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マンションの役員のなり手不足や業務負担の増大に悩み、「理事長代行」を検討していませんか。専門家に運営を任せるこの仕組みは有効な解決策ですが、「一体いくらかかるのか」「どこまで頼めるのか」といった費用に関する疑問は尽きないでしょう。理事長代行の費用は、マンションの戸数や委託する業務範囲によって大きく変動します。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、理事長代行の費用相場をマンション規模別に詳しく解説します。さらに、費用を左右する要因や、業者から透明性の高い見積もりを取得するための実践的なガイド、契約前の注意点までを網羅的にご紹介します。最後まで読めば、あなたのマンションに最適な理事長代行サービスを、適正な費用で選ぶための知識が身につきます。
【作成者の開示】
本記事は宅地建物取引士の知見に基づく一般情報提供です。特定のマンション管理士事務所や管理会社の推奨・斡旋を目的としていません。ご検討にあたっては、複数の専門家に相談されることをお勧めします。
理事長代行とは?管理会社との違いを1分で解説
理事長代行の費用を理解する前に、その役割と、よく混同されがちな「管理会社」との違いを明確にしておくことが重要です。両者の役割を正しく理解することで、無駄なコストを避け、組合に必要なサービスを正確に依頼できます。
理事長代行の役割:組合の「意思決定」をサポート
理事長代行とは、マンション管理組合の理事長業務を、組合員ではない第三者(多くはマンション管理士などの専門家)が、規約および総会決議に基づき受託する形態です。主な役割は、管理組合の「意思決定」を支援・代行することにあります。
具体的には、以下のような業務を担当します。
- 理事会の議長として会議を進行し、議事録を作成・保管する
- 総会を招集し、議長を務める
- 管理会社の業務を監督・チェックする
- 大規模修繕計画の立案や業者選定を主導する
- 管理費等の滞納者への督促を行う
役員のなり手不足に悩む組合や、より専門的で安定した組合運営を目指す場合に採用されることが多いです。この方式は「第三者管理方式(外部管理者方式)」とも呼ばれます。
管理会社の役割:建物の「維持管理」を実行
一方、管理会社は、管理組合との「管理委託契約」に基づき、日常的な建物の維持管理業務(管理事務)を行う事業者です。その役割は、総会や理事会で決定された事項を「実行」する部隊と考えると分かりやすいでしょう。
主な業務内容は以下の通りです。
- 会計業務(管理費・修繕積立金の徴収、出納)
- 清掃業務
- 建物・設備の保守点検(エレベーター、消防設備など)
- 理事会・総会の準備補助
理事長代行が「監督・司令塔」なら、管理会社は「現場の実務部隊」です。両者の違いを下記の表にまとめました。
| 理事長代行(外部専門家) | 管理会社 | |
|---|---|---|
| 役割 | 意思決定の支援・代行(監督・司令塔) | 維持管理業務の実行(実務部隊) |
| 立場 | 管理組合の代表(理事長)として運営を主導 | 管理組合からの委託業者として業務を遂行 |
| 契約根拠 | 総会決議、委任契約など | 管理委託契約 |
| 主な業務 | 理事会・総会の運営、管理会社の監督、大規模修繕の主導 | 会計、清掃、設備点検、事務作業 |
(表が表示されない場合:役割比較をテキストで代替 – 理事長代行(外部専門家):役割は意思決定の支援・代行(監督・司令塔)、立場は管理組合の代表として運営を主導、契約根拠は総会決議・委任契約、主な業務は理事会・総会の運営、管理会社の監督、大規模修繕の主導。管理会社:役割は維持管理業務の実行(実務部隊)、立場は管理組合からの委託業者として業務を遂行、契約根拠は管理委託契約、主な業務は会計、清掃、設備点検、事務作業。)
【相場一覧】理事長代行の費用はマンションの戸数で変わる
2025年時点の公開情報に基づく理事長代行の費用は、公的な統計データが存在しないため明確な「定価」はありません。理事長代行サービスに特化した費用相場データの公表は現時点では確認されていませんが、複数の専門家(マンション管理士事務所など)が公開している料金情報を分析すると、おおよその相場が見えてきます。費用は主にマンションの戸数によって変動するのが一般的です。
ここで示す相場は、あくまで一般的な目安です。実際の費用は、次章で解説する様々な要因によって変動するため、必ず個別に見積もりを取得して確認することを推奨します。
20~40戸(中小規模):月額3.5万円~13.5万円
小規模なマンションの場合、業務範囲によって費用が大きく異なります。
- 顧問型(助言のみ):月額3.5万円~6万円
理事会運営のサポートや相談対応が中心。例: 基本額27,500円 + 戸数×330円の計算モデルに基づく場合、20戸で約36,300円程度。 - 理事長代行型(全面委託):月額10万円~13.5万円
理事長業務のほぼ全てを代行。
50~100戸(標準規模):月額4.4万円~20万円
この規模になると、組合運営の業務量も増えるため、費用もそれに比例します。
- 顧問型:月額4.4万円~8万円
大規模修繕の計画など、専門的な課題への助言が含まれることもあります。例: 50戸で約44,000円。 - 理事長代行型:月額10万円~20万円
多くの事業者がこの価格帯を標準的な料金として提示しています。
100戸以上(大規模):月額13.5万円~(個別見積もり)
戸数が100戸を超える大規模マンションや、複数の棟からなる団地型マンションでは、業務が複雑化するため、ほとんどのケースで個別見積もりとなります。基本的な月額料金に、戸数に応じた加算額が設定されることが一般的です。団地型の場合、単棟型の1.5~2倍程度の相場差が生じる可能性があります。
| マンション規模(戸数) | 部分支援(顧問型)の費用相場 | 理事長代行(全面委託)の費用相場 |
|---|---|---|
| 20~40戸 | 月額 3.5万円~6万円(例:20戸≈36,300円) | 月額 10万円~13.5万円 |
| 50~100戸 | 月額 4.4万円~8万円(例:50戸≈44,000円) | 月額 10万円~20万円 |
| 100戸以上 | 個別見積もり | 月額 13.5万円~(個別見積もり) |
(表が表示されない場合:費用相場をテキストリストで代替 – 20~40戸:顧問型 月額3.5万円~6万円(例:20戸≈36,300円)、理事長代行型 月額10万円~13.5万円。50~100戸:顧問型 月額4.4万円~8万円(例:50戸≈44,000円)、理事長代行型 月額10万円~20万円。100戸以上:顧問型 個別見積もり、理事長代行型 月額13.5万円~(個別見積もり)。)
費用を左右する5つの重要ファクター
前述の相場に幅があるのはなぜでしょうか。それは、戸数以外にも費用を変動させる複数の要因があるためです。見積もりを比較検討する際は、以下の5つのファクターを理解しておくことが不可欠です。
ファクター1:業務範囲(顧問型か理事長代行型か)
最も大きく費用に影響するのが、どこまでの業務を委託するかです。
- 顧問型(部分委託):理事会や総会に同席して専門的な助言を行う、議事録をチェックするなど、業務範囲を限定するプランです。組合の自主性を維持しつつ、費用を抑えられるメリットがあります。
- 理事長代行型(包括委託):理事長として必要な業務全般を委託するプランです。役員の負担を大幅に軽減し、一貫性のある組合運営が期待できますが、費用は高くなります。
ファクター2:マンションの戸数
戸数が増えれば、居住者間の調整事項や対応すべき案件の数も増えるため、業務量に比例して費用は高くなるのが基本です。
ファクター3:管理会社の有無と連携体制
すでに日常的な維持管理を行う管理会社がいる場合、理事長代行者はその監督や連携に注力すればよいため、業務負担が軽減されます。そのため、管理会社がいない自主管理のマンションに比べて、費用が低く設定される傾向があります。
ファクター4:修繕・滞納問題の複雑度
マンションが抱える課題の深刻度も費用に影響します。
- 大規模修繕:計画段階か、すでに工事中か、業者選定で揉めているか、といった状況で対応業務が変わります。修繕支援の追加業務として月額30,800円~が発生する可能性があります。
- 滞納問題:管理費等の滞納者が多く、督促や法的手続きの検討が必要な場合は、追加の業務費用が発生することがあります。滞納相談の限定的サポートとして3~5万円程度の費用が想定されます。
ファクター5:地域・交通費
事業者の所在地からマンションが遠い場合、理事会や総会への出席にかかる交通費が実費で請求されることが一般的です。
理事長代行の費用は「一律いくら」ではありません。自組合が「何を」「どこまで」専門家に任せたいのかを明確にすることが、適正な費用で契約するための第一歩です。
見積もり取得と業者選定で失敗しないための実践ガイド
理事長代行の必要性を感じたら、次は具体的な業者選定のステップに進みます。ここで焦って多くの業者に声をかけるとかえって失敗する可能性があります。賢く、効率的に進めるためのガイドをご紹介します。
ステップ1:委託したい業務範囲を明確にする
まず、理事会内で「専門家に何を任せたいか」を具体的にリストアップしましょう。
- 理事会の司会進行は必要か?
- 議事録の作成まで任せたいか?
- 管理会社の月次報告書のチェックは必要か?
- 滞納者への督促状作成は依頼したいか?
- 大規模修繕委員会の運営サポートは必要か?
この作業を行うことで、見積もり依頼の内容が具体的になり、各社から精度の高い提案を受けやすくなります。
ステップ2:見積もり依頼は2~3社に絞るのが賢明
「多くの業者から見積もりを取った方が安くなるのでは?」と考えがちですが、理事長代行の見積もりにおいては必ずしもそうとは言えません。
見積もりを作成するために、業者は会計状況の確認、管理規約の読み込み、場合によっては現地調査など、相応の労力を要します。過度に多くの業者へ相見積もりを依頼すると、各社の負担が増大し、結果として丁寧な応対や詳細な提案が得られにくくなる可能性があります。信頼できそうな業者をウェブサイトなどで2~3社に絞り、じっくりと話を聞く方が、組合の実情に合った質の高い提案を引き出しやすくなります。
ステップ3:「一式」表記を避け、業務ごとの内訳を求める
提出された見積書が「理事長代行業務一式 ◯◯円」といった大まかな表記になっていないか確認しましょう。信頼できる業者であれば、依頼すれば業務項目ごとの単価や工数を提示することが期待されます。内訳が曖昧である場合、業務の取捨選択や後の価格交渉が困難になるため、複数社との比較検討が実施しにくくなります。 例: 理事会出席(1回あたり2時間につき15,000円、2回目以降20,000円)、議事録作成(1件あたり23,100円~)など。
ステップ4:選定基準(資格・実績・規約改正への対応力)
費用だけでなく、以下の点も重要な選定基準となります。
- 資格:担当者が「マンション管理士」の国家資格を持っているか。
- 実績:同規模のマンションでの実績や、契約継続年数。
- 連携体制:既存の管理会社と円滑に連携できるか。
- 法改正対応:法改正や新しいガイドラインに関する知識が豊富か。
理事長代行に関するよくある誤解と注意点(FAQ)
理事長代行の導入は、組合運営にとって大きな変化です。検討過程で生じがちな誤解や、法的な注意点を事前に確認しておきましょう。
誤解されがちな点1:「理事長代行は清掃や点検もやってくれる」
- 実態
これは典型的な誤解です。清掃や設備点検といった日常の維持管理は「管理会社」の業務範囲です。理事長代行は、それらの業務が適切に行われているかを「監督」する立場であり、自ら作業を行うわけではありません。
誤解されがちな点2:「費用は相場通りでどこに頼んでも同じ」
- 実態
相場はあくまで目安です。前述の通り、マンションの状況や委託する業務範囲によって費用は大きく変わります。低価格な事例については、サービス内容が極端に限定的であったり、想定される業務範囲外の費用が発生したりする可能性も考慮する必要があります。
注意点1:規約改正(特別決議)が必要なケースがある
外部の専門家を理事長(または理事)として迎えるには、管理規約の変更が必要になることがほとんどです。多くの管理規約では「役員は組合員の中から選任する」と定められており、このような場合には「組合員以外からも役員を選任できる」といった趣旨の条文を追加するための規約改正が求められます。
(役員)
(出典:国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」)
第三十五条 組合に、次の役員を置く。
一 理事長
二 副理事長 〇名
三 会計担当理事 〇名
四 理事(理事長、副理事長、会計担当理事を含む。以下「理事」という。) 〇名
五 監事 〇名
2 理事及び監事は、組合員のうちから、総会で選任する。(後略)
規約の変更は、原則として区分所有法第31条第1項に基づき、組合員総数および議決権総数の各4分の3以上の賛成による特別決議が必要です(参照: e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」)。既存の管理規約の定めによってはこの要件が異なる場合もありますが、多くの場合、理事会での協議を経て総会での承認を得る手続きが必要となります。
注意点2:訴訟などの法的手続きは業務範囲外
管理費滞納が深刻化し、訴訟などの法的手続きが必要になった場合、その代理人業務は弁護士の独占業務です。マンション管理士である理事長代行者が、組合の代理人として訴訟を遂行することは弁護士法第72条で禁止されている非弁行為にあたるため、できません。この場合、別途弁護士への依頼が必要になります。
まとめ:透明性の高い見積もりで、組合に合った理事長代行を選ぼう
今回は、マンションの理事長代行にかかる費用相場と、業者選定のポイントについて解説しました。
重要なポイントを振り返りましょう。
- 役割の区別:理事長代行は「意思決定の支援」、管理会社は「維持管理の実行」と役割が異なる。
- 費用相場:公的統計はないものの、20~40戸のマンションで顧問型月額3.5万円~6万円、理事長代行型月額10万円前後が一つの目安。ただし、業務範囲やマンションの状況で大きく変動する。
- 見積もり取得:依頼先は2~3社に絞り込み、業務内容の「内訳」を求めることが透明性確保の鍵。
- 法的手続き:導入には規約改正のための「特別決議」(原則、4分の3以上の賛成)が必要となるケースが多い。
役員のなり手不足や業務負担の増大は、多くのマンションが直面する課題です。理事長代行は、その有効な解決策となり得ます。この記事を参考に、まずは組合内で「どんな業務を専門家に任せたいか」を整理し、信頼できる専門家探しの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。適正な費用で最適なパートナーを見つけることが、マンションの資産価値を維持・向上させることに繋がります。
免責事項
本記事は、不動産に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の個人または法人に対する法的・税務的・投資的な助言ではありません。記事作成時点(2025年基準)の法令や情報に基づいていますが、その正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。
理事長代行の導入や契約の締結にあたっては、必ず最新の法令等をご確認いただくとともに、個別の契約条項を精査し、必要に応じて弁護士、マンション管理士等の専門家にご相談ください。本記事の情報に基づいて行われた行為により生じたいかなる損害についても、当サイトは一切の責任を負いかねます。
参考資料
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」
- e-Gov法令検索「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)」
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

