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本情報は2025年10月30日時点で最新の情報源に基づいています。制度内容や認定基準は今後変更される可能性があるため、申請前に必ず管轄の地方公共団体の公式サイトで最新情報を確認してください。
マンション管理計画認定制度の申請を検討しているものの、手続きの複雑さや信頼できる専門家の選び方がわからず、お困りの管理組合役員の方も多いのではないでしょうか。この制度は、マンションの管理計画が国の定める基準を満たしていることを公的に証明し、資産価値の維持・向上にも繋がる重要な取り組みです。しかし、申請には専門的な知識が不可欠であり、多くの管理組合が専門家による申請代行サービスを利用しています。
この記事では、宅地建物取引士の知見を活かし、マンション管理計画認定制度の基本から、認定基準、申請手続きの全フロー、そして最も気になる申請代行の料金や信頼できる専門家の選び方まで、一次情報に基づいて網羅的に解説します。この記事を読めば、制度への理解が深まり、申請準備から専門家への適切な依頼まで、具体的なアクションプランを描けるようになります。
マンション管理計画認定制度とは?管理組合が知るべき基本
マンション管理計画認定制度とは、マンションの管理計画が一定の基準を満たしている場合に、地方公共団体が認定を与える公的な制度です。根拠法は「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(マンション管理適正化法)です(出典:国土交通省)。
なぜ今この制度が重要なのか?目的と背景
制度の最大の目的は、マンションの管理状況を「見える化」することにあります。適切な管理が行われているマンションが市場で正しく評価される環境を整え、全体の管理水準を向上させることが狙いです。これにより、区分所有者はもちろん、将来の購入希望者も安心して取引できるようになります。
【重要】申請の主体は「管理組合」。認定主体は「地方公共団体」
この制度で最も重要なポイントは、申請の主体と認定の主体を正しく理解することです。
- 申請主体:マンションの管理組合
- 認定主体:マンションが所在する地方公共団体(市区町村など)
申請は、管理会社が代行することはできず、必ず管理組合自身の意思決定、すなわち総会での決議を経て行わなければなりません。なお、管理計画認定制度を導入している地方公共団体については、国土交通省『住宅:管理計画認定制度』のページで最新の一覧を確認できます。ご自身のマンションが対象地域にあるか、事前に確認してください。
類似制度「マンション管理適正評価制度」との違い
管理計画認定制度と混同されやすいのが「マンション管理適正評価制度」です。両者は目的も運営主体も異なるため、違いを正しく理解しておくことが重要です。
| 項目 | マンション管理計画認定制度 | マンション管理適正評価制度 |
|---|---|---|
| 運営主体 | 地方公共団体(公的制度) | (一社)マンション管理業協会など(民間制度) |
| 根拠 | マンション管理適正化法 | 民間の独自基準 |
| 評価対象 | 管理「計画」が国の基準を満たすか | 管理「状態」を総合的に評価 |
| 目的 | 管理の適正化推進、市場での評価 | 管理状態の見える化、管理意識の向上 |
簡単に言えば、国が定めた最低限の基準をクリアしているかを行政が認めるのが「認定制度」、より詳細な管理レベルを民間が格付けするのが「評価制度」と区別できます。
【重要な注意】この2つは全く別の制度です。認定制度は行政が基準適合性を判断し、評価制度は民間が管理状態を格付けします。どちらの制度も、管理「会社」を評価・格付けするものではなく、個別のマンションそのものが対象である点を押さえておきましょう。
認定取得で期待されるメリットと注意点
認定を取得することで、管理組合や区分所有者には主に3つのメリットが期待できます。
メリット1:市場評価の向上と資産価値の維持
認定を受けたマンションは、「適正に管理されている」という公的なお墨付きを得ることになります。これにより、中古マンション市場において他の物件との差別化が図れ、売買時のアピールポイントとなり、資産価値の維持・向上に繋がることが期待されます(出典:さいたま市)。
メリット2:住宅ローン金利や税金の優遇措置
認定を取得すると、住宅ローンや税制面で優遇措置を受けられる場合があります。
- 住宅金融支援機構のローン金利優遇:
- 【フラット35】維持保全型:認定マンションの住宅を購入する場合、当初5年間の金利が引き下げられます。
- マンション共用部分リフォーム融資:融資金利が引き下げられます。
- マンションすまい・る債:積立利率が上乗せされます。
- 固定資産税の減額:認定マンションが、長寿命化に資する一定の大規模修繕工事を実施した場合、翌年度の建物部分の固定資産税が減額されます。
メリット3:管理意識の向上と良好なコミュニティ形成
認定取得という共通の目標に向かって取り組む過程で、区分所有者全体の管理への関心が高まります。これにより、総会への参加率向上や、管理組合活動への協力体制が生まれやすくなり、良好なコミュニティ形成にも寄与します。
注意点:メリットは自動的に保証されるものではない
認定によるメリットは重要ですが、それらが自動的に、無条件で得られるわけではないことを理解しておく必要があります。
特に、住宅ローン金利優遇や固定資産税減額は、認定取得に加えて、別途定められた要件を満たす必要があります。例えば、【フラット35】の金利引き下げは、認定マンションに居住する目的で購入者が当該ローンを利用することが前提です。最新の適用条件や優遇内容については、必ず住宅金融支援機構『マンション管理・再生ポータルページ』や管轄の地方公共団体の公式サイトで最新情報を確認してください。
認定されるための基準とは?主な基準をセルフチェック
認定を受けるためには、国土交通省令で定められた基準をすべて満たす必要があります。これらは大きく4つのカテゴリーに分類されます(出典:国土交通省)。
管理組合の運営に関する基準
- 管理者等が定められているか
- 監事が選任されているか
- 総会が年1回以上開催されているか
管理規約に関する基準
- 管理規約が作成されているか
- 緊急時(災害等)の専有部分への立入りに関する定めがあるか
- 管理組合の業務について、暴力団員等の関与を排除する旨の定めがあるか
経理(管理費・修繕積立金)に関する基準
- 管理費と修繕積立金が明確に区分して経理されているか
- 修繕積立金の会計帳簿が作成され、保管されているか
- 滞納管理費等に対する督促など、必要な措置が講じられているか
長期修繕計画に関する基準
- 長期修繕計画が作成され、総会で決議されているか
- 計画期間が30年以上であること
- 残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるよう設定されていること
- 計画に基づいて修繕積立金額が設定されているか
特に「長期修繕計画」に関する基準はハードルが高く、専門的な知見が求められる部分です。多くのマンションで、申請にあたり計画の見直しが必要となります。
自治体による独自基準(上乗せ基準)の可能性
国の定める基準に加え、一部の地方公共団体が独自の基準(上乗せ基準)を条例で定めています。例えば、東京都文京区は令和7年4月から、管理計画認定基準に区独自の上乗せ基準を設けています。令和7年3月31日までに事前確認申請をした管理組合については経過措置が設けられています。申請を検討する際は、管轄市区町村のウェブサイトで最新情報を確認することが不可欠です。
申請手続きの全フロー|事前確認から本申請まで
申請手続きは、大きく4つのステップで進みます。各ステップの主体と内容を正しく理解しましょう。
STEP1:認定基準への適合確認
まずは、自分たちのマンションが前述の認定基準を満たしているか、管理組合内でセルフチェックを行います。長期修繕計画や管理規約など、現状を正確に把握することがスタートラインです。
STEP2:管理組合総会での決議
申請を行うことについて、管理組合の総会で決議を得る必要があります。この決議要件は非常に重要です。
- 原則:区分所有法第39条第1項に基づき、区分所有者および議決権の各過半数による「普通決議」が必要です。
- 例外:管理規約で別段の定め(例:出席組合員の議決権の過半数など)をすることが法律上可能です。
申請前に必ずご自身のマンションの管理規約を確認し、定められた決議要件を満たすようにしてください。
STEP3:事前確認機関((公財)マンション管理センターなど)による事前確認
本申請の前に、多くの場合、公益財団法人マンション管理センターなどが提供する「事前確認」サービスを利用します。これは民間等の機関による手続きです。ここでは、申請書類が認定基準に適合しているかを専門家が事前にチェックし、「事前確認適合証」を発行します。これにより、自治体での本申請がスムーズに進みます。
STEP4:認定主体である地方公共団体への本申請
事前確認適合証を添付して、いよいよマンションが所在する地方公共団体(市区町村など)へ認定の申請を行います。審査を経て、基準に適合していると判断されれば、認定が通知されます。この二つは異なるプロセスであり、事前確認を受けても本申請が自動的に認定されるわけではないことに注意してください。認定の有効期間は5年間で、満了前に更新手続きが必要です(出典:横浜市)。
なぜ申請代行が必要?専門家の役割と依頼する理由
手続きのフローを見ると、管理組合自身での申請は非常にハードルが高いことがわかります。ここで専門家による申請代行サービスが必要とされる理由があります。
複雑な書類作成と専門的な判断が求められる
申請には、長期修繕計画や管理規約が法的な基準を満たしているかどうかの専門的な判断が必要です。また、事前確認や本申請で提出する書類は多岐にわたり、正確な作成が求められます。これらの作業を、専門知識のない役員だけで行うのは現実的ではありません。
長期修繕計画や管理規約の見直し支援
多くのマンションでは、申請の前提として長期修繕計画や管理規約の見直しが必要となります。申請代行を依頼する専門家は、単なる書類作成だけでなく、これらの根本的な課題解決に向けたコンサルティングも行います。現状の課題を洗い出し、管理組合の合意形成をサポートしながら、認定基準に適合する計画や規約へと導きます。
申請代行を依頼できる専門家とは?(マンション管理士など)
申請代行業務は、高度な専門知識を要するため、誰でも行えるわけではありません。主な依頼先はマンション管理士です。
マンション管理士は、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づく国家資格者であり、管理組合の運営や建物構造上の技術的な問題に対して、専門的知識をもって助言や指導を行います。認定制度の申請サポートは、まさに彼らの専門領域と言えます。
【相場はない】申請代行の料金と見積もりのポイント
申請代行を検討する上で、最も気になるのが料金でしょう。しかし、この点については重要な前提があります。
なぜ代行業者の申請代行料金に公的な相場基準が存在しないのか
マンション管理計画認定制度の申請代行**サービス**に関して、**国や業界団体が定める統一的な料金相場は公開されていません。**
ウェブサイトなどで見かける料金は、あくまで各事業者が独自に設定した目安です。「相場は〇〇万円」といった断定的な情報は、実態と異なる可能性があるため注意が必要です。ただし、(公財)マンション管理センターの事前確認手数料や地方公共団体の申請手数料といった公的な手数料は別途発生することがあります。
料金を左右する要因(マンションの規模、依頼範囲)
代行料金は、主に以下の要因によって大きく変動します。
- マンションの規模:総戸数が多いほど、確認すべき資料や合意形成の難易度が上がり、料金は高くなる傾向があります。
- 依頼する業務範囲:書類作成のみか、長期修繕計画や管理規約の見直しコンサルティングまで含むか。
- 現状の管理状況:すでに基準に近い状態であれば安価に、大幅な見直しが必要な場合は高価になります。
見積もり依頼時の必須チェック項目(「一式」はNG)
費用に関するトラブルを避けるため、見積もりを依頼する際は、必ず複数の専門家から内訳が明記されたものを取得してください。「申請代行費用一式」といった大まかな見積もりは、後々の追加請求の原因となります。
【見積もりチェックリスト】
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失敗しない申請代行業者の選び方と注意点
最後に、信頼できる専門家(申請代行業者)を選ぶためのポイントと、依頼する際の注意点を解説します。
実績と専門性(特にマンション管理士資格)を確認する
まず確認すべきは、マンション管理計画認定制度の申請支援実績です。具体的な実績件数や、どのような規模・状況のマンションを支援してきたかを確認しましょう。また、担当者がマンション管理士の資格を保有しているかは、専門性を測る上で重要な指標となります。
コミュニケーションの円滑さと管理組合への寄り添い
申請手続きは数ヶ月から1年以上に及ぶこともあります。そのため、担当者との相性やコミュニケーションの円滑さは非常に重要です。専門用語をわかりやすく説明してくれるか、管理組合の状況や意向を丁寧にヒアリングしてくれるかなど、面談を通じて「管理組合に寄り添う姿勢」があるかを見極めましょう。
〔差別化軸〕過度な相見積もりはNG!業者側の本音と適切な依頼方法
費用を比較するために相見積もりは有効ですが、5社も6社も見積もりを取るような過度な依頼は、かえって敬遠される可能性があります。
マンション管理業界の実務慣行として、専門家が見積もりを作成するには、管理規約や長期修繕計画を読み込み、会計状況を分析し、時には現地調査を行うなど、相当な時間と労力がかかります。特に20戸~40戸程度の中小規模マンションの場合、多くの業者から見積もりを取ろうとする管理組合に対して、誠実な提案を躊躇する専門家も少なくありません。
結論として、信頼できそうな専門家を2~3社に絞って、丁寧に見積もりと面談を依頼するのが、結果的に最も良いパートナーを見つけるための現実的で賢い方法と言えるでしょう。
まとめ:認定制度の申請を成功させるためのアクションプラン
マンション管理計画認定制度は、マンションの未来にとって非常に有益な制度です。しかし、その申請は専門家のサポートなしには困難を極めます。今回の内容を踏まえ、認定取得を成功させるためのアクションプランを以下に示します。
- 【STEP1】現状把握:まずは本記事の認定基準リストを参考に、自分たちのマンションの現状を管理組合内で確認する。
- 【STEP2】専門家への相談:日本マンション管理士会連合会の支部などに相談し、地域の専門家を紹介してもらうことも有効です。
- 【STEP3】適切な見積もり取得:候補となる専門家を2~3社に絞り、業務範囲を明確にした上で、内訳のわかる見積もりを依頼する。
- 【STEP4】パートナー選定と契約:面談を通じて最も信頼できる専門家を選び、業務内容を明記した契約を締結する。
- 【STEP5】二人三脚での申請準備:専門家と協力し、計画の見直しや総会決議などを経て、認定申請を進める。
この制度への取り組みは、マンションの管理体制を根本から見直す絶好の機会です。信頼できるパートナーと共に、ぜひ認定取得を目指してください。
免責事項
本記事は、マンション管理計画認定制度に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の物件に対する法的な助言や認定の可否を保証するものではありません。また、本記事の提供は非弁行為(弁護士法第72条)に該当するものではありません。制度の詳細や申請手続き、各種要件は、法改正や各地方公共団体の条例によって変更される可能性があります。最新かつ正確な情報については、必ず国土交通省や管轄の地方公共団体の公式サイトをご確認ください。個別の契約や申請にあたっては、必ず専門家にご相談の上、ご自身の判断と責任においてご対応ください。
参考資料
- 国土交通省「マンション管理・再生ポータルサイト 管理計画認定制度」
- 国土交通省 住宅局「マンション管理計画認定制度について」
- 横浜市「マンション管理計画認定制度について」
- さいたま市「さいたま市マンション管理計画認定制度について」
- 住宅金融支援機構「【フラット35】維持保全型」
- 東京都文京区「マンション管理計画認定制度(認定基準が変わりました。申請…)」(2025年6月5日更新)
- 神奈川県伊勢原市「マンション管理計画認定制度」(2025年10月1日公開)
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

