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マンションの防犯カメラ、せっかく設置しても「いざという時に録画が残っていなかった」「プライバシーの侵害だと住民から苦情がきた」といったトラブルは避けたいものです。特に管理組合の役員にとって、録画データの保存期間をどのくらいに設定すべきかは、非常に悩ましい問題でしょう。
本記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、マンションの防犯カメラにおける録画データの保存期間について、法的根拠と実務的な目安を徹底解説します。結論から言うと、保存期間の目安は「1週間~2週間程度から1ヶ月以内」が一般的です。この記事を読めば、なぜこの期間が適切なのか、そしてあなたのマンションに最適なルールをどう作れば良いのかが明確になります。プライバシー侵害の可能性を避け、住民全員が安心できる運用を目指しましょう。
結論:マンション防犯カメラの保存期間、目安は「1週間~2週間程度から1ヶ月以内」
多くのマンション管理組合が悩む防犯カメラの録画データ保存期間ですが、実務上の目安は「1週間~2週間程度から1ヶ月以内」です。法律で「◯日間」と具体的に定められているわけではありませんが、この期間が防犯効果と住民のプライバシー保護のバランスを取る上で、現実的な落としどころとされています。
録画データの保存期間は、防犯目的を達成するために必要な「最低限の期間」にすることが重要です。
なぜこの期間?「防犯効果」と「プライバシー保護」のバランス
保存期間を決める上で考慮すべき2つの大きな要素があります。
- 防犯効果の維持: 不審者の侵入や器物損壊などのトラブルは、発生直後に気づくとは限りません。住民が被害に気づき、管理組合に報告するまでの時間を考慮すると、ある程度の保存期間が必要です。
- プライバシー保護: 防犯カメラの映像には、住民や来訪者の顔や行動が記録されます。これは個人情報にあたる可能性があり、長期間保有し続けることは情報漏えいや目的外利用の可能性を増すため、より慎重な検討が必要です。
「1週間~2週間程度から1ヶ月以内」という期間は、トラブル発覚までの一般的な猶予期間をカバーしつつ、プライバシー侵害の可能性を不必要に高めないための、実務的な最適解と言えるでしょう。
【法的根拠】保存期間に「法律上の義務」はないが守るべきルールがある
「防犯カメラの保存期間は何日間にしなさい」と直接定めた法律はありません。しかし、だからといって自由に設定して良いわけではなく、守るべき重要な法律とルールが存在します。
最重要ルール:個人情報保護法の「必要最小限の原則」
防犯カメラの映像に特定の個人が識別できる形で映っている場合、その映像データは「個人データ」として扱われ、個人情報保護法の対象となります。この法律において、保存期間に関して最も重要なのが以下の条文です。
- 個人情報保護法第21条(利用目的による制限): 個人情報は、取得の際に告知した利用目的の達成に必要な範囲内で取り扱わなければならず、防犯目的の限定を法的に裏付けます。
- 個人情報保護法第22条(保存期間と正確性): 個人データについては、利用目的の達成に必要な範囲内において、正確かつ最新の内容に保つとともに、利用の必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない。(出典:個人情報の保護に関する法律、第二十二条)
- 個人情報保護法第27条(安全管理措置): 個人データの漏えいや目的外利用を防ぐための安全管理措置を講じる義務があり、録画データの施錠保管や暗号化などを法的に正当化します。
つまり、「防犯」という目的を達成するために必要な期間を超えて、データを保有し続けるべきではないということです。これが「必要最小限の原則」です。必要以上に長く保存すると、この法律の趣旨に反する可能性があるため、注意が必要です。
(出典:e-Gov法令検索)
マンション独自のルール:管理規約と区分所有法での定め
全国一律の法律とは別に、マンションごとに定める「管理規約」も重要なルールです。防犯カメラの設置や運用ルール(保存期間を含む)については、管理規約に明記することが強く推奨されます。
ルールを定めたり変更したりするには、区分所有法に基づき、管理組合の総会で決議を得る必要があります。これにより、ルールが住民全体の合意に基づいたものであることが明確になり、将来のトラブルを未然に防ぐことができます。
決議要件と管理規約優先の原則
区分所有法第39条に基づき、防犯カメラの保存期間変更は「区分所有者および議決権の各過半数」による普通決議が原則です。
⚠ 重要:当該マンションの管理規約に防犯カメラ運用ルールの決議要件について別段の定めがある場合、その定めが優先されます。本総会提出前に、必ず現行管理規約の該当条文を確認してください。
自治体ガイドラインの位置付け
各自治体が発出する防犯カメラのガイドラインは、法律上の法的強制力を持たない行政指針です。ただし以下の点に注意が必要です。
- 個人情報保護委員会の指導に不適合な運用は、行政指導の対象となる可能性があります。
- 事件・事故発生時の捜査協力で、当該ガイドラインの遵守状況が「過失」判断の参考材料となる可能性があります。
- 訴訟の際、自治体ガイドラインとの相違は「管理組合の過失」推認の根拠となる可能性があります。
したがって、「強制ではないから従わなくてよい」という解釈は避け、管理規約に記載する際には、当該マンション所在地の自治体ガイドラインを参照し、著しく乖離しない設定を推奨します。(個人情報保護法第8条:地方公共団体等の責務)
【実践編】一般的な保存期間の目安と設定の考え方
法的根拠を踏まえた上で、実務的にどのくらいの期間が適切なのか、メリット・デメリットを比較しながら見ていきましょう。
実務で多いのは「1週間~2週間程度」:短期保存のメリット・デメリット
マンション管理の実務では、最も多く採用されているのが「1週間~2週間程度」の保存期間です(出典:株式会社穴吹コミュニティ)。ゴミの不法投棄や小規模なトラブルが発覚するまでの期間としては、これで十分対応できることが多いです。
短期保存(1週間~2週間程度)のメリット・デメリット
- メリット: プライバシー侵害のリスク軽減が期待できる、データ管理コストが抑えられる。
- デメリット: トラブルが後日発覚した場合、すでにデータが消えている可能性がある。
注記: 表形式は読みやすさのため使用していますが、テキストブラウザでは箇点リストとして表示されます。
自治体ガイドラインで多い「1ヶ月以内」:中期保存のメリット・デメリット
多くの自治体が公表している防犯カメラのガイドラインでは、「1ヶ月以内」を目安としているケースが多く見られます(出典:愛知県「防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン」、札幌市「防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン」)。警視庁が管理する街頭防犯カメラも保存期間は30日間です。これは公的な基準として一つの参考になります。
中期保存(1ヶ月以内)のメリット・デメリット
- メリット: 事件・トラブル発覚までの時間的猶予がある、多くの自治体ガイドラインに準拠できる安心感がある。
- デメリット: データ保有期間が長くなる分、プライバシー侵害の可能性が増すため、より慎重な検討が必要です。
注記: 表形式は読みやすさのため使用していますが、テキストブラウザでは箇点リストとして表示されます。
なお、1ヶ月を超える長期保存は、個人情報保護法第22条の「必要最小限の原則」からの逸脱可能性が高まるため、保存期間を1ヶ月を超える場合は、その合理的根拠を管理規約等に明記することを強く推奨します。例えば、駐車場が多いマンションでは個別事情により最低3ヶ月保存を検討するケースもありますが、プライバシーの衡量を慎重に行ってください。
あなたのマンションに最適な期間は?判断基準チェックリスト
どちらの期間が良いかは、マンションの特性によって異なります。以下の項目を参考に、管理組合で話し合ってみましょう。
- □ マンションの規模・住民層: 世帯数は多いか?人の出入りは頻繁か?
- □ 立地・周辺環境: 大通りに面しているか?近隣で犯罪の発生はあるか?
- □ 過去のトラブル歴: 過去にどのようなトラブルがあったか?その発覚にどれくらい時間がかかったか?
- □ 住民の意向: プライバシーを重視する声と、防犯強化を望む声のどちらが強いか?
- □ ハードディスク容量: 録画装置の容量はどのくらいか?(高画質で長期保存すると容量を圧迫します)
プライバシー侵害を防ぐ!録画データの必須運用ルール5箇条
保存期間を決めるだけでは不十分です。プライバシー侵害の可能性と言われないためには、適正な運用ルールを定めて遵守することが不可欠です。最低限、以下の5つのルールを管理規約や細則に盛り込みましょう。
1. 設置目的と管理者の明示
防犯カメラを設置していること、その目的が「防犯目的であること」、そして管理責任者(通常は管理組合)が誰であるかを、ステッカーなどで掲示する必要があります。
2. 映像の閲覧権限の限定
誰でも自由に映像を見られる状態は絶対にNGです。「理事長および理事が認めた者に限る」など、閲覧できる権限者を厳格に限定しましょう。
3. 目的外利用の禁止(警察への提供は?)
録画データは「防犯」という目的以外で利用してはいけません。例えば、個人の興味本位で「誰がいつ帰宅したか」を確認するなどはもってのほかです。警察から捜査協力の依頼があった場合は、原則として裁判所の令状など、法的な根拠がある場合に限り提供が可能ですが、安易な任意提供は目的外利用とみなされる可能性があります。
4. 安全なデータ管理と期限後の確実な消去
録画データが保存されているレコーダーは、部外者が触れないよう施錠できる場所に保管しましょう。また、設定した保存期間が過ぎたデータは、確実に消去される必要があります。通常は、ハードディスクの容量がいっぱいになると古いデータから自動的に上書き消去される設定が一般的です。
5. 住民からの開示請求への対応
住民から「自分が映った映像を見たい」という請求があった場合の対応ルールも定めておくとスムーズです。本人確認の方法や、他の住民のプライバシーをどう保護するか(マスキング処理など)を検討しておく必要があります。
| (記載例)管理規約 第XX条(防犯カメラ) 3. 録画データの保存期間は14日間とし、期間経過後は自動的に消去されるものとする。 4. 録画データの閲覧は、犯罪行為または規約違反行為の確認等、防犯目的の達成に必要と理事会が認めた場合に限り、理事長および理事長の指名する理事のみが行えるものとする。 |
管理組合での進め方|合意形成から規約変更までの3ステップ
ルールを決めても、それが住民に受け入れられなければ意味がありません。以下のステップで、透明性を持って進めましょう。
Step1: ルール案の作成と理事会での検討
まずは理事会で、本記事で解説した内容を参考に、マンションの状況に合わせた保存期間や運用ルールの素案を作成します。複数の案(例:14日案と30日案)を用意し、それぞれのメリット・デメリットを整理しておくと良いでしょう。
Step2: 住民説明会の開催と合意形成
理事会でまとめた案をもとに、住民向けの説明会を開催します。なぜその保存期間が妥当と判断したのか、プライバシーにどう配慮するのかを丁寧に説明し、住民からの意見や質問を募ります。ここで出た意見を元に、ルール案を修正していくことで、合意形成を図ります。
Step3: 管理規約への明記と総会での決議
最終的なルール案が固まったら、管理規約の変更案として総会に提出します。防犯カメラの運用ルールの新設や変更は、区分所有法第39条に基づき、原則として「区分所有者および議決権の各過半数」による普通決議で可決されます。(ただし、管理規約に別段の定めがある場合はそちらが優先されます)
総会で承認されて初めて、そのルールはマンションの正式な決まりとなります。
よくある質問(FAQ)
保存期間を過ぎた映像データはどうなるの?
一般的に、防犯カメラの録画装置は、設定された保存期間を過ぎると、古いデータから自動的に新しいデータで上書き消去する設定になっています。そのため、期間を過ぎてしまった映像は、基本的に復元することはできません。
警察から捜査協力で映像提供の依頼があったら?
原則として、捜査関係事項照会書や令状の提示など、法的な根拠に基づく要請があった場合に限り提供します。管理組合で定めたルールに従い、理事会などで慎重に判断して対応することが重要です。安易な任意での提供は、個人情報保護法における目的外利用とみなされる可能性があるため避けるべきです。
保存期間を定めずに長期間保存し続けるリスクは?
個人情報保護法の「必要な期間を超えて保有してはならない」という定めに違反する可能性があります。また、長期間データを保有することは、それだけ情報漏洩の可能性を増すことになります。万が一データが流出すれば、管理組合が損害賠償責任を問われる可能性もゼロではありません。
まとめ:専門家とも相談し、透明性のある運用を
マンションの防犯カメラの保存期間は、法律で日数が定められていないからこそ、管理組合の判断が重要になります。
- 保存期間の目安: 実務的な「1週間~2週間程度」と、自治体ガイドラインに多い「1ヶ月以内」を軸に検討する。
- 法的根拠: 個人情報保護法の「必要最小限の原則」を常に意識する。
- 運用ルール: 保存期間だけでなく、閲覧権限や目的外利用の禁止など、プライバシーに配慮したルールをセットで定める。
- 合意形成: 住民への説明と総会での決議を経て、透明性のあるルール作りを行う。
保存期間や運用ルールの策定に不安がある場合は、マンション管理士や管理会社などの専門家に相談するのも有効な手段です。防犯効果とプライバシー保護を両立させた適切なルールを定め、すべての住民が安心して暮らせるマンションを目指しましょう。
免責事項
本記事は、マンションの防犯カメラ運用に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別の事案に対する法的な助言ではありません。記事の内容は、執筆時点の法令や情報に基づいています。最新の法改正や、個別のマンション管理規約の条項が最優先されます。本記事は一般的な情報提供であり、個別マンションの管理規約、所在自治体のガイドライン、および現契約条項が法的に優先されます。具体的な運用ルール策定時は、弁護士またはマンション管理士の専門家相談を必須とします。具体的な対応については、弁護士、マンション管理士等の専門家にご相談ください。
参考資料
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)」 <https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0000000057>
- 個人情報保護委員会「防犯カメラの利用に関するハンドブック」(2023年12月) <https://www.ppc.go.jp/files/pdf/camera_utilize_handbook202312.pdf>
- 国土交通省「マンション標準管理規約」 <https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html>
- 公益社団法人日本セキュリティ業協会「映像セキュリティ・ガイドブック」(2024年) <https://www.ssaj.or.jp/pubdoc/pdf/guidebook/454.pdf>
- 愛知県「防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン」 <https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/418865.pdf>
- 京都府「防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン」 <https://www.pref.kyoto.jp/anshin/documents/1302229178145.pdf>
- 札幌市「防犯カメラの設置及び運用に関するガイドライン」 <https://www.city.sapporo.jp/shimin/anzen/bouhan/camera-guideline.html>
- 株式会社インサイト「【2024年版】防犯カメラの保存期間の目安は?法律や注意点を解説」(2024年) <https://inasho.com/column/1759/>
- 株式会社穴吹コミュニティ「マンション内の防犯カメラ映像の閲覧請求について」 <https://anabuki-m.jp/information/resolution/28607/>
- 日立システムズエンジニアリングサービス株式会社「防犯カメラの保存期間はどのくらい?」(2024年) <https://www.hitachi-systems-es.co.jp/service/column/video/article04.html>
- Safie株式会社「防犯カメラの保存期間の目安とは?法律や設置場所別の基準を解説」(2024年) <https://safie.jp/article/post_17666/>
- 株式会社JVCケンウッド・公共産業システム「自治体における防犯カメラの設置・運用状況」(2024年) <https://jkpi.jvckenwood.com/mediasite/032/>
- 東日本電信電話株式会社「防犯カメラの設置で知っておきたいプライバシー保護の注意点」(2024年) <https://business.ntt-east.co.jp/content/camera/column/privacy/>
- NTTコミュニケーションズ株式会社「防犯カメラを設置する際に注意すべきプライバシーの問題とは?」(2024年) <https://www.ntt.com/business/solutions/enterprise-application-management/coomonita/lp/monitoring-camera-privacy.html>
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

