マンション排水管清掃の頻度|1〜2年に1回の目安と法的基準・費用相場

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マンションの排水管清掃、最後にいつ行いましたか?

日常生活で溜まる油汚れやヘドロが原因で、突然の詰まりや漏水が発生するリスクがあります。一般的な分譲マンションでは、これらのトラブルを防ぐための排水管清掃が重要ですが、頻度や費用、法的側面が分かりにくい点も多いでしょう。

この記事では、宅地建物取引士の視点から、マンション排水管清掃の頻度について、一般的な知識として法的基準、推奨サイクル、費用相場、リスクを解説します。個別の状況に応じた判断には、管理規約の確認や専門家への相談をおすすめします。

マンション排水管清掃の背景知識:なぜ清掃が必要なのか?

日常生活で流れる油汚れ、食べ物のカス、石鹸カス、髪の毛などは、排水管内部に蓄積し、ヘドロ状の汚れ(スライムやスケール)となります。これを放置すると、以下の問題が生じる可能性があります。

  • 詰まり・逆流:排水が滞り、シンクや浴槽に水が溜まる。汚水の逆流も起こり得ます。
  • 漏水事故:圧力がかかり接続部から水漏れが発生。階下住戸への被害が広がり、損害賠償につながるケースがあります。
  • 悪臭・害虫の発生:汚れの腐敗による臭いや、ゴキブリ・チョウバエなどの害虫の温床となります。

適切な頻度での排水管清掃は、これらのトラブルを防ぎ、マンションの資産価値と居住環境を維持するための重要な維持管理です

【法的根拠】排水管清掃に「一律の義務」はないが基準はある

「マンションの排水管清掃は法律で義務付けられているのですか?」という疑問がよくあります。すべてのマンションに一律で排水管清掃の頻度を義務付ける法律はありません。ただし、参考となる法律や基準が存在します。以下で主なものを整理します。

参照すべき2つの法律:ビル管理法と建築基準法

排水管の維持管理に関連する主な法律は、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称:ビル管理法)」と「建築基準法」です。

  • ビル管理法(建築物衛生法):一定規模の建物で衛生環境を確保するための基準を定めています。
  • 建築基準法:建物の構造・設備に関する最低限の基準を定めています。

これらは目的が異なり、排水管への適用も異なります。

あなたのマンションは対象?「特定建築物」の基準とは

ビル管理法では、一定規模以上の建物を「特定建築物」と定義し、排水設備の清掃を6ヶ月以内ごとに1回定期的に行うことを義務付けています(建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則 第四条の三)。特定建築物は、以下の要件を満たすものです。用途(例: 共同住宅、店舗、事務所など)によっても対象が変わります。

特定建築物の主な要件
以下の用途に供される部分の延べ面積が3,000平方メートル以上の建築物
・興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場
・店舗、事務所
・旅館、ホテル
・研修所、共同住宅、寄宿舎など
学校教育法第1条に規定する学校の場合、延べ面積が8,000平方メートル以上の建築物
出典:厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」
※本表は視覚支援のためのものです。テキストブラウザの場合、以下の内容を参考に:用途別延べ面積3,000㎡以上(学校は8,000㎡以上)の建築物が特定建築物。

つまり、大規模マンションで特定建築物に該当する場合、法的な清掃義務があります。しかし、一般的な中規模・小規模マンションの多くは特定建築物に該当せず、この法律による直接の義務はありません。用途要件として、店舗や事務所を兼ねる場合も含まれるため、ご自身のマンションの用途を確認してください。

一方、建築基準法第12条では、給排水設備の点検を6ヶ月~1年に1回程度定期的に実施することを規定しています。これは設備の劣化や損傷を確認するもので、清掃そのものを義務付けるものではありません。

一般的なマンションにおける清掃の位置づけ

では、法的義務がないマンションでは、清掃しなくてもよいのでしょうか。ご自身のマンションの管理規約を確認する必要があります。多くのマンションでは、法律に代わって「管理規約」で清掃方針が定められており、管理組合がこれに基づいて計画的に実施しています。これは、建物の資産価値を維持し、区分所有者全体の共同の利益を守るための業務(区分所有法 第3条)です。

つまり、法律による一律の強制はないものの、管理組合として適切な維持管理を行う責任があり、その一環として排水管清掃の頻度を定め、実施することが求められるのです。決議要件については、管理規約に別段の定めがある場合は管理規約が優先されます(区分所有法 第39条)。

推奨頻度は「1〜2年に1回」が目安!最適なサイクルを見極める4つの要因

法的義務がない場合、どのくらいの頻度で清掃すればよいのでしょうか。多くの専門業者や管理会社が推奨する実務上の頻度は「1〜2年に1回」が目安です。これは、汚れの固着を防ぎ、管内をリセットする考え方に基づいています。一方で、厚生労働省はガイドラインにおいて衛生管理の観点から「6ヶ月に1回」の清掃を推奨しています。

ただし、これらはあくまで目安です。マンションごとに最適な頻度を判断するため、以下の4つの要因を総合的に考慮してください。

要因1:築年数と配管の材質・劣化状況

築年数が経過したマンションでは、配管の劣化が進みやすいとされています。一般論として、築年数が経過したマンションほど注意が必要です。特に、鋳鉄管などの古い配管は内部に錆が発生しやすく、汚れが付着しやすい傾向があります(業界経験則)。

  • 築浅(~10年程度):配管の状態が良好であれば、2年に1回程度の頻度でも問題ない場合があります。
  • 築古(20年以上~):配管の材質や過去のメンテナンス履歴によっては、1年に1回の清掃が推奨されます。場合によっては、配管の状態をカメラで調査した上で頻度を決定することも有効です。

詳細な判断には、管理組合が保有する修繕履歴やカメラ調査の実施を検討し、専門の清掃・診断業者に相談することをおすすめします。

要因2:排水管の種類(共有部と専有部)で異なるリスク

マンションの排水管は、「専有部」と「共有部」に大別でき、管理責任が異なります。国土交通省の「マンション標準管理規約」でもこの区分が示されています。

  • 専有部の排水管(枝管):キッチンや浴室、洗面台などから共有部へ接続される部分。原則として、その住戸の区分所有者が管理責任を負います。
  • 共有部の排水管(縦管・横引管):各住戸からの排水を集めて公共下水道へ流す太い配管。管理組合が管理責任を負います。

共有部の縦管は全戸の排水が合流するため、汚れが集中しやすく、詰まると建物全体に影響が及びます。法的義務は特定建築物にのみ課せられ、一般的なマンションの共有部清掃については、管理規約に基づく管理組合の判断に委ねられます。専有部については、管理規約の範囲と限界を考慮してください。専有部の枝管と共有部の縦管は、一体的に清掃することが効率的です

要因3:居住者のライフスタイルと排水の性質

排水管の汚れは、住人のライフスタイルに左右されます。

  • 油を多く使う家庭が多い場合:キッチンの排水管では、油が固まる「オイルボール」が主な原因です。自炊の頻度が高いファミリー世帯では、汚れの蓄積が速く、キッチン系統だけでも清掃頻度を上げる(例:1年に1回)ことを検討すべきです(業界慣例)。
  • ディスポーザーの有無:生ゴミがヘドロ化しやすいため、設置マンションではより定期的な清掃が推奨されます。

要因4:採用する清掃方法(高圧洗浄 vs 薬剤洗浄)

清掃方法によって効果の持続性が異なります。

  • 高圧洗浄:高圧水で汚れを物理的に剥がす方法。効果が高く、1〜2年に1回の定期清掃で主流です。
  • 薬剤洗浄:薬剤で汚れを溶解。軽度の予防に有効ですが、頑固な汚れには限定的です。

高圧洗浄を定期的に実施することで、状態を良好に保ちやすくなります。

排水管清掃の費用相場は?戸数規模と依頼方法で変わる料金体系

費用はマンションの規模(戸数)と依頼方法により変動します。管理組合が一括発注する場合、規模のメリットで1戸あたりの単価が抑えられます。

【一覧】マンション規模(戸数)別の戸あたり費用目安(2024-2025年時点)

共有部+全戸の専有部を一括清掃する場合の目安です。

マンション規模(戸数)1戸あたりの費用目安
100戸~3,000円~3,500円
60戸~99戸3,300円~3,800円
35戸~59戸3,500円~4,000円
20戸~34戸3,800円~4,500円
※共有部の縦管・横引管、専有部の枝管(キッチン・浴室・洗面・洗濯)全てを清掃する場合の目安(出典:複数の清掃会社公開価格より算出)。業者や建物の構造、作業範囲により変動します。
※本表は視覚支援のためのものです。テキストブラウザの場合、以下の内容を参考に:100戸以上で3,000~3,500円/戸、20~34戸で3,800~4,500円/戸程度。

専有部のみを個別に依頼する場合の費用

個人依頼の場合、割高になります。1世帯あたり4,500~6,000円(個別依頼時)が目安で、複数箇所セットで20,000~40,000円程度です(業者差が大きい)。

費用に含まれるもの・含まれないもの(追加費用)

見積もりで基本料金の内容を確認してください。別途必要な場合があります。

  • 出張費、駐車場代
  • 夜間・休日作業の割増料金
  • 特殊な工具やカメラ調査の追加料金
  • 著しい汚れによる追加作業費(例: ローポンプ作業5,000~30,000円)

【監修者注釈】
排水管の定期清掃費用は、一般的に区分所有者全員で負担する「管理費」から支出されます。将来の配管交換(更新)工事に備える「修繕積立金」とは区別されることが多いため、ご自身のマンションの管理規約や長期修繕計画を確認しておきましょう。

失敗しない業者選定と「上手な」見積もりの取り方

適切な業者を選び、納得の費用で実施するため、見積もりの取り方に留意しましょう。

見積もり取得の留意点

複数の清掃業者から見積もりを取得する際は、以下に留意してください:

  • 見積もりには現地調査や図面確認など、業者側の相応な時間と労力が必要になります。
  • 多数の業者を同時に比較することで、受注確度が低下し、対応が難しくなる場合があります。
  • 実務的には信頼できる管理会社と相談した上で、複数社(一般的には2~3社程度)から見積もりを取り、丁寧に比較検討することが、結果として質の高い成果につながりやすいと言われています

各社の見積もりに含まれる項目、追加費用の有無、保証内容などを確認し、単価だけでなく総合的に判断してください。

特に中小規模マンション(20戸~40戸程度)では、管理会社側の労力が大きい点に配慮が必要です。見積もり作成には、現地調査や外注先との打ち合わせ、理事会面談などが複数回伴うため、極端に多くの業者を依頼すると対応が難しくなる可能性があります。2~3社程度であれば積極的に対応しやすいのが実情です。

小規模マンションが見積もりで注意すべき「最低受託料金」

多くの清掃業者では、最低受託料金を設定しています。例えば、10戸のマンションで合計額が不足する場合、上乗せや受注断りの可能性があります。小規模の場合、この点を予算計画で考慮してください。

【FAQ】排水管清掃でよくある質問

管理組合の理事の方から寄せられる質問に、一般的な観点からお答えします。実際の対応は管理規約や専門家にご相談ください。

Q1. 専有部の排水管清掃を拒否する居住者がいる場合、強制できますか?

A1. 多くのマンションでは、マンション標準管理規約(第23条)に準じ、管理組合が配管維持管理のために専有部分に立ち入る旨を定めています。ただし、実際の対応については、必ずご自身のマンションの管理規約を確認し、管理会社または顧問弁護士にご相談ください。なお、清掃に応じない場合のリスク(後述のQ2参照)についても、丁寧に説明することが重要です。

Q2. 清掃しないことで発生した漏水事故の修理費用は誰が負担するのですか?

A2. 原因箇所によって異なります。

  • 共有部(縦管など)の不具合が原因の場合:原則として管理組合が負担し、組合の保険が適用される場合があります。
  • 専有部(枝管など)の詰まりや劣化が原因の場合:原則として、その住戸の区分所有者が階下への損害賠償責任を負います。個人火災保険の特約などでカバーできる場合があります。

定期清掃に協力しなかったことが原因で事故が発生した場合、その所有者の責任がより重く問われる可能性があります。

Q3. 高圧洗浄で古い配管が破損するリスクはありませんか?

A3. 可能性はゼロではありません。信頼できる業者は、作業前に配管の材質や状態を確認し、水圧を調整します。築年数が古いマンションの場合は、事前にリスクと保証内容を確認してください。

まとめ:適切な排水管清掃でマンションの資産価値と快適な暮らしを守ろう

今回は、マンションの排水管清掃の頻度について、法的根拠から判断基準、費用、実務上の注意点までを解説しました。

  • 法的義務:すべてのマンションに一律の頻度義務はないが、「特定建築物」には6ヶ月に1回以上の清掃義務がある。
  • 推奨頻度:一般的なマンションでは「1〜2年に1回」が実務上の目安。
  • 最適頻度の判断:築年数、配管の種類、ライフスタイル、清掃方法を考慮して総合的に判断する。
  • 費用:管理組合で一括発注するのが経済的。1戸あたり3,000円~4,500円が相場。
  • 業者選定:複数社から見積もりを取り、管理会社や業者側の労力を考慮して比較する。

排水管清掃の頻度に迷ったら、まずはご自身のマンションの管理規約と過去の清掃履歴を確認してください。その上で、この記事の判断要因を参考に、理事会で最適なメンテナンス計画を検討してみてください。

定期的な排水管清掃は、将来のトラブルと修繕費用を防ぐための投資です(放置した場合の修繕費が、清掃費を大きく上回る可能性が指摘されています)。適切なメンテナンスを継続し、マンションの資産価値と快適な暮らしを維持しましょう。


免責事項

本記事は、マンションの排水管清掃に関する一般的な情報提供を目的として作成されたものであり、個別の不動産に関する具体的な法的助言や診断を行うものではありません。実際の計画・対応にあたっては、必ずご自身のマンションの管理規約をご確認の上、管理会社や専門の清掃業者にご相談ください。法令や制度は改正される可能性があるため、最新の情報をご確認いただくようお願いいたします。

参考資料

  • e-GOV法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則」
    https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=346M50000100002
  • 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186175.html
  • e-GOV法令検索「建築基準法」
    https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000201
  • 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html
  • (参考:複数の清掃事業者の公開価格(2024年~2025年時点)などを基に当サイトが相場を算出)

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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