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20戸以下の小規模マンションの理事に就任された方の中には「管理費が高いのに、サービスが見合っていない…」と感じている方も多いのではないでしょうか。小規模マンションは、管理費が割高になりがちな一方で、対応してくれる管理会社の選択肢が限られるという構造的な課題を抱えています。しかし、適切な手順と基準で選定すれば、マンションの資産価値を守り、住民の満足度を高める「おすすめ」のパートナーを見つけることは可能です。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、20戸以下の小規模マンションに特化した管理会社の選び方を徹底解説します。国土交通省の公的データや法令に基づき、現状分析から契約締結までの具体的なステップ、優良な会社を見抜くための5つの基準、そして管理委託費を適正化するポイントまでを網羅。この記事を読めば、あなたのマンションに最適な管理会社を見つけるための、確かな道筋が見えてくるはずです。
はじめに:20戸以下のマンション管理はなぜ難しいのか?
小規模マンションの管理には、大規模マンションとは異なる特有の難しさがあります。まずは、多くの理事の方が直面する3つの課題を整理しましょう。
課題1:管理費が割高になりやすい構造
小規模マンションでは、管理会社の業務(事務、会計、点検手配など)にかかる人件費やシステム料といった固定コストを、少ない戸数で分担しなければなりません。そのため、一戸あたりの管理委託費が大規模マンションに比べて割高になる傾向があります。管理会社によっては、採算ラインを確保するために「最低保証料金」を設定しているケースも少なくありません。小規模マンションでは、管理会社の採算性が良くても、委託料の絶対額が少ないため、100世帯未満の物件では管理委託費が規模の大きいマンションより構造的に割高になる傾向があります。(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)
課題2:対応してくれる管理会社が見つかりにくい
すべての管理会社が小規模マンションの管理を積極的に引き受けてくれるわけではありません。大手管理会社の中には、効率を重視して一定規模以上のマンションにターゲットを絞っているところもあります。そのため、そもそも選択肢が限られてしまい、比較検討が難しいという現実があります。
課題3:独自のノウハウが必要(役員のなり手不足など)
20戸以下のマンションでは、住民同士の顔が見えやすい反面、役員のなり手不足や、合意形成の難しさといったコミュニティ特有の課題も発生しがちです。こうしたソフト面の問題に対し、画一的なサービスしか提供できない管理会社では対応が困難です。小規模コミュニティの運営に理解と実績があるパートナーが求められます。
【背景知識】管理委託費の相場と委託の仕組み
管理会社を選ぶ前に、まずは費用に関する基本的な知識と、自分たちのマンションの立ち位置を客観的に把握することが重要です。
用語の整理:「管理費」と「管理委託費」の違い
まず、混同されがちな2つの費用について整理します。
- 管理費:区分所有者(住民)が、共用部分の日常的な維持管理のために管理組合に支払う費用です。廊下の電気代や清掃費、保険料などが含まれます。
- 管理委託費:管理組合が、管理業務を委託した管理会社に支払う報酬です。これは、集められた「管理費」の中から支出されます。
つまり、管理会社の見直しによって直接的に変動するのは「管理委託費」です。この費用を適正化することが、結果的に「管理費」の負担軽減につながります。
国土交通省データに見る20戸以下の管理委託費相場
国土交通省の調査によると、管理組合が管理会社へ支払う管理委託費の全体平均は、1戸あたり月額10,838円です。しかし、規模別にみると大きな差があります。
| マンションの総戸数 | 管理委託費(月額/戸あたり) |
|---|---|
| 20戸以下 | 割高傾向 |
| 21~30戸 | 全国平均近辺 |
| 51~75戸 | 全国平均を下回る傾向 |
| 全体平均 | 10,838円 |
表の通り、20戸以下のマンションの管理委託費は全体平均より割高になる傾向が確認されます。このデータは、自分たちのマンションの管理委託費が高いのか安いのかを判断する一つの客観的な目安となります。具体的数値は管理組合の立地・サービス内容により大幅に変動するため、同規模の近隣マンション複数社との相見積もりによる検証が必須です。なお、マンション管理適正化法(平成12年法律第149号)は5戸以上の分譲マンションに適用されます。20戸以下のマンションであっても本法の適用対象ですが、令和4年改正で導入された『管理計画認定制度』の対象は100戸以上(または年平均修繕費200万円以上)ののみとなります。なお、将来的にはより小規模なマンションへの適用拡大も検討されています。
小規模マンション向け管理会社選びの全7ステップ【実践フロー】
やみくもに管理会社を探し始めるのは非効率です。以下の7つのステップに沿って、計画的に進めましょう。
Step 1:現状の管理状況と課題を整理する
まずは、現在の管理委託契約書と重要事項説明書、総会の議案書・決算報告書を確認します。
- 現在の管理委託費はいくらか?(事務管理費、管理員人件費、清掃費など内訳も確認)
- どのようなサービスが含まれているか?(管理員の勤務時間、清掃頻度、点検内容など)
- 組合員からどのような不満や要望が出ているか?
これらの情報を理事会で共有し、「なぜ管理会社を変更したいのか」という目的を明確にします。
Step 2:候補となる管理会社を2〜3社に絞り込む
次の章で解説する「5つの基準」を参考に、候補となる会社を2〜3社に絞り込みます。インターネット検索や、近隣の同様のマンションがどの会社に委託しているかを参考にするのも良いでしょう。むやみに多くの会社に声をかけるのは避けるべきです(理由は後述します)。 複数の見積もり(相見積もり)は必要ですが、2〜3社に限定することが業界実務では推奨されます。理由は、管理会社が正確な見積もりを作成するには現地調査・外注先打ち合わせに相当な労力を要すため、競争相手が多いと判断された場合、本気の提案が出にくくなるためです。逆に1社のみでは比較検討ができません。
Step 3:具体的な要望を伝え、項目別の見積もりを依頼する
候補の会社には、Step1で整理した課題や要望を具体的に伝え、見積もりを依頼します。この時、必ず「項目別見積もり」を依頼してください。組合側の要望が強すぎると、管理会社から敬遠される恐れがあるため、実現可能な範囲で具体的に伝えることが重要です。
| (記載例)見積もり依頼時の要望例 ・事務管理業務費 ・管理員業務費(勤務形態:週〇日、〇時間) ・清掃業務費(日常清掃:週〇回、定期清掃:年〇回) ・建物・設備管理業務費(消防設備点検、エレベーター点検など) |
「一式」の見積もりでは、何にいくらかかっているのか不明瞭で、適正な比較ができません。表が表示されない場合の代替: ・事務管理業務費 ・管理員業務費(勤務形態:週〇日、〇時間) ・清掃業務費(日常清掃:週〇回、定期清掃:年〇回) ・建物・設備管理業務費(消防設備点検、エレベーター点検など)。
Step 4:理事会で提案内容と見積もりを比較・検討する
各社から提出された見積書と提案書を基に、理事会で比較検討します。金額だけでなく、担当者の対応や課題解決のための提案内容を多角的に評価することが重要です。必要であれば、各社の担当者を理事会に招いてプレゼンテーションを受けましょう。
Step 5:候補を1社に絞り、総会で承認を得る
理事会として新管理会社の候補を1社に絞り込み、臨時総会または通常総会に「管理委託契約の締結に関する件」として議案を上程します。 管理委託契約の変更は、区分所有法第39条により管理組合の集会決議(区分所有者および議決権の各過半数による普通決議)で決定することができます。ただし、管理規約に別段の定めがある場合、または特別多数決を要する定めがある場合は、その規定が優先されます。(出典:建物の区分所有等に関する法律 第39条、第47条)。法令改正は令和3年(2021年)で共用部分の変更決議要件が厳格化されていますが、本件は普通決議が原則です。区分所有法第45条に基づき、分譲マンションには管理組合が設置されるのが原則です。ただし、全区分所有者の合意により管理組合を設置しない選択は理論上可能です。実務上はほぼ全例で管理組合が存在します。
Step 6:【重要】契約書の内容を専門家と確認する
総会で承認が得られたら、契約締結に進みます。国土交通省が定める「標準管理委託契約書」の最新版(令和6年版)に基づき作成されるのが一般的ですが、独自の特約が付加されている場合もあります。契約書の内容に不利な条項がないか、弁護士やマンション管理士などの専門家に最終確認を依頼することを強く推奨します。
Step 7:契約を締結し、引き継ぎを行う
契約内容に問題がなければ、正式に契約を締結します。その後は、旧管理会社と新管理会社の間で、管理組合の会計資料や鍵、各種書類の引き継ぎが行われます。組合としても、引き継ぎがスムーズに進むよう協力しましょう。
【最重要】おすすめの管理会社を見抜く5つの基準
数ある管理会社の中から、自らのマンションにとって「おすすめ」のパートナーを見抜くための5つの基準を紹介します。
基準1:同規模(30戸未満)の管理実績が豊富か
最も重要な基準です。前述の通り、小規模マンションには特有の課題があります。30戸未満のマンションの管理実績が豊富な会社は、それらの課題に対する解決ノウハウや成功事例を蓄積している可能性が高いです。ホームページで実績を確認したり、見積もり依頼時に直接質問したりしましょう。
基準2:マンションからの距離が近いか(物理的な近さ)
管理会社の支店や営業所がマンションから近いことも、見過ごせないポイントです。物理的な距離が近ければ、トラブル発生時に迅速な対応が期待できます。また、担当者が巡回しやすいため、マンションの状況をきめ細かく把握してもらいやすくなります。
基準3:担当者の対応力と資格(管理業務主任者など)
管理の質は、最終的に「担当者」の質に大きく左右されます。
- 質問に対する回答が的確でスピーディか
- 管理組合の立場に立った提案をしてくれるか
- 管理業務主任者などの国家資格を保有しているか
見積もり段階でのやり取りや、理事会でのプレゼンテーションを通じて、信頼できる人物かを見極めましょう。
【宅建士のチェックポイント】
管理業務主任者は、マンション管理の専門家として、管理委託契約に関する重要事項の説明や契約書への記名押印を行う国家資格者です。担当者がこの資格を持っていることは、一定の専門知識を有する証となります。
基準4:見積もりの内訳が具体的で透明性が高いか
「一式〜円」といった大雑把な見積もりを出す会社は要注意です。「事務管理業務費」「清掃業務費」「エレベーター保守点検費」といった具合に、業務内容ごとに費用が細かく記載されているかを確認しましょう。内訳が具体的であれば、将来的に清掃の頻度を見直すなど、サービス内容を柔軟に調整しやすくなります。
基準5:大規模修繕工事に対する考え方や実績
マンションの資産価値を長期的に維持するためには、10〜15年に一度行われる大規模修繕工事が極めて重要です。管理会社を選ぶ際には、大規模修繕工事に対してどのようなスタンスかを確認しましょう。
- コンサルタントとして修繕計画の立案や施工会社の選定をサポートしてくれるのか
- 関連会社の工事を推奨するだけなのか
長期的な視点で組合の利益を考えてくれる会社を選びましょう。近年では、マンションの建替え等の円滑化に関する法律(建替え円滑化法)が改正されるなど、建物の老朽化対策の重要性が法制度上も高まっています。
信頼性の確認方法
候補の管理会社が、国土交通省の「マンション管理業者登録簿」に登録されているかを確認しましょう。これは法令に基づく基本的な要件です。国土交通省の検索システムで誰でも閲覧できます。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/
注意!管理会社選びでやってはいけない3つのNG行動
良かれと思って取った行動が、かえって良い管理会社との出会いを遠ざけてしまうことがあります。ここでは、特に注意したい3つのNG行動を解説します。
NG①:やみくもに多数の会社へ相見積もりを依頼する
「たくさんの会社を比較したい」という気持ちは分かりますが、5社も6社も相見積もりを依頼するのは得策ではありません。なぜなら、管理会社にとって、一件の見積もり作成には相当な労力がかかるからです。
管理会社は、正確な見積もりを出すために、現地調査を複数回行い、清掃や各種点検について外注先と打ち合わせを重ねます。小規模マンションの場合、多数の競合がいると分かると「労力をかけても受注できる可能性が低い」と判断され、本気の提案が出てこないどころか、見積もりの提出自体を断られる可能性すらあります。特に20戸以下の小規模マンションでは、管理会社が積極的に管理を取得しようとしないケースが多く、組合側の要望が過度に強いとさらに敬遠されやすいです。真剣に検討する2〜3社に絞って、丁寧なコミュニケーションを取ることが、結果的に良い提案を引き出すコツです。
NG②:「安さ」や「会社の規模」だけで判断する
管理委託費は安い方が良いに越したことはありませんが、「安かろう悪かろう」では本末転倒です。極端に安い見積もりは、必要なサービスが削られていたり、管理員の質が低かったりするリスクがあります。 同様に、「大手だから安心」というのも早計です。大事なのは、会社の規模ではなく、自分のマンションの規模や特性に合ったサービスを提供してくれるかどうかです。
NG③:「一式見積もり」を鵜呑みにする
前述の通り、「一式見積もり」は絶対に避けなければなりません。費用の内訳が不透明なだけでなく、管理会社側の都合で価格が設定されている可能性があります。なぜその金額になるのか、根拠を説明できない会社はパートナーとして信頼できません。必ず項目別の見積もりを求め、納得できるまで説明を受けましょう。
よくある質問 Q&A
最後に、小規模マンションの管理会社選びに関してよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 自主管理という選択肢はないの?
A1. 選択肢としてはあり得ます。国土交通省の調査では、20戸以下のマンションの21.0%が自主管理を行っています(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)。管理会社に支払う委託費を削減できるメリットがありますが、会計業務、各種点検の手配、トラブル対応、滞納金の督促など、全ての業務を理事会が担うことになります。役員の負担が非常に大きくなるため、専門知識を持つ人材が豊富で、組合員の協力体制が整っている場合を除き、慎重な検討が必要です。自主管理のリスク(老朽化加速)を考慮し、小規模マンションでは推奨しません。
Q2. 管理会社変更はどのくらいの期間がかかる?
A2. 一般的に、準備開始から新しい管理会社との契約・引き継ぎ完了まで、半年から1年程度かかることが多いです。理事会での検討、候補先の選定、見積もり取得、総会開催(招集通知に一定期間が必要)など、多くのステップを踏むため、余裕を持ったスケジュールで進めることが大切です。
Q3. 契約書で特に注意すべき点は?
A3. 国土交通省の「標準管理委託契約書」の最新版(令和6年版)と大きく異なる点がないかを確認することが基本です。特に注意したいのは以下の点です。
- 契約期間と解約の条件:中途解約の申し入れ期間(通常は3ヶ月前まで)や、解約時の違約金の有無。現契約条項が最優先です。
- 業務の範囲:どこまでが管理委託費に含まれ、どこからが別途費用になるのか。
- 免責事項:管理会社の責任が不当に免除されていないか。
繰り返しになりますが、契約前の段階で弁護士やマンション管理士などの専門家にリーガルチェックを依頼することを強くお勧めします。
まとめ:小規模マンションの資産価値を守るパートナー選び
20戸以下の小規模マンションにおける管理会社選びは、単なるコスト削減の問題ではありません。マンションという大切な資産の価値を長期的に維持し、住民が快適に暮らせる環境を作るための、重要なパートナー選びです。
この記事で解説したポイントを再確認しましょう。
- 現状把握から始める:まずは自分たちのマンションの課題を明確にする。
- 基準を持って選ぶ:同規模の実績、物理的な距離、担当者の対応力などを総合的に判断する。
- 賢く比較する:相見積もりは2〜3社に絞り、「項目別見積もり」で透明性を確保する。
- 手順を遵守する:理事会での合意形成、総会決議、専門家による契約書チェックというプロセスを丁寧に進める。
現在の管理に不満を感じている理事の方は、この記事を参考に、ぜひ第一歩を踏み出してみてください。適切なパートナーと出会うことで、マンションの管理は大きく改善されるはずです。
免責事項
本記事は、2025年11月時点の法令や情報に基づき、一般的な情報提供を目的として作成されたものです。個別のマンションに関する具体的な法律判断、契約内容の妥当性評価、その他専門的な助言を行うものではありません。 管理会社の選定、契約の締結、管理規約の解釈など、個別の事案については、必ず弁護士やマンション管理士等の専門家にご相談ください。また、最新の法令改正や、個別の管理規約・契約条項が本記事の内容に優先します。
参考資料
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001842450.pdf - 国土交通省「マンション標準管理規約」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000057.html - 国土交通省「マンション管理計画認定制度について」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000072.html - 国土交通省「マンション標準管理委託契約書」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000059.html - デジタル庁 e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069#1077 - デジタル庁 e-Gov法令検索「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC1000000149 - 国土交通省「マンション管理業者登録簿」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

