐために非常に重要です。

もし交渉が不調に終わったら?管理会社変更(リプレイス)という選択肢

誠実な交渉を重ねても、管理会社との間で値上げ額やサービス内容について合意に至らない場合、管理会社そのものを変更(リプレイス)することも選択肢の一つです。

リプレイスのメリットとデメリット

管理会社の変更には、メリットとデメリットの両方があります。

  • メリット:
    • 競争原理が働き、管理委託費が適正化される可能性がある。
    • サービスの質が向上する場合がある。
    • 現在の管理会社への不満が解消される。
  • デメリット:
    • 新しい管理会社を探し、選定する手間と時間がかかる(理事会の負担増)。
    • 引継ぎ期間中に、一時的に管理の質が低下するリスクがある。
    • 必ずしもコスト削減やサービス向上につながるとは限らない。

解約手続きと引継ぎ業務の注意点

リプレイスを決断した場合、現行の管理委託契約書に定められた予告期間に従って解約を申し入れる必要があります。国土交通省の標準管理委託契約書では3ヶ月前の予告とされていますが、契約により異なる場合があるため、必ず自マンションの契約書をご確認ください。また、会計データ、各種点検報告書、鍵、住民名簿など、膨大な資料の引継ぎ作業が発生します。この引継ぎがスムーズに行われないと、管理業務に支障をきたすため、慎重な計画が必要です。リプレイスは最終手段と捉え、まずは現行の管理会社と最大限の交渉努力をすることが望ましいでしょう。

まとめ:主体的な管理組合運営でマンションの資産価値を守る

マンションの管理委託費の値上げ要請は、多くの管理組合が直面する課題です。しかし、これを単なるコスト増と捉えるのではなく、自分たちのマンションの管理のあり方を見直す良い機会と捉えることが重要です。

値上げ通知を受けたら、まずは冷静に「管理費」と「管理委託費」の違いを理解し、管理会社に具体的な根拠資料を求めましょう。提出された見積書は、「一式」記載を許さず、詳細な内訳を公的データや標準的な業務内容と照らし合わせて徹底的に検証します。

交渉においては、対立ではなく協調の姿勢で、仕様の見直しや段階的な値上げなど、現実的な着地点を探ることが大切です。最終的な決定は、区分所有法や管理規約に則った総会決議によって、組合員全体の合意形成を図ります。

これらのプロセスに主体的に取り組むことが、適正な価格で質の高い管理サービスを確保し、ひいては大切なマンションの資産価値を守ることにつながります。本記事が、その一助となれば幸いです。

免責事項

本記事は、マンション管理費の値上げに関する一般的な情報提供を目的としており、特定のマンションや個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。実際の対応にあたっては、必ずご自身のマンションの管理規約や管理委託契約書をご確認の上、必要に応じてマンション管理士等の専門家にご相談ください。法令や制度は改正される可能性があるため、常に最新の情報をご参照ください。

参考資料

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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