マンション修繕の責任分担|専有部分と共用部分の境界を事例で徹底解説

マンション修繕工事における管理会社への見積もり依頼のポイントをまとめた図。適正で透明性の高い見積もり取得のためには、「相見積もり」が有効な手段です。通常2~3社から見積もりを取り、費用対効果を比較検討することが推奨されます。また、見積もり依頼時には工事内容の詳細を管理会社と事前に協議し、費用の内訳を明確に提示してもらうことが重要です。これにより、適切な業者選定と費用交渉が可能になり、不正やトラブルのリスクを低減できます。

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マンションの水漏れや設備の故障。いざ修繕が必要になったとき、「この費用は誰が負担するの?」と疑問に思ったことはありませんか? マンションの修繕責任は、その場所が「専有部分」か「共用部分」かによって大きく異なります。単純に見えるこの区別ですが、実際には玄関ドアや窓サッシ、床下の配管など、判断が難しい箇所も少なくありません。責任の所在を誤解していると、思わぬ自己負担が発生したり、ご近所トラブルに発展したりする可能性もあります。

この記事では、区分所有法・マンション標準管理規約に基づき、マンション修繕における専有部分と共用部分の責任範囲を、法的根拠に基づいて徹底解説します。どこまでが個人の責任で、どこからが管理組合の責任なのか。具体的な事例や判断が難しい「境界部分」の考え方、さらには修繕を進める際の実務的な注意点まで、わかりやすく紐解いていきます。この記事を読めば、いざという時に慌てず、適切に対応できるようになるでしょう。

【重要】本記事は一般的な法律知識の情報提供です。

  • ご自身のマンションの「管理規約」を必ずご確認ください。
  • 個別の修繕責任や費用負担について、判断に迷った場合は、
    弁護士、マンション管理士、または管理会社にご相談ください。
  • 本記事の情報を基に判断・行動された場合の責任は負いかねます。
目次

マンション修繕の基本|責任範囲を分ける「専유部分」と「共用部分」

マンションの修繕責任を理解する上で最も重要なのが、「専有部分」と「共用部分」の違いです。この二つの区分は、法律によって明確に定義されており、どちらに該当するかで修繕の責任者と費用負担者が決まります。まずは、この基本的なルールをしっかり押さえましょう。

区分所有法で定められた定義とは?

マンションの所有形態や管理のルールは、「建物の区分所有等に関する法律(通称:区分所有法)」によって定められています。この法律の中で、専有部分と共用部分は次のように定義されています。

  • 専有部分: 独立して住居や店舗、事務所などとして利用できる区画された部分(出典:建物の区分所有等に関する法律 第2条)。具体的には、壁・床・天井に囲まれた居住スペース(リビング、寝室、キッチン、浴室など)を指します。
  • 共用部分: 専有部分以外の建物部分、専有部分に属さない建物の附属物など(出典:建物の区分所有等に関する法律 第2条)。廊下、階段、エレベーター、外壁、屋上などがこれにあたります。

つまり、専有部分は区分所有者個人の財産であり、修繕の責任と費用は原則として所有者個人が負います。一方、共用部分は区分所有者全員の共有財産であり、管理組合が責任を持って維持管理を行い、その費用は全員で負担する修繕積立金から支出されます。

【一覧表】具体的にどこまでが専有部分で、どこからが共用部分か

言葉の定義だけでは、具体的な箇所がどちらに属するのか分かりにくいかもしれません。一般的なマンションの管理規約(国土交通省「マンション標準管理規約(2021年改定版)」を参考)に基づくと、専有部分と共用部分は以下のように分けられます。

部位分類主な修繕責任者備考
リビング・寝室の壁紙、床材専有部分区分所有者内装仕上げ材は専有部分
キッチン、ユニットバス、トイレ専有部分区分所有者室内設備は専有部分
玄関ドアの内側塗装・鍵専有部分区分所有者鍵交換も個人の責任
共用廊下、階段、エントランス共用部分管理組合区分所有者全員で維持管理
外壁、屋上、建物のコンクリート躯体共用部分管理組合大規模修繕の対象
エレベーター、給水ポンプ共用部分管理組合共用の設備機器
窓サッシ、窓ガラス、玄関ドア本体共用部分管理組合「専用使用部分」だが共用部分。詳細は後述
バルコニー、ベランダ共用部分管理組合「専用使用部分」だが共用部分。詳細は後述
※実際の範囲は必ずご自身のマンションの管理規約でご確認ください。

この表で注意すべきは、玄関ドアや窓サッシです。これらは日常的に特定の所有者しか使いませんが、法律上は「共用部分」に分類されます。このように、判断が分かれる部分については、後ほど詳しく解説します。

【個人の責任】専有部分の修繕ルールと費用負担

専有部分の修繕は、原則として所有者個人の責任と費用で行います。しかし、リフォームの内容によっては管理組合の承認が必要になるなど、注意すべき点もあります。

原則として所有者が全額自己負担

お部屋の壁紙を張り替えたり、古くなったキッチンを交換したり、壊れた給湯器を修理したりといった専有部分の維持管理やリフォームにかかる費用は、すべてその部屋の所有者が負担します。

これは、専有部分が個人の資産であるためです。快適な住環境を維持するためのメンテナンスは、所有者の責任で行うのが基本ルールと理解しておきましょう。

要注意!リフォーム時に管理組合の承認が必要なケース

専有部分のリフォームであっても、工事の内容によっては事前に管理組合へ申請し、承認を得なければならない場合があります。マンション標準管理規約(2021年改定版)では、以下のようなケースで承認が必要とされています。

  • 構造や耐力に影響を与える工事: 間仕切り壁の撤去など、建物の構造に関わる工事。
  • 共用部分に影響を及ぼす工事: 床材をフローリングに変更する(下の階への騒音問題)、配管の位置を大きく変更するなど。
  • 外観の変更を伴う工事: 窓の外に何かを取り付けるなど。

これらの工事は、他の居住者や建物全体の資産価値に影響を与える可能性があるためです。リフォームを計画する際は、まず管理規約で手続きに関する条項を確認し、早めに管理会社や理事会に相談することがトラブル回避の鍵となります。

【組合の責任】共用部分の修繕と修繕積立金の仕組み

区分所有者全員の共有財産である「共用部分」は、管理組合が主体となって維持管理を行います。その原資となるのが、毎月徴収される修繕積立金と、それに基づく長期的な修繕計画です。

維持・管理は管理組合が主導し、費用は修繕積立金から

外壁のひび割れ補修、屋上の防水工事、共用廊下の電灯交換といった共用部分の維持管理は、管理組合の重要な業務です。これらの工事は、管理組合が計画し、発注し、支払いを行います。

その費用は、区分所有者全員が毎月積み立てている「修繕積立金」から支出されます。修繕積立金の額は、一般的に専有部分の床面積の割合に応じて決められます。つまり、共用部分の修繕費用は、区分所有者全員で公平に負担しているということになります。

長期修繕計画の重要性と2022年法改正のポイント

将来的に発生する大規模な修繕に備えるため、管理組合は「長期修繕計画」を作成することが強く推奨されています。これは、建物の資産価値を長期的に維持するための設計図ともいえるものです。

国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(2022年4月改正版)」により、この計画の重要性がさらに高まりました(出典:国土交通省)。

  • 計画期間の伸長: 従来「25年以上」が目安だった計画期間が、新築・既存マンションともに「30年以上」に。
  • 修繕周期の見直し: 外壁塗装などの大規模修繕工事の周期が、これまでの「12年」という画一的な目安から「12年~15年」と、建物の実態に合わせた幅のある設定に見直されました。

この計画があることで、将来必要な修繕費の総額を予測し、計画的に修繕積立金を集めることができます。マンションの購入を検討する際は、この長期修繕計画が適切に作成・更新されているかを確認することが非常に重要です。

修繕積立金が使えない?計画外の工事と総会決議

修繕積立金は、あくまで長期修繕計画に基づいて使われるのが原則です。計画にない突発的な工事を行いたい場合や、計画を変更して工事を前倒ししたい場合は、原則として管理組合の総会で決議(承認)を得る必要があります。

また、専有部分の修繕に修繕積立金を使うことは、原則としてできません。あくまで共用部分の維持管理のための資金であることを理解しておく必要があります。

判断が難しい「境界部分」の責任分界点は?

専有部分と共用部分の基本的な違いはご理解いただけたかと思います。しかし、実務上は「これはどっち?」と判断に迷う「境界部分」が数多く存在します。ここでは、特にトラブルになりやすい3つのケースについて、法的な考え方や実務上の扱いを解説します。

【大前提】最終的な判断は「管理規約」
これから解説するのは、あくまで一般的なルールです。マンションの管理規約で別の定めがある場合は、そちらが優先されます。判断に迷ったら、必ずご自身のマンションの管理規約を確認してください。

ケース1:ベランダ・バルコニーの劣化や損傷

ベランダやバルコニーは、特定の部屋に付属しているため専有部分と思われがちですが、法律上は「共用部分」です。なぜなら、火災時の避難経路として区分所有者全員の安全に関わる場所だからです。
そのため、床の防水工事や手すりの大規模な補修など、建物の構造や安全性に関わる修繕は、管理組合が長期修繕計画に基づいて行います。

ただし、「専用使用権」が認められているため、日常的な使用や管理は、その部屋の所有者が行うのが一般的です。ここで問題になるのが、通常の使用に伴う汚れや軽微な損傷の扱いです。過去の判例では、「ベランダの使用に伴う日常的な清掃や、破損したガラスの交換など、通常使用の範囲内での修繕費用は、専用使用権を有する区分所有者が負担すべき」と判示されたケースがあります(出典:不動産流通推進センター『RETIO』No.115、2019年8月号)。

ケース2:窓サッシ・ガラス・玄関ドアの交換

窓サッシ、窓ガラス、玄関ドアもベランダと同様、共用部分です。外観の統一性を保ち、建物の気密性や断熱性を維持する上で重要な役割を果たすためです。

したがって、これら全体の交換を伴う大規模修繕は、管理組合が主体となって計画的に行います。しかし、マンション標準管理規約(2021年改定版)では、これらの部分の日常的な維持管理(例:ガラスが割れた、鍵が壊れた)については、専用使用権を持つ区分所有者の責任と負担で行う、と定めているのが一般的です。

ただし、マンション標準管理規約(2021年改定版)第22条に基づき、断熱性向上や防犯性向上のためのカバー工法など、建物全体の価値向上に繋がる改修は、管理組合の決議を経て計画修繕として実施することも可能です。

ケース3:壁・床下の給排水管からの水漏れ

水漏れトラブルは、責任の所在が最も複雑になりやすい問題の一つです。特に給排水管は、専有部分と共用部分が入り組んでいるため、注意が必要です。

責任の分かれ目となるのは、「配管の役割」です。

配管の種類一般的な分類主な修繕責任者
縦管(本管)共用部分管理組合
横枝管(縦管から各住戸へ分岐する部分)専有部分区分所有者

マンション全体に水を供給したり、排水を集めたりする「縦管」は、たとえ専有部分の壁の中を通っていても共用部分として扱われます。したがって、縦管の老朽化による水漏れは、管理組合の責任で修繕します。過去の判例では、縦管からの水漏れについて、「たとえ専有部分内の壁内を通る配管であっても、建物全体の給排水システムに属する部分は共用部分の修繕責任に該当する」と判断されたケースがあります(出典:不動産流通推進センター RETIO)。

一方、その縦管から分岐して、キッチンや浴室など各住戸内の設備に接続される「横枝管」は、専有部分とみなされます。この横枝管からの水漏れは、所有者個人の責任となります。下の階に被害を与えてしまった場合は、個人賠償責任保険が適用できるか確認が必要です。

実務ヒント|修繕の実行と費用決定で管理組合がすべきこと

共用部分の修繕工事を実施するにあたり、管理組合は適切な手続きを踏む必要があります。また、費用を決定する際の見積もり取得には、実務上のコツがあります。

修繕工事の実施には総会決議が必須

共用部分の修繕工事は、区分所有者全員の財産に関わる重要な決定です。その実施には、原則として管理組合の総会での決議が必要とされています。

【法令根拠】

  • 区分所有法 第17条(共用部分の変更)
  • 区分所有法 第39条(議事)
  • マンション標準管理規約(2021年改定版) 第48条(計画修繕工事の実施)
  • マンション標準管理規約(2021年改定版) 第49条(長期修繕計画の作成又は変更)

ただし、管理規約に別段の定めがある場合は、規約による。

理事会だけで勝手に工事を進めることはできません。透明性の高いプロセスを経て、区分所有者全体の合意を形成することが、後のトラブルを防ぐ上で不可欠です。

【プロの視点】管理会社への見積もり依頼のポイント

修繕費用を適正化するために、複数の業者から見積もりを取る「相見積もり」は有効な手段です。宅建士の実務経験では、通常2~3社程度の見積もりから、費用対効果を十分に比較検討できるとされています。詳細な条件設定や業界標準については、管理会社や管理士にご相談ください。

また、見積もりを依頼する際は、工事内容の詳細を管理会社と事前に協議し、透明性のある提示を求めることが重要です。これにより、費用の内訳が明確になり、適正な比較検討が可能になります。

まとめ|修繕責任で迷ったら、まず管理規約を確認しよう

今回は、マンションの修繕における責任範囲について解説しました。最後に、重要なポイントをまとめます。

  • 専有部分(居室内など)の修繕は、所有者個人の責任と費用で行うのが原則。
  • 共用部分(廊下、外壁など)の修繕は、管理組合修繕積立金を使って行う。
  • ベランダ、窓、玄関ドア、床下配管などの「境界部分」は、共用部分に属することが多いが、日常的な管理は個人の責任となる場合がある。
  • トラブルを避ける最大の鍵は、ご自身のマンションの「管理規約」を読み解くこと。
  • 共用部分の修繕は、必ず総会での決議を経て進める必要がある。

マンションは、個人の資産であると同時に、多くの人との共同生活の場でもあります。修繕のルールを正しく理解し、不明な点は管理組合や管理会社に相談することで、建物の資産価値を守り、快適なマンションライフを送ることができます。修繕の必要が生じたとき、この記事が冷静な判断の一助となれば幸いです。

免責

本記事は、不動産取引に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、特定の物件や個別の契約、法律問題に関する具体的な法的助言を行うものではありません。

記事作成時点での法令や情報に基づいていますが、その後の法改正や判例の変更などにより、情報が最新のものでなくなる可能性があります。実際の修繕や契約にあたっては、必ず最新の法令や、ご自身のマンションの管理規約、契約条項をご確認ください。

個別の事案に関する法的な判断や対応については、必ず弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談ください。本記事の情報を利用した結果生じたいかなる損害についても、当サイトは一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

参考資料

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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