【雛形あり】漏水事故の示談書作成ガイド:9つの必須項目とマンション注意点

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マンションやアパートで突然発生する漏水事故。下の階に損害を与えてしまった加害者側も、天井からの水漏れで被害を受けた被害者側も、円満な解決のためには「示談書」の作成が不可欠です。しかし、適切な合意に基づく示談書をどう書けばよいのか、どんな項目を盛り込めば将来のトラブルを防げるのか、不安に思う方も多いでしょう。特に、安易にインターネット上の雛形(ひな形)を写すだけでは、かえって不利な状況を招くリスクもあります。

この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、漏水事故における示談書の重要性から、民法に基づいた具体的な書き方、必須の記載項目までを網羅的に解説します。加害者・被害者それぞれの立場で注意すべきポイントや、マンション特有の問題も詳しく説明します。この記事を読めば、適切な示談書を作成し、漏水事故を円満かつ確実に解決するための知識が身につきます。

本記事は一般的情報提供であり、個別案件への法的助言ではありません。示談書作成時には、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。


目次

そもそも示談書とは?法的効力と役割を解説

漏水事故の当事者間で話し合いがついたら、「示談書」を作成するのが一般的です。では、この示談書にはどのような意味と効力があるのでしょうか。単なる「念書」とは異なる、その法的な役割を理解することが、円満解決への第一歩です。

示談書の法的根拠は「和解契約」(民法第695条・第696条)

示談書は、法律上「和解契約」という契約の一種です(出典:民法第695条・第696条)。和解契約とは、紛争の当事者双方が譲歩し、争いをやめることを約束する契約を指します。

当事者が署名・捺印した示談書は、この和解契約が成立したことを証明する法的な証拠となります。口約束とは異なり、契約内容を明確にし、後から「言った・言わない」のトラブルが発生するのを防ぐ強力な効力を持つのです。和解の確定効により、原則として後の異議が排除される可能性があります。

示談書を作成する目的:紛争の終局的解決

示談書を作成する最大の目的は、漏水事故に関する紛争を「これで終わりにする」という最終的な解決を図ることにあります。具体的には、以下の内容を当事者間で確定させるために作成します。

  • 事故の原因と損害の範囲
  • 損害賠償の金額
  • 支払いの方法と期限
  • 今後、お互いにこれ以上の請求をしないこと(清算条項)

これらの内容を書面で明確に合意することで、一度解決したはずの問題が再燃することを防ぎます。

示談書と「公正証書」の違いと比較

示談書と似た役割を持つ文書に「公正証書」があります。両者の違いを理解し、状況に応じて使い分けることが重要です。

  • 示談書: 当事者同士で作成する「私文書」。作成が容易で費用もかからないが、支払いが滞った場合に強制的に回収(強制執行)するには、別途裁判を起こす必要がある。
  • 公正証書: 公証役場で公証人が作成する「公文書」。作成に費用と手間がかかるが、非常に高い証明力を持つ。特に、金銭の支払いについて「強制執行認諾文言」を入れておけば、裁判を経ずに相手の財産を差し押さえる「強制執行」が可能になります。

損害賠償額が高額になる場合や、相手の支払能力に不安がある場合は、示談書の内容を公正証書にしておくことを検討すると良いでしょう。お近くの公証役場は、日本公証人連合会のウェブサイトから検索できます。

本記事は一般的情報提供であり、個別案件への法的助言ではありません。示談書作成時には、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。


【雛形あり】漏水事故の示談書に記載すべき9つの重要項目

適切な合意に基づく示談書を作成するためには、以下の9つの項目を漏れなく記載することが考えられます。ここでは、各項目の意味と具体的な記載例(雛形)を紹介します。本雛形は参考例であり、個別事情に合わせて専門家に相談してください。

① 当事者の特定(甲:加害者、乙:被害者)

誰と誰の間で合意が成立したのかを明確にします。氏名、住所を正確に記載してください。

(表が表示されない場合: 加害者(以下「甲」という。)住所:東京都◯◯区◯◯一丁目2番3号 氏名:山田 太郎 被害者(以下「乙」という。)住所:東京都◯◯区◯◯一丁目2番3号 氏名:鈴木 花子)

② 事故の特定(発生日時・場所・原因)

いつ、どこで、何が原因で発生した事故に関する示談なのかを具体的に記述します。これにより、他の事故と混同されることを防ぎます。

(表が表示されない場合: 甲と乙は、令和◯年◯月◯日頃、甲が居住する◯◯マンション201号室の給水管の老朽化を原因として、階下の乙が居住する同101号室に発生した漏水事故(以下「本件事故」という。)について、次のとおり示談する。)

③ 損害内容の特定

どの部分にどのような損害が発生したのかを具体的に記載します。修理業者の見積書や報告書を参考に、客観的な事実を書きましょう。

④ 損害賠償額(直接損害・間接損害)

損害の回復のために必要な費用(損害賠償額)を明記します。修理費などの「直接損害」のほか、交渉で合意できれば、ホテル宿泊費などの「間接損害」を含めることもあります。

(表が表示されない場合: 甲は、乙に対し、本件事故に関する損害賠償として、金◯◯萬◯◯◯◯円の支払義務があることを認める。)

⑤ 支払条件(支払方法・期限・遅延損害金)

損害賠償金を「いつまでに」「どのように」支払うのかを具体的に定めます。振込手数料をどちらが負担するのかも明記しておくと親切です。支払いが遅れた場合のペナルティ(遅延損害金)についても定めておきましょう。

(表が表示されない場合: 甲は、乙に対し、前条の金員を令和◯年◯月◯日限り、乙指定の下記銀行口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする。)

⑥ 清算条項(今後の請求権を相互に放棄する最重要項目)

清算条項は、示談書の中で重要な条項の一つです。これは、「この示談書に定める内容以外に、当事者間には一切の債権債務が存在せず、今後お互いにいかなる名目でも追加の請求はしない」ということを法的に確認するものです。この条項があることで、紛争の蒸し返しを防ぎ、問題を終局的に解決できます。

(表が表示されない場合: 甲及び乙は、本件事故に関し、本示談書に定めるもののほか、両者間に何らの債権債務が存在しないことを相互に確認し、今後、名目の如何を問わず、相互に一切の請求をしないことを約束する。)

注意:清算条項を入れると、原則として後から見つかった損害について追加請求ができなくなります。示談する前に、損害の範囲を十分に調査し尽くすことが重要です。

⑦ 謝罪条項(任意)

加害者側が被害者に対して謝罪の意を示す条項です。法的な義務ではありませんが、円満な解決や被害者の感情に配慮するうえで、記載を検討するとよいでしょう。

⑧ 作成年月日

示談が成立した日(=示談書を作成した日)を記載します。

⑨ 署名・捺印

当事者双方が内容に合意した証として、各自が署名し、印鑑(認印で可)を押します。示談書は2部作成し、甲と乙がそれぞれ1部ずつ保管します。

本記事は一般的情報提供であり、個別案件への法的助言ではありません。示談書作成時には、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。


【立場別】示談書作成時の注意点と進め方

示談交渉や示談書の作成は、加害者と被害者、それぞれの立場で注意すべきポイントが異なります。

被害者のポイント:損害範囲を漏れなく記載し証拠を添付する

被害者にとって最も重要なのは、被った損害を正確に把握し、そのすべてを賠償の対象とすることです。

  • 証拠の保全: 漏水箇所の写真(濡れた壁や床、損害を受けた家具など)を日付がわかるように撮影しておく。
  • 損害のリストアップ: 修理が必要な箇所、買い替えが必要な家財などをすべてリスト化する。
  • 見積書の取得: 複数の修理業者から見積書を取得し、適正な修理費用を把握する。
  • 時系列の記録: 事故発見日時、加害者への報告日時、被害の進行状況などを記録しておく。

これらの客観的な証拠に基づいて損害額を算定し、示談交渉に臨むことが、正当な賠償を受けるための鍵となります。

加害者のポイント:賠償範囲の妥当性を精査する

加害者側としては、誠意をもって対応しつつも、過大な請求に応じる必要はありません。賠償範囲の妥当性を冷静に判断することが重要です。

  • 現場の確認: 被害状況を自分の目で確認させてもらう。
  • 見積書の精査: 被害者が提示する見積書の内容が、事故による損害と直接関係があるか、また金額が相場からかけ離れていないかを確認する。
  • 保険の利用: 個人賠償責任保険など、加入している保険が使えないかを確認する。保険会社に連絡し、対応を相談する。

賠償範囲や金額について納得できない場合は、安易に示談書に署名せず、専門家への相談を検討しましょう。

本記事は一般的情報提供であり、個別案件への法的助言ではありません。示談書作成時には、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。


マンション・アパート特有の注意点

戸建てと異なり、マンションなどの集合住宅での漏水事故は、責任の所在が複雑になるケースがあります。

責任の所在はどこか?「専有部分」と「共用部分」の判断が重要

マンションの漏水事故では、まず区分所有法に基づき、原因箇所が「専有部分」(区分所有者の専有)なのか「共用部分」(共有)なのかを特定することが最優先です(出典:建物の区分所有等に関する法律 第22条、第62条)。

  • 専有部分: 一般的には、その部屋の所有者(区分所有者)が使用する部分(例:室内の給水管・排水管の枝管、蛇口、トイレ、ユニットバスなど)とされますが、管理規約や判例により異なる場合があります。
    • 責任: その部屋の所有者(区分所有者)。
  • 共用部分: 住民全員で共有する部分(例:建物の壁・床・天井を貫通するコンクリート内の配管(主管)、共用廊下、外壁など)。
    • 責任: マンションの管理組合。

特に、建物の壁・床・天井を貫通するコンクリート内の主配管など「共用部分」の欠陥が原因で漏水が発生した場合、民法第717条の工作物責任に基づき、その工作物の所有者であるマンションの管理組合が損害賠償責任を負う可能性があります。

このため、原因箇所によって損害賠償を請求する相手が上の階の居住者個人から管理組合に変わるのです。原因が特定できないまま当事者間で示談してしまうと、後で本当の原因が判明した際に、改めて管理組合と交渉し直すという複雑な事態になりかねません。

管理組合・管理会社への報告義務

漏水事故が発生した場合、その規模に関わらず、速やかに管理組合または管理会社へ報告することが重要です。多くのマンションでは管理規約で報告が義務付けられています。さらに、マンション管理適正化法では、管理者(多くの場合は管理組合の理事長)が建物の保全に関する重要な事項(漏水事故など)を把握し、対応する責務が定められています。原因が共用部分にある可能性も踏まえ、初期対応や原因調査を円滑に進めるためにも、迅速な報告は不可欠です。報告を怠ると、被害が拡大した場合に、その責任を問われる可能性もあります。

本記事は一般的情報提供であり、個別案件への法的助言ではありません。示談書作成時には、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。


雛形を写すだけは危険!示談書作成でよくある3つの誤解と対策

インターネットで手軽に雛形が見つかるため、つい安易に利用してしまいがちですが、そこには大きな落とし穴があります。雛形は一般的な事例を想定した見本に過ぎず、個別事情への対応が不十分であれば、後の法的トラブルの原因となります。ご自身の状況に合わせた検討をお勧めします。

誤解1:雛形をそのまま使えば適切?

対策:個別の事情に合わせて必ず修正が必要です。
雛形はあくまで一般的な事例を想定した「見本」です。実際の事故状況(原因、損害内容、当事者の関係性など)は一つとして同じものはありません。個別の事情を反映させずに雛形を丸写しすると、本来主張すべき権利が記載されていなかったり、自分に不利な内容になっていたりする危険性があります。

誤解2:損害額は「概算」で決めても大丈夫?

対策:損害額は客観的な証拠に基づき厳密に算定しましょう。
後から修理費用が想定以上にかかる等のリスクを避けるため、示談前に修理業者の正式な見積書に基づき、損害額を確定させることを推奨します。清算条項の効果により、原則として追加請求は困難になります。

誤解3:示談が成立すると火災保険(個人賠償責任保険)は使えない?

対策:示談前に保険会社に連絡・相談することが重要です。
示談交渉を開始する前に、ご加入の火災保険や個人賠償責任保険の約款を確認し、保険会社に事前連絡することを強く推奨します。保険会社の指示に従うことで、保険金請求時のトラブルが回避できます。

本記事は一般的情報提供であり、個別案件への法的助言ではありません。示談書作成時には、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。


弁護士への相談も検討すべきケースとは?

当事者間での解決が難しい場合は、法律の専門家である弁護士に相談することを検討しましょう。特に、以下のようなケースでは早期の相談を推奨します。

  • 損害賠償額が複雑な事案になる場合
  • 漏水の原因箇所や責任の所在について争いがある場合
  • 相手方が交渉に協力的でない、または連絡が取れない場合
  • 提示された示談内容が妥当かどうか判断できない場合
  • 示談書の内容に法的な不備がないか不安な場合

弁護士に依頼すれば、法的な観点から適切な賠償額を算定してくれたり、相手方との交渉を代行してくれたりするため、精神的な負担を大きく軽減できます。費用はかかりますが、不利な内容で示談してしまうリスクを考えれば、結果的にメリットが上回ることも少なくありません。

本記事は一般的情報提供であり、個別案件への法的助言ではありません。示談書作成時には、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。


まとめ

漏水事故という予期せぬトラブルを円満に解決するためには、適切な示談書の作成が欠かせません。最後に、本記事の重要なポイントをまとめます。

  • 示談書は法的な拘束力を持つ「和解契約」の証拠である。
  • 記載すべき必須項目(当事者、事故内容、賠償額、支払条件、清算条項など)を漏れなく盛り込む。
  • 清算条項は紛争の蒸し返しを防ぐ最重要項目だが、安易な合意は禁物。
  • マンションでは「専有部分」と「共用部分」のどちらが原因かで責任者が異なる。
  • 雛形の丸写しは危険。損害額は厳密に算定し、示談前に保険会社へ連絡する。
  • 高額な損害や交渉が難航するケースでは、早期に弁護士へ相談することが賢明。

示談書は、単なる紙切れではありません。あなたの大切な権利と財産を守り、紛争を完全に終わらせるための重要な法的文書です。この記事で得た知識をもとに、慎重かつ適切な対応を心がけてください。


免責事項

本記事は、漏水事故における示談書に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別の案件に対する法的な助言・見解を示すものではありません。示談書の作成や交渉にあたっては、必ずご自身の状況に合わせて内容を検討し、必要に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。また、法令等は改正される可能性があるため、常に最新の情報をご確認ください。


参考資料

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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