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マンション清掃の品質に不満がある場合の効果的な対応手順
※本記事は法的助言ではありません。あくまで一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に応じた対応については、弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談ください。
マンションの共用部が雑然としており、廊下の隅にホコリが溜まったまま…。管理人に何度か伝えても改善されないという経験はありませんか。このようなマンション清掃の品質に対する不満は、多くの居住者が抱えるストレス源です。しかし、感情的にクレームを伝えるだけでは、問題解決に至らず、関係が悪化するケースも少なくありません。その主な原因は、「伝え方」の誤りと「根拠の不足」にあります。
この記事では、宅地建物取引士としての知見を基に、マンション清掃の品質に不満を持つ方、特に理事会役員の方に向け、感情に頼らない効果的なクレームの手順を解説します。法的・契約的な根拠を活かし、客観的な事実を揃えて段階的に改善を求める方法を紹介します。具体的な文例や、管理会社が対応しない場合の次のステップまで、体系的に解説します。これにより、雑な清掃問題を根本から解決し、快適な住環境を目指しましょう。
ステップ1:クレーム前の必須準備 – 客観的な証拠を揃える
クレームを伝える前に、感情的な不満を「客観的な事実」に変換する準備が不可欠です。このステップを省くと、主張が「個人の感想」と見なされ、真剣な対応が得られにくい可能性があります。
管理委託契約書の清掃条項を確認する
すべての基盤となるのが、管理組合と管理会社が締結した「管理委託契約書」です。この書類に、清掃業務の詳細が記載されています。
- 確認すべき項目
- 業務範囲: 清掃対象の場所(例:共用廊下、階段、エントランス、ゴミ置場)
- 業務頻度: 清掃の実施回数(例:廊下の掃き掃除は週3回)
- 業務内容: 具体的な作業(例:掃き掃除、拭き掃除、ゴミの回収)
国土交通省が公表する「マンション標準管理委託契約書」では、別表に清掃業務の内容を具体的に記入することが推奨されています(出典:国土交通省「マンション標準管理委託契約書」https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001630190.pdf)。ご自身のマンションの契約書がこの標準に準じているかを確認しましょう。契約書の内容は、クレームの正当性を裏付ける強力な根拠となります。
用語の整理:「日常清掃」と「定期清掃/特別清掃」の違いとは?
契約書を読む際、重要な用語の区別を理解しましょう。
- 日常清掃とは
- 定義: 床の掃き拭き、ちりはらい、ゴミ出しなど、日常的に行われる基本的な清掃作業。
- 区別: 契約書では「週〇回」「毎日」などの頻度で定められるのが一般的です。
- 定期清掃/特別清掃とは
- 定義: 床面のワックスがけ、窓ガラス清掃、高圧洗浄など、専門的な機材や技術を要する定期的な清掃作業。
- 区別: 「半年に1回」「年に1回」など、実施頻度が低いのが特徴です。
【用語注記】マンション標準管理委託契約書では「特別清掃」と記載される場合と「定期清掃」と記載される場合があります。ご自身の契約書で使用されている用語を確認してください。
この区別を理解する利点は、「普段の掃除が雑だ」というクレームが、日常清掃の契約範囲に含まれる作業かを正確に判断できる点です。契約範囲外の作業を要求すると、クレームの正当性が損なわれる可能性があります。
「いつ、どこが、どのように」不備があるのか?写真と5W1Hで記録する
契約違反の疑いがある箇所を発見したら、客観的な証拠として記録を残しましょう。
- 写真撮影: 不備箇所を、日付と時刻がわかるように撮影。スマートフォンなら通常、自動で日時情報が記録されます。
- 5W1Hでの記録:
- When(いつ): 2025年11月26日 午前9時頃
- Where(どこで): 2階東側 共用廊下の突き当たり
- Who(誰が): (清掃担当者 ※特定できなくても可)
- What(何が): 落ち葉とホコリが溜まっている
- Why(なぜ): 清掃が実施されていないように見える
- How(どのように): 隅の部分が全く掃かれていない状態
これらの記録は、理事会での共有や管理会社への指摘時に有効な証拠となります。
理事会で共有し、組合としての公式な問題として位置づける
個人のクレームではなく、「管理組合としての正式な意見」として問題を提起しましょう。集めた証拠(契約書の写し、写真、記録メモ)を理事会に提出し、議題に取り上げてください。理事会で問題意識が共有されれば、組合として管理会社に改善を要請する正当な根拠が生まれます。管理規約に特段の定めがない限り、理事会の決議は区分所有者及び議決権の過半数で可能です(区分所有法第39条)。
ステップ2:【実践】効果的なクレームの伝え方と段階的アプローチ
準備が整ったら、管理会社へ伝えます。伝え方の順序や方法を誤ると、問題が複雑化します。トラブルを防ぎ、確実な改善につなげる手順を解説します。
連絡ルートの鉄則:個人→清掃員は避ける!理事会→管理会社フロントへ
最も避けるべきは、居住者が清掃員に直接クレームを言うことです。これにより感情的な対立が生じやすく、清掃員は管理会社の指示に従うため、現場で作業を変える権限が限定的です。
| 望ましくないルート | 正しいルート |
|---|---|
| 個人住民 → 清掃員 (トラブルの原因) | 個人住民 → 理事会 → 管理会社担当者 → 清掃会社/清掃員 |
正しいルートは、理事会を通じて管理会社の担当者(フロント)に連絡することです。これにより、「個人的な不満」ではなく「管理組合からの正式な要請」として扱われ、組織的な対応が期待できます。
記録が残る「メール」を基本とし、内容証明郵便も視野に
口頭伝達は「言った・言わない」のトラブルを招きやすいため、記録が残る方法を選択しましょう。
- 基本はメール: 日時・内容が正確に記録され、写真添付も可能。CCに理事長や他の役員を入れて情報共有を。
- 改善が見られない場合: 複数回のメール要請でも対応がない場合、内容証明郵便を検討。これは郵便局が送付内容を証明する制度で、法的措置を視野に入れた強い意思表示となります。
クレーム文面に含めるべき5つの要素【文例あり】
管理会社への書面には、以下の5要素を盛り込みましょう。これにより意図が明確になり、対応しやすくなります。
- 問題の事実: 5W1Hで記録した客観的な事実。
- 契約上の根拠: 管理委託契約書の該当条項を引用。
- 証拠の提示: 撮影写真を添付。
- 具体的な改善要求: 「週3回の掃き掃除を契約通り実施してください」など明確に。
- 回答期限の設定: 「〇月〇日までに改善対応と報告をお願いします」など期限を区切る。
| (記載例) 件名:共用部清掃の品質改善に関するお願い(〇〇マンション管理組合) 株式会社〇〇管理 御中 担当 〇〇様 いつもお世話になっております。〇〇マンション管理組合 理事長の鈴木です。 共用部の清掃状況について、ご報告と改善のお願いがございます。 1. 現状の問題点 ・日時:2023年10月26日 午前9時 ・場所:2階共用廊下 ・状況:添付写真の通り、廊下の隅にホコリが堆積しており、清掃がされていない状態です。 2. 契約内容との相違 貴社との管理委託契約書 別表第2によれば、「共用廊下の掃き掃除を週3回実施する」と定められておりますが、現状ではこの頻度が守られていない可能性がございます。 3. 改善のお願い つきましては、契約内容に基づき、清掃作業を確実に実施していただきますようお願い申し上げます。 4. 回答期限 本件に関する今後の対応策につきまして、2023年11月10日(金)までに書面にてご回答いただけますでしょうか。 お忙しいところ恐縮ですが、ご確認のほどよろしくお願いいたします。 |
【文例使用時の注意】提供した「記載例」は構成要素の参考です。実際の使用時は、理事会で内容を確認・承認し、契約書の実際の条項を引用、主張が条文と矛盾しないかを専門家に相談してください。
ステップ3:管理会社が動かない場合の法的根拠と次の打ち手
適切な手順でクレームを入れても、管理会社が誠実に対応しない場合があります。その際は、法的根拠を示して強く改善を求めましょう。
管理会社の「善管注意義務違反」とは?
管理会社は管理組合と「準委任契約」(民法第656条)を締結しています。この契約により、管理会社は「善良な管理者の注意をもって、委託された事務を処理する義務」を負います。これを善管注意義務といいます(民法第644条:『受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う』。出典:e-Gov法令検索『民法』https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089)。
契約書に定められた清掃業務を正当な理由なく怠り、改善要求に応じない場合、この善管注意義務に違反している可能性があります。これは単なる不満ではなく、法的な義務違反を問う根拠となります。
【法的評価に関する限界】善管注意義務違反の成立には、契約違反の事実と合理的な改善要求への不対応を証明する必要があります。この判定は法的争点となるため、改善されない場合は必ず弁護士に相談してください。(非弁行為を避けるため、本記事では具体的な請求文案・訴訟方法は記載していません)
区分所有法と標準管理規約に基づく組合の監督権限
区分所有法の基本原則(第1条)および民法第656条の準委任契約の性質に基づき、管理組合は管理会社に対する監督権を有します。また、マンション標準管理規約第48条・49条で、理事会が業務執行状況を監督する事項が具体化されています。これらの規定を根拠に、管理組合は管理会社に対して是正を求めることができます。管理規約に特段の定めがない限り、理事会の決議は過半数で可能です(区分所有法第39条)。
改善が見られない場合のエスカレーション先
再三の要請でも改善がない場合、次の段階へ進みます。
- 三者面談の要求: 理事会、管理会社の担当者と上長(支店長など)を交えた面談を要求。現場レベルで進まない場合、責任者に約束させるのが有効です。
- 第三者機関への相談:
- マンション管理士: 管理組合運営の専門家。交渉アドバイスを受けられます。
- 各自治体の相談窓口: 不動産関連の相談窓口を利用できます。(例:東京都都市整備局、大阪府住宅相談室など)
- 弁護士: 契約解除や損害賠償などの法的手続きを検討する場合。
本手続きは一般的なものであり、ご自身の現行管理委託契約書の条項を最優先に確認してください。契約内容により手続きや要件が異なる可能性があります。
FAQ:マンション清掃クレームのよくある質問
| Q1. 清掃員さんに直接注意しても良いですか? |
| A1. 避けるべきです。前述の通り、トラブルの原因となり、根本的な解決につながりにくいです。清掃員は管理会社からの指示で動いているため、意見や要望は必ず管理組合(理事会)を通じて管理会社に伝えるのが正しいルートです。 |
| Q2. クレームを入れてから、どれくらいで改善されるべきですか? |
| A2. 法的な定めはありませんが、実務上、書面で改善を要求した場合、2週間~1ヶ月以内に何らかの回答や対応があるのが一つの目安です。問題の難易度にもよりますが、この期間を過ぎても何の連絡もない場合は、督促の連絡を入れるべきでしょう。 |
| Q3. 管理会社が全く対応してくれない場合はどうすればいいですか? |
| A3. 善管注意義務違反を指摘し、責任者との面談を要求します。それでも動かない場合は、管理会社の変更を総会で決議することも最終手段として考えられます。ただし、管理規約に特段の定めがない限り普通決議が必要で、契約解除には手続きが必要なため、まずは弁護士やマンション管理士などの専門家に相談することをお勧めします。 |
実務ヒント:最終手段としての業者変更を検討する際の重要注意点
あらゆる手段を尽くしても清掃品質が改善されない場合、管理会社の変更や清掃業務のみの別業者委託を検討します。ただし、最終手段として慎重に進めてください。
「契約解除」の前に知るべき手続きと予告期間
本手続きは一般的なものであり、ご自身の現行管理委託契約書の条項を最優先に確認してください。契約内容により予告期間や要件が異なる可能性があります。
いきなり契約解除を通告しても、即時終了はできません。契約解除の予告期間は、マンション標準管理委託契約書に記載されている場合、その条項に従います。一般的には30日~3ヶ月の予告期間が定められることが多いですが、ご自身の契約書で実際の規定を確認してください。[参考] 国土交通省『マンション標準管理委託契約書』第18条 https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001630190.pdf
見積もり依頼の現実的な進め方
新しい管理会社を探す際の相見積もりは基本ですが、注意が必要です。特に中小規模マンション(20~40戸程度)では、複数社への依頼が管理会社側に多大な労力を強いるため、対応を敬遠されるケースがあります。管理会社は、現地調査を複数回、清掃会社・エレベーター点検・消防設備などの外注調整、理事会との面談などを要するため、労力が大きいのです。実務上、2~3社程度に絞ることで、管理会社側の協力が得られやすくなる傾向があります。
【注記】最適な社数は、管理組合の規模や地域の管理会社数により異なります。マンション管理士や現在の管理会社に相談し、適切な競争見積もりの方法を確認してください。組合側の要望が強すぎると、管理会社から敬遠される恐れがあるため、バランスを考慮しましょう。
「一式」見積もりは避ける!詳細な業務仕様書を求めよ
新しい業者から見積もりを得る際、「清掃業務一式 〇〇円」といった大雑把な表記は受け入れないでください。これでは契約範囲の曖昧さが再発します。
- 求めるべき項目:
- 清掃場所(廊下、階段、エントランス等)
- 作業内容(掃き、拭き、ゴミ拾い等)
- 作業頻度(週〇回、月〇回)
- 各項目ごとの費用内訳
詳細な業務仕様書に基づく見積もりで、価格の妥当性を比較し、将来のトラブルを防ぎましょう。
まとめ:建設的な対話で快適な住環境を取り戻そう
マンション清掃の品質に対する不満は、感情的に訴えるのではなく、体系的な手順で解決します。
- ステップ1:準備
- 管理委託契約書の清掃条項を確認。
- 写真と5W1Hで客観的な証拠を記録。
- 理事会で共有し、組合の公式問題とする。
- ステップ2:実践
- 理事会から管理会社へ書面(メール等)で連絡。
- 契約根拠と具体的な改善要求、回答期限を明記。
- ステップ3:エスカレーション
- 改善されない場合、「善管注意義務違反」を根拠に強く要請。
- 責任者面談や、最終手段として業者変更を検討。
一方的に非難せず、契約に基づく建設的な対話が鍵です。まずはご自身の管理委託契約書を確認してみてください。
免責事項
本記事は、マンション管理に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言を行うものではありません。具体的な問題解決にあたっては、ご自身のマンションの管理規約や管理委託契約書の条項を必ずご確認ください。また、区分所有法や関連ガイドラインは改正される可能性がありますので、最新の情報は国土交通省のウェブサイト等でご確認いただくか、弁護士等の専門家にご相談ください。
⚠︎ 重要な法的制限事項
- 本記事は法的助言ではありません。 個別の契約解釈・是正要求の方法・法的措置については、弁護士等の法律専門家に必ずご相談ください。
- 管理委託契約書の内容が最優先です。 記事で述べた手順や期限も、ご自身のマンションの契約条項に優先されます。必ず契約書を確認し、不明な点は管理会社またはマンション管理士にご質問ください。
- 決議要件に関する注意。 本記事で述べた「理事会決議」「総会決議」には、マンション標準管理規約や、ご所属マンションの独自規約に定める定足数・議決権が適用されます。特に特別決議(規約の変更や管理会社変更等)は、区分所有者及び議決権の3/4以上の多数が必要です。
参考資料
- 国土交通省「マンション標準管理委託契約書及び同コメント」 https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001630190.pdf
- e-Gov法令検索「民法」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
- 株式会社合人社計画研究所「マンション管理最前線【第13回】清掃はどこまで?管理委託契約と清掃業務」 https://www.gojin.co.jp/m-saizensen/13.html
- MGM銘建株式会社「マンションの清掃が行き届いていない!不満を感じたときの対処法を解説」 https://www.mgmmansion.com/dissatisfied/not-clean.html
- 明日を良くする株式会社「管理会社へのクレームは怖くない!伝え方の例文や改善しない時の対処法」 https://www.asok-inc.co.jp/column/terrible_mansion_management_company/
- 株式会社心東亜「管理会社へのクレームの入れ方!よくあるトラブルと対処法」 https://shintoa-tosou.jp/blog/how-to-file-a-complaint-with-the-management-company/
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

