【マンション管理会社が解説】管理費の未収金回収完全ガイド|非弁行為リスクを回避

弁護士費用を滞納者に請求できる根拠を図解。「管理規約に定めがあれば請求可能」という結論がハイライトされ、国土交通省のマンション標準管理規約の条文例が引用されている。管理規約を確認することの重要性が伝わるデザイン。

※本コラムの内容は、当社が独自に調査・収集した情報に基づいて作成しています。無断での転載・引用・複製はご遠慮ください。内容のご利用をご希望の場合は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。

マンションの資産価値を維持し、快適な共同生活を送るために不可欠な管理費や修繕積立金。しかし、一部の区分所有者による長期滞納は、管理組合の財政を圧迫し、大規模修繕計画の遅延など、他の居住者全体に深刻な影響を及ぼしかねません。本記事では、宅地建物取引士の視点から、深刻化する管理費等の未収金問題に対し、督促の初期段階から弁護士と連携した法的措置、そして最終的な強制回収に至るまでの全手順を、法的な根拠に基づいて具体的に解説します。特に、管理会社への安易な依頼が招く「非弁行為」のリスクを回避し、適法かつ効果的に債権を回収するための専門家との正しい連携方法に焦点を当てます。滞納問題に悩む管理組合の理事の皆様が、具体的な次の一歩を踏み出すための知識となれば幸いです。

※本記事で用いる「管理費等」とは、管理費、修繕積立金、駐車場使用料、専用庭使用料など、管理規約に基づき区分所有者が管理組合に納付すべき金銭の総称を指します。

目次

はじめに:管理費等の未収金はなぜ「放置厳禁」なのか?

管理費等の未収金を「いつか払ってくれるだろう」と安易に放置することは、極めて危険です。滞納が長期化・高額化するほど回収は困難になり、管理組合に以下のようなリスクをもたらします。

  • 財政の悪化と管理品質の低下:管理組合の収入が減少し、日常の管理業務や計画的な修繕工事に支障をきたします。
  • 他の区分所有者への不公平感:真面目に支払っている他の居住者の負担増や不満につながり、コミュニティの和を乱す原因となります。
  • 債権の時効消滅:管理費等の債権は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間、または客観的に権利を行使できる時から10年間行使しない場合に時効によって消滅する可能性があります(民法第166条)。放置すれば、回収する権利そのものを失いかねません。
  • マンション全体の資産価値の低下:滞納問題が放置されているマンションは、管理状態が悪いと見なされ、不動産市場での評価が下がる恐れがあります。

これらのリスクを回避するためには、滞納発生の初期段階から毅然とした態度で、ルールに則って対応を進めることが何よりも重要です。

管理費等未収金の回収フロー|督促から法的措置までの全手順

管理費等の未収金回収は、段階的に手続きの強度を上げていくのが基本です。ここでは、一般的なステップを解説します。

ステップ①:管理会社・理事会による督促(電話・書面・訪問)

滞納が発生した場合、まずは管理組合または委託先の管理会社から、電話や督促状の送付を行います。初期段階では、単なる支払い忘れの可能性もあるため、丁寧な対応が求められます。

督促状には、滞納額、支払い期限、滞納期間などを明確に記載します。それでも支払いがない場合は、理事長や担当理事が直接訪問し、支払いを要請することも有効な手段です。

ステップ②:内容証明郵便による最終勧告

複数回の督促に応じない場合は、「内容証明郵便」を送付します。これは、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰宛に差し出したかを日本郵便が証明する制度です。

内容証明郵便自体に法的な強制力はありませんが、「法的措置を準備している」という管理組合の強い意思を伝え、滞納者に心理的なプレッシャーを与える効果があります。この段階で弁護士に依頼し、弁護士名で送付することで、支払いに応じるケースも少なくありません。

ステップ③:裁判所を通じた手続き(支払督促・少額訴訟・通常訴訟)

内容証明郵便でも解決しない場合は、裁判所を介した法的手続きに移行します。主な手続きは以下の通りです。

手続きの種類特徴
支払督促書類審査のみで進められる簡易的な手続き。滞納者が異議を申し立てると、通常訴訟に移行する。
少額訴訟請求額が60万円以下の場合に利用可能。原則1回の期日で審理が終了し、迅速な解決が期待できる。
通常訴訟請求額に制限がなく、双方の主張や証拠を基に裁判官が判決を下す正式な裁判手続き。

どの手続きを選択すべきかは、滞納額や事案の複雑性によって異なります。弁護士に相談し、最適な方法を検討することが重要です。

【補足】強制執行の前提となる「債務名義」とは?

ステップ④の強制執行に進むためには、まず「債務名義」を取得する必要があります。債務名義とは、強制執行によって実現されるべき債権の存在と範囲を公的に証明した文書です(民事執行法第22条)。

  • 訴訟の確定判決
  • 仮執行宣言付支払督促
  • 和解調書・調停調書 など

これらが債務名義にあたります。重要な点として、債務名義が確定すると、管理費等の消滅時効期間は「5年」から「10年」に延長されます。法的措置を進める上で、この債務名義の取得が極めて重要な分岐点となります。

ステップ④:強制執行による最終的な回収(給与・預金差押え、競売請求)

訴訟などで債務名義を得ても滞納者が支払いに応じない場合、最終手段として「強制執行」を申し立てます。これにより、滞納者の給与や預貯金といった財産を差し押さえ、強制的に未収金を回収します。

また、区分所有法には「先取特権」という強力な権利が定められています。

(先取特権)
第七条 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。(後略)

(出典:e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」)

この先取特権に基づき、滞納者の住戸を競売(公売)にかけ、その売却代金から未収金を回収することも可能です。この権利は、住宅ローンなどを設定している金融機関の抵当権よりも優先される場合があるため、極めて強力な回収手段といえます。

法的措置に不可欠な管理組合の「総会決議」とは?

管理組合が滞納者に対して訴訟を提起する場合、原則として管理組合の最高意思決定機関である「総会」での決議が必要です。この手続きを怠ると、訴訟そのものが無効になる可能性があるため注意が必要です。

原則は「普通決議」で訴訟を提起できる

管理費等の支払いを求める訴訟は、区分所有法上の「管理に関する事項」と解され、原則として総会での「普通決議」によって提起できます。普通決議は、区分所有者および議決権の各過半数で決します(区分所有法第39条1項)。

【最重要】管理規約に「理事会の決議で提訴可」などの定めはないか?

ここで最も注意すべき点は、ご自身のマンションの管理規約に別段の定めがある場合です。区分所有法第39条1項は「この法律又は規約に別段の定めがない限り」と定めており、管理規約で総会決議以外の方法を定めることを認めています。

★★すなわち、管理規約にて「滞納管理費等の請求に関する訴訟は、理事会の決議によって提起することができる」といった定めがあれば、総会決議を経ずに、より迅速に理事会限りで法的措置に進むことが可能です。法的措置を検討する際は、まず貴管理組合の規約を必ず確認してください。規約の定めが法律の原則に優先します。★★

最終手段「競売請求」には特別決議が必要

前述の強制執行とは別に、滞納が共同生活の維持を著しく困難にする「共同の利益に反する行為」と見なされる場合には、他の区分所有者全員の利益のために、滞納者の区分所有権および敷地利用権の競売を請求できます(区分所有法第59条)。この競売請求は非常に強力な措置であるため、総会において区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数による「特別決議」が必要となります。

【重要】管理費等回収の専門家|代行会社と弁護士の役割と連携モデル

督促業務や法的手続きは専門的な知識を要するため、専門家の力を借りることが不可欠です。ここでは、弁護士と、いわゆる管理費回収代行会社との違いと、最適な連携方法について解説します。

弁護士に依頼する4つのメリット

  1. あらゆる法的措置に対応可能:交渉から訴訟、強制執行まで、回収に関するすべての法律事務を代理人として一貫して行うことができます。
  2. 非弁行為のリスクがない:弁護士は法律事務の専門家であり、弁護士法違反(非弁行為)のリスクは一切ありません。
  3. 滞納者への強いプレッシャー:弁護士が代理人となることで、事態の深刻さを滞納者に認識させ、任意での支払いを促す効果が期待できます。
  4. 適正な手続きの進行:総会決議の要否判断や証拠収集など、法的に適正な手続きをアドバイスし、管理組合をサポートします。

債権回収会社(サービサー)との違いと実態

債権回収会社(サービサー)は、法務大臣の許可を得て債権の管理回収を専門に行う株式会社です。しかし、弁護士とは業務範囲や依頼のしやすさが異なります。

比較項目弁護士債権回収会社(サービサー)
法的根拠弁護士法債権管理回収業に関する特別措置法
業務範囲法律事務全般
(督促、交渉、訴訟、強制執行すべて)
特定金銭債権の管理・回収
訴訟代理権あり(制限なし)限定的(原則として代理権なし)
非弁行為リスクなし提携弁護士への丸投げなど、不適切な運用を行う業者にはリスクあり
依頼のしやすさ管理組合など個人・法人問わず依頼可能主に金融機関等が対象。個別の管理組合からの依頼は実務上多くない

重要な点として、債権回収会社は金融機関等からの大量の債権をまとめて扱うことが多く、個別の管理組合から単発の滞納案件を依頼するケースは実務上あまり多くありません。

最も効果的な連携モデルとは

実務上、最も効果的で安全なのは、管理会社と弁護士が連携するモデルです。
日常的な管理業務の一環として、初期の督促(電話、督促状の送付)は管理会社が担当し、それでも解決しない深刻な案件について、管理組合が弁護士に依頼するという役割分担がスムーズです。これにより、各専門家の強みを活かしつつ、非弁行為のリスクを完全に排除できます。

依頼した側も罰せられる!弁護士法違反「非弁行為」のリスクと見分け方

管理費等回収を外部に委託する際、絶対に避けなければならないのが「非弁行為」です。

「非弁行為」とは何か? なぜ禁止されているのか?

非弁行為とは、弁護士資格を持たない者が、報酬を得る目的で、訴訟や和解交渉などの法律事務を行うことを指します。これは弁護士法第72条で固く禁止されています。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。(後略)

(出典:e-Gov法令検索「弁護士法」)

この規定は、法律の専門家でない者が安易に他人の権利や義務に関わることで、不適切な解決を招き、当事者の利益を害することを防ぐために設けられています。違反した場合、刑事罰の対象となり、依頼した管理組合側も非弁行為の幇助(ほうじょ)等として、法的な責任を問われるリスクがあります。

管理会社はどこまでできる?許される業務と違法行為の境界線

管理会社は、管理組合のパートナーとして重要な役割を果たしますが、法律事務を行うことはできません。

  • 許される業務(事務の補助)
    • 滞納状況のリストアップ
    • 管理組合名義の督促状の書式作成、印刷、発送代行
  • 違法な業務(非弁行為)
    • 管理組合の「代理人」として滞納者と分割払いの交渉や和解契約の締結を行うこと
    • 管理組合の「代理人」として訴訟を提起すること
    • 弁護士に委任すべき案件を、自社で請け負い提携弁護士に丸投げすること(非弁提携)

適法なサービス提供者を見極めるためのチェックポイント

悪質な業者に騙されないために、以下の点を確認しましょう。

  • 「訴訟まで全て代行します」と謳う管理会社や無認可のコンサルタントではないか?
  • 委任契約書の名義は、管理組合と弁護士(または弁護士法人)の間で直接締結されるか?
  • 弁護士との面談が直接設定されるか?

少しでも疑問を感じたら、その業者への依頼は見送るべきです。

未収金回収にかかる弁護士費用と滞納者への請求可否

弁護士への依頼をためらう理由の一つに費用面があるかもしれません。しかし、多くのケースでは、その費用を滞納者本人に負担させることが可能です。

弁護士費用の主な内訳(着手金・成功報酬・実費)

弁護士費用は、一般的に以下の3つで構成されます。

  • 着手金:依頼時に支払う費用。事案の難易度や請求額によって変動します。
  • 成功報酬:実際に回収できた金額に応じた割合で発生します。具体的な料率は各法律事務所の規定により異なるため、依頼前にご確認ください。
  • 実費:印紙代、郵便切手代、交通費など、手続きにかかった実費です。

【ポイント】弁護士費用は管理規約の定めがあれば滞納者に請求できる

ここが最も重要なポイントです。国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」には、以下のような「規定例」が示されています。

(規定例)
(マンション標準管理規約 第60条2項)
組合員が前項の期限までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。

このように、管理規約に弁護士費用を滞納者に請求できる旨の定めがあれば、管理組合が立て替えた弁護士費用を、滞納管理費等と合わせて請求できます。実際に、このような規約の定めの有効性を認め、滞納者への弁護士費用請求を認めた裁判例は複数存在します。まずはご自身のマンションの管理規約を必ず確認し、同様の弁護士費用請求条項が定められているかご確認ください。定めがない場合、弁護士費用の請求が困難になる可能性があります。

弁護士費用保険は使えるのか?

管理組合が加入している保険に「弁護士費用特約」が付帯している場合、弁護士費用の一部または全部が保険でカバーされる可能性があります。保険証券を確認してみましょう。

滞納者の状況別|最適なアプローチ方法

滞納者の状況によって、取るべきアプローチは異なります。

ケース1:連絡が取れ、支払い意思がある場合

経済的な事情で一時的に支払いが困難になっているケースです。この場合、高圧的な態度ではなく、支払い可能な時期や分割払いの可否など、現実的な支払い計画について協議することが有効です。弁護士が間に入ることで、双方にとって公平で履行可能性の高い合意書を作成することができます。

ケース2:連絡がつかない、または支払い意思がない場合

督促を無視したり、開き直って支払いを拒否したりする悪質なケースです。この場合は、任意での交渉は困難と判断し、速やかに内容証明郵便の送付、そして支払督促や訴訟といった法的措置に移行すべきです。時間をかければかけるほど、問題は深刻化します。

まとめ:深刻な管理費滞納問題は、まず弁護士にご相談ください

管理費等の未収金問題は、放置すれば管理組合の財政基盤を揺るがし、全区分所有者の資産価値を損なう重大な問題です。

初期の督促で解決しない場合は、いたずらに時間を費やすべきではありません。特に、法的措置を検討する段階では、必ず弁護士に相談してください。弁護士は、適法な手続きを遵守し、管理組合の代理人として未収金を回収する唯一の専門家です。

管理会社に全てを丸投げすることは、違法な「非弁行為」に加担するリスクを伴います。大切な資産であるマンションを守るためにも、信頼できる弁護士と連携し、毅然とした態度で問題解決にあたることが、最終的に全ての区分所有者の利益につながります。


免責事項

本記事は、マンション管理費等の未収金回収に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的助言ではありません。個別の案件については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。また、法令や管理規約は改正される可能性がありますので、最新の情報をご確認いただくとともに、ご自身のマンションの管理規約の条項が最優先されることをご留意ください。


参考資料

  • e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
  • e-Gov法令検索「弁護士法」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324AC0000000205
  • e-Gov法令検索「民法」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
  • e-Gov法令検索「民事執行法」 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0000000004
  • 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html

島 洋祐

保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

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この記事を書いた人

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