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マンションの資産価値や居住快適性を維持する上で、管理会社の役割は非常に重要です。しかし、「フロント担当者の対応が遅い」「清掃の質が低い」「管理委託費が不透明」といった不満を抱えている管理組合は少なくありません。特に、物件数が多く競争が激しい東京都内では、より良いサービスを提供する管理会社へ変更することで、これらの課題が解決できる可能性があります。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、東京都内の分譲マンションを対象に、管理会社変更を検討するサインから、法的手続き、新会社の選定、円滑な引継ぎまでの一連のプロセスを、公的な資料や法令に基づいて網羅的に解説します。手続きの複雑さから一歩を踏み出せずにいる理事会の役員の方々が、自信を持って行動できるよう、具体的なステップと注意点をまとめました。
はじめに:用語の整理
本記事を読み進めるにあたり、混同されがちな3つの費用について定義します。
- 管理費:区分所有者が「管理組合」へ支払う費用。共用部分の日常的な維持管理に使われます。
- 修繕積立金:区分所有者が「管理組合」へ支払う費用。将来の大規模修繕のために積み立てられます。
- 管理委託費:管理組合が「管理会社」へ支払う業務の対価。管理費の中から支払われます。
この記事は、管理組合が主体となって管理会社を変更する「分譲マンション管理」に特化しており、物件オーナーが主体となる「賃貸管理」とは異なります。
現在の管理会社に漠然とした不満を感じていても、具体的に何が問題なのかを整理するのは難しいものです。ここでは、管理会社の変更を検討すべき代表的なサインを7つ紹介します。
国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」によると、管理会社を変更した理由として「フロント担当者の対応への不満」や「管理委託費の高さ」が上位に挙げられています。皆様のマンションが下記に当てはまるか、チェックしてみてください。
サイン1:フロント担当者の対応が遅い・専門性がない
フロント担当者(マンション担当者)は、管理組合と管理会社をつなぐ重要な窓口です。しかし、以下のような状況は問題です。
- 電話やメールへの返信が数日かかる
- 理事会での質問に的確に答えられない
- 法律や設備に関する知識が不足している
- 担当物件数が多すぎて、個別の事情を把握していない
担当者の能力や経験は、管理の質に直結します。
サイン2:清掃や点検の品質が低い
日常清掃や定期点検は、マンションの美観と安全を保つ基本です。
- エントランスや廊下にゴミが落ちている
- 植栽の手入れがされていない
- 各種設備の点検報告書が提出されない、内容がずさん
契約通りの業務が実施されていない場合、見直しのサインです。
サイン3:会計報告が不透明・管理委託費が高い
管理組合の財産を預かる管理会社には、透明性の高い会計報告が求められます。
- 月次の収支報告書の内容が分かりにくい
- 支出項目に「雑費」「一式」といった不明瞭な記載が多い
- 周辺の同規模マンションと比較して管理委託費が明らかに高い
管理費会計の透明性は、管理組合運営の根幹に関わる重要なポイントです。
サイン4:修繕積立金や長期修繕計画に関する提案がない
マンションの資産価値を長期的に維持するためには、計画的な修繕が不可欠です。
- 長期修繕計画の見直しが長年行われていない
- 修繕積立金の不足について指摘や改善提案がない
- 大規模修繕工事に向けた具体的な準備をサポートしてくれない
将来を見据えた提案力も、管理会社に求められる重要な能力です。
サイン5:滞納者への督促が甘い
管理費や修繕積立金の滞納は、管理組合の財政を悪化させ、他の区分所有者にとって不公平な状況を生みます。
- 滞納が発生しても、督促の状況報告がない
- 督促が電話や手紙のみで、具体的な回収アクションに進まない
- 法的手続きを含めた具体的な滞納対策を提案できない
滞納問題への対応力は、管理会社の専門性を示すバロメーターの一つです。
サイン6:理事会運営のサポートが不十分
理事会の役員は、多くが本業を持つボランティアです。管理会社には、円滑な理事会運営をサポートする役割が期待されます。
- 理事会の議事録作成や資料準備が遅い
- 議題に対する専門的なアドバイスがない
- 総会の運営支援が形式的で、区分所有者の合意形成に貢献しない
理事会の負担を軽減し、適切な意思決定を支援する姿勢が求められます。
サイン7:住民からのクレームが増えている
「夜間の騒音がやまない」「ゴミ出しのルールが守られない」など、住民間のトラブルへの対応も管理会社の重要な業務です。
- クレームを伝えても、具体的な対応をしてくれない
- 問題解決に向けた掲示や注意喚起などが行われない
- 住民からの不満の声が理事会に多く寄せられる
住民満足度の低下は、管理品質の低下を示す明確なサインと言えるでしょう。
【東京の特性】都内の管理会社の種類と選び方のポイント
一口に管理会社といっても、その規模や特徴は様々です。東京都内には数多くの管理会社が存在しますが、主に以下の3タイプに分類できます。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自分たちのマンションに合った会社を選ぶことが重要です。
大手・財閥系:ブランド力と総合力
三井不動産レジデンシャルサービスや三菱地所コミュニティなど、デベロッパーを親会社に持つ管理会社です。
- メリット:豊富な実績とノウハウ、充実した研修による人材の質の安定、コンプライアンス体制の整備、大規模修繕などでのグループ会社の連携力。
- デメリット:管理委託費が比較的高額になる傾向、マニュアル重視で柔軟な対応が難しい場合がある。
- 向いているマンション:大規模マンション、タワーマンション、ブランド力を重視する管理組合。
独立系:コスト競争力と柔軟性
親会社を持たず、独立して管理業務を行う会社です。全国展開する大手から、特定のエリアに特化する中小企業まで様々です。
- メリット:管理委託費が比較的安価な傾向、独自のサービスや柔軟な対応が期待できる。
- デメリット:会社の規模や担当者によってサービスの質にばらつきが出やすい、総合的な提案力や緊急時の対応力に差がある。
- 向いているマンション:コストを重視する管理組合、独自の要望やルールを持つマンション。
地域密着型:エリア特有の事情に精通
特定の市区町村など、限られたエリアで事業を展開する管理会社です。
- メリット:地域の条例や慣習、周辺環境に詳しい、緊急時に迅速な対応が期待できる、地元の工事業者とのネットワークを持つ。
- デメリット:対応エリアが限定される、大規模マンションへの対応ノウハウが少ない場合がある。
- 向いているマンション:23区郊外や多摩地区などで、地域性を重視したい管理組合。
【専門家メモ】
東京都が発行する「東京都マンション管理ガイドライン」では、管理組合が主体的に管理会社を選定・監督することの重要性が示されています。どのタイプの会社を選ぶにせよ、ガイドラインを参考に、組合自らが管理仕様を明確にすることが失敗しないための第一歩です。
東京都の支援制度
東京都は「マンション管理ガイドライン」のほか、管理組合向けの無料相談窓口(東京都マンション管理士会等との連携)を設置しています。管理会社変更を検討する際、第三者の専門家意見を求めることも有効です。
【完全ガイド】管理会社変更の7ステップと法的根拠
管理会社の変更は、思いつきで進められるものではありません。区分所有法などの法令に基づき、適切な手順を踏む必要があります。ここでは、検討開始から引継ぎ完了までの標準的な7ステップを解説します。
ステップ1:理事会での問題点共有と変更方針の合意形成
まず、理事会で現在の管理会社の問題点を具体的に洗い出し、変更の必要性について議論します。ここで理事会としての意思を統一しておくことが、その後のプロセスを円滑に進める上で不可欠です。
ステップ2:新管理会社の候補選定と情報収集
ステップ1で明確になった問題点を解決できる管理会社を探します。インターネットでの検索や、他のマンションの理事会からの評判などを参考に、2〜3社程度の候補を選定します。
ステップ3:候補会社への見積もり依頼と比較検討
選定した候補会社に、現在の管理委託契約書や建物の図面などの資料を提示し、同じ業務仕様で見積もりを依頼します。この際、金額だけでなく、業務内容や管理体制を詳細に比較することが重要です。
ステップ4:候補会社のプレゼンテーション実施と内定
見積もり内容を比較検討し、最終候補となった会社に理事会向けの説明会(プレゼンテーション)を依頼します。実際に担当する予定のフロント担当者にも出席してもらい、人柄や専門性を見極めましょう。理事会で質疑応答を重ね、最も適していると判断した1社を内定します。
ステップ5:総会での変更決議(普通決議が原則)
管理会社の変更は、管理組合の最高意思決定機関である総会での決議が必要です。
法的根拠:普通決議
管理会社の変更(管理委託契約の締結・解約)は、管理規約の変更を伴わない限り、原則として区分所有者および議決権の各過半数の賛成で可決されます(出典:建物の区分所有等に関する法律 第三十九条第一項)。
ただし、管理規約にこれと異なる定めがある場合は、その規約が優先されますので、必ずご自身のマンションの管理規約を確認してください。
総会では、変更の経緯、新旧管理会社の見積もり比較、新管理会社を選定した理由などを丁寧に説明し、区分所有者の理解を得ることが重要です。
ステップ6:現管理会社への解約通知(標準契約では3ヶ月前)
総会で変更が決議された後、現在の管理会社に対して書面で解約を通知します。
法的根拠:解約の申し入れ
国土交通省の「マンション標準管理委託契約書」では、相手方に対し、少なくとも三月前に書面で解約の申入れを行うことにより、契約を終了させることができると定められています(出典:マンション標準管理委託契約書 第二十二条)。
契約書によって期間が異なる場合があるため、必ず現在の管理委託契約書を確認してください。
新旧管理会社による円滑な引継ぎ業務
ステップ7:新旧管理会社による円滑な引継ぎ業務
解約通知から契約終了までの3ヶ月間で、新旧の管理会社が協力して引継ぎ業務を行います。管理組合は、引継ぎが滞りなく進んでいるかを確認・監督する役割を担います。
【最重要】失敗しない新管理会社の選定基準と比較ポイント
管理会社の変更で最も重要なのが、新しいパートナーとなる会社をいかにして見極めるかです。ここでは、後悔しないための選定基準と見積もりの比較ポイントを解説します。
見積もり依頼の注意点:「一式」ではなく詳細な内訳を求める
管理委託費の見積もりを比較する際、総額だけで判断してはいけません。必ず、国土交通省の「標準管理委託契約書」別表に準じた詳細な内訳を提出してもらいましょう。
比較すべき費用の内訳(例) |
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「一式」という大まかな見積もりでは、どの業務にいくらかかっているのかが不明瞭で、サービスの質やコストの妥当性を判断できません。「一式見積もり」を提示してくる会社は、誠実さに欠ける可能性があるため注意が必要です。
【管理会社の本音】過度な相見積もりは敬遠される理由
一部のウェブサイトでは「5社以上から相見積もりを取るべき」という情報も見られますが、特に20〜40戸規模のマンションでは現実的ではありません。
【実務上の注意点】
管理会社が正確な見積もりを作成するには、現地調査、図面確認、清掃や設備点検の外注先との調整など、多大な時間と労力がかかります。そのため、やみくもに多数の会社へ見積もりを依頼すると、「契約する意思が低い組合」と判断され、真摯な提案を受けられない可能性があります。候補は2〜3社に絞って、じっくり比較検討するのが成功の秘訣です。
フロント担当者の質を見抜く3つの質問
プレゼンテーションの場では、実際に担当する予定のフロント担当者に対し、以下のような質問を投げかけてみましょう。回答の内容や姿勢から、その専門性や熱意を測ることができます。
- 「私たちのマンションの課題(例:高齢化、駐車場の空き)について、どのような解決策を提案していただけますか?」
→ 具体的な提案力、課題解決への意欲を見る。 - 「管理費の滞納が発生した場合、どのような手順で対応しますか?最終的な法的措置までの流れを教えてください。」
→ 専門知識、実務経験の深さを見る。 - 「貴社が他の管理会社に負けない、一番の強みは何ですか?」
→ 会社の特色、担当者自身の仕事へのプライドを見る。
【トラブル回避】管理会社変更でよくある失敗事例と対策
管理会社の変更プロセス、特に最後の「引継ぎ」段階では、思わぬトラブルが発生することがあります。事前に典型的な失敗事例とその対策を知っておくことで、スムーズな移行を実現できます。
事例1:修繕積立金や会計書類の引継ぎが滞る
トラブル:旧管理会社から新管理会社へ、管理組合の通帳(特に修繕積立金)や過去の会計帳簿の引継ぎが遅れ、新体制での会計業務に支障が出る。
対策:管理委託契約の解約は、管理会社間の問題ではなく、あくまで管理組合と管理会社との間の契約行為です。標準管理委託契約書には、解約時の引継ぎ義務が明記されています。
(根拠条文の要旨) 国土交通省「マンション標準管理委託契約書」第22条では、契約が終了する場合、管理会社は管理組合に対し、管理事務を引き継ぎ、預かっていた図書・書類等を返還しなければならないと定められています。 |
引継ぎが遅れる場合は、この条文を根拠に、管理組合が主体となって旧管理会社へ速やかな引継ぎを要求しましょう。
事例2:長期修繕計画や点検報告書が紛失・未整備
トラブル:建物の維持管理に不可欠な長期修繕計画書、過去の設備点検報告書、竣工図書などが、旧管理会社の保管がずさんだったために紛失・散逸してしまう。
対策:新管理会社の内定後、契約締結前に、引き継がれるべき重要書類のリストを作成し、新旧管理会社間で確認させるようにしましょう。引継ぎ完了時には、管理組合の理事も立ち会い、リストと照合して漏れがないかを確認することが重要です。
事例3:滞納者情報が正確に引き継がれない
トラブル:管理費等の滞納者に関する情報(滞納額、督促履歴など)が正確に引き継がれず、新管理会社での督促業務が遅れてしまう。
対策:滞納者情報は個人情報を含むため、引継ぎには細心の注意が必要です。新旧管理会社および管理組合(理事長)の間で、情報の引継ぎに関する覚書などを取り交わし、責任の所在を明確にしておくと良いでしょう。引継ぎ後は、速やかに新管理会社から滞納者へ連絡を取り、支払先の変更などを通知する必要があります。
【2025年10月時点】最新の法改正情報
区分所有法の大改正(2026年4月1日施行予定)
2025年5月23日、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」が可決・成立しました。本改正は2026年4月1日から施行される予定です。
本記事で解説している管理会社変更の基本的な手続き(総会決議要件、解約通知期間など)に直接の変更はありませんが、管理組合運営全般に影響が及ぶ可能性があります。詳細は国土交通省の公式情報をご確認ください。
第三者管理の新ルール(2026年施行予定)
国土交通省は2026年にも、管理会社が自社グループ企業に工事等を発注する際(いわゆる「身内発注」)の事前説明を義務化する方針を発表しています。第三者管理方式(管理会社に理事長業務を委託)を採用している管理組合では、契約内容の透明性がさらに求められます。
まとめ:管理組合が主体となった管理会社変更を成功させよう
東京都内でのマンション管理会社変更は、現在の管理に不満を持つ管理組合にとって、居住環境と資産価値を向上させるための有効な手段です。
成功の鍵は、以下の3点に集約されます。
- 現状把握:理事会で問題点を共有し、変更の目的を明確にする。
- 適正な手順:区分所有法などの法令に基づき、総会決議などのステップを確実に踏む。
- 主体的な選定:管理会社任せにせず、管理組合自らが主体となって見積もりを比較し、最適なパートナーを選ぶ。
管理会社の変更は決して簡単なプロセスではありませんが、この記事で解説した手順と注意点を参考にすれば、失敗のリスクを大幅に減らすことができます。より良いマンションライフの実現に向けて、まずは理事会で議論することから始めてみてはいかがでしょうか。
免責事項
本記事は、マンション管理会社の変更に関する一般的な情報を提供するものであり、特定の物件や状況に対する法的な助言を行うものではありません。実際の変更手続きを進めるにあたっては、必ずご自身のマンションの管理規約をご確認の上、必要に応じて弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談ください。法令や各種ガイドラインは改正される可能性があるため、最新の情報をご確認ください。
参考資料
- 国土交通省, 「令和5年度マンション総合調査結果」, https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000216.html
- 国土交通省, 「マンション標準管理規約(単棟型)」, https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_mn4_000032.html
- 国土交通省, 「マンション標準管理委託契約書」, https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_mn4_000033.html
- 国土交通省, 「マンション管理計画認定制度について」, https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000142.html
- e-Gov法令検索, 「建物の区分所有等に関する法律」, https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
- e-Gov法令検索, 「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」, https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=414AC1000000149
- 東京都都市整備局, 「東京都マンション管理ガイドライン」, https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/mansion/310-0-jyuutaku.htm
- 東京都都市整備局, 「マンションポータルサイト」, https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/mansion/
- (一社)マンション管理業協会, 「マンション管理適正評価制度」, https://www.kanrikyo.or.jp/
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。