※本コラムの内容は、当社が独自に調査・収集した情報に基づいて作成しています。無断での転載・引用・複製はご遠慮ください。内容のご利用をご希望の場合は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。
使われていないマンションの集会室を有効活用し、収益化も期待できる「共用施設のシェアオフィス化」
テレワークの普及を背景に多くの管理組合で関心が高まっていますが、実現には法的な手続きや合意形成など、いくつものハードルが存在します。特に、区分所有法が定める「特別決議」は、計画の成否を分ける最も重要なポイントです。安易に「簡単です」とは言えませんが、正しい手順と注意点を理解し、管理規約を最優先に確認すれば、共用施設の可能性を最大限に引き出すことは決して不可能ではありません。
この記事では、宅地建物取引士の視点から、マンション共用施設のシェアオフィス化に必要な法的要件、具体的な5つのステップ、管理会社との上手な付き合い方まで、一次資料を基に網羅的に解説します。計画の第一歩を踏み出すための、確かな知識を身につけましょう。
なぜ今、マンション共用施設のシェアオフィス化が注目されるのか?
多くのマンションで、共用施設のあり方が見直されています。その背景には、大きく分けて2つの要因が存在します。
「使われない集会室」が管理費を圧迫する現実
「年に数回しか使われないのに、清掃や光熱費、固定資産税などの維持費は毎月かかっている」。これは、多くのマンション管理組合が抱える共通の悩みです。国土交通省の調査によれば、多くのマンションに集会室が設置されていますが、その利用頻度は必ずしも高くないのが実情です(出典:国土交通省、平成30年度(2018年)マンション総合調査結果)。
利用されない共用施設は、実質的に管理費を圧迫する「負の資産」となりかねません。この状況を打開し、施設を収益源に変える手段としてシェアオフィス化が注目されています。
働き方の多様化と居住者ニーズの変化
新型コロナウイルス感染症の拡大以降、テレワークや在宅勤務が急速に普及しました。自宅に十分なワークスペースを確保できない居住者にとって、マンション内に集中して仕事ができる空間があれば、生活の質は大きく向上します。
居住者向けの有料ワークスペースとして提供することは、管理組合の収益向上だけでなく、居住者満足度の向上、ひいてはマンション全体の資産価値向上にも繋がる可能性があります。
【最重要】法的要件を正しく理解する:区分所有法と決議の種類
マンション共用施設のシェアオフィス化を検討する上で、最大の関門となるのが法的手続きです。特に「区分所有法」の規定を正しく理解し、管理規約の定めを最優先に確認することが不可欠です。
用語の整理:決議の種類と対象部分
まず、基本的な用語を整理しましょう。これらの違いを理解することが、円滑な手続きの第一歩です。なお、全ての決議要件は管理規約で変更可能であり、現行の管理規約を最優先に確認してください。
| 用語 | 定義 | ポイント |
|---|---|---|
| 共用部分 | 廊下、階段、エレベーター、集会室など、区分所有者全員で共有して使用する部分。 | 今回のシェアオフィス化の対象。変更には決議が必要。管理規約で要件変更可能。現規約を優先確認。 |
| 専有部分 | 各住戸など、特定の区分所有者が単独で所有・利用するプライベートな空間。 | 今回の議論の対象外。 |
| 普通決議 | 区分所有者および議決権の「各過半数」の賛成で可決される決議(区分所有法第39条第1項)。 | 通常の管理運営事項(例:小規模な修繕)で用いられる。管理規約で要件変更可能。現規約を優先確認。 |
| 特別決議 | 区分所有者および議決権の「各4分の3以上」の賛成で可決される、より厳格な決議(区分所有法第31条第1項)。 | 共用部分の重大な変更などで必要。ただし、規約でその過半数まで減ずることができる。管理規約で要件変更可能。現規約を優先確認。 |
表閲覧不可時は以下テキスト参照:
- 共用部分:廊下、階段、エレベーター、集会室など、区分所有者全員で共有して使用する部分。今回のシェアオフィス化の対象。変更には決議が必要。管理規約で要件変更可能。現規約を優先確認。
- 専有部分:各住戸など、特定の区分所有者が単独で所有・利用するプライベートな空間。今回の議論の対象外。
- 普通決議:区分所有者および議決権の「各過半数」の賛成で可決される決議(区分所有法第39条第1項)。通常の管理運営事項(例:小規模な修繕)で用いられる。管理規約で要件変更可能。現規約を優先確認。
- 特別決議:区分所有者および議決権の「各4分の3以上」の賛成で可決される、より厳格な決議(区分所有法第31条第1項)。共用部分の重大な変更などで必要。ただし、規約でその過半数まで減ずることができる。管理規約で要件変更可能。現規約を優先確認。
原則は「特別決議」:共用部分の用途変更
集会室をシェアオフィスに変える行為は、区分所有法における「共用部分の変更」に該当する可能性が非常に高いです。そして、その変更が建物の使い方に大きな影響を与える「形状又は効用の著しい変更」とみなされる場合、原則として特別決議が必要となります。ただし、管理規約の定めを最優先に確認してください。
共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
(出典:e-Gov法令検索、建物の区分所有等に関する法律 第31条第1項)
つまり、区分所有者の頭数と議決権(持分割合)の両方で、4分の3以上の賛成を得る必要があります。これは非常に高いハードルであり、計画の初期段階で合意形成の見通しを立てることが重要です。安易な判断を避け、弁護士やマンション管理士などの専門家に相談することを強く推奨します。
普通決議で可能なケースと注意点
例外的に、その変更が「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」であれば、普通決議(過半数の賛成)で足ります(出典:e-Gov法令検索、建物の区分所有等に関する法律 第39条第1項)。
しかし、これまで居住者の福祉や交流のために無償で提供されてきた集会室を、特定の利用者に有料で貸し出す収益事業へ転換することは、施設の「効用」を著しく変更するものと判断されるのが一般的です。「著しい変更」の判断は個別事情によるため、安易に「普通決議で大丈夫だろう」と判断せず、弁護士やマンション管理士などの専門家に相談することを強く推奨します。管理規約の定めを最優先に確認してください。
個室型かブース型か?物理的形態で変わる法的扱い
シェアオフィスの形態によって、適用される法律が異なる可能性がある点も重要です。
- 個室型(レンタルオフィス):
壁と施錠できるドアで完全に区切られたスペースを提供する形態。この場合、単なる利用契約ではなく「建物賃貸借契約」とみなされ、借地借家法が適用されるリスクがあります。借地借家法が適用されると、利用者(借主)の権利が強く保護され、管理組合側の都合で簡単に契約を解除できなくなる可能性があります。借地借家法適用時は、現管理規約・契約条項を最優先確認。専門家相談を。 - ブース型・フリーアドレス型(コワーキングスペース):
物理的な仕切りがない、または簡易的なパーティションで区切られたデスクを共同で利用する形態。特定のスペースを独占的に利用するわけではないため、「利用権契約」とみなされ、借地借家法の適用を受けない可能性が高いです。
トラブルを避けるためにも、外部に貸し出す場合は、どのような契約形態・物理形態がマンションにとって最適か、慎重に検討する必要があります。借地借家法適用可否は個別事情によるため、専門家に相談してください。
シェアオフィス化を実現する5つのステップ
法的な要件を理解した上で、実際に計画を推進するための具体的なステップを見ていきましょう。
Step1: 基本計画の策定
まずは理事会などで中心となり、プロジェクトの骨子を固めます。
- コンセプト: 誰に、どのような価値を提供するか?(例:居住者専用の静かなワークスペース、外部者も利用可能な収益重視のオフィス)
- 利用者範囲: 居住者限定か、外部利用者も受け入れるか?
- 料金設定: 月額制、時間制など、どのような料金体系にするか?
- 収支計画: 初期投資(内装工事、什器購入費)、ランニングコスト(光熱費、通信費、清掃費)、想定収入を試算します。
Step2: 管理組合での合意形成と総会決議
策定した基本計画案を基に、説明会などを開催して区分所有者全体の理解を深めます。アンケートを実施してニーズや懸念点を吸い上げるのも有効です。
十分な議論を重ね、合意形成の見通しが立った段階で、総会に「共用部分の変更」に関する議案を上程し、特別決議を目指します。管理規約の定めを最優先に確認し、専門家相談を。
Step3: 工事・設備導入と利用規約の整備
総会で承認されたら、計画に沿って内装工事や設備(Wi-Fi、デスク、椅子、複合機など)の導入を進めます。
同時に、トラブルを未然に防ぐための詳細な「利用規約」を整備します。国土交通省の「マンション標準管理規約」を参考に、以下の点を盛り込みましょう。借地借家法適用時は、現管理規約・契約条項を最優先確認。専門家相談を。
| (記載例)利用規約に盛り込むべき項目 ・利用資格(居住者限定か、外部者可か) ・利用可能時間 ・利用料金及び支払方法 ・禁止事項(騒音、飲食、喫煙、宿泊など) ・セキュリティに関するルール(入退室方法、情報管理) ・予約方法とキャンセルポリシー ・規約違反時の措置(利用停止、違約金など) |
表閲覧不可時は以下テキスト参照:利用規約に盛り込むべき項目 – 利用資格(居住者限定か、外部者可か) – 利用可能時間 – 利用料金及び支払方法 – 禁止事項(騒音、飲食、喫煙、宿泊など) – セキュリティに関するルール(入退室方法、情報管理) – 予約方法とキャンセルポリシー – 規約違反時の措置(利用停止、違約金など)。
Step4: 利用者募集と運用開始
施設が完成したら、マンション内の掲示板やWebサイトなどで利用者を募集します。契約手続きや鍵の受け渡し方法、入退室管理のフローを確立し、運用を開始します。
Step5: 収支管理と改善活動(PDCA)
運用開始後は、定期的に収支状況や稼働率をチェックします。利用者からのフィードバックを収集し、サービスの改善や利用促進策を継続的に行う(PDCAサイクルを回す)ことが、長期的に成功させる鍵となります。
導入のメリット・デメリットとリスク対策
シェアオフィス化は多くのメリットをもたらす可能性がある一方で、デメリットやリスクも存在します。両面を理解し、対策を講じることが重要です。
| メリット(可能性として) | デメリット・リスク | |
|---|---|---|
| 収益面 | ・新たな収益源となり、管理費会計を補強できる可能性(リスク考慮) ・修繕積立金の不足解消に寄与する可能性がある(リスク考慮) | ・初期投資やランニングコストがかかる ・稼働率が低いと赤字になるリスク |
| 資産価値 | ・居住者の利便性・満足度が向上する可能性(リスク考慮) ・時代に合った付加価値が生まれ、物件の魅力が高まる可能性(リスク考慮) | ・運用に失敗した場合、空きスペースに戻すコストがかかる |
| コミュニティ | ・居住者同士の新たな交流が生まれる可能性がある(リスク考慮) | ・利用者と非利用者間の不公平感 ・騒音、ゴミ問題などの利用者トラブル |
| 管理運営 | ・遊休資産の有効活用 | ・セキュリティリスクの増大(特に外部利用者の場合) ・予約管理や清掃など、管理組合の業務負担が増加 |
表閲覧不可時は以下テキスト参照:
- 収益面:メリット(可能性として) – 新たな収益源となり、管理費会計を補強できる可能性(リスク考慮) – 修繕積立金の不足解消に寄与する可能性がある(リスク考慮)。デメリット・リスク – 初期投資やランニングコストがかかる – 稼働率が低いと赤字になるリスク。
- 資産価値:メリット(可能性として) – 居住者の利便性・満足度が向上する可能性(リスク考慮) – 時代に合った付加価値が生まれ、物件の魅力が高まる可能性(リスク考慮)。デメリット・リスク – 運用に失敗した場合、空きスペースに戻すコストがかかる。
- コミュニティ:メリット(可能性として) – 居住者同士の新たな交流が生まれる可能性がある(リスク考慮)。デメリット・リスク – 利用者と非利用者間の不公平感 – 騒音、ゴミ問題などの利用者トラブル。
- 管理運営:メリット – 遊休資産の有効活用。デメリット・リスク – セキュリティリスクの増大(特に外部利用者の場合) – 予約管理や清掃など、管理組合の業務負担が増加。
特に外部利用者を許容する場合、セキュリティ対策は最重要課題です。
これらのリスクに対しては、以下のような対策が考えられます。
- セキュリティ対策: スマートロックの導入、防犯カメラの設置、利用者情報の厳格な管理
- 騒音・トラブル対策: 利用規約に明確なルールを定め、周知徹底する。Web会議用の個室ブースを設ける。
- 業務負担の軽減: 予約や決済を自動化できるシステムを導入する。管理会社に運営の一部を委託する。
成功の鍵を握る「管理会社」との上手な付き合い方
シェアオフィス化のような大規模なプロジェクトでは、管理会社の協力が不可欠です。しかし、管理組合側の要求の仕方によっては、協力が得られないばかりか、関係が悪化することさえあります。
相見積もりは「2〜3社」が現実的
コストを比較するために相見積もりを取ることは重要ですが、むやみに5社、6社と依頼するのは得策ではありません。
管理会社にとって、新しい管理委託の見積もり作成は多大な労力がかかる業務です。例えば、複数回の現地調査、会計状況や長期修繕計画の精査、清掃、エレベーター点検など多数の協力会社との再調整・再見積もり、理事会との面談や質疑応答などです。特に戸数の少ないマンション(例: 20戸〜40戸程度)では、労力に見合わないと判断され、応札を辞退されたり、意図的に高額な「お断り価格」を提示されたりするケースも少なくありません。組合側の過度な要望が強すぎると、管理会社から敬遠される恐れがあります。信頼できそうな会社を2〜3社に絞り、深くコミュニケーションを取る方が、結果的に良いパートナーを見つけやすくなります。
「一式」はNG!見積もりでチェックすべき重要項目
管理会社から提示された見積もりは、総額だけでなく、その内訳を詳細にチェックしましょう。「管理業務費一式」といった大まかな項目ではなく、以下の項目がそれぞれ具体的に記載されているかを確認することが重要です。
- 事務管理業務費(会計、総会・理事会支援など)
- 管理員業務費
- 清掃業務費
- 建物・設備管理業務費(各種法定点検費用など)
各項目の内容と金額を精査することで、管理の質とコストのバランスが適正か判断できます。
活用できる補助金制度はある?申請時の注意点
共用施設の改修には、自治体の補助金や助成金を活用できる場合があります。制度は常に変動するため、2026年3月14日時点で最新情報を確認してください。
制度は常に変動!最新情報の確認が必須
補助金制度は、自治体や年度によって内容が大きく変わります。また、予算が上限に達し次第、受付を終了することも珍しくありません。例えば、2026年度に東京都渋谷区で実施される可能性がある制度でも、改定により廃止されている場合があります。まずは、お住まいの市区町村のホームページで「マンション」「共用部分」「改修」「補助金」といったキーワードで検索するか、住宅関連の担当部署に直接問い合わせて、最新の情報を確認しましょう。対象は共用部分改修に限定される場合が多いです。
申請代行の活用も視野に
補助金の申請手続きは書類が多く、複雑な場合が少なくありません。管理組合の役員だけで対応するのが難しい場合は、申請代行をサポートしてくれる管理会社やコンサルタントに相談するのも一つの手です。通常の管理会社は手間がかかるため補助金の提案を嫌がる場合もありますが、株式会社MIJのような企業では積極的に申請代行を提案・行えるケースがあります。
まとめ:共用施設の可能性を最大限に引き出すために
マンション共用施設のシェアオフィス化は、単なる遊休資産の活用に留まりません。管理組合の財政を健全化し、居住者の満足度を高め、マンション全体の資産価値を向上させるポテンシャルを秘めています(リスク考慮)。
しかし、その実現には、区分所有法に基づく厳格な「特別決議」という高いハードルが存在します。成功の鍵は、以下の3点に集約されます。
- 正確な法的知識: 特別決議の原則を理解し、安易な判断を避ける。管理規約を最優先に確認。
- 丁寧な合意形成: 計画の初期段階から区分所有者全体で情報を共有し、理解を深める。
- 信頼できるパートナー: 専門知識を持つ管理会社やコンサルタントと良好な関係を築く。
この記事を参考に、まずは理事会で「共用施設の未来」について話し合ってみてはいかがでしょうか。そこから、あなたのマンションの新たな価値創造が始まるかもしれません。
免責事項
本記事は、マンション共用施設のシェアオフィス化に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の物件や状況に対する法的助言を行うものではありません。広告やプロモーションを目的としたものではなく、利害関係はありません。
記載されている情報は、記事公開時点(2026年3月14日)の法令等に基づいております。法改正や新たな判例により、内容が現状と異なる場合があります。
具体的な計画を検討・実行される際には、必ず弁護士、マンション管理士等の専門家にご相談いただくとともに、対象マンションの管理規約の条項を最優先でご確認ください。
参考資料
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」
- 国土交通省「平成30年度(2018年)マンション総合調査結果」
- 国土交通省「マンション標準管理規約」
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士・管理業務主任者)不動産業界歴23年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

