管理組合(理事会)が押さえるべき「共用部の損害保険」の考え方・選び方・見直し手順・事故対応を、非専門家でも判断できるレベルに整理しました。
関連リンク
保険法(e-Gov):損害保険の保険金請求権の消滅時効は原則3年(条文あり)。 e-Gov 法令検索
区分所有法(e-Gov法令検索):共用部分の保険・保険金受領の根拠(第18条4項ほか)。 e-Gov 法令検索
標準管理規約(最新版PDF/国交省):第24条「損害保険の締結の承認」ほか、コメント付き。 国土交通省
マンションの共用部分の損害保険とは?
火災や爆発、水濡れ、風水害などの事故は専有部にとどまらず共用部分・共用設備へ波及し、多額の復旧費が発生します。十分な付保がないと、復旧資金の合意形成が滞る・着工が遅れる等のリスクが高まります。資産価値の維持・居住環境の安定のため、管理組合による適切な損害保険(=マンション総合保険)の活用は不可欠です。
だれが・何をカバーする?(全体像)
| 区分 | 被保険者 | 主な対象 | 保険の種類 | 典型的な付帯特約 |
|---|---|---|---|---|
| A 共用部 | 管理組合 | 建物・附属設備・敷地内施設 | 火災保険(掛捨/積立) | 水災、水濡れ原因調査費用、設備・機械損害、破損汚損、臨時費用、残存物取片付費用 等 |
| B 共用部の賠償 | 管理組合 | 第三者への対人・対物賠償 | 施設賠償責任保険 | 受託者賠償、人格権侵害補償、管理下財物 等 |
| C 専有部(※各戸) | 区分所有者 | 専有部建物・家財 | 火災保険 | 個人賠償、借家人賠償、修理費用 等 |
| D 個人の賠償 | 区分所有者/入居者 | 日常事故の賠償責任 | 個人賠償責任保険 | 示談代行特約 等 |
管理組合が一括手配するのが基本:A・Bは必須、Dは総合保険に団体付帯する形で一括加入すると事故処理が平準化します(Cは各戸で加入)。
主契約と特約の考え方
3-1. 火災保険(共用部)
- 基本補償:火災・落雷・破裂/爆発・風災/ひょう災・水濡れ・物体の落下/飛来/衝突・破損汚損 等。
- 重要特約例:
- 水濡れ原因調査費用(漏水原因特定に不可欠)
- 設備・機械損害(ポンプ・受水槽・エレベーター等)
- 水災(立地により要否判断)-重ねるハザードマップ(国土地理院/国交省):水災等リスク評価に必携。 ハザードマップポータル+1
- 臨時費用/残存物取片付費用
3-2. 施設賠償責任保険(管理組合)
- 共用部・敷地内施設の欠陥/管理不備で第三者に損害が生じた場合の法的賠償を補償。
- エレベーター/駐車設備/遊具/屋上/外構など事故の芽が多い箇所に有効。
3-3. 個人賠償責任保険(団体付帯)
- 専有部の漏水の階下損害やベランダからの物品落下等、日常事故を包括補償。
- 管理組合で一括付帯すると、賠償の一次受付窓口を統一でき、トラブル抑制に有効。
3-4. 地震保険(火災保険にセット)
- 地震・噴火・津波による火災/損壊/流失を補償。単独加入不可、保険金額は建物の30〜50%が上限。
- 支払いは認定区分(全損/大半損/小半損/一部損 等)で決定。立地・耐震性・資金力で要否と金額を決める。
地震保険制度の概要(財務省):政府再保険・総支払限度額など制度の根幹。 財務省
地震保険ハンドブック(損害保険料率算出機構):制度の詳細解説(PDF)。 Giroj
長期(複数年)契約の使いどころ
メリット:①長期割引で総保険料が下がる ②料率改定の影響をロック ③更新事務の削減
デメリット:①見直し機会の減少 ②理事交代で契約の存在が埋没 ③満期時にショックアップ ④一括払い等の資金繰り負担。
推奨運用:
- 3〜5年の“準長期”+毎年の内容点検(理事会議題化)
- 満期6ヶ月前から相見積り・条件精査を開始
- 契約台帳・証券控・特約一覧を引継チェックリストに固定化
契約・更新の手順
- 現状把握:証券写し・特約・免責・保険金額・対象範囲(付属建物含むか)
- 事故実績:過去3〜5年の支払い・未払い・再発防止
事故が起きたら
- 安全確保(止水/停電/立入禁止)→消防・警察・管理会社
- 記録:日時・場所・原因推定・被害範囲、写真/動画、応急処置費
- 連絡:証券番号を添え保険代理店/保険会社に即日連絡
- 原因調査:水濡れは原因特定が命(調査費用特約の適用)
- 見積・復旧:保険会社の事前承認が必要な工事項目に注意
- 時効:請求権は原則3年。記録と書面管理を徹底
よくある落とし穴
- 地形的に水災リスクが低いのに水災特約が付いている/逆に抜けている
- 機械設備更新後に保険金額や特約の更新漏れ
- 管理規約の範囲区分と証券の対象がズレている
- 複数年契約で契約の存在が忘れられる(理事交代)
- 付保割合を下げたのに実損てん補にしていない
FAQ
Q1. 施設賠償の保険金額はどれくらい?
A. 規模や周辺環境によるが、1〜3億円が目安。エレベーター・駐車設備・来訪者動線が多い物件は上限引上げを検討。
Q2. 個人賠償は各戸任せ?
A. 係争抑止と迅速処理の観点から団体付帯で一括加入が実務的。未加入戸のリスクを平準化できる。保険料を抑えたい場合は付帯無も検討余地あり。
Q3. 地震保険は高い。どう判断?
A. 立地・耐震等級・留保資金で決定。30〜50%の範囲で段階付保し、長期修繕計画の耐震工事予定と合わせて見直す。損害の認定について明確に規定があるため、しっかり確認しておきましょう。
Q4. 長期契約はお得?
A. 総保険料金は下がることが多いです。特に昨今は保険料の改定が多くよりメリットを感じられるかもしれません。
まとめ:管理組合に合った選択を
管理組合として重要なのは、自分たちのマンションや住民構成、財務状況、理事会の体制などを踏まえて慎重に検討することです。必要であれば、保険代理店や管理会社と相談しながら、柔軟な契約方法を選びましょう。保険契約も“管理業務のひとつ”。数年に一度の見直しが、大きな安心につながります。

