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マンションの管理会社変更は、組合運営における一大イベントです。その成否を分けるのが、住民への丁寧な説明と合意形成に他なりません。特に、理事会が主導して開催する「住民説明会」と、その場で配布する資料の質は、総会での円滑な決議に直結します。しかし、多くの理事役員の方が「何を、どこまで、どのように説明すれば良いのか」「法的に注意すべき点はないか」といった不安を抱えているのが実情です。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、管理会社変更のための住民説明会資料作成のポイントを徹底解説します。法令を遵守しつつ、住民の皆様に納得していただくための具体的な資料構成から、よくある質問への回答例、さらには見落としがちな手続き上の注意点まで、実践的なノウハウを網羅しました。この記事を読めば、自信を持って説明会に臨み、より良いマンション管理への第一歩を踏み出せるはずです。
【最重要】まず理解すべき2種類の「説明会」とその役割
管理会社の変更プロセスには、目的の異なる2種類の説明会が存在します。これらを混同すると手続きが混乱する原因となるため、最初にそれぞれの役割を正確に理解しておくことが極めて重要です。
住民の合意形成を目指す「任意の説明会」と、法的に義務付けられた「重要事項説明会」は、目的も開催主体も異なります。
| 種類 | ① 任意開催の説明会 | ② 重要事項説明会 |
|---|---|---|
| 目的 | 住民への情報提供・意見交換・合意形成 | 契約内容の法的説明義務の履行 |
| 主催者 | マンション管理組合(理事会) | 新管理会社の管理業務主任者 |
| 開催タイミング | 総会議案の決定前(理事会が候補を絞った段階) | 総会での決議前(総会当日に行われることが多い) |
| 法的根拠 | 特になし(管理規約に基づく場合あり) | マンション管理適正化法 第72条 |
※表が表示されない場合: [種類] ①任意開催の説明会 – 目的: 住民への情報提供・意見交換・合意形成、主催者: マンション管理組合(理事会)、開催タイミング: 総会議案の決定前(理事会が候補を絞った段階)、法的根拠: 特になし(管理規約に基づく場合あり)。②重要事項説明会 – 目的: 契約内容の法的説明義務の履行、主催者: 新管理会社の管理業務主任者、開催タイミング: 総会での決議前(総会当日に行われることが多い)、法的根拠: マンション管理適正化法 第72条。
【重要】管理業務主任者の役割明示: 重要事項説明会(②)は、新管理会社が配置する「管理業務主任者」という国家資格者が法的説明義務を負って実施します。理事会が開催する任意説明会(①)とは異なり、この説明会への出席と重要事項説明書の受領は、契約締結の前提条件です。
① 住民の合意形成を目指す「任意開催の説明会」
これは、理事会が「なぜ管理会社を変更したいのか」「新しい管理会社に何を期待するのか」を組合員に説明し、質疑応答を通じて理解を深め、合意形成を図るために自主的に開催する説明会です。総会での突然の提案による反発を避け、円滑な議決を目指す上で事実上、不可欠なプロセスと言えます。この記事で解説する「住民説明会資料」は、主にこの任意説明会で使用するものを指します。
② 法令で義務付けられた「重要事項説明会」
こちらは、新しい管理会社が、契約を締結する前に区分所有者全員に対して開催することが法律で義務付けられている説明会です(出典:マンション管理適正化法 第72条)。
国家資格者である「管理業務主任者」が、新しい管理委託契約の内容について法的な説明を行います。開催日の1週間前までに、説明事項を記載した書面(重要事項説明書)を全戸に配布する必要があります。通常は、管理会社変更を決議する総会の議案審議に先立って行われます。この説明会は総会決議前に行われ、管理業務主任者による契約内容の説明義務です。
説明会資料を作成する前の3つの準備ステップ
質の高い説明会資料は、周到な準備から生まれます。いきなり資料作成に取り掛かるのではなく、以下の3つのステップを着実に踏むことが成功の鍵です。
Step1: 変更理由の明確化と理事会内での合意形成
まず、「なぜ管理会社を変更する必要があるのか」を理事会内で徹底的に議論し、客観的な言葉で説明できるように整理します。
- 現状の課題: 清掃の質が低い、管理員の対応が悪い、修繕提案がない、管理委託費が高いなど。
- 課題の具体化: 「〇〇の清掃が月1回しか行われていない」「緊急時の電話対応に〇分以上かかることがある」など、具体的な事例やデータを集めます。
- ゴール設定: 新しい管理会社に何を期待するのか(例:コスト削減、サービス品質向上、長期修繕計画の積極的な提案など)を明確にします。
この変更理由が曖昧なままでは、住民を説득することはできません。
Step2: 新管理会社候補の選定と見積もり取得
変更理由が固まったら、複数の新しい管理会社候補に声をかけ、提案と見積もりを取得します。この段階では、各社のサービス内容、実績、担当者の対応力などを比較検討します。
宅建士のチェックポイント
この理事会による選定プロセス自体が、後の住民説明会での重要な説明材料となります。「理事会が公正なプロセスで、責任を持って候補を選んだ」ことを示すことが、住民の信頼を得る上で非常に重要です。
Step3: 見積もり依頼は2〜3社が現実的【管理会社側の本音】
多くの管理会社を比較したい気持ちは分かりますが、むやみに多くの会社(例えば5社以上)に見積もりを依頼するのは得策ではありません。
実は、管理会社にとって正確な見積もり作成は、相当な時間と労力を要する業務です。組合側の要望が強すぎると、管理会社から敬遠される恐れがあります。小〜中規模のマンション(例: 20戸〜40戸程度)の場合、過度な相見積もりを求める組合は、管理会社側から「手間がかかる割に受注確度が低い」と判断され、質の高い提案を受けられなくなる可能性があります。
- 現地調査: 建物や設備の状況確認で数回訪問。
- 資料精査: 既存の契約書や点検報告書を詳細に読み込む。
- 外注先調整: 清掃、エレベーター点検、警備など、協力会社との調整。
- 理事会対応: 提案内容の説明や質疑応答で複数回の面談。
管理会社側は、管理委託内容の精査および会計状況、1棟全体の管理費等の見積もり作成をするには3〜4回ほど現地に足を運び、清掃会社、EV点検、消防、警備など多岐にわたる外注先との打ち合わせを行った上で理事会数名との面談も数回こなすため、労力が大きいです。真剣に検討してくれる会社からの質の高い提案を引き出すためにも、見積もり依頼は2〜3社に絞るのが現実的で賢明な選択です。
【テンプレート付き】住民説明会資料の完全構成ガイド
ここでは、任意開催の説明会で使う資料の具体的な構成と、各パートで記載すべきポイントを解説します。PowerPointなどで作成することを想定しています。
表紙・目次(アジェンダ)
- 表紙: 「〇〇マンション 管理会社変更検討に関する住民説明会」といったタイトル、開催日時、開催場所、主催者(〇〇マンション管理組合 理事会)を明記します。
- 目次: これから説明する内容の全体像を示し、住民が話の流れを理解しやすくします。
1. なぜ今、管理会社変更を検討するのか(背景と現状の課題)
説明会の冒頭で最も重要な部分です。準備ステップ1で整理した内容を基に、以下の点を分かりやすく伝えます。
- 現管理会社との契約内容と現状のサービスレベル
- 清掃、管理員業務、会計報告などで起きている具体的な問題点
- 理事会として、いつから、どのようにこの問題を検討してきたかの経緯
2. 新しい管理会社の選定プロセスと提案概要
理事会が透明性のあるプロセスで候補を選んだことを示します。
- 選定基準(例:コスト、実績、提案力)
- 何社を比較検討したか
- なぜこの会社を最終候補として推薦するのか
その上で、新管理会社候補の概要(会社規模、実績、特徴)と、提案の骨子(「私たちのマンションのために、こんなことをしてくれます」)を簡潔に紹介します。
3. 新旧サービスの比較(メリット・デメリット)
住民が最も知りたい部分の一つです。客観的な視点で、新旧のサービスを比較する表を作成すると効果的です。
| 比較項目 | 現管理会社 | 新管理会社(候補) | 変更による主な変化 |
|---|---|---|---|
| 管理員業務 | 週3日勤務(9-12時) | 週5日勤務(9-15時) | 住民対応時間の拡大 |
| 定期清掃 | 共用廊下:月2回 | 共用廊下:週1回 | 共用部の美観向上 |
| 緊急時対応 | 電話のみ(営業時間内) | 24時間コールセンター | 夜間・休日の安心感向上 |
| 理事会支援 | 議事録作成のみ | 議案書素案作成、IT化支援も | 理事会の負担軽減 |
※表が表示されない場合: 比較項目: 管理員業務 – 現管理会社: 週3日勤務(9-12時)、新管理会社(候補): 週5日勤務(9-15時)、変更による主な変化: 住民対応時間の拡大。定期清掃 – 現: 共用廊下:月2回、新: 共用廊下:週1回、変化: 共用部の美観向上。緊急時対応 – 現: 電話のみ(営業時間内)、新: 24時間コールセンター、変化: 夜間・休日の安心感向上。理事会支援 – 現: 議事録作成のみ、新: 議案書素案作成、IT化支援も、変化: 理事会の負担軽減。
メリットだけでなく、想定されるデメリット(例:管理員が変わることによる一時的な混乱など)や、サービス内容に大きな変化がない点についても正直に記載することが信頼に繋がります。
4. 費用はどう変わる?管理委託費の比較と注意点
費用は住民の最大の関心事です。正確かつ誠実に情報を開示する必要があります。
「管理費が下がります」という表現は誤解を招くため避けましょう。「管理委託費が〇円削減される見込みです」と、費用の種類を正確に伝えることが重要です。
管理費と管理委託費の違い
- 管理費: 組合員が組合に支払う、共用部の維持管理に使われる費用全般。
- 管理委託費: 管理組合が管理会社に業務の対価として支払う費用。「管理費」の中から支出されます。管理委託費は管理費に包含される一部です。
管理委託費(管理会社への支払いであり、管理費の一部を構成する)と、組合員が負担する管理費(共用部の維持管理に必要な費用総額)は異なる概念です。修繕積立金は独立会計であり、管理委託費の変動が直接影響を与えることは一般的にはありません。
図解例:
┌─ 管理費(全体)
│ ├─ 管理委託費 ← 新旧会社で金額変動の可能性あり
│ └─ その他共用部費用
└─ 修繕積立金 ← 独立会計、通常は変動なし
見積もりを比較する際は、「一式」という大雑把な項目ではなく、内訳が分かる比較表を提示しましょう。
| 費用項目 | 現管理会社(月額) | 新管理会社(月額) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 事務管理業務費 | 100,000円 | 95,000円 | -5,000円 |
| 管理員業務費 | 120,000円 | 150,000円 | +30,000円 |
| 清掃業務費 | 80,000円 | 70,000円 | -10,000円 |
| 設備管理費 | 50,000円 | 50,000円 | 0円 |
| 合計 | 350,000円 | 365,000円 | +15,000円 |
※表が表示されない場合: 費用項目: 事務管理業務費 – 現管理会社(月額): 100,000円、新管理会社(月額): 95,000円、差額: -5,000円。管理員業務費 – 現: 120,000円、新: 150,000円、差額: +30,000円。清掃業務費 – 現: 80,000円、新: 70,000円、差額: -10,000円。設備管理費 – 現: 50,000円、新: 50,000円、差額: 0円。合計 – 現: 350,000円、新: 365,000円、差額: +15,000円。
5. 変更までの全体スケジュール
住民に今後の見通しを示し、安心感を与えます。
- 本日: 住民説明会
- 〇月〇日: 総会招集通知発送
- 〇月〇日: 管理会社変更を決議する臨時(または通常)総会開催
- 〇月〇日: 現管理会社への解約通知 ※現管理委託契約書の解約条項(例: 予告期間3ヶ月等)を最優先で確認し、遵守してください。標準管理委託契約書を参考に。
- 〇月〇日~: 新旧管理会社による引継ぎ期間
- 〇月〇日: 新管理会社による管理開始
6. 想定される質疑応答(Q&A)
説明会で出そうな質問を予測し、あらかじめ回答を用意しておくことで、議論がスムーズに進みます。詳しくは後述の「よくある質問」の章を参考にしてください。
説明会後の手続きと総会決議までのロードマップ
説明会はゴールではありません。総会での正式な決議を経て、初めて管理会社の変更が実現します。
説明会議事録の作成と共有
説明会での質疑応答の内容を議事録としてまとめ、組合員に共有します。これにより、参加できなかった住民にも情報が行き渡り、議論の透明性が担保されます。
総会招集通知と議案書の準備
総会開催日の少なくとも1週間前(多くの管理規約では2週間前を定める場合もあります)に、会議の日時、場所、目的(議題)を記載した招集通知を全組合員に発送します。ご自身の管理規約で定める期間を必ずご確認ください。議案書には、管理会社変更の理由、新管理会社の概要、新しい管理委託契約書の案などを添付します。
総会での決議要件(原則は普通決議)
管理会社の変更は、規約の変更などを伴わない限り、原則として「普通決議」で決定されます。
区分所有法 第三十九条
集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
(出典:e-Gov法令検索)
多くの管理規約の元となっている国土交通省の「マンション標準管理規約」では、普通決議の要件は以下のように定められています。
- 定足数: 議決権総数の過半数(50%超)を有する組合員が出席すること。
- 可決要件: 出席組合員の議決権の過半数の賛成があること。
※これは標準管理規約の例であり、ご自身のマンションの管理規約で定められた決議要件を必ず確認してください。管理規約に別段の定めがある場合、そちらを優先します。[区分所有法第39条ただし書参照]。【重要】法令改正情報:マンション標準管理規約は法改正を反映して更新されており、2025年5月に成立した改正区分所有法では、総会決議が「出席者多数決」へ転換されるなど、重要な変更が加えられています。手続きを進める際は、必ず最新の法令とご自身の管理規約、国土交通省の発表をご確認ください。
新管理会社による「重要事項説明」と契約締結
総会で変更議案が可決された後、新管理会社と正式に管理委託契約を締結します。このプロセスには、前述の「重要事項説明会」の実施が含まれます。
よくある質問と法的注意点|トラブルを未然に防ぐ知識
住民説明会や総会で頻出する質問と、理事会として留意すべき点についてまとめました。
Q. 管理費や修繕積立金も変わってしまうのですか?
A. いいえ、直接的には変わりません。今回変更するのは、管理会社へ支払う「管理委託費」です。皆様から集めている「管理費」や「修繕積立金」の金額そのものを変更する場合は、別途、総会での特別決議が必要となります。ただし、管理委託費が大幅に下がれば、将来的に管理費の値下げを検討する余地は生まれます。管理委託費は『管理費』の中に含まれる一部です。管理委託費が削減されても、修繕積立金は別会計であり、一般的には直接影響を受けません。
Q. 理事会として特定の会社を「推奨」しても良いですか?
A. 管理規約で禁止される場合を除き、原則として問題ありません。理事会は、組合の代表として最善と判断した選択肢を組合員に提案する責任があります。「理事会として、複数の候補を比較検討した結果、〇〇社への変更を提案(推奨)します」と明確に表明することは、リーダーシップを示す上でむしろ望ましいことです。ただし、個々の組合員の投票行動を強制するような言い方は避けるべきです。管理規約の定めを確認の上、ご自身のマンションの状況に合わせて判断してください。
Q. 総会で決まった後、変更を撤回することはできますか?
A. 総会で有効に成立した決議を覆すことは、法的に極めて困難です。そのため、総会での議決が非常に重要となります。万が一、新管理会社の業務に問題が生じた場合は、契約内容に基づき改善を求めたり、将来的には再度、管理会社の見直しを検討することになります。
まとめ:住民の納得が、より良いマンション管理の第一歩
管理会社の変更は、単なる業者の入れ替えではありません。マンションという共同資産の価値を維持・向上させるための重要な経営判断です。その成功の鍵は、理事会が明確なビジョンを持ち、透明性の高いプロセスで住民の合意を形成することに尽きます。
今回解説した住民説明会資料作成のポイントは以下の通りです。
- 2つの説明会を区別する: 住民合意形成のための「任意説明会」と法令義務の「重要事項説明会」の違いを理解する。
- 準備を徹底する: 変更理由を明確にし、公正なプロセスで候補を選定する(見積もりは2〜3社が現実的)。
- 構成に沿って作成する: 「背景→選定プロセス→新旧比較→費用→スケジュール→Q&A」の流れで、分かりやすい資料を作る。
- 正確な情報を提供する: 費用は「管理委託費」、決議要件は「普通決議」など、正確な用語と法令知識に基づいて説明する。
丁寧な資料に基づいた対話は、住民の不安を解消し、信頼を育みます。その先にこそ、マンション全体の管理意識が向上し、より快適で資産価値の高いコミュニティが実現するのです。
免責
本記事は、マンション管理会社の変更手続きに関する一般的な情報提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言を行うものではありません。実際の法的手続きや判断にあたっては、必ずご自身のマンションの管理規約をご確認の上、必要に応じて弁護士やマンション管理士などの専門家にご相談ください。法令やマンション標準管理規約は改正される可能性があるため、常に最新の情報をご参照ください。
参考資料
- e-Gov法令検索. 「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」.
<https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069> - e-Gov法令検索. 「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)」.
<https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC1000000149> - 国土交通省. 「マンション標準管理規約(単棟型)及び同コメント」.
<https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html> - 国土交通省. 「マンション標準管理委託契約書及び同コメント」.
<https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000053.html>
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

