【4ステップで確認】マンション管理費の値上げ、その妥当性と総会での対応策

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マンションの管理組合から「管理費値上げ」の通知が届き、驚いている方も多いのではないでしょうか。物価高が続く中、家計への影響は無視できません。しかし、この値上げはあなたのマンションだけの問題ではないかもしれません。

本記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、マンション管理費が値上げされる社会的な背景から、その金額が妥当かどうかを判断するための具体的なステップまでを、公的なデータや法令に基づいて解説します。値上げの通知を前に、ただ受け入れるのではなく、その根拠を理解し、建設的に向き合うための知識を身につけましょう。この記事を読めば、総会で的確な質問をしたり、管理組合の一員として主体的に関わるための第一歩を踏み出せます。

管理費の値上げは、個別のマンションの問題だけでなく、日本社会全体が直面している構造的な課題が原因です。主な背景として、以下の3点が挙げられます。

理由1:人件費の高騰(最低賃金の上昇と人材不足)

管理費の支出で大きな割合を占めるのが、管理員や清掃員の人件費です。近年、厚生労働省が定める最低賃金は全国的に引き上げられています。これに伴い全国加重平均額も上昇しており、管理会社が支払う人件費コストを直接押し上げています。

さらに、他の業種でも人手不足が深刻化しており、人材を確保するための競争が激化しています。これにより、従来よりも高い賃金を提示しなければ管理員や清掃員を確保できない状況が生まれています。

理由2:共用部の光熱費や資材価格の上昇(物価高騰)

エントランスの照明やエレベーターの動力となる電気代、共用施設のガス代といった光熱費も、近年のエネルギー価格高騰の影響を大きく受けています。総務省統計局が公表する消費者物価指数(CPI)を見ても、電気代や都市ガス代は高い水準で推移しており、マンション全体の維持コストを増加させています。

また、清掃用具や補修に必要な資材の価格も上昇しており、日常的な維持管理にかかる費用全体が膨らんでいるのです。

理由3:旧来の契約料金の見直しと管理品質の向上要求

新築分譲時に、販売促進のために管理費が意図的に安く設定されているケースがあります。しかし、築年数が経過するにつれて維持管理に必要なコストは増大するため、どこかのタイミングで現実的な金額に見直さざるを得ません。

また、住民の高齢化やライフスタイルの変化に伴い、コンシェルジュサービスの充実や防犯カメラの増設など、より高い管理品質を求める声が強まることも、結果として管理費の上昇につながる場合があります。

目次

【公的データで確認】あなたのマンションの管理費は適正?全国平均と比較

値上げの妥当性を考える上で、まずは客観的な「ものさし」として全国の平均データと比較してみましょう。その前に、議論の前提となる用語の違いを明確にしておきます。

【用語解説】管理費と修繕積立金の違い

  • 管理費:日常の共用部分の維持管理(清掃、光熱費、管理員人件費、保険料など)に使われる費用です。いわば「マンションの生活費」にあたります。
  • 修繕積立金:将来の大規模修繕工事(外壁塗装、屋上防水、給排水管更新など)のために計画的に積み立てる費用です。こちらは「将来のための貯金」です。

今回のテーマである「管理費の値上げ」は、このうち「日常の生活費」に関する議論です。両者は目的も会計も明確に区別される必要があります。

国土交通省「マンション総合調査」に見る管理費の全国平均額

国土交通省が5年ごとに実施している「マンション総合調査」の最新版(令和5年度〈2023年度〉調査)によると、管理費の月額・戸あたりの全国平均は以下のようになっています。

項目月額・戸あたり平均額
管理費の全体平均額16,213円
駐車場使用料等からの充当額を
除いた実質的な管理費負担額
11,114円
(出典:国土交通省「令和5年度(2023年度)マンション総合調査結果」P.38より作成)

お住まいのマンションの管理費がこの平均額と比べて高いか安いか、一つの目安になります。ただし、これはあくまで全国平均であり、マンションの規模、共用施設の充実度、所在地によって適正額は変動します。

管理費の主な支出内訳とチェックすべき費目

同調査によると、管理費会計からの支出内訳は以下の通りです。

支出項目構成比主な内容
管理委託費52.3%管理会社に支払う費用(管理員人件費、事務管理費など)
共用部分の水道光熱費10.1%エレベーター、廊下、集会室などの電気・水道代
共用部分の保険料5.7%火災保険、賠償責任保険など
その他31.9%小規模な修繕費、町内会費、理事会活動費など
(出典:国土交通省「令和5年度(2023年度)マンション総合調査結果」P.41より作成)

支出の半分以上を「管理委託費」が占めていることがわかります。つまり、管理費の値上げを議論する際は、この管理委託費の内訳がどうなっているかを確認することが極めて重要です。

管理費値上げの妥当性を自分で判断する4ステップ【確認書類チェックリスト】

平均データとの比較とあわせて、ご自身のマンションの状況を具体的に確認することが不可欠です。総会で配布される以下の4つの書類をチェックすることで、値上げの妥当性を判断する材料が得られます。

ステップ1:【総会議案書】で値上げの根拠と使途を確認する

総会議案書には、管理費を値上げする議案が含まれています。ここで確認すべきは「なぜ値上げが必要なのか」「値上げした分は何に使われるのか」という具体的な説明です。

  • チェックポイント
    • 値上げの理由が具体的に記載されているか?(例:「最低賃金上昇に伴う管理員人件費の改定のため」)
    • 値上げ後の新たな収支予算案が示されているか?
    • 増額分がどの費目に充当されるか明確になっているか?

ステップ2:【収支報告書】で「何が」「いくら」上がったのかを前年度比較する

収支報告書は、管理組合の家計簿にあたります。前期の予算と実績、そして前年度の実績が比較できるように記載されています。

  • チェックポイント
    • 前期と比較して、特に支出が増加している勘定科目は何か?(管理委託費、水道光熱費など)
    • その増加額は、値上げ提案額と整合性が取れているか?
    • 収入(管理費収入、駐車場使用料など)に大きな変動はないか?

ステップ3:【事業計画書】で将来の収支バランスは健全かチェックする

事業計画書には、次期の活動予定とそれに伴う収支予算案が記載されています。これにより、値上げが場当たり的なものではなく、長期的な視点に基づいているかを確認できます。

  • チェックポイント
    • 値上げをしない場合、収支は赤字になる見込みか?
    • 提案されている値上げ幅は、収支を健全化するために必要最低限のものか?
    • 管理品質の向上など、新たなサービスが計画されている場合は、その費用対効果は妥当か?

ステップ4:【管理委託契約書】で業務範囲と費用が見合っているか確認する

管理費支出の大部分を占める管理委託費。その根拠となるのが管理会社との間で締結している管理委託契約書です。現在の業務内容と委託費が見合っているかを確認しましょう。

  • チェックポイント
    • 清掃の頻度、管理員の勤務時間、各種点検の回数などは適切か?
    • 不要不急、あるいは過剰なサービスは含まれていないか?
    • 業務内容に対して、委託費は近隣の類似マンションと比較して高すぎないか?

これらの書類は、マンションの区分所有者であれば誰でも閲覧する権利があります。総会前に必ず目を通し、疑問点を整理しておきましょう。

値上げ決議のプロセスは適正?区分所有法に基づく総会の決議要件

管理費の値上げは、管理組合の総会での決議を経て正式に決定されます。この手続きが法律に則って正しく行われているかを知ることも重要です。ここでポイントになるのが「普通決議」と「特別決議」の違いです。

【用語解説】普通決議と特別決議の違い

  • 普通決議:原則的な決議方法です。区分所有者および議決権の各過半数の賛成で可決されます。(出典:建物の区分所有等に関する法律 第39条第1項)
  • 特別決議:規約の変更など、特に重要な事項を決めるための、より厳格な決議方法です。区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成が必要です。(出典:同法 第31条第1項)

どちらの決議が必要かを知ることで、総会での議決が法的に有効かどうかを判断できます。

原則は「普通決議」:区分所有者および議決権の各過半数

【重要】まず、ご自身のマンションの管理規約をご確認ください。
以下で説明する決議要件は区分所有法の原則であり、管理規約で異なる定め(例:議決権の過半数のみで可決できる、など)がある場合は、そちらが優先されます。

管理費の値上げは、通常、毎年の「事業計画」や「収支予算」の承認という形で行われます。この場合、必要な決議要件は原則として「普通決議」となります。

普通決議の要件(区分所有法第39条第1項)
① 区分所有者の過半数(頭数)
② 議決権(専有部分の床面積割合)の過半数
→①と②の両方を満たす必要がある(規約に別段の定めがない限り)

【要注意】管理規約の金額変更は「特別決議」が必要なケースも

注意が必要なのは、マンションの「管理規約」に管理費の具体的な金額(例:「管理費は1平方メートルあたり月額〇〇円とする」)が明記されている場合です。この場合、値上げをするには管理費の額を定める規約そのものを変更する必要があるため、「特別決議」が求められます。

ご自身のマンションの管理規約を確認し、管理費の額が直接規定されているか、それとも総会決議で別途定めるとされているか、チェックすることが重要です。

値上げ案への対応と最終手段:総会での質問から管理会社の見直しまで

値上げの背景やデータを精査した上で、それでも提案内容に納得できない場合、区分所有者としてどのような行動を取るべきでしょうか。

ポイント1:具体的なデータに基づいて質問・意見表明する

総会の場で感情的に「反対!」と叫ぶだけでは、建設的な議論にはなりません。事前にチェックした収支報告書や事業計画書を基に、「なぜこの費目がこれだけ増額になるのか」「他のコストを削減する余地はないのか」といった具体的な根拠を示して質問することが大切です。

ポイント2:コスト削減の対案を理事会に提案する

反対するだけでなく、対案を示すことも有効です。例えば、「清掃の頻度を週3回から2回に見直すことでコストを削減できないか」「不要な共用施設の運用を停止してはどうか」といった具体的な提案を理事会に行い、検討を促しましょう。

ポイント3:感情的な反対がもたらす長期的なリスク

管理費の値上げを拒否し続けると、必要な維持管理ができなくなり、結果としてマンションの美観や安全性が損なわれる恐れがあります。これは資産価値の低下に直結します。値上げはあくまでマンションという共有財産を維持するための手段であり、必要なコストまで削ってしまうことは、長期的には自分自身の不利益につながるリスクを理解しておく必要があります。

【最終手段】管理会社の見直しを検討する際の3つの鉄則

現在の管理会社の業務内容や委託費に根本的な疑問がある場合、最終手段として管理会社の見直し(リプレイス)も選択肢の一つです。ただし、安易な行動は失敗のもと。以下の3つの鉄則を守りましょう。

鉄則1:見積もり比較では「一式」表記を避け、詳細な内訳を求める

複数の管理会社から見積もりを取る際は、必ず詳細な内訳の提出を求めましょう。国が定める「標準管理委託契約書」では、業務は「事務管理」「管理員」「清掃」「建物・設備管理」などに区分されています。

(記載例)
NGな見積もり:「管理委託費一式 〇〇円」
OKな見積もり:
・事務管理業務費:XX円
・管理員業務費:XX円
・清掃業務費:XX円
・建物・設備管理業務費:XX円

「一式」表記では、どの業務にいくらかかっているか分からず、適正な比較ができません。

鉄則2:過度な相見積もりはNG!現実的な交渉社数を考える

コストを下げたい一心で、5社も6社も相見積もりを取る管理組合もありますが、これは逆効果になることがあります。特に小〜中規模のマンションでは、管理会社側も見積もり作成に多大な労力(現地調査、清掃や各種点検の外注先との調整、理事会との面談など)がかかるため、過度な競争を敬遠し、質の高い提案が出てこなくなる可能性があります。

相見積もりの適切な社数については、業界では3〜5社が一般的な目安とされていますが、実務的には理事会の負担や管理会社の対応品質を考慮すると2〜3社に絞るのが現実的という見方もあります。マンションの規模や状況に応じて判断することが重要です。

鉄則3:価格だけで判断しない!業務仕様と担当者の対応力を総合評価する

見積金額が安いことだけを理由に管理会社を選ぶのは危険です。安さの裏には、清掃の質が低い、管理員のレベルが低い、トラブル対応が遅いといったリスクが潜んでいる可能性があります。提示された業務仕様書の内容を精査し、担当者の専門性や対応力を面談で見極めるなど、価格以外の要素を総合的に評価することが、長期的な資産価値維持につながります。

まとめ:管理費の値上げは「自分ごと」として向き合おう

マンション管理費の値上げは、人件費や物価の高騰といった社会的な背景があり、避けられない側面があります。重要なのは、その値上げが自分たちのマンションの資産価値を維持するために、本当に必要で妥当なものなのかを冷静に見極めることです。

  1. 背景を理解する:人件費・物価高騰という社会情勢を把握する。
  2. 現状を把握する:公的データで相場観を知り、収支報告書などで自分たちのマンションの財務状況を確認する。
  3. プロセスを確認する:値上げの決議が、区分所有法や管理規約に則った適正な手続きで行われているかチェックする。
  4. 建設的に関与する:総会ではデータに基づき質問・提案し、マンションの将来を「自分ごと」として考える。

管理費は、快適で安全なマンションライフを維持するための大切な費用です。今回の値上げをきっかけに、ぜひマンション管理への関心を深めてみてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 管理費と修繕積立金の違いは何ですか?
A. 管理費は、清掃や共用部の光熱費、管理員の人件費など、日常的な維持管理に使われる「生活費」です。一方、修繕積立金は、十数年ごとに行われる外壁塗装や防水工事といった大規模修繕のために積み立てる「貯金」です。両者は目的も会計も明確に区別されます。

Q. 分譲マンションの「管理費」と賃貸の「共益費」は違うものですか?
A. はい、異なります。分譲マンションの管理費は、区分所有者で構成される管理組合が、建物の維持管理のために徴収・管理する費用です。一方、賃貸物件の共益費は、建物の所有者(大家)が廊下の電気代や清掃費など、共用部分の維持管理費用として入居者から徴収するものです。

Q. 「マンション管理適正評価制度」は管理会社の良し悪しを評価するものですか?
A. いいえ、直接的には違います。「マンション管理適正評価制度」は、あくまで「マンションの管理状態」(管理組合の運営、収支状況、長期修繕計画など)を星の数で評価する制度であり、「管理会社のサービス品質」を直接評価するものではありません。良い評価を得ているマンションは、結果として良い管理が行われている可能性は高いですが、制度の目的を混同しないよう注意が必要です。


【本記事について】
本記事は執筆時点の情報に基づいています。統計データ等は公開時点での最新版を参照していますが、最低賃金等は毎年改定されるため、最新情報は各公的機関のウェブサイトでご確認ください。

【免責事項】
本記事は、マンション管理費に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、特定のマンションにおける個別具体的な案件に対する法的助言を行うものではありません。実際の対応にあたっては、必ずご自身のマンションの管理規約や総会議案書等の内容をご確認いただくとともに、必要に応じてマンション管理士等の専門家にご相談ください。法令や制度は改正される可能性があるため、最新の情報をご確認ください。

参考資料

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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