マンション理事会廃止は可能?法的要件・手続きと第三者管理の完全ガイド

複数の業者から提出されたインターホン更新の見積書を机に広げ、比較検討している管理組合の理事たちの様子。相見積もりの重要性や、詳細な見積もり内容を重視することの必要性を表現し、読者に賢い業者選定を促します。

※本コラムの内容は、当社が独自に調査・収集した情報に基づいて作成しています。無断での転載・引用・複製はご遠慮ください。内容のご利用をご希望の場合は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。

役員の高齢化が進み、もう誰も理事を引き受けてくれない。「いっそ理事会を廃止できないだろうか」。マンション管理の現場では、こうした切実な声が聞かれるようになりました。役員の担い手不足は、多くのマンションが抱える深刻な問題です。

結論から申し上げると、マンションの理事会を廃止することは法的に可能です。しかし、そのためには法律に基づいた厳格な手続きと、廃止後の管理体制という重要な代替案を準備しなければなりません。安易に廃止を決めてしまうと、かえって管理が機能不全に陥るリスクがあります。

この記事では、資格を持つ不動産ライターが、区分所有法や国土交通省の資料といった一次情報に基づき、マンション理事会の廃止を検討する際に知っておくべき法的要件、具体的な手続き、そして「第三者管理方式」などの代替案を徹底解説します。ご自身のマンションにとって最善の選択肢を見つけるための一助となれば幸いです。

目次

なぜ今「理事会廃止」が議論されるのか?高齢化と無関心という構造問題

「理事会廃止」という選択肢が現実味を帯びてきた背景には、個々のマンションの事情だけではない、社会構造的な問題が存在します。

役員のなり手不足と高齢化による負担増

最も大きな要因は、区分所有者の高齢化です。マンションが古くなるにつれて住民も年を重ね、役員の仕事が身体的に大きな負担となります。さらに、若い世代は仕事や子育てで多忙なため、役員の引き受け手が慢性的に不足しているのが実情です。この問題は、実は10年以上前から指摘されており、国土交通省も2012年のレポートで管理組合の担い手不足に警鐘を鳴らしています(出典:国土交通省、2012年)。

賃貸化・投資目的所有による「無関心層」の拡大

新築時に居住目的で購入した層が退去し、その住戸が賃貸に出されたり、投資目的で所有されたりするケースが増えています。その結果、マンション管理への関心が薄い「無関心層」が拡大し、総会の定足数を満たすことすら困難になる管理組合も少なくありません。理事会活動への協力が得られにくくなることも、運営を困難にさせる一因です。

2026年4月施行の改正区分所有法が議論を後押し

2025年5月に改正区分所有法が可決・成立し、2026年4月1日に施行されることが確定しました。この改正法には、所在不明者などがいる場合でも建物の再生をしやすくするための決議要件の緩和などが含まれます。こうした大規模な意思決定の議論が活発化するタイミングで、理事会のあり方を含む管理体制そのものを見直そうという動きが加速する可能性があります。

【法的誤解を解消】区分所有法上、理事会の設置は“義務”ではない

理事会廃止を検討する上で、まず解消すべき法的な誤解があります。それは「理事会は法律で義務付けられている」という思い込みです。

法律が定めるのは「管理者」1名のみ

マンション管理の基本ルールを定めた「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」には、「理事会」を設置しなければならないという規定はどこにもありません。法律が設置を求めているのは、管理組合の代表者である「管理者」1名のみです。

(管理者)
第二十五条 区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。

(出典:e-Gov法令検索、建物の区分所有等に関する法律)

つまり、法律上は管理者(多くの場合は理事長に相当)が1人いれば、管理組合は成立します。

なぜ多くのマンションに理事会があるのか?国交省の標準管理規約の影響

では、なぜほとんどのマンションに理事会が存在するのでしょうか。それは、国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」が、複数の役員(理事・監事)で構成される「理事会」を設置するモデルを示しているからです。多くのマンションが、この標準管理規約を雛形として自分たちの管理規約を作成したため、理事会を置くことが慣行として定着しました。

機関法的根拠設置義務役割
管理者 (理事長など)区分所有法 第25条義務 (※規約で別段の定めがなければ)管理組合の代表者
理事会管理規約義務ではない(規約で定めている場合がほとんど)業務執行の合議体
「管理者」と「理事会」の法的な位置づけの違い

あなたのマンションの理事会を廃止できるかは「管理規約」次第

ここまでの話を整理すると、重要なポイントは以下の通りです。

  • 定義: 「管理者」は区分所有法に基づく代表者、「理事会」は管理規約に基づく合議体です。
  • 区別: 法律上の義務は「管理者」の選任であり、「理事会」の設置ではありません。
  • 読者メリット: この違いを理解することで、「理事会廃止」は法律違反ではなく、自分たちのルールである「管理規約」を変更すれば実現可能な選択肢であることがわかります。

つまり、理事会を廃止するか否かは、法律ではなく、皆さんのマンションの最高規範である「管理規約」で決まります。

理事会を廃止するための具体的な手続きと決議要件

理事会の廃止は、単に「役員をやめる」ということではありません。管理組合の根幹に関わる「管理規約の変更」にあたるため、法律で定められた厳格な手続きを踏む必要があります。

【最重要】総会の「特別決議」が必須:4分の3以上の賛成

管理規約の変更は、区分所有法で最もハードルが高い「特別決議」が必要です。

理事会廃止には、区分所有者総会において「区分所有者数」と「議決権総数」のそれぞれ4分の3以上の賛成が必要です。

これは、区分所有法第31条に定められた要件であり、単なる過半数の賛成(普通決議)では認められません。高齢化や無関心層の拡大が進むマンションでは、この定足数を確保し、賛成票を集めること自体が最初の大きな壁となります。

規約改正案に盛り込むべき必須項目

理事会を廃止する規約改正案では、単に「理事会を廃止する」と書くだけでは不十分です。理事会が担っていた業務執行や意思決定の機能を、誰がどのように引き継ぐのかを明確に定める必要があります。

  • 管理者の権限: 外部専門家などを管理者とする場合、その権限と業務範囲を明記する。
  • 監事の役割強化: 理事会がなくなる分、管理者の業務をチェックする監事の役割と権限を強化する。
  • 総会の役割: これまで理事会で決めていた事項(例:小規模な修繕の承認など)を、総会で決議するのか、管理者に一任するのかなどを定義する。
  • 管理者・監事の選任方法: 新しい体制での役員の選任・解任方法を定める。

【注意】2026年4月1日施行の改正区分所有法に先立つ規約改正時の附則の書き方

前述のとおり、2026年4月1日に改正区分所有法が施行されますので、それ以前に規約改正を行う場合は注意が必要です。この改正法では、総会の定足数・決議要件が以下のように変更されます。

要件現行規約(2026/4/1前)改正法施行後
総会定足数議決権総数の「半数以上」「過半数」
特別決議出席者の4/3以上 かつ 組合員総数4/3以上出席者の4/3以上 かつ 組合員総数4/3以上(据置)
再生決議組合員・議決権各5/4以上客観的事由がある場合は4/3以上に緩和

そのため、2026年3月31日までに総会招集手続を開始する場合は、現行規約に基づく決議要件で実行され、規約改正案には必ず「本規約の変更は建物の区分所有等に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第〇号)の施行日(令和8年4月1日)からその効力を生じる」との文言を附則に記載してください。

(記載例)
(附則)
この規約の変更は、建物の区分所有等に関する法律の一部を改正する法律(〇年法律第〇号)の施行の日から、その効力を生じる。

これは、2024年6月および2025年10月に改正されたマンション標準管理規約が、この法改正を前提としていることを踏まえた実務的な対応です(出典:さいたまマンション管理士事務所、2024年)。規約改正案の作成は非常に専門的ですので、マンション管理士や弁護士などの専門家に相談することを強く推奨します。

実務ヒント:理事会廃止後の代替案と潜むリスク

理事会の廃止はゴールではありません。むしろ、そこから新しい管理体制をどう構築するかが最も重要です。ここでは、代表的な代替案と、安易な廃止に伴うリスクについて解説します。

代替案「第三者管理方式」とは?2つのタイプを解説

理事のなり手がいなくても管理を継続するための仕組みとして「第三者管理方式」があります。これは、マンション管理士などの外部専門家が管理組合の運営を代行する制度で、国土交通省のガイドラインでも活用が推奨されています(出典:国土交通省、2023年, p.16)。この方式は、主に2つのタイプに分けられます。

方式タイプ正式名称特徴理事会の有無根拠資料
タイプ①理事会方式(外部専門家参加型)外部専門家が理事長または理事に就任し、他の役員と共に理事会を運営。ありマンション標準管理規約(2024年6月、2025年10月改正版)
タイプ②管理者方式(外部専門家管理者型)理事会そのものを廃止し、外部専門家が「管理者」に就任。総会と監事が管理者を直接監督。なし改正区分所有法第25条、マンション標準管理規約(2024年6月、2025年10月改正版)

「理事会廃止」を検討する場合、選択肢となるのは後者の「管理者方式(外部専門家管理者型)」です。役員の負担はなくなりますが、管理者への権限集中を防ぐため、監事の監査機能と、年に一度の総会でのチェック機能がこれまで以上に重要になります。

管理受託会社への見積もり依頼で失敗しない方法:2〜3社が最適な理由

第三者管理方式へ移行する場合、多くは専門家を派遣できる管理受託会社へ相談することになります。その際、複数の会社から見積もりを取る「相見積もり」は重要ですが、注意点があります。

特に20〜40戸規模のマンションで、5社も6社も相見積もりを依頼すると、管理受託会社側から敬遠されることがあります。見積もり作成には、現地調査や協力会社との打ち合わせなど、多大な労力がかかるため、受注できる可能性が低いと判断されると参加してもらえないのです。管理受託会社側は、管理委託内容の精査および、会計状況、そして1棟全体の管理費等の見積もり作成をするには3-4回ほど現地に足を運び、また清掃会社、EV点検、消防、警備など多岐にわたって外注先会社との打ち合わせを行ったうえで理事会数名との面談も数回こなすため労力がかかります。組合側の要望が強すぎると、管理受託会社から敬遠される恐れがあり、特に規模が小さいマンションでは積極的に管理を取得しようとはしない場合が多いです。

実務的には、信頼できそうな2〜3社に絞って、真剣に検討していることを伝えた上で依頼するのが、良い提案を引き出すコツです。

「一式」表記の見積もりは危険!チェックすべき項目

管理委託費の見積もりで「管理業務費一式 〇〇円」といった大まかな表記しかない場合は注意が必要です。後から「この業務は別料金です」と言われるトラブルを防ぐため、必ず内訳を確認しましょう。

【チェックリスト】見積もりの内訳で確認すべき項目

  • 事務管理業務費(会計、総会支援など)
  • 管理員業務費(勤務時間、業務内容)
  • 清掃業務費(頻度、範囲)
  • 建物・設備管理業務費(点検の種類、頻度)

これらの項目が個別に記載され、納得できる内容になっているかを確認することが、失敗しない管理受託会社選びの第一歩です。

マンション理事会廃止に関するよくある質問(FAQ)

Q. マンションの理事会設置は法律上の義務ですか?

A. いいえ、区分所有法上の義務ではありません。法律が義務付けているのは「管理者」の選任です。ただし、ほとんどのマンションでは、自分たちのルールである「管理規約」で理事会の設置が定められています。具体的な状況は専門家にご相談ください。

Q. 理事会を廃止するにはどんな手続きが必要ですか?

A. 管理規約の変更にあたるため、総会での「特別決議」が必要です。具体的には、区分所有者数および議決権総数の各4分の3以上の賛成を得なければなりません。具体的な状況は専門家にご相談ください。

Q. 理事会を廃止した後はどうなりますか?

A. 理事会がなくなるため、その機能を代替する仕組みが必要です。一般的には、マンション管理士などの外部専門家が「管理者」となって運営を代行する「第三者管理方式(管理者方式)」へ移行します。その場合、管理者を監督する監事や総会の役割がより重要になります。具体的な状況は専門家にご相談ください。

まとめ:安易な廃止は危険。専門家と相談し、管理組合の未来を設計しよう

役員の担い手不足を背景に、マンション理事会の廃止を検討する動きは今後も広がる可能性があります。この記事で解説した通り、規約を変更すれば理事会の廃止は法的に可能です。

しかし、その道は決して平坦ではありません。

  • 法的ハードル: 4分の3以上の賛成を得る「特別決議」が必要。
  • 代替案が必須: 廃止後の運営体制として「第三者管理方式」などの具体的な計画が不可欠。
  • 新たなリスク: 管理者への権限集中や、住民の無関心を助長する恐れもある。

「理事会をなくせば楽になる」という安易な考えで進めるのは非常に危険です。廃止は、あくまで管理組合の運営を持続させるための一つの手段に過ぎません。

まずはご自身のマンションの状況を客観的に把握し、理事会をスリム化・効率化できないか、一部の業務だけを専門家に委託できないかなど、他の選択肢も含めて検討することが重要です。その上で、どの選択肢が最適なのか、マンション管理士などの専門家に相談しながら、管理組合の未来を慎重に設計していきましょう。

免責事項

本記事は、マンション管理に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の管理組合に対する法的な助言やコンサルティングを行うものではありません。

管理規約の改正や管理組合の運営に関する具体的な判断や手続きについては、必ず弁護士やマンション管理士等の専門家にご相談ください。また、法令や制度は改正される可能性があるため、常に最新の情報をご確認いただくようお願いいたします。本記事の情報に基づいて行われた行為により生じた一切の損害について、当サイトは責任を負いかねます。本記事は2025年12月20日時点の情報に基づく。法令・制度は改正される可能性があるため、総会決議前に必ず弁護士またはマンション管理士に最新情報の確認を依頼してください。

参考資料

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この記事を書いた人

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