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分譲マンションは、「区分所有者全員が共同で所有・管理する建物」であり、その運営の根幹をなすのが「管理規約」です。管理規約は、いわばそのマンションにおける“憲法”のような存在であり、居住ルール、共用部分の使い方、管理費の支払い、修繕の手続きなど、共同生活を円滑に行うためのルールが定められています。
しかし、多くのマンションでは「新築時に売主が一括して作成した規約」がそのまま使われ続けており、時代の変化や法改正に対応できていないケースが少なくありません。今回は、マンション管理における「規約改定」の必要性と実務ポイントについて解説します。
■ 管理規約はどうやって作られ、どうやって変更されるのか?
管理規約の作成・変更は、「区分所有法(正式名:建物の区分所有等に関する法律)」に明確に規定されています。
● 規約の制定・変更の法的根拠(区分所有法第31条)
第31条1項:規約の設定・変更・廃止は、区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数による集会決議によって行う。
つまり、総会で「特別決議」(4分の3以上の賛成)を得なければ、規約改定はできません。
これに該当する主な事項は以下のとおりです:
内容 | 決議要件 |
---|---|
管理規約の変更(用途制限・費用負担の変更など) | 区分所有者数の4分の3以上かつ議決権の4分の3以上(特別決議) |
使用細則(規約に基づく運用ルール)の変更 | 過半数決議でも可(ただし規約で別段の定めある場合を除く) |
🔸注意:委任状・書面議決も含めて有効票を集める必要があるため、事前周知・合意形成のプロセスが非常に重要です。
■ 規約を見直すべき代表的なケース
1. 法改正への未対応
国交省や自治体による制度改正に合わせて、規約も更新する必要があります。
法改正 | 内容 | 改定例 |
---|---|---|
改正マンション管理適正化法(2020年) | 管理計画認定制度の創設 | 「長期修繕計画の定期見直し」「管理者の明確化」条項を追加 |
改正区分所有法(2025年予定) | 建替え決議要件緩和、団地再構築促進 | 建替え手続き・団地規約との整合性を確保 |
2. 社会・生活スタイルの変化
- 電気自動車の普及 → 充電設備設置に関する規定が必要
- 在宅勤務・テレワークの常態化 → 共用部の使い方の見直し
- 民泊・Airbnb等への対応 → 禁止・制限の明文化が必須
- ペット問題 → 種類・頭数・共用部のルールを細かく定める必要
3. 災害・緊急時対応の不備
防災倉庫の設置、ライフライン停止時の行動指針など、実際の非常時に備えた内容が盛り込まれていない規約が大半です。
■ 実際の改定手順:進め方の実務フロー
- 現行規約の点検
- 「国土交通省の標準管理規約」と比較し、どこが不十分かを明確化
- 必要に応じて、弁護士や管理士の助言を受ける
- 理事会・専門委員会で草案作成
- 改定箇所と理由を整理
- 原案と新旧対照表を作成(住民説明用)
- 住民説明会を開催(可能であれば複数回)
- 目的は「合意形成」
- 質問・懸念に丁寧に対応
- 総会招集と議案上程
- 招集通知には「改定案全文」「新旧対照表」を必ず添付
- 出席者・委任状・書面表決を合わせて「4分の3以上の賛成」が必要
- 可決後、規約の謄本作成・署名押印・保管
- 管理会社や管理組合が正式な謄本を保管し、必要に応じて外部提出用にも使用
■ 規約改定の成否は“周知と納得”にかかっている
改定の正当性がどれほどあっても、「住民が内容を理解していない」「日常生活に関係ないと誤解している」状態では、決議は成立しません。
**成功の鍵は「説明責任」**です:
- 「なぜ今、改定が必要なのか」
- 「生活にどう影響するのか」
- 「資産価値との関係は?」
これらをパンフレット・掲示・説明会・回覧などで丁寧に伝えることで、合意形成のハードルは確実に下がります。
■ 最後に:規約改定はマンションの“健康診断”である
建物が老朽化するように、**規約も“制度的老朽化”**を起こします。
目に見える劣化よりも深刻なのが「対応できないルールのまま放置されている」こと。これでは、トラブル発生時に誰も裁定できず、管理不全に陥ってしまいます。
逆に、法令や時代に即した規約を整備しているマンションは、以下の点で優位に立てます:
- 建替え・大規模修繕の合意形成がスムーズ
- 不動産価値が落ちにくい(購入検討者が安心)
- 管理会社・理事会の業務負担が軽減される
■ まとめ
- 規約改定には区分所有者数・議決権の各4分の3以上の特別決議が必要
- 法改正・社会変化に未対応のままだと「管理不全マンション」となるリスク
- 成功の鍵は、「丁寧な周知」と「新旧対照表などの明示」
- 規約を整備することは、“マンションの未来に対する投資”である