マンション管理の委託範囲は最低限どこまで?プロが教える見直しのコツ

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マンションの管理委託費は毎月の支出だけに、「この金額は適正なのか?」「もっとコストを削減できないか?」と疑問に思う管理組合役員の方は少なくありません。しかし、コスト削減のために全てを自主管理に切り替えるのは、専門知識や手間を考えると現実的ではないでしょう。

この記事では、不動産管理の実務に精通した専門家の視点から、マンション管理の委託範囲について「最低限どこまで管理会社に任せるべきか」という問いに、法的根拠と最新の公的データに基づいて明確な答えを示します。

委託業務の賢い切り分け方から、失敗しないための具体的なステップ、コスト削減と品質維持を両立させる見積もり依頼のコツまでを網羅的に解説。この記事を読めば、あなたのマンションに最適な管理委託の形を見つけ、資産価値を守るための具体的な第一歩を踏み出せるようになります。

マンション管理の委託方法には、大きく分けて3つの形態があります。それぞれの特徴を理解することが、最適な委託範囲を見極める第一歩です。

全部委託:すべてお任せする方式

管理組合の業務のほとんどすべてを管理会社に委託する方式です。会計業務、理事会・総会の運営支援、清掃、設備点検など、専門的な業務から日常的な業務まで幅広くカバーします。

  • メリット: 専門知識がなくても管理品質を高く維持でき、役員の負担が最も少ない。
  • デメリット: 委託費用が最も高くなる傾向がある。

一部委託:必要な業務だけをプロに頼む方式

管理組合の業務のうち、専門知識が必要な業務や、組合員の負担が大きい業務だけを選択して管理会社に委託する方式です。例えば、会計業務と法定点検だけを委託し、清掃や簡単な事務は組合員で行うといったケースが考えられます。

  • メリット: 全部委託に比べてコストを抑えつつ、専門的な業務の品質は確保できる。
  • デメリット: 組合が担当する業務が発生するため、役員の労力が必要になる。管理会社との責任分界点を明確にしないとトラブルの原因になる。

自主管理:組合ですべてを行う方式

管理会社に一切業務を委託せず、管理組合がすべての管理業務を直接行う方式です。小規模なマンションで見られることがあります。

  • メリット: 管理委託費がかからないため、コストを最も抑えられる。
  • デメリット: 役員の負担が非常に大きく、専門知識やノウハウが不可欠。特に会計の透明性確保や法的義務の履行が課題となる。

【用語解説】「管理委託費」と「管理費」の違い

  • 管理費:区分所有者が管理組合に支払う、日常の管理運営に使われるお金。
  • 管理委託費:管理組合が、委託した業務の対価として管理会社に支払う費用。「管理費」の中から支出されます。

【統計データ】「一部委託」は一般的な選択肢

「ほとんどのマンションが全部委託だろう」と思われがちですが、国土交通省の最新の調査によれば、実態は少し異なります。

管理形態割合
全部委託75.9%
一部委託17.5%
自主管理6.6%
(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)

上記のように、約2割弱のマンションが「一部委託」という選択をしています。これは、コストと品質、組合員の労力のバランスを取るための現実的な選択肢として、広く採用されていることを示しています。

目次

結論:「最低限」の委託範囲は「基幹事務」+「法定業務」

それでは、管理会社への委託範囲を「最低限」に絞る場合、具体的にどの業務を指すのでしょうか。結論から言えば、それは「基幹事務」「法定業務」の2つです。これらは法律で定められた義務や、管理組合運営の根幹に関わるため、専門家である管理会社に委託することが極めて重要です。

管理の根幹!必ず委託すべき「基幹事務」とは?

基幹事務とは、マンションの管理組合の運営において最も根幹となる事務を指し、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)」で定められています。

【マンション管理適正化法施行規則 第60条で定める基幹事務】

  1. 管理組合の会計の収入及び支出の調定及び出納に関すること
  2. マンション(専有部分を除く。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整のうち、長期修繕計画の作成・見直し等に関わるもの

(出典:e-Gov法令検索「マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則」)

具体的には、管理費や修繕積立金の徴収・管理、各種支払業務、決算案の作成などが該当します。これらのお金に関する業務は、透明性と正確性が極めて重要であり、万が一トラブルが発生した場合の責任も重大です。そのため、専門的な知識を持つ管理会社に委託することが、組合資産を守る上で不可欠と言えます。

法律で義務付け!資格が必要な「法定業務」

マンションには、法律によって定期的な点検が義務付けられている設備があります。これらの点検は、専門の資格を持つ技術者でなければ実施できません。

法定業務の例根拠法主な内容
建築設備定期検査建築基準法 第12条換気設備、排煙設備、非常用の照明装置などの定期検査
昇降機定期検査建築基準法 第12条エレベーターの定期検査
消防用設備等点検消防法 第17条の3の3消火器、自動火災報知設備、スプリンクラー設備などの定期点検

これらの業務は、安全確保の観点から法律で厳格に定められており、管理組合が直接専門資格者を探して手配することは困難です。したがって、これらの法定業務も、管理会社を通じて専門業者に委託することが必須となります。

【実践】委託業務の切り分け方|組合でできること・プロに任せるべきこと

「基幹事務」と「法定業務」以外に、どのような業務を委託すべきか、あるいは組合で対応できるかを具体的に見ていきましょう。

プロへの委託が必須・推奨される業務リスト

  • 会計・出納業務(基幹事務): 管理費等の徴収、滞納者への督促、支払い業務、月次報告、決算案作成など。
  • 法定点検業務: エレベーター保守点検、消防設備点検、貯水槽清掃、特殊建築物等定期調査など。
  • 長期修繕計画の作成・見直し: 専門的な診断に基づき、将来の大規模修繕に備えた計画を策定・更新する業務。
  • 大規模修繕工事の企画・コンサルティング: 工事仕様の策定、施工会社の選定支援、工事監理など。
  • 理事会・総会の運営支援: 議案書・議事録の作成支援、法的な助言など。

管理組合での対応も検討できる業務リスト

  • 清掃業務: 日常清掃(エントランス、廊下など)。ただし、ポリッシャーなど専門機材が必要な定期清掃は委託が望ましい。
  • 管理員業務(一部): 居住者からの簡単な問い合わせ対応、共用部の電球交換、掲示物の管理など。
  • 植栽管理: 小規模な植栽の水やりや除草作業。
  • 小修繕: 専門業者を必要としない軽微な修繕の手配。

マンション規模別のモデルケース

マンションの規模によって、最適な委託範囲は異なります。ここでは、2つのモデルケースを考えてみましょう。

業務内容モデルA:20戸程度の小規模マンションモデルB:50戸程度の中規模マンション
基幹事務(会計等)委託委託
法定点検委託委託
管理員業務組合で対応(巡回方式)
または委託(週2〜3日)
委託(週5日など)
日常清掃組合で対応(当番制)
または委託
委託
理事会・総会支援委託(最低限の議案・議事録作成支援)委託(積極的な運営支援)

小規模マンションでは、清掃や管理員業務の一部を組合員で分担することでコストを抑える選択肢があります。一方、戸数が増える中規模マンションでは、業務量や調整の手間が増えるため、管理員業務や清掃も委託する方が効率的です。

委託範囲の変更で失敗しないための3つのステップ

現在の管理委託契約を見直し、一部委託などに変更する際は、手順を誤るとトラブルの原因になります。以下の3つのステップを確実に実行しましょう。

ステップ1:現状の業務内容とコストを「見える化」する

まず、現在の管理委託契約書と毎月の収支報告書を確認し、「どの業務に」「いくら費用がかかっているのか」を正確に把握します。特に「管理委託費」の内訳が「一式」となっている場合は、管理会社に詳細な内訳の提示を求めましょう。

ステップ2:責任分界点を明確にする「仕様書」を作成する

次に、管理会社に委託する業務と、管理組合が自ら行う業務を具体的にリストアップした「仕様書」を作成します。この仕様書が、新しい契約の根幹となります。
国土交通省の「マンション標準管理委託契約書」では、業務内容を一覧にした別表が用意されており、委託する業務に「◯」を付ける形式が推奨されています。

(記載例)仕様書における業務範囲の明記
□ エントランスホールの日常清掃(週5回)
☑ 廊下・階段の日常清掃(週3回)
☑ ゴミ置場の清掃・整理(週5回)
□ 窓ガラス清掃(年2回)
☑ 照明器具の清掃(年1回)

このように業務内容と実施頻度を具体的に記載することで、「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、責任の所在を明確にできます。

ステップ3:総会で合意形成を得る

管理委託契約の変更は、管理組合の運営における重要な決定事項です。作成した仕様書案と新しい契約内容について、理事会で十分に検討した後、総会に議案として提出し、組合員の合意を得る必要があります。

管理委託契約の変更は、原則として総会の「普通決議」(区分所有者および議決権の各過半数)で決定されます(出典:建物の区分所有等に関する法律 第39条第1項)。ただし、管理規約で別の定めがある場合もありますので、必ずご自身のマンションの管理規約を確認してください。

管理会社への賢い見積もり依頼術|コスト削減と品質維持の鍵

仕様書が固まったら、いよいよ管理会社へ見積もりを依頼します。ここで重要なのは、単に安い会社を探すのではなく、「適正な価格で質の高いサービス」を提供してくれるパートナーを見つけることです。

NG例:「一式」見積もりは絶対に避けるべき理由

複数の管理会社から見積もりを取る際、最も注意すべきなのが「一式」表記です。

【NGな見積もり例】
管理委託費:一式 月額 300,000円

これでは、どの業務にいくらかかっているのか全く分からず、会社ごとの比較ができません。また、将来的に一部の業務だけを変更したい場合にも、価格交渉の根拠がなくなってしまいます。

見積もり依頼で必ず伝えるべき必須項目

見積もりを依頼する際は、必ず項目別の内訳を出すよう明確に依頼しましょう。国土交通省の標準管理委託契約書でも、費用は業務ごとに区分して記載することが推奨されています。

【依頼すべき見積もり項目例】
1. 事務管理業務費:○○円
2. 管理員業務費:○○円
3. 清掃業務費:○○円
4. 建物・設備管理業務費:○○円
———————————
合計:月額 ○○円

項目別に分かれていれば、A社は事務管理に強い、B社は清掃業務が割安、といった特徴が明確になり、客観的な比較検討が可能になります。

相見積もりは「2〜3社」に絞るのが現実的なワケ

コスト削減のため、できるだけ多くの会社から見積もりを取りたいと考えるかもしれません。しかし、むやみに5社、6社と依頼するのは避けるべきです。実務上、相見積もりの数は「2〜3社」が現実的とされています。

なぜなら、管理会社は正式な見積もりを作成するために、多大な時間と労力をかけているからです。担当者は複数回現地を調査し、建物の状況や設備の仕様を確認します。さらに、清掃や設備点検など、複数の協力会社との打ち合わせや見積もり取得も行わなければなりません。

あまりに多くの会社に依頼すると、管理会社側は「受注できる可能性が低い」と判断し、手間のかかる詳細な提案を避け、形式的な見積もりしか出してこない可能性があります。質の高い提案を引き出し、真剣に検討してもらうためにも、候補を2〜3社に絞って丁寧に依頼することが、結果的によいパートナーシップに繋がります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 最低限の委託範囲にすれば、費用はどれくらい安くなりますか?

A1. マンションの規模や設備、現在の契約内容によって大きく異なります。一般的に、全部委託から基幹事務+法定業務を中心とした一部委託に変更した場合、管理員業務や清掃業務にかかる費用分が削減される可能性があります。ただし、安易なコストカットは管理品質の低下に直結するため、削減する業務の内容と影響を慎重に検討する必要があります。まずは、現在の管理委託費の内訳を確認することから始めましょう。

Q2. 一部委託に変更したら、管理の質が落ちませんか?

A2. 管理の質が落ちるかどうかは、管理組合の運営体制次第です。委託から外した業務(例:清掃、掲示物管理など)を、管理組合が責任を持って計画的に実行できる体制を築けるかが鍵となります。業務の責任分界点を仕様書で明確にし、組合内での役割分担をきちんと決めておけば、品質を維持しながらコスト削減を実現することも可能です。品質低下が懸念される場合は、無理に自主管理化せず、委託を継続する方が賢明です。

Q3. 小規模マンションでも一部委託は可能ですか?

A3. はい、可能です。むしろ小規模マンションの方が、組合員の合意形成がしやすく、一部の業務を分担しやすいため、一部委託に適しているケースも多くあります。国土交通省の最新調査でも、小規模マンション(20戸以下)では自主管理の割合が21.0%と、全体平均(6.6%)より高くなっています(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)。会計業務など専門性の高い部分だけを専門家に委託する「一部委託」は、小規模マンションにとって有効な選択肢の一つです。

まとめ:最適な委託範囲で資産価値を守るマンション管理を

マンションの管理委託費を見直すことは、組合の財産を守る上で非常に重要です。しかし、単なるコストカットだけを目指すのではなく、管理品質を維持し、長期的な資産価値をどう守っていくかという視点が不可欠です。

この記事のポイントを振り返りましょう。

  • 管理委託の3形態: 「全部委託」「一部委託」「自主管理」があり、約2割弱のマンションが「一部委託」を選択している。
  • 最低限の委託範囲: 法律や専門性の観点から「基幹事務(会計・出納等)」「法定業務(設備点検等)」は必ず委託すべき。
  • 失敗しない変更ステップ: ①現状の見える化 → ②仕様書の作成 → ③総会での合意形成、という手順を踏むことが重要。
  • 賢い見積もり依頼: 「一式」ではなく項目別内訳を求め、相見積もりは質の高い提案を引き出すために2〜3社に絞ることが現実的。

まずは、ご自身のマンションの管理委託契約書と収支報告書を手に取り、現状を把握することから始めてみてください。その上で、この記事で解説した視点を持って業務の切り分けを検討すれば、あなたのマンションにとって最適な管理の形が見えてくるはずです。


【免責事項】

本記事は、マンション管理に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の物件や個別の状況に対する法的助言を行うものではありません。管理委託契約の変更等、具体的な検討を進める際には、必ずご自身のマンションの管理規約および現在の管理委託契約書をご確認の上、必要に応じてマンション管理士や弁護士などの専門家にご相談ください。法令や各種制度は改正される可能性があるため、最新の情報をご確認ください。

参考資料

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この記事を書いた人

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