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マンションの管理組合で理事を務めていると、毎月の支出報告で「管理委託費」の金額に驚くことがあります。特にその中でも「管理人業務費」は大きな割合を占める項目です。この費用が本当に妥当なのか、もっと抑える方法はないのか、と疑問に思う方も少なくないでしょう。
この記事では、宅地建物取引士の視点から、マンションの管理人費用に関する基本的な知識から、費用を適正化するための具体的なステップまでを解説します。内訳や勤務形態による違い、費用が高くなる理由を理解し、失敗しない相見積もりの進め方や、管理人を置かない場合のリスクも学びましょう。
単なるコストカットではなく、マンションの資産価値を維持・向上させるための、長期的で健全な管理体制を築く一助となれば幸いです。
まずは基本から|マンション管理人費用とは?管理費・管理委託費との関係
管理人費用の話をする前に、よく混同されがちな「管理費」「管理委託費」「修繕積立金」の関係を正確に理解しておくことが重要です。これらの区別が曖昧なまま議論を進めると、管理組合の財政判断を誤る原因になります。
管理人費用は「管理委託費」の一部
まず、区分所有者が毎月支払うお金の流れを整理しましょう。
- 管理費: 区分所有者が管理組合に支払うお金です。共用部分の電気代や水道代、保険料、そして後述する管理会社への委託費などに使われます。
- 管理委託費: 管理組合が、管理業務を委託している管理会社へ支払う費用です。これは「管理費」の中から支出されます。
- 管理人業務費: 管理会社が管理人を雇用・配置するための費用(人件費など)です。これは「管理委託費」の中に含まれています。
つまり、「管理費 > 管理委託費 > 管理人業務費」という包含関係になっています。管理人費用を見直すことは、管理委託費全体の見直しに繋がります。
「管理費」と「修繕積立金」は全くの別物
もう一つ重要なのが「修繕積立金」です。これは、外壁塗装や屋上防水、給排水管の更新といった、10数年周期で行われる大規模修繕工事のために積み立てるお金です。
日常の管理に使われる「管理費」とは目的が全く異なり、会計上も厳密に分けて管理しなければなりません。管理人費用を検討する際に、修繕積立金を取り崩すことは原則としてできません。
| 費用項目 | 誰が誰に支払うか | 主な使い道 |
|---|---|---|
| 管理費 | 区分所有者 → 管理組合 | 日常の管理運営全般(管理委託費、共用水道光熱費など) |
| 管理委託費 | 管理組合 → 管理会社 | 管理業務への対価(管理人人件費、清掃費、事務手数料など) |
| 修繕積立金 | 区分所有者 → 管理組合 | 将来の大規模修繕工事のための積立金(目的外使用は原則不可) |
【重要な区別】
本記事は、区分所有者が管理組合を構成する「分譲マンション」を対象としています。家賃収入の5~10%といった変動率で委託費を計算する「賃貸物件の管理(プロパティマネジメント)」とは制度や費用体系が全く異なりますのでご注意ください。
管理人費用の内訳と勤務形態別の費用目安
管理人費用は、主に管理人の給与や社会保険料などの人件費で構成されますが、その金額は勤務形態によって大きく異なります。ここでは、代表的な勤務形態ごとの費用目安と業務内容の違いを見ていきましょう。
管理人費用の主な構成要素
管理人費用は、単に給与だけではありません。管理会社が支払う費用として、以下のような項目が含まれています。
- 給与・賞与
- 各種手当(通勤手当など)
- 社会保険料(健康保険、厚生年金など)
- 労働保険料(雇用保険、労災保険)
- 福利厚生費
- 研修・教育費用
これらの費用に、管理会社の利益が上乗せされて、管理委託費の一部として計上されます。
勤務形態(常駐・日勤・巡回)による費用と業務内容の違い
マンションの規模や特性に応じて、管理人の勤務形態は「常駐」「日勤」「巡回」の3つに大別されます。それぞれの費用感と業務内容を比較してみましょう。
下記の費用はあくまでウェブ調査等に基づく一例です。マンションの所在地(特に最低賃金)、総戸数、要求される業務レベルによって大きく変動するため、必ず複数の管理会社から見積もりを取得して判断してください。
| 勤務形態 | 費用目安(月額) | 主な業務内容 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|---|
| 常駐管理 | 約30万円~ | ・受付、来訪者対応 ・日常清掃、ゴミ出し ・共用部の点検 ・緊急時の一時対応 | ・安心感、防犯性が高い ・きめ細やかな対応が可能 | ・費用が最も高い ・管理員の休暇時の代替要員が必要 |
| 日勤管理 | (常駐と同程度) | ・常駐管理とほぼ同じ ・平日の日中のみ勤務 | ・常駐に次ぐ安心感 ・夜間は不在のためコストを抑えられる | ・夜間や休日の対応は不可 |
| 巡回管理 | 約7万円~ | ・週数回の巡回 ・建物や設備の目視点検 ・定期清掃のチェック ・掲示物の管理 | ・費用を大幅に抑えられる ・小規模マンションに適している | ・常時不在のため防犯性は低い ・住民サービスは限定的 |
この他に、管理人は置かずに警備会社による24時間遠隔監視システムを導入する方法もあり、月額15,000円~30,000円程度が目安ですが、これは機械による監視が主であり、人的なサービスは提供されません。
なぜ高い?管理人費用を左右する3つの要因
「うちのマンションの管理人費用は、相場より高いのでは?」と感じた場合、その背景にはいくつかの要因が考えられます。主に以下の3点が費用を大きく左右します。
要因1:マンションの規模(総戸数)
最も大きな要因は、マンションの総戸数です。国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」によると、1戸あたりの管理委託費はマンションの規模によって大きく異なります。
| 総戸数規模 | 管理委託費(1戸あたり月額) |
|---|---|
| 20戸以下 | 17,992円 |
| 21~30戸 | 15,487円 |
| 31~50戸 | 13,890円 |
| 51~75戸 | 12,491円 |
| 76~100戸 | 10,501円 |
| 101~150戸 | 9,263円 |
管理人一人にかかる人件費の総額は、20戸のマンションでも200戸のマンションでも、業務内容が同じであれば大きくは変わりません。しかし、一戸あたりの負担額は総戸数で割るため、上記の通り規模によって大きな差が出ます。例えば、20戸以下のマンションは101~150戸のマンションに比べて、1戸あたりの委託費が約1.9倍にもなります。
要因2:立地・地域(最低賃金)
管理人の人件費は、その地域の最低賃金に大きく影響されます。都市部と地方では最低賃金額が異なるため、同じ業務内容でも費用に差が生じます。また、近年は全国的に人手不足が指摘されており、人材を確保するために競争力のある給与水準を設定する必要があり、これが費用に反映されることもあります。
要因3:要求される業務レベル
どのような業務を管理人に求めるかによっても、費用は変動します。
- 基本的な業務: 日常清掃、ゴミ出し、受付など。
- 高度な業務: 外国語対応、コンシェルジュサービス、複雑な設備機器の初期対応など。
タワーマンションや高級マンションなどでは、ホテルライクな高いレベルのサービスが求められるため、それに見合ったスキルを持つ人材を確保する必要があり、人件費も高くなる傾向があります。
管理人費用を適正化する3つのステップ
現在の管理人費用が妥当かどうかを検証し、適正化を図るためには、以下の3つのステップで進めるのが効果的です。
Step1:現状把握|管理委託契約書を確認する
まずは、管理組合と管理会社が締結している「管理委託契約書」とその添付書類である「仕様書」を詳細に確認します。
- 管理人の勤務日・勤務時間: 週何日、何時から何時まで勤務しているか。
- 具体的な業務内容: 清掃、点検、受付など、どこまでの業務が契約に含まれているか。
- 費用の内訳: 管理委託費の中で、管理人業務にいくら支払われているか。
現状を正確に把握することが、見直しの第一歩です。
Step2:削減策の検討|業務範囲や勤務形態を見直す
現状を把握した上で、管理組合として「本当に必要なサービスは何か」を議論します。
- 勤務形態の変更: 「常駐」から「日勤」や「巡回」に変更できないか?
- 業務の切り分け: 管理人の業務に含まれている清掃を、専門の清掃業者に別途委託した方が安くならないか?
- 自動化の検討: 監視カメラの増設や宅配ボックスの導入などで、管理人の業務を代替・軽減できないか?
ただし、これらの変更はサービスの質の低下に直結する可能性もあります。住民の満足度やセキュリティレベルを維持できるか、慎重な検討が必要です。
Step3:相見積もり|管理会社の変更を検討する
現在の管理会社との契約内容を見直しても費用削減が難しい場合、他の管理会社から見積もりを取る「相見積もり」が有効な手段となります。これにより、現在の管理委託費が適正な水準にあるかを客観的に判断できます。
【実践編】失敗しない管理会社への相見積もりの進め方
相見積もりは費用適正化の強力なツールですが、進め方を間違えると、かえって質の低い提案しか集まらなかったり、管理会社から敬遠されたりする可能性があります。ここでは、成功させるための実践的なコツを紹介します。
なぜ相見積もりは「5社以上」だと敬遠されるのか?
コスト削減に熱心な理事会ほど、多くの会社から見積もりを取りたいと考えがちです。しかし、特に中小規模のマンションで5社、6社と一斉に見積もりを依頼するのは、慎重に検討すべきです。
なぜなら、管理会社にとって正確な見積もりを作成するには、非常に大きな労力がかかるからです。
- 現地調査(建物の状況確認)
- 清掃や各種点検を委託する協力会社との調整・見積取得
- 理事会へのヒアリングや複数回の打ち合わせ
これだけの労力をかけても、多数の競合がいる案件では受注できる確率が低いため、管理会社としては「本気度が低い組合かもしれない」と判断し、質の高い提案を出す意欲が削がれてしまうのです。
推奨は「2〜3社」への絞り込み|質の高い提案を引き出すコツ
相見積もりの進め方はマンションの規模や地域により異なりますが、一つの参考方法として、まずインターネットや近隣の評判などを基に5社程度の候補をリストアップした後、特に有力と思われる2〜3社に絞って正式な見積もりを依頼することが挙げられます。
これにより、管理会社側も「有力候補として選ばれた」と感じ、真剣に提案内容を練ってくれる可能性が高まります。ただし、最適な社数や進め方は個別の事情に左右されるため、必要に応じてマンション管理士などの専門家に相談することも有効です。
「一式見積もり」はNG|必ず詳細な内訳を求めるべき理由
相見積もりを取る際に最も重要なポイントは、「管理委託費一式 ◯◯円」といった大雑把な見積もりではなく、必ず項目ごとに詳細な内訳を提出させることです。
比較を容易にするためには、国土交通省や一般社団法人マンション管理業協会が示す「標準管理委託契約書」の別紙などを参考に、共通の書式で見積もりを依頼するのが理想的です。
| (記載例)見積項目の例 1. 事務管理業務費 2. 管理人業務費 3. 清掃業務費 4. 建物・設備管理業務費 - エレベーター保守点検費 - 消防設備点検費 - 給排水設備点検費 など |
これにより、「A社は管理人費が高いが清掃費は安い、B社はその逆」といった各社の強みや価格戦略が明確になり、管理組合としてどの業務を重視するかに基づいた、客観的で合理的な比較検討が可能になります。
意思決定には総会決議が必要
管理人の勤務形態の変更や管理会社の変更は、マンションの管理運営における重要な事項であり、最終的な意思決定は必ず総会決議を必要とします。
法律上の枠組みと「規約優先」の原則
区分所有法第39条第1項では、管理に関する事項を「区分所有者および議決権の各過半数」による普通決議で決すると定めています。
ただし、同条には「この法律又は規約に別段の定めがある場合を除く」という重要なただし書きがあり、実務上、管理規約の定めが法律の原則に優先します。
⚠️【最重要】必ずご自身のマンションの管理規約を確認してください
多くのマンションの管理規約では、総会の決議要件について「出席組合員の議決権の過半数で決する」など、法律の原則とは異なる定めが設けられています。
意思決定を進める際は、必ずご自身のマンションの管理規約を確認し、変更に必要な議決要件を正確に把握してください。不明な点があれば、現在の管理会社やマンション管理士に確認しましょう。
注意点:管理人を「置かない」場合の重大なリスク
費用削減の最終手段として「管理人を置かない」という選択肢も考えられますが、それによって失うものは非常に大きく、慎重な判断が求められます。
リスク1:セキュリティ・防犯性の低下
管理人の存在は、不審者の侵入を心理的に抑制する「人の目」として大きな役割を果たしています。管理人が不在になることで、空き巣や無断駐車、迷惑な訪問販売などのリスクが高まる可能性があります。
リスク2:衛生環境の悪化と建物の劣化
日々のゴミ出しマナーの乱れや共用部の汚れは、すぐにマンション全体の衛生環境を悪化させます。また、電球切れや水漏れといった小さな異常の発見が遅れることで、建物の劣化を早め、結果的に将来の修繕コストを増大させる恐れがあります。
リスク3:資産価値の下落
マンションの購入を検討している人は、必ず管理状態をチェックします。エントランスが汚れていたり、掲示板が乱雑だったりする「管理人不在」の物件は、「管理が行き届いていない」という印象を与え、売却時の価格や賃貸時の家賃に悪影響を及ぼす可能性があります。
【長期的視点】人手不足と高齢化が管理人費用にもたらす未来
最後に、短期的なコスト削減だけでなく、より長期的な視点を持つことの重要性について触れます。
今後、管理人費用は上昇する可能性
現在、マンションの管理人を含むビルメンテナンス業界では、担い手の高齢化と深刻な人手不足が問題となっています。今後、人材確保の競争が激化すれば、管理人を確保するための人件費は、現在よりも上昇していく可能性が高いと考えられます。
今考えるべきは「持続可能な管理体制」
したがって、今、管理組合が考えるべきなのは、単なるコスト削減ではありません。5年後、10年後も安定して質の高い管理サービスを受けられる「持続可能な管理体制」をいかに築くか、という視点が不可欠です。
目先の数万円の削減にこだわった結果、数年後に質の良い管理人が見つからなくなり、結果として大幅な値上げを受け入れざるを得なくなる、という事態も想定されます。現在の管理会社と良好な関係を築き、適正な費用を支払って質の高いサービスを維持することも、重要な選択肢の一つです。
まとめ|管理人費用の見直しは長期的な視点で慎重に
マンションの管理人費用は、管理委託費の中でも大きな割合を占める重要なコストです。その見直しは、管理組合の財政健全化に繋がる重要な取り組みですが、進め方を間違えればサービスの質や資産価値の低下を招きかねません。
- 現状把握: まずは管理委託契約書を確認し、現在の業務内容と費用を正確に把握する。
- 多角的な検討: 勤務形態の変更や業務の切り分けなど、様々な削減策のメリット・デメリットを比較検討する。
- 賢い相見積もり: 相見積もりは2〜3社程度に絞り込むことを検討し、必ず詳細な内訳を求めて客観的に比較する。
- 長期的な視点: 人手不足の時代背景を理解し、目先のコストだけでなく、将来にわたって持続可能な管理体制を築く視点を持つ。
管理人費用は、マンションの快適性、安全性、そして資産価値を維持するための「投資」でもあります。この記事で紹介したステップを参考に、理事会で十分に議論を重ね、組合員全員が納得できる最適な選択をしてください。
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参考資料
- 国土交通省, 令和5年度マンション総合調査結果, https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000058.html
- e-Gov法令検索, 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法), https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000069
島 洋祐
保有資格:(宅地建物取引士)不動産業界歴22年、2014年より不動産会社を経営。2023年渋谷区分譲マンション理事長。売買・管理・工事の一通りの流れを経験し、自社でも1棟マンション、アパートをリノベーションし売却、保有・運用を行う。

