給排水管漏水の責任区分完全ガイド:マンション専有・共用部分のルールと5ステップ対応

マンションの漏水トラブルで発生する法的責任を、民法717条の工作物責任と民法709条の不法行為責任の2種類に分けて解説した比較図。内容、責任者、過失の要否、適用場面の例が示され、設備の欠陥による責任と人の行為による責任の違いが明確になる。この図により、トラブルへの適切な対応と費用負担の理解を深めることができる。

※本コラムの内容は、当社が独自に調査・収集した情報に基づいて作成しています。無断での転載・引用・複製はご遠慮ください。内容のご利用をご希望の場合は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。

マンションの天井からポタポタと水滴が…!ある日突然見舞われる「漏水事故」は、パニックに陥りがちなトラブルの代表格です。水漏れを止めるのはもちろんですが、それと同時に「この修繕費用は誰が払うの?」「下の階に与えた損害の責任は誰が?」という大きな問題が浮上します。

実は、マンションの給排水管からの漏水責任は、その発生箇所が「専有部分」なのか「共用部分」なのかという区分によって、誰が責任を負うかが法律と管理規約で定められています。ただし、ご自身のマンションの管理規約に別段の定めがない場合の一般的な解釈としてお考えください。必ず個別の管理規約を確認してください。

この記事では、宅地建物取引士として、マンションの給排水管における漏水トラブルに直面した方のために、以下の点を分かりやすく解説します。

  • 漏水責任の所在を決める「専有部分」と「共用部分」の法的な区分
  • 修繕費用と損害賠償の負担ルール
  • 実際に漏水が発生した際の具体的な対応フロー
  • よくあるケース別のQ&A

冷静な初期対応と適切な知識が、被害の拡大を防ぎ、円満な解決への第一歩となります。

目次

背景知識:漏水の責任は「専有部分」か「共用部分」かで決まる

マンションで漏水が発生した場合、その修繕や損害賠償の責任が誰にあるかは、漏水箇所が「専有部分」と「共用部分」のどちらに属するかで決まる傾向にあります。これは建物の区分所有等に関する法律(以下、区分所有法)と民法に基づく不動産トラブル解決の基本原則です。ただし、本記事に示すすべてのルールは、ご自身のマンションの管理規約に別段の定めがない場合の一般的な解釈です。必ずご自身の管理規約をご確認ください。

  • 専有部分からの漏水:原則として、その部屋の区分所有者の責任
  • 共用部分からの漏水:原則として、区分所有者全員で構成される管理組合の責任

この責任区分を正しく理解することが、すべての対応の出発点となります。

用語の整理:専有部分と共用部分の違いとは?

まず、言葉の定義を正確に理解しましょう。「専有部分」と「共用部分」は、単なる場所の違いだけでなく、法的な権利と義務の範囲を示す重要な概念です。

※以下の表は視覚支援のため、以下にテキストリスト形式で記述します。

  • 専有部分:定義=区分所有者が単独で所有し、排他的に利用できる部分。具体例=住戸の壁紙・床材・天井、キッチン、浴室、トイレ、住戸内の給排水管(横引き管)など
  • 共用部分:定義=区分所有者全員で共有し、共同で利用・維持管理する部分。具体例=廊下、階段、エレベーター、建物の躯体(柱・壁・床スラブ)、共用の給排水管(縦管)など
用語定義具体例
専有部分区分所有者が単独で所有し、排他的に利用できる部分。住戸の壁紙・床材・天井、キッチン、浴室、トイレ、住戸内の給排水管(横引き管)など
共用部分区分所有者全員で共有し、共同で利用・維持管理する部分。廊下、階段、エレベーター、建物の躯体(柱・壁・床スラブ)、共用の給排水管(縦管)など

※ 上記は標準的な定義であり、各マンションの管理規約で異なる定めがされている場合は、規約が優先されます。この区別を理解するメリットは、トラブル発生時に誰に報告し、誰が費用を負担するのかが明確になる点です。自分の部屋で起きたからといって、すべて自己責任とは限らないのです。

判断の拠り所①:マンション標準管理規約

では、給排水管のどこまでが専有部分で、どこからが共用部分なのでしょうか。その一つの基準となるのが、国土交通省が定める「マンション標準管理規約(単棟型)」です。多くのマンション管理規約は、これをモデルに作られています。

標準管理規約(2023年版)では、給排水管の共用部分の範囲を以下のように定めています(出典:国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」別表第2)。

  • 給水管:本管から各住戸の水道メーターを含む部分
  • 排水管:配管継手および排水縦管

つまり、水道メーターより先の蛇口までの配管や、各住戸から排水縦管に接続するまでの「横引き管(枝管)」は、原則として専有部分と解釈されます。

(記載例)マンション標準管理規約(単棟型)第7条第2項
前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。

ただし、これはあくまで標準的なモデルです。ご自身のマンションの管理規約で異なる定めがされている場合、そちらが最優先されます。

判断の拠り所②:建物の構造と重要な裁判例

管理規約に明確な定めがない場合や、解釈に争いがある場合は、建物の構造や過去の裁判例が判断基準となります。

特に有名なのが、最高裁判所第三小法廷 平成12年3月21日判決(事件番号:平成10(オ)956 建物共有部分確認等請求事件)です。この裁判では、マンションの2階の住戸の床下にある排水管(横引き管)から漏水した事案が争われました。

この判例が示した重要なポイントは以下の通りです。

  • ポイント:排水管が、上の階の床スラブ(コンクリートの床版)の下(つまり下の階の天井裏)に設置され、点検や修理が下の階からしかできない構造であった。
  • 結論:このような構造の排水管は、たとえ個別の住戸から排出される水を流すものであっても、専有部分とは言えず「共用部分」に該当すると判断された。

この判例から、単に「枝管だから専有部分」と機械的に判断するのではなく、その配管の設置場所や構造、管理のしやすさといった「構造上の独立性」や「機能上の独立性」が総合的に考慮されることがわかります。自分の部屋の床下に配管があっても、修理のために下の階の天井を剥がす必要があるような構造なら、それは共用部分と判断される可能性が高いのです。

規約の記載が曖昧な場合、または建物の構造が判例(最高裁平成12年3月21日判決)に該当するか不明な場合は、弁護士またはマンション管理士に解釈をご確認ください。

手続・対応ステップ:漏水発生!その時どうする?

実際に漏水を発見したら、パニックにならず、以下の手順で冷静に対応しましょう。初期対応の速さと正確さが、被害の拡大防止とスムーズな解決につながります。

Step1:応急処置と関係者への連絡

  1. 水の供給を止める:可能であれば、水道メーター横の止水栓を閉めてください。
  2. 被害状況の記録:スマートフォンなどで、漏水箇所、被害の範囲(濡れた壁、床、家財など)を写真や動画で撮影します。日時も記録しておきましょう。
  3. 関係者への連絡:速やかに以下の関係者に連絡します。
    • 管理会社または管理組合(理事会):重要な連絡先の一つです。休日や夜間でも対応可能な緊急連絡先を確認しておきましょう。
    • 階下の居住者:ご自身の部屋からの漏水が疑われる場合、階下にも被害が及んでいる可能性があります。お詫びとともに状況を伝え、被害の有無を確認させてもらいましょう。

Step2:専門業者による漏水箇所の調査・特定

次に、漏水の原因箇所を正確に特定するため、専門業者による調査が必要となります。この調査は管理組合主導で行われるのが一般的です。

調査によって、漏水が専有部分の給排水管からか、共用部分の縦管からか、あるいは外壁の亀裂のような別の原因からかを特定します。この原因特定が、後の責任区分を判断する上で最も重要な証拠となります。調査には複数の業者の意見を聞くことも有効ですが、管理会社の労力を考慮し、2〜3社から見積もりや見解を取るのが現実的でしょう。管理会社は現地調査や外注調整に労力を要するため、過度に多くの業者を依頼すると対応が難しくなる可能性があります。ただし、複数業者の見積や見解を取得する際も、調査結果の解釈(専有部分か共用部分か)の最終判断は、管理組合、管理会社、または弁護士・マンション管理士に相談の上、決定することを強く推奨します。

Step3:管理規約の確認

調査結果が出たら、ご自身のマンションの管理規約を取り出し、該当箇所が「専有部分」と「共用部分」のどちらに規定されているかを確認します。Step2の調査報告書と管理規約を照らし合わせることで、法的な責任の所在が明確になります。

Step4:責任主体との協議・修繕の実施

責任の所在が明確になったら、修繕の手配を進めます。

  • 専有部分が原因の場合:基本的にその区分所有者が費用を負担し、修繕業者を手配します。
  • 共用部分が原因の場合:管理組合が費用(修繕積立金など)を支出し、修繕を手配します。

保険会社との折衝、損害額算定等で意見の相違が生じた場合は、弁護士への相談をお勧めします。

Step5:保険の確認と損害賠償に関する交渉

漏水によって汚損してしまった壁紙や床、家財道具などの損害については、原因箇所の責任を負う者が賠償義務を負う傾向にあります。

損害賠償の法的根拠は2つあります:
(1) 民法717条(工作物責任):建物の設置・保存の瑕疵によって生じた損害に対する責任(過失不要)
(2) 民法709条(不法行為責任):故意または過失による権利侵害に対する責任(故意・過失の証明が必要)

例:お風呂の水を溢れさせた場合は709条、給排水管の老朽化による漏水は717条が適用されやすい傾向です。

  • 加害者側:区分所有者であれば「個人賠償責任保険」、管理組合であれば「施設賠償責任保険」など、加入している保険が使えるか確認します。
  • 被害者側:自身の火災保険に付帯する「水濡れ補償」が使える場合もあります。

保険会社や管理組合と連携し、損害額の見積もりを取り、交渉を進めていきます。

FAQ:マンション漏水のよくある質問

ここでは、漏水トラブルで特によくある質問にお答えします。

Q1. 賃貸で貸している/借りている部屋で漏水が起きたら?

責任関係が少し複雑になりますが、基本原則は同じです。

  • 貸している部屋が原因で階下に被害を与えた場合
    • 漏水原因が専有部分の設備(老朽化など)にあれば、原則として貸主(オーナー)が修繕義務を負います(民法第606条)。
    • ただし、民法717条に基づき、貸主が損害防止に必要な注意を講じたことを証明できた場合、責任が減免される可能性があります。
    • 一方、漏水原因が借主の故意・過失にある場合(水を溢れさせた等)は、借主が民法709条の不法行為責任を負う可能性があります。
  • 借りている部屋が上の階からの漏水で被害を受けた場合
    • 原因が上の階の専有部分にあれば上の階の区分所有者へ、共用部分にあれば管理組合へ損害賠償を請求することになります。この交渉は、まず貸主(オーナー)に相談して対応を協議するのが一般的です。

Q2. 漏水の原因が複数考えられる場合は?

例えば、「共用部分である縦管の亀裂」と「専有部分である枝管の接続不良」の両方が影響しているなど、原因が一つに特定できないケースもあります。このような場合は、当事者(原因となった箇所の区分所有者や管理組合)同士で、原因の寄与度に応じて修繕費用や損害賠償額を按分(分担)する方向で協議することになります。話し合いがまとまらない場合は、弁護士などの法律専門家に仲介や調停のご相談をされることをお勧めします。

Q3. 原因不明と言われたらどうなりますか?

調査しても原因箇所がどうしても特定できない場合があります。この場合、法律や裁判実務ではどのように扱われるのでしょうか。

民法717条の工作物責任に基づき、共用部分に瑕疵があったと事実上推定される傾向にあります。これは、マンション全体の維持管理責任を負う管理組合が、より重い立証責任を課されているためです。原因不明の場合は、管理組合の対応方針について、弁護士への相談の上で合意形成を図ることが円滑な解決につながります。

Q4. 管理組合が対応してくれない場合は?

共用部分からの漏水が疑われるにもかかわらず、管理組合(理事会や管理会社)が調査や修繕に動いてくれないケースもあります。その場合は、以下のステップで対応を求めましょう。

  1. 書面での要請:口頭だけでなく、内容証明郵便などを利用して、調査・修繕を正式に要請します。
  2. 総会での議題化:他の区分所有者にも働きかけ、総会の議題として取り上げることを要求します。
  3. 専門家への相談:それでも進展がない場合は、弁護士やマンション管理士といった専門家に相談し、法的な手続きを検討します。

実務ヒント:知っておくべき費用負担と予防策

トラブルを円満に解決し、将来の再発を防ぐためには、費用負担に関するより深い知識と、日頃からの備えが重要です。

修繕責任と損害賠償責任の違い

漏水トラブルでは、「修繕」と「損害賠償」という2種類の金銭負担が発生します。これらは根拠となる法律が異なり、責任の性質も違います。

※以下の表は視覚支援のため、以下にテキストリスト形式で記述します。

  • 内容:工作物責任(民法717条)=建物の設置・保存の欠陥(瑕疵)によって生じた損害の賠償責任。不法行為責任(民法709条)=故意(わざと)または過失(うっかり)によって他人の権利を侵害したことによる損害賠償責任。
  • 責任を負う人:工作物責任(民法717条)=①占有者(専有部分なら居住者、共用部分なら管理組合)②所有者。不法行為責任(民法709条)=故意・過失のある行為者。
  • 過失の要否:工作物責任(民法717条)=原則不要(無過失責任)。占有者は損害防止に必要な注意をしたことを証明すれば免責されるが、立証は困難。不法行為責任(民法709条)=必須。被害者が加害者の過失を証明する必要がある。
  • 適用場面の例:工作物責任(民法717条)=給排水管の老朽化による漏水。不法行為責任(民法709条)=お風呂の水を溢れさせる、洗濯機ホースの接続ミス。
工作物責任(民法717条)不法行為責任(民法709条)
内容建物の設置・保存の欠陥(瑕疵)によって生じた損害の賠償責任。故意(わざと)または過失(うっかり)によって他人の権利を侵害したことによる損害賠償責任。
責任を負う人①占有者(専有部分なら居住者、共用部分なら管理組合)
②所有者
故意・過失のある行為者
過失の要否原則不要(無過실責任)。
占有者は損害防止に必要な注意をしたことを証明すれば免責されるが、立証は困難。
必須。
被害者が加害者の過失を証明する必要がある。
適用場面の例給排水管の老朽化による漏水お風呂の水を溢れさせる、洗濯機ホースの接続ミス

簡単に言うと、設備の老朽化など「モノ」自体の欠陥が原因の場合は工作物責任が、「人の行為」が原因の場合は不法行為責任が問われると考えると分かりやすいでしょう。どちらの責任を追及するかによって、証明すべき内容が変わってきます。

トラブルを未然に防ぐ3つの備え

漏水は一度起きると甚大な被害につながりかねません。以下の3つの備えでリスクを最小限に抑えましょう。

  1. 管理規約と長期修繕計画の確認
    自分のマンションの給排水管の責任区分はどうなっているか、あらかじめ管理規約で確認しておきましょう。また、管理組合が作成する「長期修繕計画」で、計画的な配管の点検や更新が予定されているかチェックすることも重要です。
  2. 保険への加入
    万が一、加害者になってしまった場合に備え、個人賠償責任保険への加入を推奨します。これは火災保険や自動車保険の特約として付帯できることが多く、比較的安価な保険料で高額な賠償に備えられます。管理組合も、共用部分のリスクに備え施設賠償責任保険に加入しているか確認しましょう。
  3. 定期的な点検と配管更新の検討
    専有部分内の給水管・給湯管は、築年数が経過すれば劣化します。素材・環境により異なりますが、一般的には築20~30年経過で点検を推奨します。大規模修繕工事のタイミングに合わせた配管更新(リニューアル)を検討することが、予防策として有効です。

まとめ:漏水トラブルは「区分」の理解と「初動」がカギ

マンションの給排水管からの漏水は、誰にとっても起こりうる深刻なトラブルです。しかし、その責任の所在は、法的な根拠に基づいて判断できる傾向にあります。

本記事の重要なポイントをまとめます。

  • 漏水の責任は、原因箇所が「専有部分」か「共用部分」かの区分で決まる。
  • その区分は、まず個別の管理規約で確認し、定めがなければ標準管理規約建物の構造裁判例を基に判断する。
  • 原則として、専有部分の漏水は区分所有者、共用部分の漏水は管理組合が責任を負う。
  • 実際に漏水が発生したら、応急処置、記録、関係者への連絡という冷静な初期対応が重要。
  • 原因不明の場合は、民法717条の工作物責任に基づき共用部分の瑕疵が事実上推定され、管理組合が責任を負う可能性が高い。
  • 個人賠償責任保険」への加入と、計画的な配管の点検・更新が有効な予防策である。

突然の漏水に慌てず、この記事で得た知識を基に行動することで、被害を最小限に食い止め、円滑な解決を目指すことができます。

免責事項

本記事は、マンションの漏水トラブルに関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別の事案に対する法的な助言や見解を示すものではありません。

法律やマンション標準管理規約は改正される可能性があります。また、個別のマンションの管理規約の内容や、具体的な事案の状況によって、本記事の記載とは異なる結論に至る場合があります。

具体的なトラブルの解決にあたっては、必ず弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談いただくとともに、最新の法令やご自身のマンションの管理規約をご確認ください。


参考資料

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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