マンション建替え決議の全体像 〜検討開始から成立、そしてその後の現実〜

※本コラムの内容は、当社が独自に調査・収集した情報に基づいて作成しています。無断での転載・引用・複製はご遠慮ください。内容のご利用をご希望の場合は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。

目次

建替え検討の契機

マンションの建替えは、理事会や住民の思いつきで始まるものではありません。必ず建物の老朽化や資産価値の低下といった客観的要因が存在します。

(1) 老朽化・耐震問題

築40年以上のマンションは、新耐震基準(昭和56年改正建築基準法)に適合していないケースが多く、地震リスクが顕在化しています。耐震診断で「倒壊の危険性が高い」と判定されれば、修繕では限界があるため建替えの議論が加速します。

(2) 設備の老朽化

エレベーター、給排水管、電気設備などは耐用年数が25〜35年程度です。築40年を超えると同時多発的に更新時期を迎え、大規模修繕費が膨れ上がります。

(3) 資産価値の下落

中古市場では築30年を過ぎると取引価格が大きく下落します。さらに築40年を超えると金融機関の融資が付きにくくなり、買い手が減少します。売却できず「出口がない」状態に直面する住民が増え、建替えの必要性を感じるようになります。

(4) 再開発の後押し

都市部では容積率の緩和や再開発事業と連動して建替えが可能になるケースがあります。行政やデベロッパーが「事業協力者」として加わると、建替えによるメリットが一気に現実味を帯びます。


検討初期段階(情報収集と診断)

建替え検討は感情論ではなく、データに基づく判断が前提です。理事会や検討委員会は、次のステップを踏んで調査を開始します。

(1) 建物診断

  • 耐震診断:構造体が大地震に耐えられるかを判定。
  • 劣化診断:外壁・配管・防水の状態を専門業者が調査。

→ 「修繕で維持可能か」「建替え以外に選択肢があるか」を判断する根拠になります。

(2) 修繕費シミュレーション

長期修繕計画を見直し、今後30年間の大規模修繕費を試算します。例えば、外壁改修・配管更新・エレベーター更新などをすべて積算すると、総額が数十億円に達することも珍しくありません。

(3) 建替え費用試算

デベロッパーや建築コンサルに依頼し、建替えに必要な総事業費を算出します。事業費には解体費、建設費、仮住まい補助、設計監理費、諸経費が含まれます。

(4) 住民アンケート

「修繕派」「建替え派」「どちらでもよい派」に分かれることが多いため、初期段階で意向を把握することが重要です。


合意形成プロセス

建替えは住民全員にとって人生を左右する重大テーマです。したがって、十分な合意形成がなければ進めることはできません。

(1) 情報開示の徹底

  • 修繕に必要な費用と建替え費用の比較表を作成し、説明会で提示。
  • 建替え後のマンション像(階数、戸数、共用施設、想定販売価格)をCGや模型で具体的に示す。

(2) 住民説明会・勉強会

「修繕で済むのではないか」という意見に対しては、耐震診断の数値や修繕積立金の不足状況を根拠に説明する必要があります。

(3) 仮住まい・費用負担の透明化

住民の最大の懸念は「どこに住むのか」「いくら負担するのか」です。
・仮住まいの期間(3〜5年)
・自己負担か補助制度の有無
・追加ローンの試算
を事前に提示しなければ、反対意見が根強く残ります。

(4) 意識のばらつき

  • 高齢者:「負担が大きい、今さら動きたくない」
  • 若年層:「資産価値維持のために建替えを望む」
    この世代間ギャップを埋めることが、合意形成の最大のハードルです。

総会での「建替え決議」

十分な検討と合意形成を経て、ようやく総会で「建替え決議」が諮られます。

(1) 法的要件

  • 区分所有者数の5分の4以上の賛成
  • 議決権の5分の4以上の賛成

例えば100戸のマンションで、区分所有者が100人全員出席し、うち79人が賛成しても、80人に達しなければ成立しません。極めて厳しい基準です。

(2) 決議内容

  • 建替えの必要性
  • 概算事業計画(建設費・資金計画・仮住まい計画)
  • 建替組合設立の承認

ここで可決されれば、建替えが法的に認められ、次のステップに進みます。否決されれば建替えは頓挫し、修繕路線へ戻ります。


建替え決議成立後の流れ

成立後は「建替組合」を設立し、事業を進めます。

  1. 建替組合設立認可(都道府県知事の認可)
  2. 事業計画確定(設計・資金・工期)
  3. 権利変換計画(旧→新の住戸割当と清算金)
  4. 仮住まい確保(住民全員一時退去)
  5. 解体 → 新築工事
  6. 竣工・入居開始

住める人と住めない人の分岐(権利変換の実態)

建替え決議の現実は、全員が新マンションに戻れるわけではないということです。

(1) 住める人

  • 旧住戸の評価額が新マンションの住戸価格と釣り合う人
  • 追加負担を支払える人(自己資金またはローン)

(2) 住めない人

  • 評価額が低く、新住戸を取得できない人
  • 追加負担を用意できない人
    → **換価清算(現金精算)**の対象となり、退去を余儀なくされます。

(3) 清算の仕組み

  • 鑑定評価で算出した旧住戸+敷地持分の価値を基準に、現金を支払う。
  • 事実上「売却」と同じ扱い。

住めない人への対応

住めない人が出ることは制度上避けられません。そのため、以下の対応が行われます。

  • 換価清算金の支払い
     旧住戸評価額に基づき現金で精算。
  • 行政の住宅斡旋
     高齢者・低所得者向けにUR賃貸や公営住宅を紹介するケース。
  • 早期説明の徹底
     「建替えたら自分は住めない」ことを初期段階で理解してもらうことが、紛争防止のカギです。

建替え後のメリット

  • 耐震性・安全性の確保
  • 資産価値の回復(築古→新築化)
  • 設備更新(宅配ボックス・オートロック・バリアフリー)
  • 賃貸収益・再販性の向上

建替え後に残る課題

  • 追加ローン負担の継続
  • 修繕積立金の再積立
  • 旧住民と新住民の摩擦
  • 換価清算となった住民の不満・訴訟リスク

まとめ

マンション建替えは次の流れで進みます。

  1. 老朽化・耐震問題や資産価値低下を契機に検討開始
  2. 診断・修繕費シミュレーション・建替え費用試算でデータを揃える
  3. 住民説明会・合意形成で理解を得る
  4. 総会で「5分の4以上の賛成」により建替え決議成立
  5. 建替組合設立 → 権利変換計画 → 解体・新築へ進行
  6. 住める人(追加負担可能)と住めない人(換価清算)の分岐
  7. 竣工後は安全・資産価値を回復するが、負担・摩擦・退去者問題も残る

建替えは「全員が新築に住める理想」ではなく、資金力と合意形成による選別の現実です。

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この記事を書いた人

保有資格:(管理業務主任者・ 保険募集人・甲種防火管理者)
不動産業界歴5年。外部管理者方式や関連法規についての知識も豊富に持っております。
管理組合様それぞれのニーズに合った資産形成のご提案も行ってまいります。
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