-いざという時に命を守る“最後の砦”-
ビルやマンション、商業施設など、ある程度の規模を有する建物には「連結送水管(れんけつそうすいかん)」という設備が設けられていることがあります。この設備は日常生活では目立たない存在ですが、万が一火災が発生した際には、人命と建物を守る“最後の砦”とも言える極めて重要な消防設備です。
本コラムでは、連結送水管の設置義務の概要と、定期点検の意義について、実務的な視点から解説いたします。
■ 連結送水管とは
連結送水管とは、消防隊が地上から建物内に消火用の水を送るために使用する配管設備のことです。建物の外部(主に1階付近)に「送水口」があり、内部の各階に「放水口」が設置されており、これらが配管で繋がっています。
火災時に消防隊が地上の送水口にポンプ車のホースを接続し、加圧した水を建物の上階へ供給することで、上階でも迅速な消火活動が可能となります。
■ 設置義務のある建物とは?
連結送水管の設置は、以下のような一定規模以上の建物に対して義務づけられています(消防法施行規則より一部抜粋)。
- 高さ31メートルを超える建築物(おおむね11階建て以上)
- 地階を含む階数が5以上で、延べ面積が600㎡を超える防火対象物
- 延べ面積が1,000㎡を超える劇場、百貨店、ホテル、病院、物品販売業を営む店舗など
- 特定用途が複合されている複合施設等で基準を満たすもの
これらは一例であり、最終的な判断は各自治体の消防機関が行うため、設計時や用途変更時には所轄の消防署に確認が必要です。
■ 法的位置づけと点検義務
消防法 第17条の3の3(点検義務)
消防法施行規則 第31条の6(点検基準)
消防庁通知「消防予第110号(令和元年6月28日)」
→ 明確に「3年に1回以上、加圧送水試験を実施すること」と記載されています。
点検名称 | 加圧送水試験(耐圧性能点検) |
実施頻度(法定) | 3年に1回以上(消防予第110号) |
点検方法 | 送水口から約1.0MPaの水圧で送水し、全系統を確認 |
点検実施者 | 消防設備士 or 消防法第17条関係技術者 |
報告義務 | 消防設備点検報告書に添付し所轄消防署へ提出 |
■ 点検を怠ることのリスク
点検を怠ると、以下のような重大なリスクがあります。
- 火災時に水が送れない(弁が固着、管が閉塞など)
- 接続部が腐食や破損により漏水し消火不能
- 消防活動の遅延により被害が拡大
- 消防法違反による指導・命令・罰則対象
- 損害賠償責任の発生(管理者の責任が問われる)
過去には、点検未実施や故障により消火活動に支障が出た実例も報告されています。特に高層階の火災では、連結送水管が機能しないと、消火活動が極めて困難になります。
■ 実務上の注意点
- 定期点検は専門業者に依頼を
連結送水管は高圧水を扱う設備のため、点検には専門知識と機材が必要です。消防設備士など資格を持った業者へ依頼することが不可欠です。 - 点検中は事前周知を
点検時は一時的にポンプ車から水を送るため、水音や一時的な水道使用制限が発生することがあります。入居者・テナントへの事前通知が望ましいです。 - 古い設備は更新を検討
昭和〜平成初期の建物では、配管の腐食や部品の劣化も懸念されます。点検結果に応じて更新・補修を行いましょう。
■ まとめ
連結送水管は、普段使うことがないからこそ「いざという時」に確実に機能する状態を保つ必要があります。そのための定期点検は単なる法令遵守ではなく、命を守る行動です。
マンション管理組合・管理会社としては、単に業者に任せきりにするのではなく、「今、自分たちの建物の連結送水管は本当に機能するか?」という意識を持つことが重要です。