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マンションの資産価値を維持・向上させるため、管理組合の役員の皆様は日々奮闘されていることでしょう。その中で、「管理計画認定制度」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。この制度は、国の「お墨付き」を得ることで、税金の優遇や融資条件の改善といったメリットが期待できる一方、申請には費用や手間といったデメリットも伴います。
本記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、管理計画認定制度のメリット・デメリットを徹底解説します。国土交通省や各自治体の公表情報など一次情報(2025年10月30日時点)に基づき、制度を導入すべきかどうかの判断材料を具体的に提供します。この記事を読めば、あなたのマンションにとって本制度が本当に必要なのか、客観的に判断できるようになります。
管理計画認定制度とは?国の「お墨付き」がもらえる公的制度
管理計画認定制度とは、マンションの管理組合が作成した管理計画が、一定の基準を満たしている場合に、地方公共団体(市や区など)から公的な認定を受けられる制度です。
この制度の根拠は「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(通称:マンション管理適正化法)の第5条の3に定められています。2022年4月から本格的にスタートした比較的新しい仕組みです。
重要なポイントは、申請するのは「管理組合」であり、認定するのは「行政(地方公共団体)」であるという点です。これにより、管理状態の良さが公的に証明され、対外的な信頼性の向上に繋がります。
【重要】マンション管理適正評価制度との違いは?
管理計画認定制度を検討する際、多くの方が「マンション管理適正評価制度」と混同しがちです。この2つは目的も主体も異なる全く別の制度ですので、最初にその違いを明確にしておきましょう。
端的に言えば、「認定制度」は行政による公的なお墨付きであり、「評価制度」は民間団体による客観的な格付けです。どちらも管理の質を高める目的は共通していますが、得られるメリットの種類が異なります。
| 比較項目 | 管理計画認定制度 | マンション管理適正評価制度 |
|---|---|---|
| 目的 | 管理の適正化促進、健全な管理体制の構築支援 | 管理状態の可視化による市場での流通性向上 |
| 主体 | 地方公共団体(行政) | 業界団体(民間) |
| 根拠 | マンション管理適正化法(法律) | 民間の自主的なルール |
| 評価対象 | 将来を見据えた「管理計画」そのもの | 現時点での「管理状態」全般 |
| 主なメリット | 税制・融資優遇など公的なインセンティブ | 市場での評価向上、★の数などによる格付け表示 |
この2つの制度はそれぞれ独立しているため、両方を取得することも、片方だけを取得することも可能です。マンションの状況や目指す方向性に応じて、どの制度を活用するか戦略的に選ぶことができます。
管理計画認定制度の4つのメリット
それでは、具体的にどのようなメリットがあるのか、公的な情報に基づいて解説します。
メリット1:【市場評価】管理の質が可視化され、売却時に有利になる可能性
認定を取得すると、そのマンションが「適正に管理されている」ことの公的な証明になります。不動産ポータルサイトなどで認定の有無が表示されるようになれば、購入希望者にとって安心材料となり、売却活動において他の物件との差別化が図れる可能性があります。
ただし、これは資産価値の上昇を保証するものではなく、あくまで市場で評価される際の一つの有利な要素と捉えるべきです。
メリット2:【税制優遇】固定資産税が減額される(※実施自治体のみ)
一部の地方公共団体では、認定を受けたマンションに対して固定資産税を減額する措置を設けています。これは非常に大きな金銭的メリットです。
ただし、この税制優遇はすべての自治体で実施されているわけではありません。また、適用要件(新築限定、長寿命化工事の実施など)や減額率、期間も自治体ごとに大きく異なります。制度の導入を検討する際は、必ずお住まいの市区町村のウェブサイトや担当窓口で最新の情報を確認してください。
メリット3:【融資優遇】フラット35や共用部リフォームローンの金利が引き下げ
住宅金融支援機構が提供する各種ローンで、金利の引き下げという直接的なメリットを受けられます(2025年10月時点)。
- 【フラット35】維持保全型:認定マンションの住戸を購入する場合、当初5年間、金利が年-0.25%引き下げられます。
- 【フラット50】:認定マンションが融資対象に追加されました(2025年10月より)。
- マンション共用部リフォーム融資:管理組合が大規模修繕工事などのために融資を受ける際、金利が引き下げられます。
これらの金利優遇は、特に大規模修繕を控えている管理組合や、これからマンションを購入しようとする人々にとって、経済的な負担を大きく軽減する効果があります。
メリット4:【副次的効果】管理体制の健全化・標準化が進む
認定基準を満たすためには、管理組合の運営、管理規約、経理、長期修繕計画など、マンション管理の根幹を見直す必要があります。
このプロセス自体が、これまで曖昧だった運営ルールを整備し、将来を見据えた計画的な管理体制を構築する絶好の機会となります。結果として、管理組合の運営レベルが向上し、居住者の安心に繋がるという副次的なメリットも生まれます。
管理計画認定制度の4つのデメリット
多くのメリットがある一方で、認定取得には相応の負担も伴います。デメリットも正確に理解し、総合的に判断することが重要です。
デメリット1:【費用】申請手数料や専門家へのコンサルティング費用が発生する
認定申請には、自治体への申請手数料や専門家へのコンサルティング費用がかかります。公益財団法人マンション管理センターの「管理計画認定手続支援サービス」を利用する場合、システム利用料が別途必要です。
加えて、事前確認を行うマンション管理士の審査料は、管理組合と管理士の間で個別に協議して決定されます。目安として数十万円からの費用が発生することを想定しておく必要があります。この費用を管理組合の予算から捻出できるかどうかが、最初の関門となります。
デメリット2:【労力】書類準備と合意形成に時間と手間がかかる
認定申請には、管理計画書、長期修繕計画、財務諸表など、多数の書類を準備する必要があります。また、申請にあたっては管理組合の総会で決議を得なければなりません。
区分所有者への説明、質疑応答、そして合意形成には、理事会役員に相応の時間と労力がかかります。申請準備から認定まで、数ヶ月から1年程度かかるケースも珍しくありません。
デメリット3:【維持】認定基準を満し続ける継続的な管理負担
認定には5年間の有効期間があり、維持するためには5年ごとに更新申請が必要です。また、認定基準の基礎となる長期修繕計画は、国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」で5年程度ごとの見直しが推奨されています。一度認定を取って終わりではなく、これに沿った定期的な見直しと適正な管理を継続する義務が生じます。
デメリット4:【複雑性】自治体ごとの「上乗せ基準」を確認する必要がある
国の定める認定基準に加えて、地方公共団体が独自の「上乗せ基準」を設定している場合があります。例えば、防災に関するマニュアルの作成や定期的な訓練の実施などを独自基準として定めている自治体もあります。申請を検討する際は、国の基準だけでなく、必ず所在地の自治体の基準を確認し、両方を満たす必要があります。
認定を受けるまでの具体的な流れと期間
認定取得までの大まかなステップは以下の通りです。
- Step1:事前準備と専門家への相談
まずは、現在の管理状況が認定基準をどの程度満たしているかを確認します。この段階でマンション管理士などの専門家に相談し、課題や費用、スケジュール感を把握するのが効率的です。 - Step2:管理計画の作成・見直し
専門家のアドバイスを受けながら、認定基準に適合するように管理計画や長期修繕計画を見直・作成します。 - Step3:総会での決議(規約の確認が必須)
作成した管理計画を管理組合の総会に諮り、承認を得ます。この決議は、原則として区分所有者および議決権の各過半数による「普通決議」で足ります(マンション管理適正化法第5条の4第2項、区分所有法第39条第1項)。
ただし、管理規約に「申請には特別多数決議が必要」といった別段の定めがある場合は、その規約が優先されます。申請前に必ず現行の管理規約を確認してください。 - Step4:自治体への申請と審査
総会で承認された後、必要書類を揃えて所在地の地方公共団体に申請します。申請後は、行政(または行政が委託する機関)による審査が行われます。
全体の期間としては、準備開始から認定まで、スムーズに進んでも数ヶ月、合意形成に時間がかかれば1年以上を要することもあります。
FAQ:よくある質問
Q. 管理計画認定制度の申請費用はどれくらいかかりますか?
A. 自治体に支払う申請手数料は、自治体や申請方法によって大きく異なります。手数料は長期修繕計画の数などによっても変動します。必ず所在地の自治体で最新の手数料を確認してください。これに加えて、前述のマンション管理センターへのシステム利用料や、専門家へのコンサルティング費用が別途必要になります。
Q. 申請から認定まで、どのくらいの期間がかかりますか?
A. 書類準備や総会での合意形成を含め、数ヶ月から1年程度かかるケースが多いです。特に長期修繕計画の見直しが必要な場合は、さらに期間を要することがあります。
Q. 認定の有効期間はありますか?
A. はい、有効期間は5年間です。認定を維持するためには、5年ごとに更新申請を行い、再度審査を受ける必要があります。
実務ヒント:認定取得の判断と専門家との付き合い方
メリットとデメリットを理解した上で、「結局、うちのマンションは認定を受けるべきか?」と悩む方も多いでしょう。ここでは、判断のポイントと実務的な注意点を解説します。
認定取得を積極的に検討すべきケース
- 修繕積立金が計画通りに積み立てられている
- 定期的に総会が開催され、管理組合の運営が機能している
- 近い将来、融資を利用した大規模修繕工事を計画している
- 所在地の自治体が手厚い税制優遇措置を設けている
- 周辺に競合となる新築マンションが多く、売却時の差別化を図りたい
慎重に判断すべきケース
- 修繕積立金に大幅な不足や滞納がある
- 管理組合の合意形成が難しく、総会決議の見通しが立たない
- 専門家への依頼費用を捻出するのが難しい
- 築年数が非常に古く、将来的に建替えやマンション敷地売却を視野に入れている
費用対効果を考える際は、税制や融資の金銭的メリットが、専門家費用や役員の労力といったコストを上回るかが一つの基準になります。しかし、管理体制の健全化という数値化しにくい長期的なメリットも考慮に入れることが重要です。
専門家選びと付き合い方の注意点
認定取得をスムーズに進めるには、マンション管理士のサポートが役立ちます。しかし、専門家を選ぶ際、過度な相見積もりは避けるべきです。認定申請のコンサルティング見積もりを作成するには、専門家は管理規約や財務諸表の読み込み、役員へのヒアリングなど、多大な時間と労力を要します。
5社も6社も相見積もりを取ろうとすると、多くの専門家から敬遠されてしまう可能性があります。特に小〜中規模のマンションではその傾向が顕著です。信頼できそうな専門家を2〜3社に絞って相談し、提案内容や人柄を比較検討するのが現実的かつ効果的な進め方です。
まとめ:中長期的な視点でマンションの価値を守る制度
管理計画認定制度は、税制や融資の優遇といった直接的なメリットに加え、管理体制そのものを見直し、健全化させる絶好の機会を提供してくれます。一方で、申請には費用や労力といったデメリットも伴うため、すべてのマンションにとって必須の制度というわけではありません。
重要なのは、目先の利益だけでなく、10年後、20年後も安心して暮らせるマンションであり続けるための中長期的な視点で、制度導入の是非を判断することです。本記事で解説したメリットとデメリットを参考に、皆様の管理組合でじっくりと議論し、最適な結論を導き出してください。
免責事項
本記事は、2025年10月30日時点の情報に基づき、不動産に関する一般的な情報提供を目的として作成されており、特定の個人や団体に対する法的・税務的な助言を行うものではありません。記載されている情報については万全を期しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。制度の利用や申請にあたっては、必ず最新の法令や各自治体の要綱等をご確認の上、必要に応じて専門家にご相談ください。
参考資料
- e-Gov法令検索「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」
- 国土交通省「マンション管理・再生ポータルサイト|マンション管理計画認定制度」
- 住宅金融支援機構「【フラット35】維持保全型」
- 住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資」
- 公益財団法人マンション管理センター「管理計画認定手続支援サービス」
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

