※本コラムの内容は、当社が独自に調査・収集した情報に基づいて作成しています。無断での転載・引用・複製はご遠慮ください。内容のご利用をご希望の場合は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。
大規模修繕を目前に控え、修繕積立金の不足が発覚。どう対策すれば良いのか、特に金融機関からの「借り入れ」は可能なのか。多くのマンション管理組合が直面するこの深刻な問題に対し、不安を抱える理事の方も少なくないでしょう。結論から言うと、修繕積立金の不足は計画的な手順を踏むことで解決可能です。金融機関からの借り入れも有効な選択肢ですが、それには区分所有法に定められた厳格な手続き「特別決議」が不可欠です。この記事では、宅地建物取引士の資格を持つ不動産ライターが、一次情報に基づき、修繕積立金不足が判明した際の具体的な対策、借り入れの法的手続きと流れ、公的融資と民間融資の選択肢、そして実務上の注意点までを網羅的に解説します。この記事を読めば、資産価値を守るための道筋を明確に描き、組合員の合意形成を円滑に進めるための具体的な行動指針を得られます。
修繕積立金が不足する実態と背景
自分たちのマンションは大丈夫、と思っていませんか。しかし、修繕積立金の不足は決して他人事ではありません。まずは、全国的な実態と、資金が不足する根本的な原因を理解しましょう。
全国の36.6%が積立金不足という現実
国土交通省が実施した「平成30年度(2018年度)マンション総合調査結果」によれば、長期修繕計画上の積立額に対して、実際の積立額が不足しているマンションは全体の36.6%に上ります(出典:国土交通省「平成30年度マンション総合調査結果」)。これは、3組合に1つ以上が将来の修繕費用を十分に確保できていないことを示しており、多くのマンションが共通の課題を抱えていることがわかります。
なぜ不足するのか?主な2つの原因
修繕積立金が不足する背景には、主に2つの原因が考えられます。
- 新築時の積立金設定が低い
新築分譲時、販売価格を魅力的に見せるために、毎月の修繕積立金が意図的に低く設定されるケースがあります。最初は安くても、段階的に値上げしていく「段階増額積立方式」が採用されることが多いですが、計画通りに値上げの合意形成ができず、結果的に資金不足に陥ります。 - 長期修繕計画の不備と物価上昇
策定から時間が経過した長期修繕計画は、現在の物価や人件費の高騰を反映しておらず、見積もりが甘くなっていることがあります。また、予期せぬ建物の劣化や小規模な修繕が重なり、計画外の支出が増えることも不足の一因です。
ここで、基本的な用語を整理しておきましょう。
「修繕積立金」は、10数年ごとに行われる大規模修繕工事のために積み立てる、計画的な将来への備えです。一方、「管理費」は、日常の清掃や共用部の電気代、エレベーター保守など、日々の維持管理に使われる費用です。この2つは目的が全く異なるため、会計上も厳密に区別して管理する必要があります。この違いを理解することが、適切な資金計画の第一歩です。
【STEP1】資金不足が判明した時の初期対応
修繕積立金の不足が判明した場合、すぐに「借り入れ」を検討する前に、まずは管理組合内部で取り組むべき対策があります。段階的なアプローチで、組合員の理解を得ながら進めることが重要です。
長期修繕計画の現実的な見直しが第一歩
最も重要な初期対応は、現在の長期修繕計画そのものを見直すことです。
計画が現状に即しているか、以下の点を確認しましょう。
- 工事項目と周期の妥当性:本当に今、その工事は必要か? 先送りできるものはないか?
- 費用の見積もり:最新の資材価格や人件費を反映しているか?
- 資金計画:将来の積立金収入と支出のバランスは取れているか?
計画の妥当性評価は専門的な知識を要するため、マンション管理士などの専門家に相談し、第三者の視点から診断を依頼することをお勧めします。診断結果に基づき、より現実的な計画に修正することが、全ての対策の出発点となります。
積立金の増額または一時金徴収の決議
計画の見直しによって、それでも資金が不足することが明確になった場合、次の選択肢は「積立金の増額」または「一時金の徴収」です。
- 修繕積立金の増額:毎月の積立額を引き上げ、将来にわたって安定的に資金を確保する方法です。区分所有者の継続的な負担は増えますが、一度に大きな出費を迫られることはありません。
- 一時金(臨時徴収金)の徴収:大規模修繕の直前など、急いで資金が必要な場合に、全区分所有者から一度にまとまった金額を徴収する方法です。短期的に資金を確保できますが、各戸の負担が大きくなるため、合意形成のハードルが高くなる傾向があります。
どちらの方法を選択するにしても、管理組合の総会で決議が必要です。特に、規約で定められた積立金額を変更する場合は、後述する「特別決議」が必要となるケースが一般的です。
【STEP2】金融機関からの借り入れ:法的手続きと流れ
積立金の増額や一時金の徴収だけでは資金確保が難しい、あるいは区分所有者の負担を平準化したい場合、「金融機関からの借り入れ」が有効な選択肢となります。ただし、これには法律で定められた厳格な手続きが必要です。
なぜ借り入れに「特別決議」が必須なのか?
管理組合が金融機関から資金を借り入れる行為は、「共用部分の管理に関する事項」のうち、区分所有者の負担に特別な影響を及ぼす「共用部分の変更」に該当する可能性があるため、法律で特に重い決議要件が課されています。
(建替え決議)第四十七条 …規約の制定、変更若しくは廃止…についての集会の決議は、…区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。
(出典:建物の区分所有等に関する法律 第四十七条)
「借り入れ」という行為そのものは、標準管理規約上は普通決議で可能と読める場合もありますが、多くの場合、借り入れとセットで大規模修繕工事の実施が決議されます。この工事が「共用部分の著しい変更」に該当する場合、区分所有法に基づき、区分所有者数および議決権の各4分の3以上の賛成による「特別決議」 が必要です(区分所有法第17条、標準管理規約第47条)。ただし、規約に別段の定めがある場合はその定めに従います。
| 決議の種類 | 必要な賛成数 | 主な対象議事 |
|---|---|---|
| 特別決議 | 区分所有者数および議決権の各4分の3以上 | 規約の変更、借り入れ、共用部分の重大な変更(大規模修繕)、建替え など |
| 普通決議 | 区分所有者数および議決権の各過半数 | 役員の選任・解任、予算・決算の承認 など |
この「4分の3以上」という要件は、規約で緩和することができない非常に厳しいものです。借り入れを検討する際は、この法的ハードルを越えるための丁寧な準備が不可欠であることを認識しておく必要があります。
総会での決議を成功させる3つのポイント
特別決議の成立は簡単ではありません。成功のためには、以下の3つのポイントを押さえた準備が鍵となります。
- 情報開示の徹底:なぜ借り入れが必要なのか、返済計画はどうなっているのか、他の選択肢(一時金など)と比較してなぜ借り入れが最善なのか、といった情報を分かりやすく資料にまとめ、事前に全戸へ配布・説明する。
- 複数回の説明会開催:総会本番だけでなく、事前に複数回の説明会を開催し、質疑応答の時間を十分に設ける。住民の疑問や不安を解消し、納得感を醸成することが重要です。
- 不在者・無関心層への働きかけ:総会に出席しない層に対しては、議決権行使書や委任状の提出を粘り強く依頼する。賛成・反対の意思表示だけでなく、決議の成立要件である「定足数」を満たすためにも、この働きかけは不可欠です。
借り入れ実行までの具体的なフロー
- 【理事会】借り入れ方針の検討:資金不足額の確定、返済シミュレーション、金融機関の選定。
- 【理事会】総会準備:議案書、説明会資料(工事内容、見積もり、返済計画等)の作成。
- 【全組合員】説明会の開催:複数回開催し、質疑応答を通じて理解を深める。
- 【総会】特別決議:借り入れおよび関連工事について、4分の3以上の賛成を目指す。
- 【理事会・金融機関】融資契約:決議成立後、金融機関と正式な融資契約を締結する。
- 【施工会社】工事契約・着工:融資実行後、施工会社と契約し、大規模修繕工事を開始する。
FAQ:修繕積立金の借り入れに関するよくある質問
修繕積立金の借り入れに、住民の同意はどのくらい必要ですか?
法律(区分所有法)およびマンション標準管理規約に基づき、原則として区分所有者数および議決権の各4分の3以上の賛成による「特別決議」が必要です。これは管理組合として資金を借り入れるための非常に重要な手続きです。
借り入れの際、理事長などが個人保証をする必要がありますか?
いいえ、原則として個人保証は不要です。借り入れの主体はあくまで「管理組合」であり、返済義務も組合が負います。返済原資は、組合員全員から徴収する修繕積立金となります。
どこか公的な融資制度はありますか?
はい、あります。独立行政法人住宅金融支援機構が提供する「マンション共用部分リフォーム融資」が代表的です。比較的低金利で長期の返済計画が組めるため、多くの管理組合で利用されています。
どこから借りる?公的融資と民間融資の比較
借り入れを決議した場合、次に問題となるのが「どこから借りるか」です。主な選択肢は、住宅金融支援機構などの「公的融資」と、銀行などの「民間融資」の2つです。
低金利が魅力の「住宅金融支援機構」の共用部分リフォーム融資
多くの管理組合にとって第一の選択肢となるのが、住宅金融支援機構(JHF)の「マンション共用部分リフォーム融資」です。
- メリット:最大の魅力は、全期間固定の低金利である点です。金利は時期によって変動しますが、一般的に民間融資(例:変動金利2.80%~3.80%)よりも低い水準で設定される傾向があり、返済計画が立てやすく、長期にわたって安定した資金繰りが可能になります。また、耐震改修工事など特定の要件を満たす場合には、さらに金利が引き下げられる制度もあります。
- 注意点:融資の対象となる工事内容に一定の要件があります。また、審査には長期修繕計画の妥当性などが厳しくチェックされるため、計画の見直しが不可欠です。審査結果により金利が異なるため、必ず複数機関に相談してください。
民間金融機関から借り入れる場合のポイント
メガバンクや地方銀行、信用金庫なども、マンション管理組合向けの融資商品を取り扱っています。
- メリット:日頃から取引のある金融機関であれば、相談がしやすく、手続きがスムーズに進む場合があります。また、融資条件について柔軟な対応が期待できるケースもあります。
- 注意点:金利は変動金利が一般的で、公的融資に比べて高くなる傾向があります。審査基準や融資条件は金融機関ごとに大きく異なるため、複数の機関を比較検討することが重要です。
公的融資と民間融資の比較【表】
以下に、一般的な特徴を比較した表をまとめます。実際の条件は金融機関や審査内容によって異なりますので、必ず個別に確認してください。
| 比較項目 | 公的融資(住宅金融支援機構) | 民間融資(銀行など) |
|---|---|---|
| 金利 | 全期間固定金利(比較的低金利) | 変動金利が中心(金利水準は様々) |
| 返済期間 | 比較的長期(例:最長20年) | 金融機関による(公的融資より短い場合も) |
| 担保 | 原則不要 | 原則不要 |
| 保証人 | 不要 | 不要 |
| 審査のポイント | 長期修繕計画の妥当性、積立金・管理費の滞納状況 | 組合の財務状況、滞納状況、取引実績など |
実務上のヒント:管理組合が陥りがちな3つの落とし穴
最後に、借り入れや修繕計画を進める上で、管理組合が陥りやすい実務上の注意点を3つ紹介します。これらを知っておくことで、無用なトラブルを避け、計画を円滑に進めることができます。
落とし穴1:安易な多社見積もりが招く「協力先の敬遠」
コスト削減のために、多くの施工会社や管理会社から見積もりを取ろうと考えるのは自然なことです。しかし、5社も6社も相見積もりを取るような組合は、かえって協力的な会社から敬煙されるリスクがあります。
特に、管理委託費の見直しの場合、見積もり作成には現地調査(3~4回)、清掃・警備・各種点検業者との打ち合わせ、理事会との面談など、管理会社側に多大な労力がかかります。特に20~40戸程度の中小規模マンションでは、その労力に見合うリターンが得にくいと判断され、見積もりの提出自体を断られることも少なくありません。タワーマンションなど大規模物件とは異なり、こうした規模のマンションでは、管理会社が積極的に管理取得を目指さないケースが増えます。
結論として、信頼できる候補を2~3社程度に絞って、真摯に交渉を進めることが、結果的に良いパートナーシップを築くための現実的な進め方です。見積もりは内訳を詳細に確認し、「一式」などの大まかな項目を避けるよう努めてください。
落とし穴2:借入責任の誤解(個人保証は不要)
「組合が借金をする」と聞くと、理事長や役員が個人で保証しなければならないのでは、と不安に思う方がいます。しかし、これは誤解です。
借り入れの契約主体はあくまで法人格を持つ「管理組合法人」または権利能力なき社団である「管理組合」です。返済は、全組合員から徴収する修繕積立金から行われます。理事などが個人保証を求められることは原則としてありません。この点を明確に説明し、役員のなり手不足を招かないようにすることも重要です。
落とし穴3:法改正(2026年4月施行)情報の見落とし
マンション管理をめぐる法律は、時代に合わせて変化しています。直近では、2026年4月1日に改正区分所有法が施行される予定です。
この改正では、以下の点が変更される見込みです(立法段階のため、詳細は施行直前に確認を):
- 招集通知の電子掲示への代替可能化(書面交付の柔軟化)。
- 所在不明区分所有者の決議要件の緩和(やむを得ない事由が不要に)。
- オンライン開催の要件明確化(集会そのものの開催方法の柔軟化)。
古い情報のまま手続きを進めてしまうと、決議が無効になるリスクもあります。常に最新の法令情報を法務省や国土交通省の公式サイトで確認し、必要であれば専門家のアドバイスを求める姿勢が大切です。
まとめ:計画的な資金対策で未来の安心を築く
修繕積立金の不足は、多くのマンションにとって避けがたい課題です。しかし、問題を先送りせず、計画的に対策を講じることで、マンションの資産価値を維持し、将来にわたる安心を築くことができます。
重要なステップをもう一度振り返りましょう。
- 現状把握:まずは長期修繕計画を現実的な内容に見直し、正確な不足額を把握する。
- 合意形成:積立金の値上げや一時金徴収について、十分な情報提供のもとで組合員の合意形成を図る。
- 借り入れの検討:借り入れを選択する場合、「特別決議」という法的ハードルを越えるための丁寧な準備を進める。
- 借入先の選定:住宅金融支援機構の公的融資と民間融資を比較し、組合にとって最適な選択肢を見つける。
これらのプロセスには時間と労力がかかりますが、一つひとつ着実に進めることが、管理組合全体の利益につながります。この記事が、あなたのマンションの未来を守るための一助となれば幸いです。
免責事項
本記事は、修繕積立金の借り入れに関する一般的な情報提供を目的としており、特定の管理組合の状況に対する法的な助言を行うものではありません。個別の事案に関するご判断や手続きについては、必ず顧問弁護士、マンション管理士、または管轄の行政庁にご相談ください。また、法令や各種制度は改正される可能性がありますので、最新の情報をご確認いただくようお願いいたします。
参考資料
- 国土交通省「平成30年度マンション総合調査結果」(https://www.mlit.go.jp/common/001256024.pdf)
- 松屋ハウジング「マンションの修繕積立金が足りない!不足する原因から対処法まで解説」(https://www.matsuya-iedepa.jp/knowledge/23132p/ ,2024年)
- 未来価値研究所「段階増額積立方式で積立金が不足する理由と管理組合ができること」(https://www.miraikachiken.com/column/230517_column_01/ ,2024年)
- SUUMO「修繕積立金の値上げは拒否できる?値上げの理由や具体的な対策を解説」(https://suumo.jp/article/oyakudachi/oyaku/ms_shinchiku/ms_knowhow/shuzentsumitatekin_neage/ ,2024年)
- 江口法律事務所「管理組合の借入れと保証人」(https://www.emg-law.jp/Q&A/Q&A_IV-4.html ,2023年)
- 建物の区分所有等に関する法律(e-Gov法令検索)
- 住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資」(https://www.jhf.go.jp/kanri/mansionreform_kanri/index.html)
- 国土交通省マンション政策ページ(法改正関連)
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

