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管理組合理事長のパワハラに悩むあなたへ:法的に正しく解任する方法
管理組合理事長の威圧的な言動や「パワハラ」ともいえる行為に、心を痛めていませんか。理事長という立場を利用した不適切な言動は、マンション全体の資産価値や居住環境を損なう重大な問題です。しかし、感情的な対立は避けたい、どうやって辞めてもらえばいいのか分からない、と悩んでいる方も多いでしょう。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、パワハラを行う管理組合理事長を法的に正しく解任するための具体的な方法を5つのステップで解説します。法的根拠(区分所有法や判例)に基づき、証拠の集め方から総会での決議、解任後の手続きまで、あなたが次に取るべき行動が明確になります。一人で抱え込まず、この記事を参考に、健全なマンション管理を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。
用語対照表
記事の理解を助けるため、主な用語を簡単に整理します。
- 普通決議:総会に出席した組合員の議決権の過半数で可決される決議(区分所有法第47条。ただし、管理規約で異なる定めがある場合、その規約が優先)。
- 特別決議:組合員および議決権の総数の4分の3以上の賛成が必要な厳格な決議(例:規約変更)。本記事で扱う解任は原則普通決議ですが、規約により特別決議が求められる場合あり。
- 解職:理事長などの役職のみを解く(理事の地位は維持)。
- 解任:理事という役員の地位そのものを失わせる。
- 5分の1要件:組合員総数の5分の1以上の同意で臨時総会招集が可能(区分所有法第34条第4項。ただし、規約で異なる定めがある場合、その規約が優先)。
そもそも管理組合における「パワハラ」とは?
理事長の行為が「パワハラ」に該当するかどうかを判断することは、解任手続きを進める上での第一歩です。厚生労働省が示す職場のパワーハラスメントの定義を参考に、管理組合特有の状況に当てはめてみましょう。主に以下の3つの要素を満たす場合に、パワハラと判断される可能性が高まります。
- 優越的な関係の利用(理事長という立場)
理事長は、総会や理事会の招集権、議長の職務など、他の理事や組合員に対して強い権限を持っています。この「理事長」という立場を利用して、反対意見を封じ込めたり、特定の組合員に不利益な扱いをしたりすることは、優越的な関係の濫用に該当します。 - 業務の適正な範囲を超える言動
管理組合の運営という「業務」において、必要性も合理性もない言動は問題となります。具体的には、以下のような行為が考えられます。- 理事会や総会の場で、特定の個人を大声で恫喝、罵倒する
- 合理的な理由なく特定の組合員の意見を無視し、議事進行を妨げる
- 管理規約や法令を無視した運営を強行しようとする
- 個人的な感情で、特定の業者を不当に排除または推奨する
- 精神的・身体的苦痛や就業環境の悪化
理事長の言動により、他の理事や組合員が精神的な苦痛を感じたり、理事会が機能不全に陥ったりするなど、マンションの管理運営(就業環境)が悪化している状態を指します。マンション内は生活空間であり、顔を合わせる機会も多いため、精神的苦痛が深刻化しやすい特徴があります。
これらの要素を客観的な証拠と共に示すことが、後の解任手続きにおいて極めて重要になります。
「解任」と「解職」の違いと決議方法
手続きを進める前に、重要な用語を整理しておきましょう。目的によって選ぶべき手続きが異なります。区分所有法の原則として、総会決議による解任が基本であり、理事会決議による解職は例外的な対応です(区分所有法第47条)。ただし、管理規約で異なる定めがある場合、その規約が優先されます。
- 解職(かいしょく)
理事長や副理事長といった「役職」だけを解くこと。理事としての地位は維持されます。理事の互選で理事長を選んでいる規約の場合、理事会の決議で可能です。 - 解任(かいにん)
理事という「役員としての地位」そのものを失わせること。より根本的な対応であり、原則として総会の決議が必要です。 - 普通決議
総会において、議決権総数の過半数を有する組合員が出席し、その出席組合員の議決権の過半数で可決される決議です。理事の解任は、原則としてこの普通決議によります(出典:区分所有法 第47条、マンション標準管理規約 第47条第13号)。現行の標準管理規約(令和7年3月改正版)の35条3項では:「理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事会の決議によって、理事のうちから選任し、又は解任する。」と定められています。ただし、個別マンションの管理規約が優先されるため、解任の決議要件が普通決議か特別決議かを確認してください。 - 特別決議
規約の変更など、特に重要な事項を決議する方法。組合員総数の4分の3以上、かつ議決権総数の4分の3以上の賛成が必要など、普通決議よりも要件が厳しくなっています。
これらの違いを理解することで、状況に応じた最適な解決策を選択できます。パワハラが深刻で理事としての適格性自体が問われる場合は「解任」を、まずは理事長という権限を外したい場合は「解職」を検討することになります。
理事長を辞めさせる4つの方法|メリット・デメリット比較
パワハラ理事長に対応するには、主に4つの法的な方法があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、状況に応じて最適な手段を選びましょう。
| 方法 | 概要 | メリット | デメリット | 法的根拠など |
|---|---|---|---|---|
| 方法1:理事会決議による「解職」 | 理事会を開き、理事の多数決で理事長の「役職」のみを解く。 | ・手続きが比較的迅速かつ容易 ・総会を開く手間が省ける | ・理事としての地位は残るため、影響力が完全には排除できない ・他の理事の協力が不可欠 | 最高裁平成29年12月18日判決 |
| 方法2:総会決議による「解任」 | 総会を招集し、普通決議で理事の「役員としての地位」自体を解く。 | ・最も正攻法で根本的な解決策 ・理事としての影響力を完全に排除できる | ・総会招集の手間と時間がかかる ・組合員の過半数の賛同を得る必要がある | 区分所有法 第25条、第47条 |
| 方法3:監事・組合員による臨時総会の招集 | 理事長が総会開催を拒否する場合、監事または一定数の組合員が総会を招集し、解任を決議する。 | ・理事長の妨害を乗り越えて解任手続きを進められる | ・組合員総数の5分の1以上の賛同を集める必要がある(規約で変更可) ・手続きが複雑化しやすい | 区分所有法 第34条 |
| 方法4:裁判所への解任請求 | 理事長の不正行為や職務不適格を理由に、地方裁判所に解任を請求する。 | ・第三者である司法の判断を仰げる ・最終的な手段として強力 | ・時間と費用がかかる ・「不正行為等」の立証責任は請求側(組合員)にあり、ハードルが高い | 区分所有法 第25条 |
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- 方法1:理事会決議による「解職」:概要 – 理事会で多数決により理事長役職のみ解く。メリット – 迅速容易、総会省略可。デメリット – 理事地位残存で影響残る、協力必須。根拠 – 最高裁平成29年12月18日判決。
- 方法2:総会決議による「解任」:概要 – 総会普通決議で役員地位自体を解く。メリット – 根本解決、影響完全排除。デメリット – 時間・労力かかる、過半数賛同必要。根拠 – 区分所有法第25条・第47条。
- 方法3:監事・組合員による臨時総会招集:概要 – 監事または組合員が総会招集し解任決議。メリット – 理事長妨害克服。デメリット – 5分の1賛同必要、手続き複雑。根拠 – 区分所有法第34条。
- 方法4:裁判所への解任請求:概要 – 不正・不適格を理由に裁判所請求。メリット – 司法判断得られる、強力。デメリット – 時間・費用かかる、立証責任重い。根拠 – 区分所有法第25条。
多くの場合、まずは方法1(理事会での解職)を検討し、他の理事の協力が得られない場合や、より根本的な解決が必要な場合に方法2(総会での解任)へと進むのが現実的な流れです。
【実践】パワハラ理事長を解任する5つのステップ
ここでは、最も王道かつ根本的な解決策である「総会決議による解任」を念頭に、具体的な5つのステップを解説します。理事長の解任は総会決議が基本ですが、管理規約で異なる場合があります。
【法的根拠の確認】
理事長のパワハラが「解任理由」として認められるのは、区分所有法25条2項に基づきます:「管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有자는、その解任を裁判所に請求することができる。」パワハラのような威圧的言動は、「職務を行うに適しない事情」に該当する可能性があります。これを裁判所や総会に示すため、客観的な証拠が必須となります。また、区分所有法第6条の判例では、いやがらせ行為等が役員に対する違法行為と認定されており、パワハラ行為が解任の正当性を補強します。
Step 1:証拠の収集と事実整理【最重要】
感情論ではなく、客観的な事実に基づいて解任の必要性を訴えるために、証拠収集がすべての始まりです。パワハラがあったことを第三者が理解できる形で記録に残しましょう。証拠収集の重要性は、過去の横領事案のように、不正が発覚するまで時間がかかる事例からも明らかです。
- 音声データ:理事会や総会での暴言、恫喝などを録音する。
- 書面・メール:威圧的な内容のメールや手紙、議事録などを保管する。
- 日時・言動の記録:いつ、どこで、誰が、何を言った(した)のかを時系列で詳細にメモする。
- 第三者の証言:他の理事や組合員、管理会社担当者など、パワハラを見聞きした人の証言をメモや書面で残してもらう。
これらの証拠は、後の理事会や総会で説明する際の強力な武器となります。
Step 2:管理規約の確認(解任のルールを把握する)
次に、ご自身のマンションの「管理規約」を確認します。特に以下の項目は必ずチェックしてください。
- 役員の選任および解任に関する条項
- 解任の決議要件は「普通決議」か、それとも「特別決議」が求められるか。
- (標準管理規約では、役員の解任は普通決議事項とされています)
- 総会の招集手続きに関する条項
- 組合員が臨時総会を請求する場合に必要な賛同者数(区分所有法では「組合員の5分の1以上」ですが、規約で異なる定めが可能です)。
規約が手元にない場合は、管理会社に問い合わせるか、他の理事に確認しましょう。
Step 3:理事会での提起と「解職」決議の検討
証拠と規約の確認が済んだら、まずは理事会で問題を提起します。他の理事に協力を求め、理事長本人(当事者)に改善を求めるか、あるいは理事会の決議で理事長の「解職」を目指します。
最高裁判例(平成29年12月18日)により、理事の互選で理事長を選んでいる場合、理事会決議で理事長を解職することは適法とされています。たとえ理事長本人が理事会を欠席しても、事前に適法な招集通知が本人に届いていれば、決議は有効です。この理事会は理事長の解職を目的とするものであり、通知の記録が適法性を確保します。
この段階で理事長職を解くことができれば、総会を開くことなく問題を一旦収束させられる可能性があります。
Step 4:総会招集の準備と組合員への根回し
理事会での解決が難しい、または理事としての地位そのものを解任する必要があると判断した場合は、総会での解任決議を目指します。
理事長が総会の開催を拒否・妨害する場合は、監事に臨時総会の招集を請求する方法、または組合員総数および議決権総数の5分の1以上(規約に別段の定めがあればその数)の賛同を得て、組合員から総会を招集することが可能です(出典:区分所有法 第34条第4項)。ただし、規約で異なる定めがある場合はその定めが優先されます。監事は理事会や他の組合員の承認なく単独で請求可能です。
総会を招集する際は、招集通知の「議案」に解任について明記する必要があります。
| (記載例) 第1号議案 理事〇〇氏の解任に関する件 (解任理由:理事会における度重なる暴言等の職務遂行に著しく適さない行為のため) |
表が表示されない場合の代替テキスト: 記載例 – 第1号議案:理事〇〇氏の解任に関する件(理由:理事会での暴言等による職務不適格)。
また、総会で賛成票を得るために、他の組合員への事前説明(根回し)が重要です。Step1で集めた客観的な証拠を基に、感情的にならず、事実を淡々と説明して理解を求めましょう。理事長の行為がマンション全体のコミュニケーション悪化や管理効率低下を招く点も、組合員に伝えると理解が得やすいです。
Step 5:総会での解任決議と議事録の作成
総会当日は、議長が議事を公平に進めることが重要です。解任対象の理事長本人にも弁明の機会を与えるのが一般的です。
議論の後、採決を行い、決議要件(通常は出席組合員の議決権の過半数の賛成)を満たせば解任が成立します。決議後は、誰が、どのような理由で、どのような決議の結果解任されたのかを明確に記載した議事録を作成し、適切に保管してください。これは後のトラブルを防ぐための重要な証拠となります。
解任後の重要手続きと専門家への相談
解任後の新体制構築
理事長を解任しただけでは問題は終わりません。組合運営に空白期間を作らないため、速やかに後任の理事や理事長を選任する必要があります。通常は、解任を決議した総会で補欠の理事を選任し、その後速やかに臨時理事会を開いて新しい理事長を互選します。新たな理事によって理事長が選出される一連の流れを正確に進めることが、健全な管理組合運営の再スタートにつながります。
弁護士・マンション管理士への相談が賢明な理由
一連の手続きは法的な知識を要し、手順を誤るとかえってトラブルが大きくなるリスクもあります。独断で進める前に、専門家への相談を強く推奨します。
- マンション管理士:管理組合の運営や規約に関する専門家。手続きの進め方や組合内の合意形成について実践的なアドバイスが期待できます。
- 弁護士:法的な紛争解決のプロ。特に、相手方との対立が激しい場合や、裁判所への請求を視野に入れる場合に頼りになります。名誉毀損などのリスク管理についても相談できます。
費用はかかりますが、専門家の助言を得ることで、より安全かつ確実に問題解決へと進むことができます。一人で悩まず、早い段階で相談窓口を頼ることも検討しましょう。
よくある質問(Q&A)
Q1. 解任決議に必要な賛成数は?
A1. あなたのマンションの管理規約が最優先です。
【標準管理規約に基づく場合】
国土交通省『マンション標準管理規約』では、役員の解任は「総会の普通決議」(出席組合員の議決権の過半数)と定められています。法的根拠:区分所有法 第47条、標準管理規約 第47条第13号。
【ただし重要な留保】
あなたのマンションの管理規約で異なる決議要件が定められている場合、その規約の定めが優先されます。必ずご確認ください。
例:特別決議(組合員総数の4分の3以上+議決権総数の4分の3以上)を要求する規約や、理事会決議による解職のみを許可する規約も存在します。
→ 手続きを進める前に、管理会社または現在の理事に「解任に必要な決議要件」を確認してください。
Q2. 理事長が総会の開催を拒否したらどうする?
A2. 2つの方法があります。1つは監事に臨時総会の招集を請求する方法。もう1つは、組合員総数および議決権総数の5分の1以上の賛同者を集め、組合員が理事長に対して総会招集を請求し、それでも理事長が応じない場合に自ら招集する方法です(出典:区分所有法 第34条第4項)。ただし、規約で異なる定めがある場合はその定めが優先されます。
Q3. 証拠が不十分な場合はどうすればいい?
A3. 証拠が乏しいまま解任手続きを進めるのはリスクが高いです。まずは他の理事や組合員、管理会社の担当者などに相談し、協力して証言や記録を集められないか試みてください。それでも難しい場合は、弁護士やマンション管理士に相談し、現状で取りうる最善の策について助言を求めることをお勧めします。
Q4. 解任後に名誉毀損で訴えられるリスクは?
A4. リスクはゼロではありません。しかし、事実に基づかず感情的な誹謗中傷を行わず、客観的な証拠を基に「組合運営上の問題」として解任手続きを進めることで、リスクを大幅に低減できます。総会の議案や組合員への説明資料では、人格攻撃ではなく、具体的なパワハラ「行為」の事実を記載することが重要です。
まとめ:勇気ある一歩で、健全なマンション管理を取り戻そう
パワハラを行う理事長の問題は、放置すればマンション全体の価値を蝕む深刻な事態に発展しかねません。しかし、感情的に対立するのではなく、法律と規約というルールに則って正しく対処すれば、解決の道は開けます。
本記事で解説したポイントを再確認しましょう。
- 証拠収集が最重要:客観的な事実が手続きの成否を分ける。
- 規約の確認が第一歩:あなたのマンションのルールを把握する。
- 4つの方法を検討:「解職」と「解任」を使い分け、状況に応じた最適な手段を選ぶ。
- 正しいステップを踏む:総会での解任は、準備と根回しが鍵。
- 専門家を頼る:一人で抱え込まず、弁護士やマンション管理士に相談する。
理事長のパワハラに声を上げるのは勇気がいることです。しかし、その一歩が、あなた自身と多くの組合員の快適で安心な暮らし、そして大切な資産であるマンションを守ることにつながります。この記事が、そのための羅針盤となれば幸いです。
免責事項

本記事は、管理組合の役員解任に関する一般的な情報を提供するものであり、特定の事案に対する法的な助言を目的としたものではありません。個別の問題に対応する際は、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。また、法令や管理規約の改正等により、本記事の内容が最新の情報と異なる場合があります。手続きを進める際は、必ず最新の法令およびご自身のマンションの管理規約を確認してください。
参考資料
- 建物の区分所有等に関する法律(e-Gov法令検索)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069 - マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html - 裁判例結果詳細(裁判所ウェブサイト – 最高裁平成29年12月18日判決)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/829/087829_hanrei.pdf - 令和7年マンション標準管理規約のおもな改正点
https://sh-g.jp/info/realestate-t/1737/
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

