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マンション管理組合の理事の成り手不足を解消する3つのステップ
本記事は2025年11月時点の最新情報に基づきます。マンション管理組合の運営に不可欠な理事。しかし、その「理事の成り手不足」が全国のマンションで深刻な問題となっています。多忙、責任の重さ、専門知識への不安から、誰もが立候補に二の足を踏んでしまうのが実情ではないでしょうか。このまま理事が見つからなければ、管理が停滞し、大切な資産であるマンションの価値が下落するリスクさえあります。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、管理組合の理事の成り手不足を解消するための具体的な方法を3つのステップで解説します。日々の負担を軽くする簡単な工夫から、規約改正による制度改革、さらには外部専門家への委託という抜本的な解決策まで、ご自身のマンションの状況に合わせて実践できるヒントを提供します。成り手不足は、決して他人事ではありません。この記事を参考に、持続可能な管理組合運営への第一歩を踏み出しましょう。
もはや他人事ではない!マンション理事の成り手不足がもたらす深刻な未来
「うちのマンションは大丈夫」と思っていても、理事の成り手不足は多くの管理組合が直面する共通の課題です。問題を放置すると、マンションの管理品質や資産価値に直接的な影響を及ぼす可能性があります。
管理が停滞し、資産価値が下落するリスク
理事会が機能不全に陥ると、以下のような問題が発生します。
- 大規模修繕計画の遅延: 本来12年〜15年周期で実施すべき大規模修繕積立金の計画的な見直しや、業者選定が進まなくなります。建物の劣化が進み、将来的に高額な一時金が必要になる可能性があります。
- 日常管理の質の低下: 清掃、植栽の手入れ、共用部分の電球交換といった日常的な管理が行き届かなくなり、住環境が悪化します。
- 管理費等の滞納への対応遅れ: 滞納者への督促が遅れ、組合の財政が悪化。真面目に支払っている他の組合員への負担が増加します。
これらの問題は、結果として「管理が悪いマンション」という印象を与え、売却時の価格査定や入居希望者の減少につながり、資産価値の下落を招きます。
国土交通省の調査でも明らかになる「担い手不足」の実態
この問題は個別のマンションだけの話ではありません。国土交通省が実施しているマンション総合調査においても、理事のなり手不足は多くの管理組合が抱える主要な課題として報告されており、その深刻さがうかがえます。最新の調査結果については国土交通省の公式サイトをご確認ください。
理事の成り手不足は、もはや一部のマンションの問題ではなく、日本のマンション全体が抱える構造的な課題なのです。
なぜ理事のなり手がいないのか?考えられる3つの根本原因
成り手不足を解消するためには、まずその原因を正しく理解することが重要です。多くのマンションで共通してみられる、3つの根本的な原因を解説します。
原因1:業務の多さや責任に対する「時間的・精神的負担」
理事の仕事は、理事会への出席だけでなく、総会の準備、議事録作成、修繕業者との折衝、住民トラブルの対応など多岐にわたります。特に理事長は、管理組合を代表する立場として、その責任も重くなります。
「仕事や育児で忙しく、これ以上時間を割けない」「休日に開催される理事会に出席するのが負担」といった時間的な制約や、万が一の事態に対する精神的なプレッシャーが、立候補をためらわせる最大の要因となっています。
原因2:専門知識への不安と「自分には無理」という思い込み
マンション管理には、建築、法律、会計といった専門的な知識が求められる場面が少なくありません。
「区分所有法や管理規約なんて読んだこともない」「大規模修繕の技術的なことは全くわからない」といった専門知識への不安から、「自分には理事の役割は務まらない」と思い込んでしまうケースが多く見られます。しかし、実際には理事の仕事の多くは、管理会社や各種専門家のサポートを受けながら進めることができます。
原因3:住民の無関心と「誰かがやってくれるだろう」という意識
3つ目の原因は、理事以外の住民の「無関心」です。「管理のことは理事会や管理会社に任せておけばいい」「自分がやらなくても、誰かがやってくれるだろう」という他人任せの意識が蔓延すると、理事の孤立感は深まります。
総会の出席率が低かったり、アンケートへの回答が少なかったりすると、理事は「自分たちだけが頑張っている」と感じ、モチベーションが低下してしまいます。成り手不足は、役員だけの問題ではなく、マンション全体で取り組むべき課題であるという意識の共有が不可欠です。
【ステップ1:今すぐ始められる】理事の負担を劇的に軽くする3つの工夫
規約改正のような大きな手続きを踏まなくても、現役員の工夫次第で理事の負担は大きく軽減できます。まずは、誰でもすぐに始められる3つの実践的なアイデアをご紹介します。
業務を細分化・マニュアル化して「誰でもできる」仕組みを作る
理事の業務を「一人一役」の考え方で細かく分担し、役割を明確にしましょう。例えば、理事長や会計担当といった役職だけでなく、「広報担当(掲示物・お知らせ作成)」「美化担当(清掃状況チェック)」「防災担当」などの役割を設けます。
さらに、それぞれの業務内容や手順を簡単なマニュアルとして文書化しておけば、次に担当する人がスムーズに業務を引き継げ、「自分にもできそうだ」と感じるきっかけになります。 これにより、特定の理事に業務が集中するのを防ぎ、心理的なハードルを下げることができます。
WEB会議やITツールを導入し、時間と場所の制約をなくす
「理事会のために休日を潰したくない」という声は非常に多いです。そこで、WEB会議システム(Zoom、Google Meetなど)を導入し、自宅からでも理事会に参加できるようにする工夫が有効です。移動時間が不要になるため、多忙な現役世代も参加しやすくなります。
また、理事間の情報共有にチャットツール(LINE WORKS, Slackなど)やクラウドストレージ(Google Drive, Dropboxなど)を活用すれば、いつでもどこでも議事録や資料を確認でき、スピーディーな意思決定が可能になります。 ITツールの導入は、管理組合運営の効率を飛躍的に向上させます。
管理会社との連携強化と業務委託範囲の見直し
管理組合の最も身近なパートナーは管理会社です。管理会社にどこまでの業務を委託しているか、管理委託契約書を再確認してみましょう。
会計業務や未収金の督促、総会議案書の素案作成など、専門性が高く手間のかかる業務を管理会社に委託することで、理事の負担を大幅に削減できます。
【宅建士のチェックポイント】管理会社の見積もり依頼の注意点
管理委託費の見直しや管理会社の変更を検討する際、複数の会社から見積もりを取ることは重要です。しかし、やみくもに5社、6社と相見積もりを依頼することは避けるべきです。見積もりの作成には、現地調査や協力会社との調整など、管理会社側に大きな労力がかかります。特に小〜中規模のマンションの場合、過度な相見積もりは敬遠され、かえって良い提案を受けられなくなる可能性があります。現実的な線として、2〜3社に絞って丁寧に要望を伝え、比較検討することをお勧めします。また、見積もりは「一式」ではなく、具体的な業務項目ごとに内訳を明示してもらうことが、適正な費用を判断する上で不可欠です。管理会社側は、管理委託内容の精査および会計状況、1棟全体の管理費等の見積もり作成をするには3〜4回ほど現地に足を運び、清掃会社、EV点検、消防、警備など多岐にわたって外注先会社との打ち合わせを行ったうえで理事会数名との面談も数回こなすため、労力が大きい点に留意してください。
【ステップ2:規約を見直す】立候補のハードルを下げる4つの制度改善
日々の工夫と合わせて、管理組合のルールである「管理規約」を見直すことで、より根本的な成り手不足対策が可能になります。規約改正には総会での決議が必要ですが、長期的な視点で非常に有効です。
国土交通省『マンション標準管理規約』を参考に役員の資格要件を緩和する
多くの管理組合の規約は、国土交通省が公表している『マンション標準管理規約』を参考に作られています。この標準管理規約は、社会情勢の変化に合わせて改正されており、成り手不足対策のヒントが詰まっています。現在の最新版は令和3年(2021年)6月改正版です。
【用語解説:マンション標準管理規約とは】
国土交通省が作成した、管理組合の規約の「ひな形」です。法的な強制力はありませんが、多くのマンションで規約を作成・変更する際のモデルとして広く利用されています。
特に注目すべきは、役員の資格要件です。かつての標準管理規約では、役員は「マンションに現に居住する組合員」に限定されていましたが、現行の規約ではこの「現に居住する」という要件が削除されています(出典:マンション標準管理規約(単棟型)第35条第2項)。
これにより、賃貸に出しているなど、そのマンションに住んでいない「不在区分所有者」も理事に就任できるようになりました。ご自身のマンションの規約が古いままなら、この改正に合わせて役員のなり手を広げることができます。
理事の定数を見直し、役員構成をスリム化する
マンションの規模に対して、理事の定数が過剰になっているケースがあります。例えば、「理事7名以上」といった規定があると、小規模なマンションでは輪番制の周期が短くなり、一人あたりの負担感が増してしまいます。
マンションの戸数や実情に合わせて、理事の定数を「〇名以上〇名以内」のように幅を持たせたり、最低人数を引き下げたりすることで、役員選出のハードルを下げることができます。ただし、業務が滞らないよう、最低限必要な人数(理事長、会計担当、監事など)は確保する必要があります。
公平性を担保したインセンティブ(謝礼等)を導入する
ボランティア精神だけでは限界がある場合、理事の労力に報いるためのインセンティブ(役員報酬や活動協力費など)を導入することも有効な手段です。
金額は、業務内容や拘束時間、マンションの財政状況を考慮して、総会で組合員の合意を得て決定します。報酬を支払うことで、理事の責任感が明確になり、運営の質が向上する効果も期待できます。役員報酬の導入にあたっては、税務上の取り扱いについて事前に税理士などの専門家にご相談ください。
(記載例)
第〇条(役員の報酬)
役員に対し、その在任期間及び担当業務に応じ、総会の決議を経て、役員活動協力費を支払うことができる。(管理規約別紙または第〇条を参考に総会決議)
【監修者注】役員報酬の導入にあたっては、税務上の取り扱いについて事前に税理士などの専門家にご相談ください。
輪番制のメリット・デメリットと、運用の工夫
多くのマンションで採用されている「輪番制」は、全組合員で公平に役員の負担を分かち合う仕組みですが、意欲や適性に関わらず順番が回ってくるため、運営が形式的になりがちというデメリットもあります。
輪番制を維持しつつ、「立候補者を優先し、不足分を輪番で補充する」「役員の半数を再任可能とし、業務の継続性を確保する」といった柔軟な運用を取り入れることで、意欲のある人が活躍しやすく、かつ運営の安定化を図ることができます。
【ステップ3:抜本的な解決策】外部専門家へ委託する「第三者管理方式」とは
あらゆる手を尽くしても理事の成り手が見つからない場合、最終手段として、管理組合の運営そのものを外部の専門家に委託する方法があります。これを「第三者管理方式」または「管理者方式」と呼びます。
理事会を置かない「管理者方式」「第三者管理方式」の仕組みと違い
まず、一般的な「理事会方式」と、外部委託に用いる「管理者方式」の違いを理解しましょう。管理者選任の根拠法:建物の区分所有等に関する法律第28条 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC1000000069。
- 理事会方式: 組合員の中から選ばれた複数の理事で「理事会」を構成し、管理組合の業務を執行する最も一般的な形態。
- 管理者方式: 理事会を設置せず、区分所有法上の「管理者」を1名選任し、その管理者が業務を執行する形態。
- 第三者管理方式: 上記の「管理者方式」のうち、管理者を組合員以外の外部専門家(マンション管理士など)に委託する形態を指します。
つまり、第三者管理方式は、組合員の誰もが理事になる必要がなくなる抜本的な解決策です。
| 運営方式 | 運営主体 | 組合員の負担 | 専門性 | コスト |
|---|---|---|---|---|
| 理事会方式(従来型) | 理事会(組合員) | 大きい(役員就任義務あり) | 組合員次第 | 低い |
| 第三者管理方式 | 外部専門家(管理者) | ほぼゼロ | 専門性 | 高い(委託費用) |
メリット:組合員の負担ゼロ、専門性による運営品質向上
第三者管理方式の最大のメリットは、役員選出の悩みから完全に解放されることです。組合員の時間的・精神的負担は実質的になくなります。
また、マンション管理士などの専門家が管理者となるため、法改正への対応や大規模修繕計画の策定、業者選定などを高い専門性をもって適正に進めることができ、管理品質の維持・向上が期待できます。
デメリット:コスト増と合意形成のハードル
一方で、デメリットも存在します。最大のものはコストです。外部専門家への委託費用が新たに発生するため、管理費の値上げが必要になるのが一般的です。
そして、導入へのハードルが非常に高い点も挙げられます。第三者管理方式を導入するには、管理規約の変更が必要です。これには、区分所有法で定められた「特別決議」が必要となります。ただし、管理規約で別途定めがある場合はそちらが優先されます。
【用語解説:特別決議と普通決議】
- 普通決議: 役員の選任など、通常の議案を決める決議。原則として、総会に出席した組合員の議決権の過半数で可決されます。ただし、管理規約で別途定めがある場合はそちらが優先されます。
- 特別決議: 規約の変更など、管理組合の特に重要な事項を決めるための決議。原則として「組合員総数及び議決権総数の各4分の3以上」という、非常に厳しい賛成多数が求められます(出典:建物の区分所有等に関する法律 第三十一条)。ただし、本マンションの管理規約において特別決議の要件が異なる場合は、規約の定めが最優先されます。改正前に必ず現行規約を確認し、管理組合の理事会や法律専門家にご相談ください。
導入を検討する際の進め方と注意点
第三者管理方式の導入を検討する場合は、以下のステップで慎重に進める必要があります。
- 組合員へのアンケート・説明会の実施: まずは現状の課題と、第三者管理方式のメリット・デメリットを全組合員で共有し、理解を深めます。
- 専門家への相談: マンション管理士などに相談し、自分のマンションに適した規約案の作成や、委託費用の見積もりを取得します。
- 総会での特別決議: 十分な説明と質疑応答を経て、規約改正案を総会に上程し、特別決議を目指します。
組合員の意見を無視して拙速に進めると、合意形成に失敗する可能性が高まります。時間をかけて丁寧にプロセスを踏むことが成功の鍵です。
FAQ(よくある質問)
Q. 理事の報酬に税金はかかりますか?
A. 具体的な税務上の取り扱いについては、管理組合の個別事情により異なるため、必ず税理士や税務署にご相談ください。
Q. 規約改正はどうやって進めればいいですか?
A. 一般的には、①理事会で改正案を作成 → ②総会開催を通知し、改正案を全組合員に配布 → ③総会で議案を説明し、質疑応答 → ④特別決議(組合員総数および議決権総数の各4分の3以上の賛成)で可決、という流れで進めます。ただし、本マンションの管理規約において特別決議の要件が異なる場合は、規約の定めが最優先されます。改正前に必ず現行規約を確認し、管理組合の理事会や法律専門家にご相談ください。改正案の作成にあたっては、マンション管理士などの専門家に相談するとスムーズです。
Q. 輪番制で役員になるのを拒否できますか?
A. 管理規約に輪番制が定められている場合、その対応は当該マンションの規約および管理組合内での慣行に左右されます。必ず現行規約を確認し、理事会や管理会社に相談してください。法的な可否については、弁護士などの法律専門家への相談をお勧めします。
まとめ:成り手不足解消は、小さな工夫と住民の合意形成から
マンション管理組合の理事の成り手不足は、放置すれば資産価値にも影響する深刻な問題です。しかし、解決策は一つではありません。
この記事で解説した3つのステップを参考に、まずはご自身のマンションで何から始められるかを考えてみましょう。
- 【ステップ1:負担軽減】: 業務のマニュアル化やITツール導入など、今すぐできる工夫で「誰でもできそう」な環境を作る。
- 【ステップ2:制度改善】: 規約を見直し、役員の資格要件緩和やインセンティブ導入で「やりたい」と思える仕組みを作る。
- 【ステップ3:外部委託】: どうしても担い手が見つからない場合の最終手段として、専門家への委託(第三者管理方式)を検討する。
最も重要なのは、この問題を一部の役員だけの課題とせず、全住民が「自分ごと」として捉え、合意形成を図っていくことです。現状分析から始め、小さな改善を積み重ねていくことが、持続可能なマンション管理への確実な一歩となります。
免責事項
本記事は、マンション管理組合の運営に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の管理組合に対する法的な助言やコンサルティングを行うものではありません。
管理規約の改正や役員報酬の導入、第三者管理方式への移行など、具体的な検討を進める際には、必ず弁護士やマンション管理士、税理士などの専門家にご相談ください。
また、本記事で引用している法令や省庁のガイドラインは、記事作成時点のものです。最新の法改正や、個別の管理規約の内容が最優先される点にご留意ください。
参考資料
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和3年6月22日改正)
- https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001594916.pdf
- デジタル庁 e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」
- https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC1000000069
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

