自主管理マンションの3大リスクとは?宅建士が教える資産価値を守る知識

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自主管理マンションの運営は、管理会社に支払うコストを削減できる魅力がある一方で、専門知識の不足から様々なリスクを抱えがちです。特に「会計」「建物」「運営」の3つの分野で問題が顕在化しやすく、資産価値の低下や住民トラブルに直結するケースも少なくありません。この記事では、宅地建物取引士の視点から、自主管理マンションが直面する具体的なリスクを、国土交通省の公的データや法律に基づいて徹底解説します。リスクを正しく理解し、自主管理を続けるための改善策や、管理会社への委託を検討する際の現実的な進め方まで、マンションの未来を守るための具体的な知識を提供します。

自主管理マンションを選ぶ主な動機は、管理会社に支払う委託費用を削減できる点にあります。しかし、そのコストメリットの裏には、専門知識や経験を持つ人材がいないことによる潜在的なリスクが潜んでいます。

「コスト削減」の裏にある潜在的リスク

自主管理とは、管理会社に業務を委ねる「管理委託」とは異なり、管理組合が会計、修繕計画、総会運営など全ての業務を直接行う方式です。これにより、月々の管理委託費は不要になります。

しかし、これらの業務は本来、法律や建築、会計といった専門知識を要するものです。ボランティアベースの理事会だけで全てをカバーしようとすると、対応の遅れや判断ミスが生じやすくなり、結果として大きな損失に繋がる可能性があります。

リスクは「会計」「建物」「運営」の3つに大別される

自主管理マンションが抱えるリスクは、大きく分けて以下の3つに分類できます。

  1. 会計・金銭トラブル: 管理費の滞納や横領など、組合の財産に直接関わる問題。
  2. 建物・修繕トラブル: 適切な修繕が行われず、建物の老朽化や資産価値の低下を招く問題。
  3. 組合運営・人的資源トラブル: 役員のなり手不足や合意形成の困難さなど、コミュニティの機能不全に関わる問題。

これらのリスクは互いに連鎖しやすく、一つを放置すると他の問題まで深刻化させる危険性があります。以降の章で、それぞれの具体的な内容と対策を詳しく見ていきましょう。

目次

【リスク1】会計・金銭トラブル|管理組合の根幹を揺るがす問題

管理組合の活動資金である管理費や修繕積立金。この金銭管理に問題が生じると、組合運営そのものが立ち行かなくなります。

管理費・修繕積立金の滞納と督促の遅延

自主管理マンションでは、管理費等の滞納が発生しても、督促業務を理事自身が行わなければなりません。同じマンションの住民に対して金銭の催促を行うことは精神的な負担が大きく、対応が遅れがちになります。

国土交通省の最新調査によれば、3ヶ月以上の滞納がある管理組合の割合は、全体の29.2%に上ります(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」2024年6月公表)。

滞納が長期化すると、組合の資金繰りが悪化するだけでなく、真面目に支払っている他の区分所有者との間に不公平感を生み、コミュニティの和を乱す原因にもなります。

【専門家注釈】区分所有法に基づく強力な法的措置
管理費等の滞納は、賃貸住宅の家賃滞納とは法的性質が異なります。区分所有法に基づく強力な法的措置として、以下が認められています。

  • 先取特権(区分所有法第7条): 他の債権に優先して弁済を受けられる権利。
  • 競売請求(区分所有法第59条): 特別決議(原則として組合員総数・議決権総数の各4分の3以上)により、滞納者の住戸を強制的に競売にかけることが可能。※この決議要件は規約で変更できません。

しかし、これらの手続きには法的な専門知識が必要であり、自主管理組合だけで実行するのは困難です。

会計担当者の知識不足と業務負担

会計業務は、日々の入出金管理、帳簿作成、決算報告書の作成など、専門性と正確性が求められます。しかし、会計の専門家が理事にいるとは限りません。知識不足のまま担当すると、処理の誤りや書類の不備が発生し、総会での承認が得られないといった事態にもなりかねません。

また、業務負担が特定の理事に集中しやすく、心身ともに疲弊してしまうケースも少なくありません。

チェック機能の不全が招く「横領」のリスク

最も避けなければならないのが、管理費等の横領です。特定の人物が長期間にわたり会計を担当し、他の役員が内容を十分にチェックしない「ブラックボックス化」した状態は非常に危険です。

実際に、自主管理マンションでは管理組合の理事が約3,000万円の修繕積立金をギャンブル等に私的流用した事例や、会計担当の住民が約500万円の修繕積立金を持ち逃げし、住民同士で資金を補填したことでコミュニティに深刻な対立を生んだ事例が発生しています。委託管理であっても大手管理会社の社員が1億円以上を着服した事例もありリスクはゼロではありませんが、委託管理の場合は会社の使用者責任として損害が補償される場合がある点が、自主管理との大きな違いです。

横領リスクを低減するためには、以下のような具体的な対策が不可欠です。

  • 会計帳簿の複数人チェック: 会計担当者とは別に、複数の役員が定期的に帳簿と通帳を照合する。
  • 監事による定期監査: 監事がその役割を正しく理解し、年に1回以上、厳格な会計監査を実施する。
  • 収納口座と保管口座の分離: 日常の支払いを行う「収納口座」と、修繕積立金などを保管する「保管口座」を分け、保管口座からの出金には理事長印と監事印など複数の印鑑を必要とするルールを設ける。

【リスク2】建物・修繕トラブル|資産価値を直接脅かす問題

建物の維持管理は、マンションの資産価値に直結する最重要課題です。専門知識の不足は、気づかぬうちに建物の老朽化を加速させます。

専門知識不足による長期修繕計画の不備

長期修繕計画は、将来必要となる大規模修繕工事の時期と費用を予測し、資金計画を立てるための設計図です。国土交通省が公表する「マンション標準管理規約(単棟型)」第28条では、長期修繕計画の作成と定期的な見直しを管理組合の業務として定めています。この標準管理規約は法令ではなくガイドライン(ひな型)ですが、多くのマンションの管理規約はこれに準拠しており、実質的には長期修繕計画の策定は管理組合の重要な義務と位置づけられています。

しかし、建築の専門家がいない自主管理組合では、計画の内容が不十分であったり、そもそも計画自体が存在しなかったりするケースがあります。国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」などを参考に、専門家の助言を得ながら実態に即した計画を作成・更新することが重要です。

修繕積立金の不足と建物の老朽化スパイラル

不適切な長期修繕計画は、修繕積立金の不足を招きます。国土交通省の調査では、計画額に対して積立額が「不足している」と回答した管理組合は34.8%に達しています(出典:国土交通省「令和3年度マンション総合調査結果」2022年公表。※令和5年度調査結果での最新値は要確認)。

修繕積立金が不足すると、必要な時期に修繕工事が実施できず、建物の劣化が進行します。劣化が進むと、さらに大規模な工事が必要となり、費用も増大するという「老朽化スパイラル」に陥る危険があります。

国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」で、マンションの規模や仕様に応じた積立金の目安額を示しており、自分たちのマンションの積立額が適正かを確認する際の重要な指標となります。

緊急時の対応遅れと住民の安全

給排水管からの漏水やエレベーターの故障など、緊急のトラブルが発生した際に、どこに連絡し、どのように対処すればよいか、迅速な判断が求められます。管理会社がいれば24時間対応の窓口がありますが、自主管理の場合は理事自身が対応しなければなりません。

対応マニュアルが整備されていなかったり、専門業者との繋がりがなかったりすると、初動が遅れ、被害が拡大する恐れがあります。これは住民の安全を直接脅かす問題です。

【リスク3】組合運営・人的資源トラブル|コミュニティ崩壊に繋がる問題

マンション管理は「人」によって支えられています。その人的資源が枯渇すると、管理組合は機能不全に陥ります。

理事のなり手不足と役員の高齢化

多くの自主管理マンションが直面しているのが、理事のなり手不足です。役員の業務負担が大きいことや、責任の重さから、誰もが敬遠しがちになります。役員が常に同じメンバーで固定化したり、高齢化が進んだりすると、新しい視点での改善が難しくなり、運営が停滞する原因となります。

理事が負う「善管注意義務」という法的責任

理事の活動を「無報酬のボランティア」と誤解してはいけません。理事をはじめとする役員は、管理組合に対して法的な責任を負っています。

これを「善管注意義務(善良な管理者の注意義務)」と呼びます。理事と管理組合の関係は法的には委任契約(民法第644条)に該当し、理事は「その役職にある者として、一般的に期待されるレベルの注意を払って職務を遂行する義務」を負います。例えば、修繕積立金が不足することを知りながら放置し、建物に損害を与えた場合などには、役員が組合に対して損害賠償責任を問われる可能性もゼロではありません。

総会の形骸化と合意形成の困難さ

総会は、管理組合の最高意思決定機関です。しかし、区分所有者の無関心から出席率が低迷し、議決に必要な定足数を満たせず、重要な議案を決められないケースがあります。

特に、規約の変更や悪質な滞納者への競売請求など、重要な事項を決議するには「特別決議」が必要となります。原則として組合員総数及び議決権総数の各4分の3以上の賛成が必要です(区分所有法第31条、第59条)。ただし、競売請求等は規約による別段の定めができない事項である点に留意が必要です。一方、役員選任などの普通決議事項は、規約で定足数や決議要件を変更できる場合があります。

自主管理マンションのリスクにどう立ち向かうか?具体的な対策を解説

これまで見てきたリスクに対し、管理組合はどのような対策を講じることができるのでしょうか。選択肢は大きく分けて2つあります。

【対策1】自主管理を継続する場合の改善策

自主管理のメリットを活かしつつ、運営を改善していく方法です。

  • 外部専門家のスポット活用: 全てを自分たちで抱え込まず、必要な場面で専門家の力を借りる方法です。例えば、長期修繕計画の見直しは一級建築士に、滞納者への法的措置は弁護士に、総会運営の助言はマンション管理士に、というように部分的に依頼します。
  • 会計業務などの部分委託: 特に専門性が高い会計業務だけを、管理会社や会計事務所に委託する選択肢もあります。コストを抑えながら、金銭トラブルのリスクを大幅に軽減できます。
  • マニュアルの整備と情報共有: 理事が交代しても運営が滞らないよう、業務マニュアルや緊急時対応フロー、業者リストなどを整備し、組合員全体で共有できる仕組みを作ることが重要です。

【対策2】管理会社への委託・切り替えを検討する場合の注意点

リスクを根本的に解決するために、管理会社へ業務を委託(または全面的に切り替え)することも有効な選択肢です。会計、督促、業者手配といった日常業務から解放され、理事会は重要な意思決定に集中できます。

ただし、管理会社に丸投げするのではなく、組合として主体性を持ち、業務内容をしっかりチェックする姿勢が不可欠です。複数の管理会社から提案を受け、サービス内容と委託費用を比較検討しましょう。

【重要】管理計画認定制度の対象を正しく理解する

自主管理を続けるにせよ、委託を検討するにせよ、活用したいのが「管理計画認定制度」です。これは、マンション管理適正化法第5条の3に基づき、地方公共団体(市区町村)が、マンション(管理組合)の管理計画を認定する制度です。

認定を受ける過程で、自然と管理組合の運営状況や長期修繕計画を見直すことになり、管理レベルの向上に繋がります。また、認定されたマンションは市場での評価向上や、住宅金融支援機構の「フラット35」における金利優遇といったメリットも期待できます。

評価されるのは「管理組合の管理計画や運営状況」であり、「管理会社の能力や実績」を評価・ランク付けする制度ではありません。同様に「マンション管理適正評価制度」も、マンション(管理組合)の管理状態を評価するものであり、管理会社を直接評価するものではない点を正しく理解しましょう。

【管理会社側の本音】過度な相見積もりは敬遠される?現実的な進め方

管理会社への委託を検討する際、多くの組合が「相見積もり」を取ります。しかし、その進め方には注意が必要です。

見積もり作成にはこれだけの労力がかかっている

管理会社が1つのマンションの管理委託費を見積もるには、多大な時間と労力がかかります。

  • 現地調査: 建物の規模、設備(エレベーター、機械式駐車場等)の状態を詳細に確認。
  • 資料の読み込み: 管理規約、長期修繕計画、過去の総会議事録などを分析。
  • 協力会社への見積依頼: 清掃、設備点検、警備など、各業務の協力会社へ見積もりを依頼し、調整する。
  • 理事会との面談: 組合が抱える課題や要望をヒアリングし、提案内容を詰める。

これらの工程には、複数回の訪問と社内での綿密な作業が必要となります。

なぜ相見積もりは2〜3社が現実的なのか

特に20戸~40戸程度の自主管理マンションの場合、5社も6社も相見積もりを取ろうとすると、管理会社から敬遠されてしまう可能性があります。なぜなら、受注できるのは1社だけであり、多大な労力をかけても徒労に終わる確率が高いため、積極的に参加する会社が少なくなるからです。

【業界関係者の視点】
真剣に組合と向き合い、質の高い提案をするためには相応のコストがかかります。そのため、管理会社側も「本気で検討してくれる組合」に注力したいのが本音です。比較検討のためには、事前に候補を2~3社に絞り込み、各社とじっくり対話する進め方が、結果的にお互いにとって良い結果に繋がります。

候補を絞り込む際は、会社の得意分野(小規模マンションの実績が豊富か、など)や評判を事前にリサーチすることが重要です。

まとめ:リスクを正しく理解し、マンションの将来に最適な選択を

自主管理マンションは、コスト削減という大きなメリットがある一方、「会計」「建物」「運営」という3つの分野で深刻なリスクを抱えています。

  • 会計リスク: 滞納や横領は、公的データや法律の知識を基に、チェック体制を構築して防ぐ。
  • 建物リスク: 長期修繕計画の不備や積立金不足は、ガイドラインを参考に、計画的な維持管理で資産価値を守る。
  • 運営リスク: 理事のなり手不足や法的責任は、善管注意義務を理解し、外部専門家の活用も視野に入れる。

これらのリスクを放置すれば、マンションの資産価値は損なわれ、快適な居住環境も維持できなくなります。まずはご自身のマンションがどのような課題を抱えているかを把握し、自主管理を継続・改善するのか、専門家や管理会社の力を借りるのか、将来を見据えた最適な選択をすることが何よりも重要です。この記事が、その第一歩を踏み出す一助となれば幸いです。


参考資料

免責事項

本記事は、自主管理マンションに関する一般的な情報提供を目的としており、特定の管理組合の状況に対する法的な助言や財務的な助言を行うものではありません。個別の事案については、必ず弁護士やマンション管理士等の専門家にご相談ください。また、法令や各種ガイドラインについては、最新の改正内容をご確認ください。個別のマンションの管理規約や総会の決議が、本記事の内容に優先します。

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)
不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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